その土地ならではのことを楽しむのが観光や旅行というもの。ラスベガスの場合、カジノ、ナイトショー、大自然観光といったところか。
わざわざ高い交通費を負担してまでベガスを訪問し、その貴重な滞在時間を使って映画鑑賞というのはあまり一般的ではないし、おすすめできない。特に初めて訪れる者ならなおさらだ。
一方、ほとんどの観光スポットを見てしまったというリピーターが数多くいるのも事実で、また、ベガス関連映画ならなんでも見たいというベガス・フリークも少なくない。
今週は、初ベガスの読者にはほとんど無用な情報で申しわけないが、新作映画に関する話題をお届けしてみたい。
3月15日、The Incredible Burt Wonderstone というベガスを舞台にした映画が全米で公開された。
男性二人組マジシャンの浮き沈みを描いた人間ドラマのような内容なので、まじめに鑑賞しても十分楽しめる作品ではあるが、やや飛躍しずぎた大げさな描写や非現実的でコミカルな部分も散見されるためか、ジャンル的には「コメディー」に分類されている。
以下はあらすじだ。小学生のころ、母親から誕生日プレゼントとしてマジック・キットを買ってもらったことをきっかけにマジックが好きになった少年と、そのクラスメイトが、おとなになってデュオを組みラスベガス・デビューを果たす。
やがて超人気のスターとなり、カジノホテル内にあるその劇場は連日満員の大盛況。しかし年月の経過とともに、マンネリ化と空席ばかりが目立つようになるが、これといった対応策を見い出すことができない。
そこに、過激なマジックを売りにする新鋭マジシャンがベガスにやってきてストリートパフォーマンスを中心に注目を集めるようになると、ますますデュオの会場からは客足が遠のき、とうとう解散に追い込まれる。
デュオのうちの一人は、アジアの貧しい国にボランティア活動のために旅立ち、もう一人は、老人ホームなどでほそぼそとマジックを演じる生活を始めることに。
ある日、老人ホームで、子供のころ買ってもらったマジック・キットの作者である年老いた伝説のマジシャンと遭遇し、その老人からのアドバイスで、再びマジシャン魂に火がつき再結成を決意。
アジアから相棒を呼び戻し、新規オープンする豪華カジノホテルの劇場に売込みを図るものの、そこに立ちはだかるのは、やはりあの新鋭マジシャン。
そのホテルのワンマンオーナーへの激しい売り込み合戦が始まり、そのオーナーの豪邸で開かれた息子の誕生日パーティーで、再結成デュオと新鋭マジシャンがマジック対決で火花を散らす。
デュオはやっとの思いで新規ホテルと契約を交わすことに成功。デュオが始めたマジックは、これまでにだれもやったことがない、観客全員を劇場から瞬間移動させてしまう奇抜なものだが、それはアジアの貧しい国に住む原住民が栽培していた麻薬を使って観客を眠らせてしまうという超法規的なマジックだった。
コメディー映画の場合、よほど完成度が高くないと軽く見られてしまいがちで、重厚な作品に比べて評価を得にくい傾向にあり、本作品も例外ではなく、各種メディアでの論調は総じて芳しくない。
一方、さりげない軽いストーリーの中にも、友情や努力や苦労といった人間模様がうまく刷り込まれている部分を評価する声もあり、映画関連のネット掲示板などで交わされている意見、とりわけベガスに精通している人たちからの評価は決して悪くないようだ。
ベガスフリークにとって楽しい理由は、コミカルなフィクションでありながら、実世界と重ね合わせながら鑑賞できるようになっているところだろう。
たとえば、作品の中ではっきり明示されているわけではないが、主役の男性デュオはどう考えても、かつてホワイト・タイガーのイリュージョンで人気を博したシークフリート&ロイ。髪型などもかなり彼らを意識していることがうかがえる。
そしてこの二人のライバルとして登場する危険な荒わざ中心の新鋭マジシャンは、明らかにクリス・エンジェルやデイビッド・ブレインを想定しての配役だ。また一瞬ではあるが、瞬間移動マジックで有名な実在現役マジシャン、デイビッド・カッパーフィールド本人が登場したりもする。
長老マジシャンの名前はランス。ランス・バートンを彷彿させるところはよいとしても、まだそれほど年老いていない本物のランス・バートンはどう思っていることか。
自分の名前をホテル名にしてしまう新規ホテルのオーナーは、もちろんスティーブ・ウインをパロディー化したもので、現実のウインを知る者は大いに笑えるキャラクターだ。
ちなみに、主役の二人と新鋭マジシャンを演じるスティーヴ・カレル、スティーヴ・ブシェミ、ジム・キャリーら関係者は、制作の前に、マジックの世界を勉強する目的で、デイビッド・カッパーフィールド、ランス・バートン、クリス・エンジェル、ダーク・アーサー、スティーブ・ワイリック、ペン・ジレットなど、そうそうたるベガスのマジシャンたちと会って打ち合わせをしているというから、この作品に対する熱意がうかがえる。
そんな努力もあり、現実のベガスのマジック界を知る者にとってはなんとも楽しい内容に仕上がっているばかりか、撮影現場という意味においても、バリーズ、パリス、シーザーズパレス周辺の様子が何度も登場するなど、自分の旅の思い出に残る情景をたくさん再認識することができ大いに楽しめるはずだ。時間があればぜひ鑑賞していただきたい。
ホテル街から一番近い映画館 Regal United Artists Theatres は、モンテカルロホテルの向かい側にあるハードロックカフェと巨大コカコーラボトルの間の道を奥に入って、頭上の渡り廊下をくぐったすぐ左側。
料金は 11ドル。現在毎日7回上映しているが、上映時刻などは日々変わる可能性があるので、必ず訪問前に公式サイトなどで確認するようにしたい。
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