先週末、ストリップ地区の最北端に、客室数 1620 のカジノホテル SLS Las Vegas がオープンした。
といっても、まったく新しくゼロから建設されたホテルではない。かつてのサハラホテルだ。(上の写真は 2005年当時のサハラホテル)
1952年開業の伝統あるサハラは、あのビートルズもラスベガス公演(ちょうど50年前の1964年8月)の際に宿泊したほどの名門だったが、1990年代の巨大テーマホテルの建設ブームによって存在感を失い、その後も復活の機会に恵まれないままリーマン・ショックの不況を乗り切れず、2011年5月、あえなく閉鎖。59年の歴史に幕を閉じた。
しばらく雨ざらしの状態が続き(といっても雨はほとんど降らないが)爆破解体の運命をたどるかと思いきや、その時点で最後のオーナーとして同ホテルを所有していた SBE Entertainment社は、サハラを改装し復活させることを決意。
2013年2月からその改装工事に取り掛かり、このたびめでたくオープンしたのが SLS Las Vegas というわけだ。
したがって、先週のこのコーナーで取り上げた「2大ホテル系列」のどちらにも属さない独立系のカジノホテルということで、個性豊かな独自の運営に各方面から期待が寄せられている。(上の写真は現在の SLS の様子)
ちなみに、現在39歳という若き創業社長 Sam Nazarian 氏が率いるその SBE 社は、業種的にはホスピタリティー業(あえて日本語でいうなら「おもてなし業」、「接客業」といったところか)もしくはエンターテインメント業などと呼ばれる分野の会社で、ロサンゼルスに拠点を置きながら 10年ほど前からナイトクラブやレストランを多角的に経営。近年はホテル業にも乗り出し、すでにビバリーヒルズとフロリダに SLS ブランドの中堅ホテルを持つまでに至っている。来年にはニューヨークにもオープン予定で、今回の開業もその一連のホテル部門の事業展開ということになる。
なお、この風変わりな名称 SLS の意味は、Nazarian 氏によると、「明確に決めているわけではないが、Style、Luxury、Service の頭文字と解釈してくれればいい」とのこと。
ここまでの説明だと、その Nazarian 氏の SBE 社が SLS Las Vegas のすべてを所有しているかのように聞こえるかもしれないが、厳密にはそうではない。
大規模な改装工事に必要だった約4億ドル(約400億円)を調達するには信用力が不十分だったため、SBE 社は SLS Las Vegas を別法人にし、自身ではわずか 10%、そして残りの 90%を不動産投資会社 Stockbridge 社に出資させる形で、ジョイントベンチャーとしてスタートさせている。
もちろん資本金だけで 4億ドルが集まるわけもなく、借り入れが必要で、改装工事の費用の大半は JPモルガンと、グリーンカード(アメリカ永住権)取得のための有力手段として知られる投資ファンド EB-5 が供給。
したがって、この SLS Las Vegas が失敗し倒産するようなことになると、グリーンカード保持者もしくは申請中の者など個人が被害を被る可能性もあり、ホテル業界とは無縁の一部の一般個人からも今回の開業は注目されている。
さて、会社のバックグラウンドなど、一般観光客にとってはどうでもいいことばかりを長々と書いてきたが、ここからは本題のこのホテルについて。
結論から先に書くならば、「宿泊するためのホテルとしてはまったくダメだが、飲食目的での訪問であれば利用価値はありそうだ」ということになるだろう。
宿泊がダメな理由は右の主要ホテル分布図からもわかるとおり、最北端という立地条件の悪さで、そのひとことに尽きる。
とにかく中心街から離れすぎているため、どこへ出かけるにもタクシーもしくはバスが必要で、周囲の環境も寂れた空き地ばかり。そのため歩行者も限りなくゼロに近い状態で、ラスベガスらしい華やかなネオン街とは程遠い環境となっている。
近そうに見えるリビエラホテルも徒歩の距離とは言いがたく(そもそもその区間の東側の歩道沿いには店一軒すら存在していない)、特に残暑きびしい今の時期、徒歩での行動は現実的ではない。
来年になれば向かい側の空き地に MGM社がフェスティバル会場 City of Rock を建設することになっているので、それが動き始めれば状況は変わるかもしれないが、少なくとも現在の立地条件は非常にきびしい。
SLS の宣伝文句などを見ると「モノレールの駅に隣接しているので便利」を強調しているようだが、たしかにそれは事実ではあるものの、サハラホテルが集客難に苦しみ閉鎖に追い込まれた時点ですでにモノレールの駅は存在していたわけで、モノレールによって立地条件の悪さをカバーできていると考えるには無理がある。
実際にこのモノレール、ストリップ大通りからかなり離れた場所を走っていることもあり、大多数の一般の観光客にとっては無縁の存在で、2004年の開業以来一度も利益を計上したことがない赤字路線だ。
ということで、立地条件の悪さの指摘はそのへんにしておいて、ここからは「宿泊ホテルとしての利用は想定しない」という前提で話を進めてみたい。
宿泊せずにタクシーやバスなどでふらりと遊びに行くだけならば、けっこう楽しめるホテルかもしれない。トレードマークともいえる猿を使ったさまざまな演出や(写真はカジノスタッフのユニフォームに描かれた猿)、興味深いレストランがいくつもあるなど、他のカジノホテルにはないような独自のカラーが随所で見られるからだ。
そもそも経営母体となっている SBE 社はナイトクラブ経営を中心としたホスピタリティー業であること、そしてその責任者が 39歳と若く、また同社の顧客ベース(ナイトクラブの常連客など)がロサンゼルス一帯の若者であり、そのデータベースを使ってマーケティングすることを前提としてすべてが企画されているため、幅広い世代を相手にしている他のホテルとは異なる雰囲気、施設、サービスを体感できても不思議ではない。
さて、まずはその猿について。右の写真をクリックし拡大するとわかるが、猿はこのホテルの社章にも描かれている。
それは、4匹の猿がダイニングルームのゴージャスなシャンデリアに隠れ、人間にいたずらをしようとしている場面だ。なにゆえこんな複雑かつ奇妙な社章になってしまったのか、だれもが知りたいところだろう。
いろいろな説が噂されているが、一番有力とされる説によると、ビバリーヒルズにある高級ホテル Meridien Hotel を買い取り、最初の SLS Hotel として運営を開始する際、「どれほど伝統的な高級ホテルであったとしても、それを当社が運営する限り、遊び心を忘れずにモダンかつカジュアルなコンセプトも盛り込みたい」と Nazarian 氏が考え、それをデザイナーが表現しようとしたらゴージャスなシャンデリアと猿になってしまった、ということらしい。
そのようなわけで、カジノスタッフのユニフォームのみならず、フロントロビーの向かい側に「モンキー・バー」があるなど、ゴージャス感と遊び心という相反する2つのコンセプトを両立させるための役として、さまざまな場所に猿が登場することになるが、それもこのホテルの見どころとして楽しむとよいだろう。
コンセプトの両立といえば、玄関前に鎮座する銅像とも彫刻ともいえない意味不明のオブジェも(写真)、なんともこのホテルらしい。
高級感よりも遊び心のほうが強く表現されている感じだが、とにかく訪問者に与える第一印象としてのインパクトは強烈で、コンセプトの伝達手段としてはうまく機能しているように思える。
ちなみにこのオブジェ、SLS Las Vegas のデザインを全面的に監修したデザイナー Philippe Starck 氏によると、Saam と名づけられた芸術作品で(Sam Nazarian 氏の名前に引っ掛けているようだ)、Nazarian 氏のごとく何ごとにも過激にチャレンジする “Subversive Man”(破壊者)を表現してみたらこうなったのだとか。
その他にもこのホテルらしい部分をいくつか挙げると、たとえばチェックインカウンター近くのカーペットには、往年のサハラホテル時代に活躍したフランク・シナトラなど、何人ものスターの顔が印刷されている。
また高級感という意味では、店内のショップに注目したい。メンズ、レディース、シューズ、ジュエリー、アクセサリー、家庭雑貨、スポーツウエアなど、どのジャンルの店も独占的にすべて Fred Segal(写真上)に任せているところがなんともすごい。
Fred Segal とは、ロサンゼルスを中心に事業展開中の多種多様な商品を扱うショップで、知る人ぞ知るハリウッドセレブ御用達の高級店だ。決して広くはない SLS の館内に、その Fred Segal がジャンル別に7店舗もあるというからその意気込みは半端ではなさそうだ。
ちなみにこの Fred Segal、ロサンゼルス地区以外に出店するのは今回のベガスが初めてとのことだが、これを機会に他の都市にも積極的に出て事業展開したいのか、来年、東京の代官山に出店する計画があるらしい。
さてこのホテル最大の注目点はレストラン群だろう。そもそも SBE 社はナイトクラブと並んでレストランの企画や運営も本業としており、特徴あるレストランのクリエイトはお手のもの。すでにロサンゼルス地区で営業もしくは提携している店を中心に独創的な店ばかりを集めたとのことで、その顔ぶれはグルメ族ならずとも興味深い。
実際に食べてみた店、まだ食べていない店、食べてはいないが現場スタッフと話ができた店などさまざまだが、個別の料理を細かく紹介していると長くなってしまうので、とりあえず店の様子や特徴だけを簡単に紹介してみたい。(上の写真はヌードル店 KU の厨房)
カジュアルなジャンルでの注目店は何といっても Umami Burger だろう。ロサンゼルス地区では知らない人はいないほど有名な高級ハンバーガーのチェーン店で、各方面からの評価も非常に高い。SLS まで行ったらぜひ立ち寄ってみたい店の一つだ。
なおロサンゼルス地区の店舗は、ハンバーガー店としては高級感ある落ちついたインテリアが自慢だが、この SLS 内の店舗はスポーツブックに隣接している関係で、スポーツ観戦用のテレビが店全体に無数に設置されており、スポーツバー的な騒々しい雰囲気になっていることは、あらかじめ了解しておく必要がある。
余談になるが、この店のウェブサイトのドメインは、すでに世界に定着している日本語の umami にドットコムを付けただけの umami.com 。
カジュアル店で忘れてはならないもう一店は 800 Degrees Neapolitan Pizzeria。ナポリスタイルのピザ店だ。
店名の 800 Degrees とは、もちろん窯の温度のこと。アメリカで使われている華氏での数値になっているが、摂氏に換算すると 400度ちょっとということになる。
本格的なナポリスタイルなので、かなり薄く焼き上げてくれるところがこの店の自慢で、アメリカで一般的なシカゴ・スタイルといわれる分厚い系のこってりしたピザとはまったく異なるサクッとした食感と、トロけるようなチーズのコンビネーションを楽しみたい。
ちなみに店内には、シカゴやニューヨークのピザを皮肉るような宣伝文句などがあり、味ばかりか演出もなかなかおもしろい。
入口や通路などが Umami Burger と共通で、屋外に配置された Beer Garden という名前のビアガーデンもいい雰囲気にまとまっており、ぜひ行ってみたい店の一つだ。
まだ季節的に暑いかもしれないが、全席がストリップ大通りに面したテラス席で、コンセプトはドイツのバイエルン地方。木目がむき出しの荒削りな長テーブルなどがドイツっぽさを演出しており、ドイツブランドのビールもたくさんあるのでビール党にはたまらなく楽しい場所だ。(この写真には写っていないが、10人ぐらいが着席できる長テーブルもいくつかある)
もちろんカウンター席も用意されているので、ひとりでスポーツ中継などを見ながらゆっくり飲みたいという人でもなんら困ることはない。
クレオパトラに扮した女性の巨大なパネルが店の入口の前にドーンと飾られている地中海料理店 Cleo も何やら本格的な感じで興味深い。
店側は Mediterranean、つまり地中海という言葉を多用しているが、スペインやイタリア側の地中海ではなく、北アフリカから中東エリアの地中海なので、そのことはあらかじめ了解しておく必要がある。つまりスペイン料理やイタリア料理ではない。
店内に一歩足を踏み入れると、そこはもう完全にアラビアン。怪しげな薄暗い照明、おびただしい数のタジン鍋や各種香辛料がたくさん並ぶインテリア装飾などに圧倒され、食べる前から中東文化や異国情緒を体感させてもらえること請け合いだ。
このホテルにいれば、日本の味に恋しくなっても大丈夫。SBE社お墨付きの高級和食店 KATSUYA がある。
パッと見た感じ、和食店としては派手すぎる感じがしないでもないが、「しょせんはアメリカの和食店」などとこの店をあなどることなかれ。
見かけも内容も基本的には寿司店にちがいはないが、炉端焼き店のような焼き鳥など各種串物メニューも豊富で、カバーしている範囲が非常に広い。もちろんアメリカならではのフュージョン系のメニューも少なくない。
取材訪問の際、一般的なアメリカの寿司店ではあまり見かけないさまざまな貝類やアジなどの光モノの魚、さらに切る前の丸ごとの状態の新鮮かつ大きなタコも見せてくれるなど、食材のレベルも高いように見受けられた。
まだこの店でもロサンゼルスの店舗でも実際に食べてはいないが、派手な見かけに反して、かなり正統派の料理も出せる総合和食店として期待してよさそうだ。
和食があれば、中華もある。料理界屈指の権威ある賞 James Beard 賞を受賞したスターシェフ Jose Andres 氏が監修する KU Noodle からも目が離せない。
店名からもわかる通り麺に力を入れている店で、麺の種類の豊富さが自慢。ざっと数えただけでも6種類はあった。さらにそれぞれの麺はすべてその場での手打ち製造というから恐れいる。またよほど自信があるのか、それら麺を作る過程のすべてをガラス越しのオープンキッチンで公開。さらにワンタン、シューマイ、ギョーザの皮などの製造現場も合わせて披露。パフォーマンスと言ってしまえばそれまでだが、なかなかの演出だ。
なお、コメが入った袋を店内に多数並べているインテリア装飾は意味不明で理解に苦しみ、あまり感心できない。
多くのカジノホテルにある食べ放題形式のバフェィもちゃんと存在しており、それに関してもこのホテルは手を抜いていないようだ。
かなり薄暗い照明は好き嫌いがありそうだが、料理に関してはたぶん多くの日本人が納得できるのではないか。
その理由は、全体の品数に対する和食と中華の比率が総じて高く、また味のレベルも高いからだ。もちろんステーキのような洋食系のものに期待して現場へ足を運ぶ者も少なく無いと思われるが、やはり日本人にとって中華と和食は最重要ジャンルだろう。
その中華に関してはヤキソバ、チャーハン、春巻きといった定番以外にも、せいろに入ったシューマイなどのアイテムも豊富だ。和食はもちろん寿司がメインで、にぎりはマグロ、サーモン、エビが中心、巻物はカリフォルニアロールやマグロ系が目立つ。どれもアメリカの寿司としては平均以上のレベルだった。
カニも生ガキもあり、各種デザート類も充実。そのデザートのサイズが適度に小さく、たくさんの種類を食べたい者にとってはありがたい配慮だ。
わざわざここのバフェィのためにストリップ地区の中心街から出向く必要はないだろうが、すでに他のホテルの店を行き尽くしてしまったというベガスリピーターなどは行ってみるとよいだろう。
カジュアルなカフェ Griddle もいい感じの店に見えたが、取材していないのでスキップするとして、最後は超高級ステーキ店 Bazaar Meat。
この店も KU Noodle と同様、Jose Andres 氏が監修しており、開業前から大いに注目されていた。
時間がなかったので、さまざまな肉を紹介してもらっただけで実際には食べていないが、この店はとにかくすごい。
食べる前からあまり絶賛するのは控えるべきだが、肉の種類の多さにはだれもが驚かされることだろう。ここでいう肉の種類とは、フィレミニオンとかリブアイといった部位のことではない。神戸とかオーストラリア産 Wagyu といった牛の種類のことだ。また、たとえばアメリカで一般的なアンガス牛でも、Harris Ranch 産(西海岸地区では最高の人気を誇る牧場)など、牧場ごとに区別しており、肉の選択肢という意味ではたぶんラスベガス屈指のステーキハウスといってよいのではないか。
(上の写真はガラス越しに撮影したものだが、そのガラスの表面に Harris Ranch California と書かれていることが見て取れる)
なおこの店には、入店を待つ客のためのバーラウンジがあるだけでなく、かなり薄暗いゴージャス感あふれる専用のカジノ (ブラックジャックやルーレット) が、入口の手前左側に用意されている。なかなかユニークな演出だ。
というわけで宿泊には不向きなホテルではあるが、レストラン群はかなり充実しているので、それを目的にこのホテルまで足を運んでみることは無駄ではないだろう。
長くなってしまったのでこのへんで終わりとしたいが、カジノに関して何も書いていなかったので、ブラックジャックとクラップスファン向けに簡単に触れておきたい。
ブラックジャックテーブルに猿が描かれていることはどうでもいいとして、通常セクションのブラックジャックには(ハイリミットセクションの調査は失念)6デックと 1デックがあり、どちらも 10、11 以外でもダブルダウン可能、Soft-17 ヒット、サレンダーなし、BJに対しては6デックが 1.5倍、1デックが 1.2倍、となっている。6デックでも 1.2倍というカジノが増えてきている昨今のトレンドを考えると、良心的なルールといってよいのではないか。クラップスのオッズベットは多くのカジノで主流となっている 3-4-5 倍。
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