先週、アメリカの宝くじ 「Powerball」 の一等賞金が 15億8600万ドル(約1860億円)というとてつもない金額になったことが日本でも報道されたためか、ラスベガス旅行を計画している読者から、Powerball の買い方に関する問い合わせが寄せられた。
今週は、その買い方および賞金の期待値を高めるための番号の選び方に関して書いてみたい。
アメリカでは、さまざまな形態の宝くじが、コンビニなどを通じて販売されている。その多くは、各州が独自に運営するもので、他州とは関係ないのが普通だ。
ところが Powerball は、州を超えて広域で販売されているため販売数量が多くなりがちであるばかりか、一等の的中確率が低く設定されているため、的中者が出ない場合の一等賞金の繰り越し金額が大きくなりやすいことで知られている。
この Powerball を販売している州の数は、全米 50州のうちの44州。つまりほぼアメリカ全土で販売されていると考えてよい状況だが、なんとラスベガスがあるネバダ州はその 44州に含まれていない。つまり販売していない 6州の中の1州だ。理由は、カジノ業界からの反対であることはいうまでもない。
参考までに、販売していない残りの 5州は、地理的にアメリカ本土と切り離されているハワイとアラスカ、南部2州のアラバマとミシシッピ、そしてネバダのとなりでモルモン教の総本山として知られるユタとなっている。
というわけで、ラスベガスに来ても Powerball を購入できないわけだが、ガッカリするのはまだ早い。レンタカーさえあれば、カリフォルニア州との州境まで行って買うことができる。
ロサンゼルス方面に向かう高速15号線を約40分ほど走った砂漠の中の Primm という場所だ。(上の写真内の地平線近くのエリアが Primm。クリックで拡大表示)
Primm 以外では、アリゾナ州の町に行って買うという方法もあるが、こちらは Primm よりも遠いのが難点。ただしグランドキャニオンやセドナなどを訪問する際のついでに立ち寄る場合はアリゾナ州の町も不便ではない。
Primm における販売店はたった一軒だけ。The Lotto Store at Primm というコンビニで(写真)、具体的な場所としては、ファッション・アウトレット・モールの敷地の最南端に接した空き地だ。モールの敷地はネバダ州だが、その空き地はカリフォルニア州なので宝くじの販売が許されている。
ちなみにその Primm という区域は、カジノ、モール、給油所などがあるだけで、ほとんどだれも住んでいない(それらビジネスの従業員の大部分はラスベガスから通勤)。
したがって人口的にはコンビニが一軒だけも十分なわけだが、ラスベガス一帯に住む 200万人にとっては、「事実上、宝クジが買える唯一の店」という存在になっているため、行列ができてしまうことが多い。特に一等賞金が大きく膨れ上がった場合は、大混雑となるのが普通だ。(写真)
逆にアリゾナ州の各都市(たとえば Kingman など)は遠いが、宝クジを扱うコンビニが複数存在しているため、Primm ほど混雑することは少ない。
どこの町で買うにせよ、買い方は簡単だ。店内に用意されている専用のカードで好きな番号を選び(番号を塗りつぶす)、レジにて現金と一緒に提出するだけだ。1枚2ドル。(写真がそのカード)
番号の選択は、1~69 までの番号の中から 5つ、そしてさらに Powerball 番号と称される 1~26 までの番号の中から 1つ選ぶことになるわけだが、自分で選ぶのが面倒だという場合は、コンピューターにランダムに選ばせる “クイックピック”(カード内に QP と表示されているところを塗りつぶす。写真下)にしてもよい。
番号を選び間違えるなど書き損じた場合は VOID を塗りつぶして無効にする。もちろん破り捨てて、新たに書きなおしてもかまわない。
1枚のカードで 5枚まで買うことができ、さらに次回以降の抽選にも同じ番号で参加したい場合は、カードの左端にある Advance Play の部分を記入することにより、最長 10回先までの分を買うことができる。
抽選は毎週水曜日と土曜日の 10:59pm。ただしこの時刻は、抽選会のスタジオがあるフロリダ州タラハシー市のものなので、3時間の時差があるラスベガスやカリフォルニアの時刻では 7:59pm になる。販売の締め切りは、その1時間前の 7:00pm。
全部の番号が的中する一等賞(通称、ジャックポット)の確率は 2億9220万分の1。ざっくり 3億枚に1枚だ。的中した場合の賞金は 4000万ドル(約48億円)。
的中者が複数いた場合は分け合うことになり、逆に的中者がいない場合は繰り越され、次回の賞金に加算される。ちなみに今回ニュースになった超高額ジャックポットの出現は、昨年11月7日の抽選日以降、的中者が一人もいなかったことによる結果だ。
なお、ジャックポットの賞金は 30年間の分割払いで、全額を一度に受け取れるわけではない。一度に受け取りたい場合は、その時の金利などに応じて減額されることになっており、おおむね6割前後の手取りになるのが普通だ。
分割払いは、大金を一気に手にして人生が狂ってしまったり、全部使ってしまったりしないための配慮のようだが、多くの的中者は一括払いを希望するという。
ちなみに今回のジャックポットの約1860億円は的中者が3人いたので一人分が 620億円ほどになり、一括払いで6割に減額されると約400億円になる。
「一括払いで減額されても 400億円!」と喜ぶのはまだ早い。日本の宝クジとちがって課税対象となるので、現行のアメリカの国税の最高税率から計算すると、実質の手取りは 240億円ほどになってしまう。(州税は税率が国税ほど高くないのと、的中者が住む州によって大きく異なるのでここでは無視)
では日本人が的中した場合の税金はどうなるのか。それに関しては当地ラスベガスで会計事務所を営んでいる渡辺・仲川米国税理士会計事務所の仲川氏に話を聞いてみたので、そのコメント(この記事の最後の部分に掲載)を参考にしていただければ幸いだ。
的中したチケットの有効期限は、通常の当たりに関しては抽選日から 180日。ジャックポットだけは 1年間となっているので、税理士などに相談する時間はたっぷりある。ただし、30年分割か一括受け取りにするかは 30日以内に決めないと、自動的に30年分割になってしまうので注意が必要だ。
さて、Powerball に限らず、番号選択制の宝クジを購入する際には、数学でいうところの 「期待値」 が高くなる番号を選ばないと損をすることになる。
ちなみに期待値とは、その番号の出現率やジャックポットの的中率のことではない。どのような選び方をしても、各番号の出現率や、Powerball のジャックポット的中率の 2億9220万分の1 を変えることはできない。
期待値とは、それぞれの事象の発生確率(的中確率)と、的中した場合に受け取ることができる賞金から算出される「期待される受け取り金額」のことだ。
たとえば、サイコロを投げて 1 から 6 のどの目が出ても 100円もらえるという賭けの期待値は、もちろん 100円。1 から 5 の目はすべてハズレで 6 の目が出た時だけ 600円もらえる賭けの期待値も 100円。同様に 1 から 5 の目はすべてハズレで 6 の目が出た時だけ 1200円もらえる賭けの期待値は 200円になる。
つまり的中率を変えることはできなくても、的中時の受取金額を大きくすることができれば、期待値を大きくすることは可能ということになる。Powerball においてそんなことが本当に可能なのか。可能だ。
それは非常に簡単で、その方法は、「多くの人が選ぶ番号は避けるべき」ということ。的中者が複数いた場合は賞金を分け合うことになるからだ。
人気の番号を選べば、一人あたりの受取額が下がることは、過去の膨大な抽選結果からも明らかになっており、このセオリーを無視することは愚かな選択としか言いようがない。
たとえば、もし日本の宝クジにおいて、1枚の単価が同じで、1等から末等までのすべての的中確率も同じで、さらに各賞金の額も同じだが、1等の賞金だけが 1億円の宝クジと、2億円の宝クジがあったら、だれもが2億円のほうを選ぶだろう。
Powerball において「人気の番号を選ぶ」という行為は、今の例において 1億円の宝クジを選ぶようなもので、決してやってはいけない。
以下が、人気の番号を避けて期待値を高めるための具体的な戦略だ。くどいようだが、的中率を高めるための戦略ではない。
◎ 戦略1 12番までの番号は選ばない。
◎ 戦略2 31番までの番号も選ばない。
◎ 戦略3 7 と 19 は最悪の番号。
◎ 戦略4 購入日の日付に関する番号も避ける。
◎ 戦略5 投票用紙内で幾何学的に意味をなす番号配置は避ける。
◎ 戦略6 なるべく大きな数字を選ぶ。
◎ 戦略7 スター選手の背番号などは避ける。
多くの人は自分や家族の誕生日、もしくはその日の日付などにちなんだ番号を選択する傾向にあるため、それらの番号は避けなければならない。
たとえば、1月 20日生まれの人は、1 や 20 を選択する。したがって、生まれた月として存在する番号、つまり 1 から 12 までは避けるべきで(戦略1)、同様に日付として存在する 31 までの数字も選択してはいけない(戦略2)。
19 は西暦としてだれの誕生日にも登場する数字なので絶対に避けるべき最悪の番号だ(戦略3)。
同様に「ラッキーセブン」という言葉が存在している限り 7 が選ばれる確率も高く、これも最悪の番号と認識すべきだろう。
また、宝くじの購入日の日付を選択する者も多いため、「月」に使われている 1 から 12 までの数字の中でも、その月の番号は特に避けるべきだ。たとえば 2月に宝くじを買う場合の 2 がそれに相当する(戦略4)。
投票用紙の番号配列において、選択番号の配置に幾何学的な意味を持たせる買い方もよくない(戦略5)。
たとえば四隅に印刷されている番号や、一ヶ所に固まって存在する番号、一直線に並ぶような番号などは(写真)、ランダムの番号よりも、だれかが選択している可能性が極めて高い。
「そんなに簡単に他人の番号と一致するものか」と思うかもしれないが、1億枚も売れれば(実際にジャックポット金額が増えたときは1億枚以上売れている)、同じような買い方をする者がいても何ら不思議ではないはずだ。
自分の住所の番地やアパートの番号などから選ぶ者も少なくないと言われているので、それに対する配慮も無駄ではない。つまり、数字が大きくなればなるほど実在数が少なくなるので (1番地や 2号室よりも 80番地や 90号室のほうが少ない)、なるべく大きな数字を選ぶことは有意な戦略といえるだろう(戦略6)。
スポーツ選手で圧倒的な人気を誇るスーパースターなどがいた場合、その選手の背番号なども避けるべきだ(戦略7)。
ちなみに今回の 1860億円の際の抽選における的中番号 6個の中には 19 が含まれていたばかりか、ここに記載した戦略で避けるべきとされる 31 以下の数字が 5個も含まれていたため (的中番号は 8、4、19、27、34、そしてパワーボール番号が 10)、11月7日以降の 13回の抽選で的中者が1人もいなかったにもかかわらず、3人も的中者が出てしまった。販売枚数が多かったということも理由のひとつではあるが、これは明らかに 19 の影響や 31以下の数字が多かったことによるものと考えるべきだろう。
このような戦略をバカにする者もいるが、それはとんでもない誤りだ。今回の Powerball に限らず、実際に全米各州の LOTTO などにおいて毎年のように珍事件が起こっている。つまり、7番、19番、そしてその時期の月日に関する番号などが当選番号となった際、的中者が続出しているのである。
これは胴元、つまり宝クジを発行する側にとっては無関心ではいられない重要な出来事で、ここまでに述べてきた戦略は宝クジを買う側よりも、むしろ発行する側のほうが強く意識しているといわれている。
なぜなら、人気番号が選ばれた場合、一等ジャックポットだけでなく二等以下も続出してしまい、一等は払い戻しの総額が決まっているため的中者が何人出ようが胴元にとっての負担は同じだが、5ドルや 10ドル前後の四等や五等は的中者の数に関係なく賞金額を保証しているからだ。つまり、19番などが当選番号に選ばれると負担が激増してしまうのである。
以上のような現実を考えると、賢い選び方は、なるべく大きな番号を選ぶべき、ということになる。それが最終的な結論だ。
もちろん的中しないことには意味が無いわけで、3億分の1という途方も無い確率を考えると、ここまでの話をあれこれ議論すること自体がまったくのナンセンスといえなくもないが、それでも何の苦労もなく重複当選のリスクを軽減でき、期待値を高めることができるのであれば、その作戦を実行しない手はないだろう。
なおこれは余談になるが、今回のように繰り越し金が積み上がってジャックポット金額がとてつもなく大きくなった場合、期待値が 1枚のコストの 2ドルを超えることがある。その場合、すべての組み合わせ、つまり約 3億通りを 6億ドルで買えば、必ず的中することになり利益が出そうだが、自分以外にも的中者が複数いるとそうはいかない。やはり他人が選びそうな番号は、どんな買い方の場合も避けたほうがよさそうだ。
最後に、反論もあるだろうが、この Powerball に限らず古今東西の宝クジにおいて、的中の夢を追い続けることは現実問題としてあまり賢い行動とはいえない。あまりにも的中確率が低いからだ。期待値から考えても、積立金が膨れ上がった時のような例外を除き、あまりにも条件が悪い。
的中して億万長者になる場面を妄想することよりも、抽選日までに自分が生きているかどうかを心配するほうが、確率的にはるかに現実的であることに気づくべきだ。
それでも宝クジが好きだ、という場合は、億万長者になることを夢見るよりも、収益金が公益事業などに回されていることを意識しながら、「自分は社会に貢献しているんだ」との献身的な気持ちで買い続けたほうが、ハズレるたびにガッカリすることもなく心の健康に良いような気がするが、いかがだろう。
とはいっても、「買わなければ当たらない」、「当たった人は買っていた」といった命題が「真」であることもまた事実。たかが宝クジ、されど宝クジ、議論は尽きない。
【仲川氏の税金に関するコメント】
パワーボールで大当たりした場合の税金について説明させていただきます。
ラスベガスのチャイナタウンの一角にある私の事務所では、10万ドル以上のスロットマシンのジャックポットを当て、その際に30%(たとえば 100万ドルの場合は30万ドル)を源泉徴収されたお客様の税金還付をいくつも扱ってきましたが、パワーボールに関してはまだ扱ったことがありません。基本的にはスロットマシンもパワーボールも同じと考えてよいでしょう。
一般的に、米国の税金は連邦所得税(いわゆる国税)と州所得税の2階建てになっています。
連邦所得税はどこの州で買っても発生します。通常 IRS(米国の国税庁)は宝クジの賞金の通常 25% を源泉徴収します。そして納税者は翌年の 4月15日までにタックス・リターン(税申告)を行う必要があります。
約40万ドル以上の収入があれば、最高税率は 39.6%。累進課税ですので、40万ドル程度までの所得に対しては 10~35%の税率が適用されることになります。
したがって今回のようなパワーボールの巨額の賞金に対しては最高税率 39.6% が適用されますので、仮に 25% を源泉されていても、さらに差額である 14.6% をタックス・リターンによって追加納税しなければなりません。
州所得税は原則その州の住民であれば払う必要があります。ネバダ州などは州所得税がない州として有名です。ネバダ州はパワーボールに参加していませんので、住民はとなりのカリフォルニア州かアリゾナ州で買うことが一般的でしょう。
カリフォルニア州では宝くじには収税がかかりません。アリゾナ州では州民に対して 5% の州税、非州民については 6% の州税が課せられます。
ちなみにメリーランド州では州民に対して 8.75%、非州民に対して 7% の州税が発生します。ニューヨークなど州税 8.8% だけでなく市税 3.9% もかかるところもあります。
そして州税には国税とは異なり例外が多く、そのつど確認する必要がありますが、いずれにしましてもラスベガスを訪れる旅行者および在住者がパワーボールを買う場合は、州税の 6% を避けるためにアリゾナ州ではなくカリフォルニア州で買うことをお勧めします。
(税法上の)日本居住者の場合は(二重課税の回避、および脱税を防止する目的の)日米租税条約の適用を受けます。
2013年締結の日米租税条約は、米国がまだ批准していないため発効していません。したがって、2003年締結の日米租税条約が適用されることになります。
同条約によれば、日本居住者はギャンブルの賞金に対してアメリカでは課税されません。日本で課税されることになります。
ここで注意すべきは、課税されなくても外国人に対する一般的な源泉徴収として 30% を引かれることがよくあるということです。つまり 1000万ドル当たった時に(結果的に税金がかからないとしても)300万ドルを引かれることもありえるということです。
この場合、IRS に還付請求を行います。またこの条約は州政府には適用されません。州により税金をかける場合が多くあります。日本の税務申告において外国政府に支払った分は外国税額控除を使用できます。
ここに記載したものは、米国税法の一部を 2016年1月に解説したものです。税法は変更されることが多く、かつ多くの例外が存在します。個別の案件は専門家にご相談ください。この文章の誤り又は税法の変更などにより読者に損失が発生しても責任を負いませんのであらかじめご了承ください。
(参照: Arizona Form 1040NR、 usamega.com、 washigtonpost.com、irs.gov、 taxfoundation.gov、treasury.gov、 国税庁および外務省のホームページ)
渡辺仲川税務会計事務所
仲川佳克 IRS Enrolled Agent (米国税理士)
www.nevada-tax.com