2009年末にオープンした大型高級カジノホテル・アリアの中にある食べ放題店「the buffet」が昨年秋、わずか3年で改装閉店となったのち、リニューアル・オープンを果たしたというのでさっそく行ってみた。
なお、新しい店内の様子を報告する前に、「なにゆえ3年で改装する必要があったのか」という疑問について、あくまでも一般論としてふれておきたい。
国土が広いアメリカでは多くの法律が州や都市によって異なる。当然のことながら、労働に関する細かな条令などもまちまちで、経営者側の事情に配慮した規則になっている場合と、その逆に労働者寄りの場合があり、その部分においては地域色が出やすい。
ラスベガスの法律は伝統的に経営者寄りになりがちで、労働者を解雇したりする場合のルールは、「労働者側にきびしく経営側にあまい」と言われており、政治的な価値観としての民主か共和かという意味では、共和党寄りといったところか。
日本の年功序列ほどではないが、アメリカの雇用現場においても「seniority」(「年長」という意味だが、ここでは「勤続年数」)という言葉が存在している通り、年々昇給したり有給休暇の数が増えるなど、勤続年数が長い人ほど優遇されるという傾向は少なからずある(特に大企業の場合)。
そこで重要になってくるのが、レストランに代表されるような労働現場が改装工事などで休業となる場合の、従業員の「一時自宅待機」か「解雇」かという部分。
半月程度の休業であれば一時待機となり、営業再開後の現場での seniority に変化はないが、工事が長引くような場合、大半の従業員を一度解雇し、再オープンの際に改めて新規雇用するという方法も、条件さえそろえばラスベガスの規則では可能で、その場合、たとえ改装前と同じ顔ぶれでの営業再開であっても、多くの従業員の seniority はリセットされ、新入社員としての待遇にすることができる。
これは経営者側にとっては大いに都合が良いルールで、改装工事に必要な費用や休業中の利益遺失が小さいと予想できれば、一考に値する選択肢だ。
アリアの名誉のために言っておくが、労働組合との取り決めなど現場の事情は複雑で、今回のリニューアルの本当の理由がその部分にあったかどうかは定かではなく、3年という「わざわざリセットするには短すぎる期間」を考えても別の理由があったと思われるが、あくまでも一般論として、そのような理由で改装工事をすることもあり得るということだけは知っておいて損はないだろう。
さて前置きが長くなってしまったが、the buffet は店内の雰囲気も料理の内容も総じて素晴らしい。
また、立地条件的に目立ちにくい場所にあるためか(アリア自体がストリップ大通りからかなり奥まった場所にあり、宿泊客以外は立ち寄りにくい場所にある)、ベラージオ、シーザーズパレス、パリスなどの人気店と比べると行列ができにくく、待ち時間が少ないという意味でも価値ある店といってよいのではないか。
改装された部分は各料理セクションの陳列スタンドおよびその周辺が中心で、その他はあまり大きく変わっていない。
たとえば、カーペットは以前の赤からオレンジ色に近いベージュに、また皿も、模様が入っていたものから純白の無地に変わっているものの、客側のテーブルはこれまでと同じ物が使われており、天井のオブジェや照明などもほとんど以前のままだ。受付周辺の装飾も最小限のマイナーチェンジにとどまっており、店名もロゴも変わっていない。
ということで、大きく変化した料理セクション周辺だけが気になるわけだが、現場に表示されている名称をすべてそのまま書き出すと、Italian、Asian、Fish Market、Tandoori、Mediterranean、Pizza、Latin、Carvery、Diner、Salad Bar、Sweets の 11のセクションになる。
改装前は、名称を付けた区分にはしていなかったので、セクションの増減を語ることはできないが、11種類という数は十分といってよいのではないか。
ちなみにエビ、カニ、カキなどは Fish Market に、寿司は Asian ではなく Salad Bar にある。
参考までにそのカニは、アメリカでは高級品とされるキングクラブ系(タラバガニ系)に近い種類のもので、他のホテルではそれよりも小ぶりのスノークラブ(ズワイガニ系)やダンジネスクラブ(日本ではあまり流通していない種類)が多かったりすることを考えると、この店のレベルの高さがうかがえる。
カキはサイズ的にも見た目にも新鮮そうで立派だったが、カキ独特の風味がほとんどなかったのが残念。ただしこの種の生鮮食材は日々変化するものなので、毎回そうではないことを祈りたい。
なお箸は中華料理の場所もしくは寿司の場所にある。醤油は各テーブルにあるのでオーダーしたり取りに行く必要はない。
寿司は、マグロやサーモンなどのにぎりに関してはご愛嬌といった程度のレベルのものだが、巻物は種類も豊富で味のレベルも高かった。
改装前にはあった味噌汁は見当たらなかった。また、かつてはあったラーメンのたぐいも今はない。
ただ、あった、なかった、と言っていること自体、あまり意味が無いかもしれない。なぜなら、各セクションのスタッフが気まぐれに各料理を作り始めて陳列台に並べるからだ。
いま何を作っているかは、現場スタッフが小さな黒板(上の写真内の中央やや右上)に書き出してくれるので、英語が理解できる限り、ある程度の料理の内容を把握することはできる。
中華の場所にチャーハンが見当たらないなど、そのセクションに自分の好みの料理を見つけることができなかった場合は、リクエストしてみるとよいかもしれない。少々待つ覚悟は必要だが、現場スタッフの気が向けば作ってもらえる可能性はある。
作ってくれるといえば、この店の特徴はなんといってもインド料理、つまりここでは Tandoori のセクションだ。
Tandoori(形容詞。名詞は Tandoor )とは、もちろんインド料理に欠かせない粘土製の壺型の炭火オーブンのことで、このタンドールでナンなどを一枚一枚ていねいに焼いてくれる。(写真)
ナンを食べたことがある者は数多くいても、タンドールで焼く場面、ましてやダンドールの中までのぞき込んだことがある者は少ないのではないか。この店ではそれができる。真っ赤に燃える炭が底に並ぶ熱い壺の内側に、素手でナンの生地を貼り付けていく職人技は必見だ。
ナンが焼き上がれば必要になるのがインドカレー。しかし残念ながら、数種類用意してあったどのカレーもスパイスがほとんどきいていない腰抜けの味で少々がっかり。この日だけの調理ミスと考えたい。焼きたてのナン自体は絶品だった。
デザート類は改装前と同様、相対的にこの店で一番レベルが高いと思われる。クレームブリュレ、パンナコッタ、チーズケーキなど、どれも甘すぎず(それでも日本のものよりはやや甘い)、サイズも大き過ぎないところがうれしい。
また、見た目で「これは甘すぎて食べられそうもない」と思ったものが意外にもまともなレベルにあったりするので、視覚的な先入観は捨てたほうがよいだろう。
アイスクリームやジェラート類は現場スタッフにそのつどオーダーして受け取る方式なので少々面倒臭いが(写真下)、味的な完成度は高く、マカロンのたぐいも上々の出来だった。
アルコール好きにとってはうれしい「飲み放題」というオプションがある。
$12.99 で、ビール、ワイン、サングリア、ミモザなどを何杯でもオーダーできるというオプションだ。
オーダー可能なビールやワインの種類は、テーブルにあらかじめ案内が置かれているので簡単にわかるようになっている。
ちなみにビールの小瓶を単独でオーダーすると $6.25 なので、2本以上飲むならこの飲み放題を選んだほうが得ということになる。(コーラやコーヒーなどのソフトドリンク類は始めから無料で飲み放題)
食べ放題の料金は、月曜日から金曜日の 7:00am~11:00am の入店が $17.99、11:00am~3:30pm が $20.99、土曜日と日曜日の 7:00am~3:30pm が $27.99、月曜日から木曜日の 3:30pm~10:00pm が $31.99、金曜日から日曜日の 3:30pm~10:00pm が $39.99。
これら料金はすべて外税表記なので、8.10% の消費税が加算される。場所はアリア・ホテルのカジノフロアの一つ上の階にあるザーカナ劇場のすぐとなり。
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