ダウンタウン地区の老舗ホテルカジノ「ゴールデン・ゲート」(写真)が先週、約一年間に渡る改装工事を終え、リニューアルオープンを果たしたというので、さっそく宿泊してみた。
結論から先に書くならば、「これで改装したの?」と思いたくなるほど、朽ち果てた無残な姿が散見される状態ではあったが、よく考えてみると、「これで十分なのかも」と思えてくる味わい深いホテルだった。
まずはこのホテルの歴史について。
開業はなんと百年以上も前の1906年。まだほとんどだれも住んでいない砂漠の中に、ポツリと出現したのがこのホテルで、今日のダウンタウンの原点となった建造物というからなんともすごい歴史の持ち主だ。
ラスベガスで最初に電話回線を引いたのもこのホテルで、電話番号は栄光の「1」。どれほど古い時代だったか想像できよう。ストリップ地区など、ホテルはおろか、道路すらなかった時代だ。
ちなみに上の写真は、このホテルの現在のルームキー。そこには、「Our story started in 1906, your story starts here.」と書かれていることがわかる。
栄光の1番は電話だけではない。番地もだ。このホテルを起点に道路が伸びていったようなものなので当然といえば当然だが、番地は「フリーモント通り1番地」。
こちらは電話番号とちがい現在もそのままで、今回のリニューアルでは、それを誇らしげに強調するかのような、「1 Fremont」をいたるところで見ることができた。(写真は正面玄関前)
フリーモント通りといえば、何十年も前からダウンタウン地区の目抜き通りだったわけだが、現在は、電飾アーケード「フリーモント・エクスペリエンス」がある道路としても知られている。
その約400メートルにおよぶ電飾アーケードの起点となる位置にあるのが、このゴールデン・ゲートホテルで、ダウンタウン地区の他のどのホテルよりも、客室からアーケード街へのアクセスに要する時間が短い。
写真からもわかるとおり、他のホテル(たとえばこの写真の右半分に見える Plaza Hotel)は高層ビルだが、ゴールデン・ゲートはそうではなく、客室の多くは2階と3階にある。なのでアーケード街に出るのも超短時間で済むというわけだ。
自他共に「ブティック・ホテル」と呼ぶこのホテルの客室数はわずか122。ちなみに「ブティック・ホテル」とは、小規模でありながらも他とはどこかちがう小洒落たホテルのこと。
写真はフロント・ロビーだ(手前に見えるものは円形のソファー)。ラスベガスのホテルとしては異常に狭いが、客室数を考えるとこれで特に不便はなく、大型ホテルにはない温かさが感じられる。
カウンターの奥に見える “HOTEL” のネオンサインは、かつて屋外に設置されていたもの。
参考までに、ネバダ州の規則で、テーブルゲームなどを含むカジノを経営するためには「客室数が200以上」が必要条件となっているが(酒場、コンビニ、給油所などが 15台までのスロットマシンやビデオポーカーを設置する際の免許は別規則)、このホテルの場合、その規則が制定される以前から存在していたため、既得権により、カジノ経営が認められている。
カジノといえば、今回の改装で一番大きく生まれ変わったのが1階にあるカジノフロア。
往年のスロットマシンや(写真)、フランク・シナトラやサミー・デービスJr の写真など、当時をしのぶものがいくつか飾られている以外は、古ぼけたものは一切無く、すべてが一新されきれいになっている。
壁、床、照明、バーカウンターなどはもちろんのこと、スロットマシンもほとんど全てが最新モデルに置き換わり、カジノフロアだけを見ている限り、100年以上前から存在しているホテルであることを忘れてしまうほどだ。
カジノで新しくなったのは内装などハードだけではない。コンセプトも変わった。
カジノフロアは完全に近代化され、パーティーピットを全面的に導入。ちなみにパーティーピットとは、ブラック・ジャックなどのテーブルゲームで囲まれたセクションの中央部に、いわゆる「お立ち台」を設け、そこでダンサーを踊らせて、セクシーさを前面に押し出したセクションのこと。
最近ストリップ地区も含めて急増しており、多くの場合、ダンサーだけでなく、ディーラーもセクシーな衣装をまとった女性が担当することになる。
ここのカジノでは、日没頃の時間を境に、ダンサーがピットに現れ、ディーラーもセクシーな女性に入れ替わる。
その様子の写真は、まだ広報部側で用意ができていないとのことで、ここで紹介できないのが残念だが、彼女たちの衣装は、カジノチップの写真からもなんとなくわかる通り、黒を基調としたかなり大胆なもの。
男性にとっては、目の前のディーラー、奥のダンサー、そして手元のカジノチップにまでセクシーな女性が存在することになり、目の保養になることまちがいなしだ。
なお、カジノ内のテーブルの台数はクラップス2(ミニマム $5、10倍オッズ)、ルーレット1(ミニマム$5)、カリビアン、レットイットライドなどを含むブラックジャックサイズのテーブルが 16台(大半がブラックジャック)。
ルールは上の写真の通り、すべての台において BJ 1.5倍で、そのことはこのホテル自身、地元メディアなどで大きく宣伝もしている。ただしダブルダウンに制限があったりするので注意が必要だ。また、2デックの「Super Fun 21」はダイヤモンドの BJ 以外は 1.0倍であることは言うまでもない。
さて気になる客室についてだが、「1500万ドルをかけての大改装」と聞いていただけに心配していた。
なぜなら、客室数を考えても予算規模が小さすぎ、さらにカジノはもちろんのこと、正面玄関(写真)やロビー周辺をかなり立派に改装していたため、客室に十分な予算が回らないだろうと考えていたからだ。また、一部のスイートルームにかなりの予算を注ぎ込んだとも聞かされていた。
部屋に入るとその不安は的中。冒頭でふれた通り、改装直後とは思えないほどのひどい部分が散見され、お世辞にも美しいとは言えない。
たとえばこの写真、これはバスルームの洗面台とトイレの一部。
ストリップ地区の大型高級ホテルと比べるまでもなく、異常に狭くて貧弱なのは一目瞭然だが、この程度の狭さは、日本のビジネスホテルなどでもあり得ることなので、目をつぶるとして、問題は老朽化だ。
写真を拡大して見ればわかる通り、洗面台の周辺がかなりボロボロになっている。このホテルの名誉のためにあえて写真は控えるが、シャワールームの床や壁のタイルなどはもっとひどい。
こちらはベッドルームの写真。特に悪くないようにも見える。
しかし、この写真ではわからないが、天井、壁、窓、ドア、床などは見るに忍びないほどひどく傷んでいる。
結局わかったことは、今回の客室内の改装は、ベッド、テレビ、棚、電気スタンド、カーテンなど、固定されていないものや簡単に置き換えることができる調度品だけを取り替えたまでで、床、洗面台、シャワールームなどは昔のまま、ということになる。
では、部屋全体を完全に改装していたとしたらどうなっていたか。
どんなに高級な材料を使用し綺麗に改装していたとしてもゴージャス感は出せていなかっただろう。理由は、とにかく狭いということと。
バスルームは、バスタブを設置できないほど狭く、結局シャワールームも幅が67センチという異常な狭さ。小柄な日本人でも、頭を洗っている最中に両肘が壁に当たってしまうほどだ。
これでは、壁を壊して部屋数を減らすような改装でもしない限り、ゴージャス感は出せず、無理に改装しても、そのコストの分だけ宿泊代が高くなるだけだろう。
ダウンタウンに高級感を求める者は少ないので、高くすれば集客が落ち、経営が行き詰る。ならば、むしろ古さとダウンタウンらしさをウリにしたほうが利用者からの支持も得られ、成功する確率も高い。
そんなことを考えながら部屋にいると、100年を超えるこのホテルの歴史とダウンタウン地区の雰囲気がうまく調和し、ストリップ地区では味わえない心地よさが感じられるようになってくるから不思議だ。
そしてこのホテルには、抽象的な部分だけでなく「実利」もたくさんある。玄関からフロントロビーまで、そしてフロントロビーからエレベーターまでは、それぞれわずか10秒と5秒程度。エレベーターを降りてから部屋までも近い。
ホテルの外に一歩出れば、目の前がコンビニの ABC Stores。レンタカー族にとっては駐車所が近いのもうれしい。
実利は、小規模という構造上のものだけではない。金銭的にもありがたいことがある。
このホテルにはリゾートフィーがない。さらにインターネットの接続料金もストリップ地区の3分の1ほどの 24時間 $4.95。そもそも宿泊料自体がストリップ地区の数分の一。平日で、特に大きなイベントでもなければ1泊 $30~$40 程度で泊まれる。
あとこれは喫煙者だけのメリットだが、30部屋ほど喫煙ルームがあるという(フロントデスクの話)。ストリップ地区のホテルでは、全客室数の10%未満になっていることを考えるとかなり多く、喫煙者にとっては喫煙ルームを確保しやすいことになる。
最後に、欠点といえるかどうかわからないが注意事項をひとつ。
遠い昔は、カップルでの滞在や、男一人のギャンブラーが多かったのか、それともギャンブル仲間と来ても悪い遊びを企てて一人一部屋の利用が多かったのか、とにかくベッド2つの部屋は約20部屋しかないとのこと。
つまり大きなベッド1つの部屋が大部分で、それらの部屋はサイズ的にベッド2つを入れることはできず、結局、女同士など友だち二人での旅行には予約しづらい状況になっているので、そのことだけはあらかじめ知っておいたほうがよい。
とにかくサイズ的な利便性と低価格、そして古き良き時代の雰囲気は、このホテルの大きな特徴なので、それらに魅力を感じる人はぜひ一度泊まってみると良いだろう。
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