カリフォルニアの禁止令で、フォアグラ人気が急上昇

※記事内の2店 Betero と Andre's は閉店

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 7月1日から日本ではレバ刺しが、そして偶然にも同じ日から、カリフォルニア州ではフォアグラが禁止された。
 ラスベガスがあるのはネバダ州だが、当地を訪れる全観光客の約3割は、ラスベガスから最も近い大都市ロサンゼルス(カリフォルニア州)一帯に住む住民とされるため、フォアグラの需給バランスなどに何らかの影響が出るのではないかと懸念されている。
 在ベガスのフォアグラ販売店に話を聞くなど、今後のフォアグラ事情をさぐった。

 日米におけるこのグルメ騒動、太平洋を挟んで何千キロも離れているというのに、どうしたことか、7月1日という日付以外にも偶然すぎる共通点がある。それはどちらも肝臓ということ。

 そんなことはどうでもいいとして、まったく共通していない部分も少なくない。それは、レバ刺しが食中毒のリスクを理由に禁止されたのに対して、フォアグラは動物虐待が理由。
 さらに日本では当局の主導による法制化だが、こちらは動物愛護団体からの圧力。
 それぞれなんともお国柄を反映していて興味深い。庶民的な料理高級食材という部分も大きな違いといってよいだろう。

 レバ刺しの話題は日本に任せるとして、まずはフォアグラが禁止になった経緯から。
 高級フランス料理に欠かせないフォアグラは、大量のエサを強制的に与えて太らせたガチョウやカモなどの脂肪分豊富な肥大化した肝臓だ。
 動物愛護団体などは、この飼育方法が残酷だとし、以前から問題視してきた。

 そしてあのアーノルド・シュワルツネガー前カリフォルニア州知事も動物愛護に賛同し法制化。今回ついにその法律の施行日を迎えた。
(写真は、約1.2kg に肥大したフォアグラを半分にカットした切り身。つまり、この写真の倍のサイズの肝臓が、ガチョウの体内に収まっていたことになる。左側に置かれているカジノチップはサイズを比較するためのもの。いかに大きいかがわかる。)

 ではロサンゼルスやサンフランシスコの住民の多くがガチョウ愛護派なのかというと、そうでもないようだ。 大部分の人たちは鳥の飼育方法などに関心はない。ではなぜ法制化できたのか。

 それは無関心層がフォアグラに縁がないからだ。一般の食品スーパーでは売られていないため、特別な食材を扱う専門店か高級レストランなどに行くしかなく、大多数の大衆は年に一度も食べない。
 結果的に、フォアグラ禁止にあえて強く反対する理由もない
 したがって法制化に至る賛否の争いの構図は、賛成派と反対派の激しい激突というよりも、ごく一部の愛護派が強力なロビー活動を通じて、いつの間にか無関心層を丸め込んでしまったといった感じで、この種の争議はだいたいこのような結末になることが多い。

 つまり、どうでもいいようなことを突っ込み法制化しようとすると、どうでもいいことであるがゆえに無関心層の反論が少なく、突っ込んだ側が勝利する。
 もちろん今回の場合も生産者やレストラン業界、それに富裕層を中心としたグルメ族などからの反発がまったくなかったわけではないが、虐待という挑発的な言葉と動物愛護という錦の前に世論全体が押し切られてしまった格好だ。

 ロサンゼルスはビバリーヒルズやハリウッドなど全米屈指のリッチな街を抱え、そこには映画スターなど富裕層が多く住む
 そして、彼らのダイニングルームとも言われるグルメ街「ラシエネガ通り」には、高級レストランが並び、毎晩セレブな美食家たちが集まる。

 よりによってそんな大消費地を抱えるカリフォルニアでのフォアグラ禁止令。愛護派としては、一番目立つ州での成功に、してやったり、といったところか。
 いずれにせよ、今後となりの都市ラスベガスにも少なからず影響が出て来ることは必至で、それを考察してみることは無駄ではないだろう。

 さっそく、現在そして今後のフォアグラ事情を探るため、特殊な高級食材を扱う「Caviar Baron」「Village Meat & Wine」に話を聞いた。
どちらの店も長年にわたって富裕層から支持を得ている老舗だ。
(写真は Caviar Baron の看板、下の写真が Village Meat & Wine)

 なお残念ながら、現在 Caviar Baron では、キャビアに力を入れており、一時的にフォアグラを扱っていないとのこと。それでも、基本的には Village Meat & Wine と同じような話を聞かせてくれたので、情報収集という意味では協力してもらえた。

 アメリカ産のフォアグラの Village Meat & Wine における小売価格は1ポンド(約453グラム)50ドル前後、フランス産はそれよりもやや高いが、ここ数ヶ月、これら相場に大きな変化は見られないという。
 したがって、まだロサンゼルスからの訪問者による買い占めのような兆候はないようだ。

 とはいってもまだ法律が施行されたばかり。これから影響が出てくる可能性は十分にあるので、相場変動に関しては今後も引き続き注意深く見守る必要があるとのこと。
 ちなみに今回のカリフォルニアでの禁止令は、「州内での生産と販売」が対象。つまり、ラスベガスで購入し自宅に持ち帰って食べることまでは禁じていない。
(ラスベガスからロサンゼルスへ通じる高速15号線の途中に、カリフォルニア州当局による動植物検疫のための検問所があるが、そこでフォアグラが持ち込み禁止の対象になるかどうかは未確認)

 両店から聞いた話を参考にしながら、今後ラスベガス側で起こり得るシナリオを考えてみると、やはりロサンゼルスからの美食家たちがラスベガスを訪問したついでに購入することによる需要増と、カリフォルニア州内での生産がストップすることによる供給減が浮かび上がってくる。
 どちらも需給バランス的には価格上昇の要因となる。が、必ずしもそうなるとは限らないかもしれない。

 なぜなら、そもそもフォアグラ好きはかなりの富裕層で、自分で車を運転しベガスまでやって来て買い物をするような階層ではなく、だからといって付き人をラスベガスに送り込んでまで購入するとは考えにくいからだ。 もし食べたければ、ネットなどによる州外からの「密輸」に頼るはずで、その場合、ラスベガスが供給源になる理由は特に見当たらない。

 またカリフォルニアでの生産ストップに関しても、両店の話によると、以前からアメリカ産の主な仕入先はカリフォルニアではなく東海岸地域とのこと。だとすると影響は限定的になりそうだ。

 ではレストランでの消費はどうか。これは需要としては急増する可能性がかなり高い。今までフォアグラを食べていた者にとって、それを禁止されたら、たまにラスベガスを訪問した際に食べたくなるのは当然だからだ。

 ならばレストランでのフォアグラを使った料理は価格が高騰するのか。実はそう簡単な話でもなさそうだ。
 なぜなら、ラスベガスでは禁止されていないものの、メニューからフォアグラを排除するレストランが今後増えないとも限らないからだ

 世界で最も有名なシェフの一人で、ラスベガスにも複数の店舗を構えるウルフギャング・パック氏は、何年も前から自身の店でフォアグラを出さないと宣言しており、また、このたび改めて各著名高級レストランに対して、動物愛護の精神を大切にするよう、署名入りのレターを送ったりしている。

 習慣や文化など、地理的に近いためか、なにごとにおいてもカリフォルニア(とりわけロサンゼルス)のあとをフォローする傾向にあるラスベガス。動物愛護団体などに嫌われたくないと思うシェフなどがパック氏のあとを追随しないとは限らない。
 もしフォアグラを出す店が減るとなると、ラスベガスでも需要減を招き、価格が下がる要因となる。
 ちなみにまだ判断は早すぎるが、在ベガスの各レストランにおけるフォアグラ料理の価格は、調査した範囲では先月と比べて高騰も下落もしていない。

 以上のように今後のフォアグラ事情は全く読みにくい状況にあるが、勝手な推測をするならば、ラスベガスでもフォアグラを扱わなくなるレストランが多少現れるものの、それほど大きなトレンドにはならないのではないか。
 その最大の理由は、高級店にとってフォアグラ料理は高い価格設定にしやすいドル箱メニューであり、利益を確保するためには必要不可欠な食材だからだ。
 そしてそのフォアグラ料理の売上は、カリフォルニアからの観光客による需要増により確実に増えると予想され、結果的に価格は上昇トレンドに向かうのではないか。

 なお、自宅用の「密輸」に関しては、カリフォルニア州当局がどのようにそれを規制するのかよくわからない部分もあるが、ラスベガス以外の大都市からのネット販売などに頼る可能性が高いと思われる。

 あれやこれや、長らく勝手な推測をしてきたが、それらが全て意味をなさなくなる可能性もないわけではない。今回の禁止令自体が廃止になることもあり得るからだ。
 実際にかつてシカゴで同様なフォアグラ禁止令が出て、のちに撤回された例があるばかりか、最大の生産国フランスが、強く反対し始めている。

 シカゴ市とカリフォルニア州では人口規模的にも食習慣的にも大違いで、フランスの生産者や輸出業者にとって今回の禁止令は無視できない重要案件。そもそもこのカリフォルニアの事態を黙認し放置すれば、それが「アリの一穴」となって他州が追随しないとも限らない。
 フランスにとってそれは死活問題で、早くも WTO(世界貿易機関)の協定違反だ、非関税障壁だ、との声も上がってきている。

 たかがフォアグラ、されどフォアグラ。それにしても動物愛護とえいば、イルカやクジラでお馴染みの過激団体「シーシェパード」が有名だが、今回ばかりは全く存在感がない。
 フォアグラは「シー」ではないから無関係、と言われてしまえばそれまでだが、シーシェパードの場合、「白人社会が生んだ食文化は容認」というスタンスが活動の根底にないか。それは考え過ぎか。

 今後のフォアグラ事情、はたしてどうなることやら。価格の暴騰や、まさかの全面禁止などとなる前に、食べておいたほうが良いかもしれない。
 以下は、現時点におけるラスベガスのストリップ地区で食べることができるフォアグラメニュー。もちろんすべての店を調査したわけではないので、これらはごく一部だ。

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