ニセ科学か本物か? MGMが $25高の「癒しルーム」

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 ホテルの客室の名称といえば、スタンダード、デラックス、スイート、ペントハウスなど、グレードの差や、キング、クイーンなどベッドの違いを明示するための単語が使われるのが普通だが、このたび MGMグランドホテルに「ステイウェル・ルーム」というなんともわかりにくい名前の部屋が登場した。(写真上)
 スタンダード・ルームと比べて特に広いわけでもなければベッドのサイズが異なるわけでもない。はたしてどのような部屋なのか。さっそく取材した。

 「世界初のコンセプト」(MGM広報部)とされるこの Stay Well Room、単語の意味的には「健康志向の部屋」といったところだが、MGM側が目指すところや実際の装備を考えると「癒しの部屋」と訳すのが最も現実的だろう。(写真は客室内に置かれた利用手引き)

 長旅や時差ボケで疲れた身体をリラックスさせることを目的に、コロンビア大学医療センターの医師たちも企画に加わり完成させたというこの部屋には、数々の演出や機器が備わっている。

 効果があるのかどうかの議論は別にして、それらをすべて紹介すると、体内時計の乱れを整え睡眠を促す照明、リラックス効果があるとされる香りのアロマ、花粉などアレルゲンを除去する高性能な空気清浄システム、アレルギー反応を起こしにくい繊維で作られた寝具類、外光を完全に遮断する電動カーテン、脳にやさしい音を奏でる目覚まし時計、ビタミンCを注入したシャワー水(写真)、抗菌コーティングが施されたバスルームのフロアタイル、全米屈指の医療機関クリーブランド・クリニックの健康プログラムサイトへのアクセス、癒し系やスピリチュアル系の分野ではカリスマ・ドクターとされるディーパック・チョプラ氏監修の館内ビデオなど、まるでヘルス・クリニックさながらの装備だ。
(後述するが、そのディーパック・チョプラ氏は 詐欺師 との噂も)

 実際に部屋を利用してみての感想としては、先入観のようなものによる影響もあったのかもしれないが、たしかに「心地よい部屋」という印象を受けた。特に、部屋に入った瞬間に香るアロマの効果は絶大で、第一印象に与える影響は計り知れない。(アロマ装置の電源は自由に切ることが可能)

 嗅覚は人間の五感の中でも最も慣れに弱いため、しばらく時間が経過するとアロマの存在感は薄れてきてしまうが、こんどは静寂の中にかすかな音が存在していることを聴覚が捉える。耳障りな騒音ではなく、どことなく心地よい音だ。

 その音源の方向に目をやると、空気清浄システムが稼働していることを示す青い光がさりげない形で目に入ってくる(写真上)。ハイテク機器に守られているような気分にさせてくれるその視覚的な演出もなんとも絶妙で、まったく目障りになるような光ではないところがうれしい。
 光源はすべてLEDという室内照明も、冷たいようで冷たくない一種独特な落ち着いた雰囲気を醸しだしており好感が持てる。(下の写真はそのLED)

 そこまで気に入ってしまうと、触覚まで完全にマインドコントロールされてしまうのか、ベッドや枕の感触も肌にやさしく感じてくるから不思議だ。
 嗅覚、聴覚、視覚、触覚とくれば、五感の最後は味覚とばかりに、ビタミンC入りというシャワーの水を口に含んでみたものの、こちらは残念ながらというか当然というか、味は感じられなかった。それでも、このシャワーの効果とされる肌に対する感触は、普通の水とどこか異なる。

 もちろんベッドも枕もシャワーもその良い感触は先入観による影響が大きく、実際には区別が付くほど差異のあるものではないと思われるが、先入観でも錯覚でも何でもいい。
 とにかく利用者が心地良く感じてしまえば MGM側の勝ちで、この企画は大成功ということになる。
(写真下: バスルームの洗面台の大きなミラーの外周に埋め込まれている照明がまぶしいほど明るくなっており、これが時差ボケ防止に役立つらしい。明るさを下げる切り替えスイッチあり)

 ちなみにこのステイウェル・ルームの数は、5000室の規模を誇る MGMの中の 1% にも満たないわずか 42部屋で、14階にだけひっそりと存在している。
 そうなると需給バランス的に供給不足になることが予想され、気になってくるのは宿泊料金ということになるが、意外にもそれが安い。現時点での価格設定は、通常の部屋よりも 25ドル前後高いだけだ。(通常の部屋の料金自体が日々変動しているため、定価のようなものは存在していない)

 もちろんこの価格差を高いと思うか安いと思うかは人それぞれだが、高いと思う者は利用しなければよいだけで、たぶん大多数の人はリーズナブルな価格差と思うのではないか。
 特にヘルス・コンシャスの人にとっては大満足できること、まちがいなしだ。(上の写真の石鹸、シャンプー、コンディショナーなどは、一般の部屋に置かれているものと同じで、この部屋専用のものが用意されているわけではない)

 時差ボケや長旅の疲れだけでなく、カジノで負けて落ち込んでいる心も癒してくれる可能性があると考えると、カジノ・コンシャスの人にもお勧めかもしれない。
 大負けを取り戻そうと、さらなる大勝負に出て傷口を広げるような無謀な行動に出てしまいがちなギャンブラーにとっては、アロマの香りで頭の中が冷静になり、浪費を防ぐことができれば、25ドルの追加料金は安いものだ。健康派もギャンブル派も、大いに利用してみるとよいだろう。

 最後にこれは余談だが、前述のディーパック・チョプラ氏監修の館内ビデオだけは、その存在が館内資料などにはっきり明記されているにもかかわらず、なぜか利用できなかった。
 その理由は、コンタクトした限りの現場スタッフはだれも答えることができず、現時点では未確認だが、ちなみにそのチョプラ氏、あまりにも非科学的なスピリチュアル理論で人々をだまし社会に悪影響を与えているとして、医者や科学者などから非難を浴びているばかりか、タイム誌など主要メディアからも叩かれ、疑似科学の扇動者というレッテルを貼られている。
 技術的トラブルか準備中か定かではないが、このまま視聴できないほうが良いのかもしれない。

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