ダンスを中心とした一風変わったナイトショー JABBAWOCKEEZ が、内容も会場も新たに再スタートを切ったので紹介してみたい。
このショーは、昨年までモンテカルロ・ホテルのシアターで開催されていたが、そこに、ブルーマンが移籍してくることになり、追い出される形で、このたびの新天地、ルクソール・ホテル(写真下)に場所を移動したため、約1年ぶりの公演再開ということになる。
ちなみに新たな会場となるシアターは、このショーのために新設され、またホテル側と6年契約を結んだというから、かなりの好待遇といってよさそうだ。とはいえ、観客動員の成績が思わしくなければ、いつでも公演打ち切りとなるのがラスベガスの掟。6年続くという保証はどこにもない。
そんな背景があるからか、かなり頑張っているようで、モンテカルロ時代に比べ、ショーの内容は大幅にグレードアップされている。その内容を説明する前に、全体像を説明しておきたい。
冒頭で、「一風変わったダンス」と書いたが、ダンスといっても、その種類をひとことでうまく表現するのはむずかしく、このショーはストリートダンス、ロボットダンス、ヒップホップダンス、ブレークダンスなどといったさまざまな言葉で紹介されることが多い。
しかし本人たちによると、どれもちがうというか、ひとつのジャンルでくくって欲しくないようで、それらすべてのダンスが含まれていると考えるのが正しいようだ。
マイケルジャクソンのムーンウォークのような華麗な動きから、アクロバットのような激しい動きまで、なんでもありのダンスと考えれば実態を想像しやすいのではないか。
デビューのきっかけとなったのは、ダンスの腕を競う人気テレビ番組「America’s Best Dance Crew」での優勝で、それを機に、テレビコマーシャルやイベントなどに出るようになり、ラスベガスのショービジネス界とも接触。短期間ではあるが、MGMグランド・ホテルで公演する機会を得て、それが大ブレーク。
その後、モンテカルロホテルでの常駐ショーとして声がかかり、それを2年ほど続け、今日に至っている。
演じているパフォーマーたちは全員男性で、全部で13人。そのうちの7人が、今回の公演から新たに設けられた新テーマ「PRISM」に合わせて踊る「色付きの主役」だ。
ここまでの説明だと、いくらダンスの種類が豊富だといっても、単なるダンスショーという印象からは抜け出せないだろう。
じつはこのショーには大きな特徴がある。それは、すべてのパフォーマーが仮面をかぶっているということ。つまり、自分の素顔は絶対に見せない。
それともうひとつ、しゃべらないということ。ダンス以外の演技においても絶対にしゃべらないので、意思の表現などはすべてパントマイムなど身振り手振りで行われる。
劇場内の放送で英語によるナレーションが流されることは何度かあるが、役者がしゃべらないことだけでも、英語を母国語としない観客にとっては大変ありがたいショーといってよいのではないか。
さてこの2つの特徴、つまり仮面と無言。これは奇しくも、モンテカルロ・ホテルから彼らを追い出すことになったブルーマンとまったく同じコンセプトだ。
ブルーマンは仮面ではないが、すべての役者は顔を真っ青に塗り、自分の素顔を見せない。素顔を隠し、役者の顔のイメージを全員統一するという意味ではまったく同じで、ちがいは色だけ。このショーにおける仮面の色は白だ。(一部の演出で、白と黒のときもある)
そしてブルーマンもまったくしゃべらない。さらにいうならば、どちらのショーにおいても、とぼけた表情で観客を笑わせる場面が非常に多いということ。
そうなると「ブルーマンのマネではないか」という声も出てくるわけだが、たしかにそういった声もあり、デビューの時期からすると、ブルーマンを参考にした可能性は十分にありえると考えるのが自然だろう。仮面を利用することにしたのは、顔を毎日塗る作業がかなりの負担になると考えたからだろうか。
では、ブルーマンとこのショーのちがいは何かということになるが、ちがいはいくつかある。ブルーマンは踊らない。その代わり音楽を演奏する。逆にこの JABBAWOCKEEZ は楽器演奏とは無関係。
そのほかの違いをしいてあげるならば、こちらのショーのほうが総じてにぎやか。つまり、「ブルーマンが静、JABBAWOCKEEZ が動」といった雰囲気の違いは確実に存在している。
また客層にもかなり違いがあるようだ。日本にも「ダンス甲子園」なるイベントがあるように、アメリカでもその種のダンスにあこがれているティーンエイジャーたちが多いのか、若者の観客が非常に目立つ。
素顔の公開もブルーマンとの違いだ。エンディングのシーンのあいさつで、役者全員が仮面を取って素顔を見せてくれる。ブルーマンは仮面ではないので取ることができないわけだが、生の笑顔でのあいさつは、なんだかほっとするというか、心がなごむ瞬間だ。ちなみにダンサーたちの年齢は全員30代とのこと。過激な踊りを披露するだけあってアスリート体型のたくましい男たちばかりだ。
どちらのショーを観るべきかで悩んだ場合の答えは、「好みの問題」ということになってしまうだろう。その「好み」すらわからない場合は、若者は JABBAWOCKEEZ、そうでない人はブルーマン、という判断でよいのではないか。若者とそうでない人の境目の年齢は、自分が若いと考えるかどうかで決めればよい。
さて、従来の JABBAWOCKEEZ を観たことがあり、今回の新しくなったバージョンの内容を知りたいという人のために、刷新された部分についてふれておくと、舞台演出全体が総じて大幅にカラフルになっているということ。大型ディスプレイや光線を多用するようになった部分も、従来との大きなちがいであり、見どころだ。
ちなみに今回のバージョンのテーマ、そしてサブタイトルは前述の通り「PRISM」。なにやら、いま世界で大きな話題となっているアメリカ国家安全保障局のプロジェクトと同じ名称だが、こちらは時期的にマネしたとは思えないので単なる偶然の一致と考えるべきだろう。
舞台はプリズムを通した光のごとく 7色を全面的に押し出した演出になっており、主役の7人はそれぞれ異なる色の衣装を着て登場するわけだが、開演直後はしばらく白と黒の「無色の世界」を演じ、そのあとで一気に7色の原色の世界に切り替わる。
最後に、JABBAWOCKEEZ というタイトルについて。発音は、すでに日本語としてかなり定着している「ジャバウォッキーズ」で通じると思われるが、現場での発音は「ジャバウァキーズ」に近い。
意味は造語なので特にこだわっていないようだが、 この名称が生まれたきっかけは、児童小説「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルが書いた「ジャバウォックの詩」のスペル「Jabberwocky」をわざとひねってみたらこうなったとのことで、そうなると「ちんぷんかんぷん、意味不明」という意味に解釈すべきなのかもしれない。
開演日時は火曜日と水曜日を除く毎日 7:00pm。木、金、土は 9:30pm の部も。正味時間は約80分。
9:30pm の部のほうが総じてすいているが、観客を交えての演出で盛り上がる場面もあるので、混んでいる 7:00pm の部のほうが雰囲気としては楽しめるはずだ。
ちなみに客席総数は 830席で、シルク・ドゥ・ソレイユなどの劇場の半分程度のサイズだが、7:00pm の部でも満席になることは少ないとのこと。
シアターの場所は、ルクソールホテルのカジノフロアからひとつ上の階の、アトラクション施設やファーストフード店が並ぶ広場のようになっているフロアのほぼ中央。
チケットは、そのシアターのすぐ脇にあるボックスオフィスで買うことができる。チケット料金は座席によって変則的に分かれており、約70ドル前後から。大きな会場ではないので、予算がきつい場合は、あまり無理をすることなく、一番安い席を選べばよいだろう。
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