今週は、いまラスベガスで最もホットなレストラン「ゴードン・ラムゼイ・ステーキ」(Gordon Ramsay Steak)を紹介してみたい。
先月パリスホテル内に鳴り物入りでオープンしたこの店を監修しているのは、店名からも想像が付く通り、もちろんゴードン・ラムゼイ氏。
アメリカではだれもが知る英国出身の名物シェフだ。東京にも店を出しているので日本にもファンが多いと聞く。(下の写真は、同店の広告が施されたパリスホテルの凱旋門)
料理人としての実力とは別に、彼の名を有名にした要因が2つある。
それは、元プロサッカー選手という異色の経歴であること。そしてもうひとつは、短気で気性が荒い独特のキャラクターが視聴者にウケるのか、イギリスやアメリカの料理番組において引っ張りだこで、レギュラー番組を複数かかえているということ。
特に、彼が出演する数ある番組の中でも「Hell’s Kitchen」(日本で放送される際の副題は「地獄の厨房」)と「Ramsay’s Kitchen Nightmares」は、かなりヤラセ気味ではあるものの、放送禁止用語の連発で弟子たちを罵倒しながら料理するという常軌を逸したスタイルが人気で、これら番組を通じた露出度や知名度は、もはやシェフというよりも芸能人に近い。
ただ単に名前が売れているだけの料理人かというと、そうでもなさそうだ。
彼がロンドンに持つ複数の店が、あのミシュランの星を獲得しているので、それなりに実力も伴っていると考えたい。
また今ではニューヨーク、ハリウッド、東京、さらにはフランスやイタリアでも事業を展開。少なくとも地理的範囲という意味では「世界的料理人」と称することに、だれも異論はないだろう。(上の写真はラスベガス店の入口付近の様子)
なお、居住地に関してだが、番組の収録に忙しいのか、同じ英国のサッカー界のスーパースター、デイビッド・ベッカムも近所にいるからか、現在はイギリスではなくロサンゼルスに住んでいるとされている。
ちなみに現在彼が出演している番組の収録はほとんどアメリカでおこなわれており、イギリスではない。
(ラスベガスはロサンゼルスから地理的に近いため、可能な限り多く店に顔を出すとのことだが、今回の取材では残念ながらラムゼイ氏に直接会うことはできなかった)
さてイギリスといえば、イタリアやフランスに比べ、料理文化においてはとかく低く見られがち。
彼の肩書きにイギリスが付きまとう限り、「味のほうは大丈夫か?」と思いたくもなるが、それを心配する必要はなさそうだ。
彼自らの発言として、「自分の料理はジョエル・ロブションやギー・サヴォアの影響を受けている」と地元メディアに語っているからだ。
ちなみにロブション氏もサヴォア氏もフランス料理界の大御所で、両者ともにラスベガスに自身の名を冠した高級店を持っている。
(上の写真は今回の取材時に、料理の前に出されたパン。複数の種類の小さなパンを盛り付けるあたりは、どことなくロブションやギーサヴォアに似ている)
そのロブション氏が和食の影響を強く受けていることは本人自ら認めており、実際に彼がラスベガスを含め世界各地を訪問した際、その地の和食店に立ち寄り日本の食文化を研究していることは広く知られるところ。
したがって、ラムゼイ氏の料理にも和食文化が少なからず取り入れられていることは想像に難くなく、実際に今回オープンしたラスベガス店におけるメニューを見ても、フランス料理やイタリア料理の用語に混ざって、Kobe、Daikon、Kurobuta といった単語が散見される。(カキの種類の Kumamoto が Kumumoto になっていたのは、ご愛嬌といったところか)
たぶん、ロブション氏もラムゼイ氏も東京に店を持っていることは単なる偶然ではなく、和食をリスペクトしているからこその出店に違いない。
(上は今回の取材で試食した “Asparagus Soup”。大きな純白の器に少量だけウエイターが注ぎ込む演出などはロブションやギーサヴォアそのもの。皿の中央のオレンジ色に見えるものはイクラ、そのまわりはカニ。和の影響を受けていることがうかがえる)
そのようなわけで英国人でありながら、料理に関してはフレンチや和食に軸足を置いているので、アンチ英国料理の者でも彼の国籍を特に気にする必要はないだろう。
いろいろ食べてみたわけではないが、少なくともこの店のメニューにおいて、「粗末な英国料理」 を連想させるようなものはないと思われる。
一方、料理以外の部分では、天井がユニオンジャックをデザインしたものになっていたり(写真上)、BGMでローリングストーンズのサティスファクションなどが流れてくるなど、かなり英国が全面に押し出されている感じがした。
なおこれは蛇足になるが、メニューの中に、英国の大衆食の代表格「Fish & Chips」を、かなり高級な位置づけで(看板メニューとして $44)載せているあたりは、ラムゼイ氏の英国人としてのプライドが感じられ好感が持てる。自国文化に誇りを持つことは大切なことだ。
前置きが長くなってしまったが、このたびオープンしたラスベガス店の名称は、冒頭でもふれたとおり Gordon Ramsay Steak。
(写真は店内の様子。赤を貴重としたオープンキッチンスタイルのダイニングルームで2階席もある)
ラムゼイ氏が地元メディアなどに語ったところによると、店名に「ステーキ」を付けたのは、数ある彼の店においても今回が初めてのことで、それは料理の内容というよりも営業戦略的な理由によるものらしい。
第一印象が完全なフレンチになってしまうと、多くのアメリカ人にとっては高級といったイメージが強すぎ、敷居が高くなりがちで、また、アメリカ人はなんといってもステーキが大好き。
日頃から食べ慣れた「ステーキ」が店名に含まれているだけで、未体験の高価な料理に対する当たり外れの不安が軽減し、結果的に入店率が増すようだ。
そんな思惑から店名にあえて「ステーキ」を付けたとのことだが、彼自身の元々のバックグラウンドはステーキではないため、通常のステーキ店に比べると料理の種類が豊富なのが特徴。メニューを見ればすぐに、この店が単なるステーキ店ではないことが読み取れるはずだ。
ステーキという取っ付きやすい名称で敷居を低くしたわりには、料金的な部分では取っ付きにくく、在ラスベガスのステーキハウスの中ではトップクラスの価格設定になっているのも(同じ部位、同じ量のステーキで比較)、この店の特徴といってよいだろう。
ちなみに、この街で最も高級とされるレストランは先ほどから何度も紹介しているロブション(MGMグランド内)とギーサボア(シーザーズパレス内)と言われており、同じヨーロッパ系のカリスマシェフとしてラムゼイ氏もこの二人に対しては尊敬しながらもライバル意識を持っているようで、この店もそれなりの格を維持したいようだ。
「ラスベガスの最高級レストラン御三家」という位置づけにしたいのかもしれない。(上の写真はデザートの Tropical Panna Cotta)
さて、何を食べるべきかについてだが、メニューが多いので迷ってしまう。
ただ、何を食べるにせよ、ドリンク類をオーダーしてしばらくすると、調理前の生肉の状態を披露するためのワゴンが客の前に運ばれてくることだけは覚えておきたい(写真上)。この店がステーキハウスであることを改めて認識させられる場面だ。
その専用スタンドがユニークで興味深い。リング状に作られたスタンドの外周に7つの小さな金属製の皿、そしてそれぞれの皿の上には客が立ち上がらなくても肉の表面を確認できるように円形のミラーが設置され、さらにリングの中央には大型の肉を置くための台。
そのスタンドに合計8つの肉が乗せられ、それぞれ部位の名称や食感などの特徴を、ウェイターがかなり細かく説明してくれる。
他のステーキハウスとの差別化や高級感を出すための工夫と思われるが、これがなかなか面白い演出で、ステーキ好きにとっては興味が尽きないうんちくを聞くことができる。
せっかく説明してくれたので、という感情は抜きに、目の前に高級な肉を並べられると、どうしてもステーキをオーダーしてみたくなってしまうばかりか、この店が「ステーキ」と名乗る限りは、ステーキの内容で実力を評価すべきとも思えるが、塩とコショーだけのシンプルな味付けが主流のアメリカにおけるステーキは、どこの店も差異を見い出しにくいのが現実。
というわけで、あえてステーキ以外をオーダーしてみることにし、シェフの祖国に敬意を評して、他のステーキ店ではあまり見かけない、英国がルーツといわれるユニークな肉料理「Roasted Beef Wellington」(写真上)など、この店独自の料理を中心に、いくつかオーダーしてみた。
結果は、いくつか平凡な料理もあったものの、総じて満足できるレベルのもので、特に「Kurobuta Pork Belly」(写真)は、まるでフォアグラを彷彿させる絶品だった。ただし強烈に脂が乗っているので、その種のモノが嫌いな人は避けたほうがよいだろう。
Wellington 内の肉の質も焼き方も抜群で、次回はストレートにステーキをオーダーしてみたくなるほど、この店の肉のレベルの高さを思い知らされた。
シーフード(写真下)は可もなく不可もなくといったところで、カクテル類はどれも氷が多く、飲める部分が少ないのが難点。
デザート類は盛り付けや色合いが地味で見栄えがしないものが目立ったが、味はまずまず。スープ類は意見が分かれるところか。
いずれにせよ、今回試食した数点だけでこの店を評価するのは早計なので、読者も含めた今後の利用者の意見などを待ちたいところだが、店の雰囲気という部分においては、はっきり言えることがある。それはズバリ、うるさいということ。
とにかくBGMも含めて騒々しい。良くいえば「活気がある」、「明るく楽しい」などとも表現できるが、これだけの料金設定の高級店にしては異色の雰囲気といってよいのではないか。
ちなみに料金は、ボトルワインなどをオーダーしなくても一人 100ドルは軽く超え、場合によっては税金やチップ込みで 200ドル、300ドルいってしまうこともある。
昨今の円高のレートで換算すれば大した金額ではないかもしれないが、ロブションやギーサボアと肩を並べるレベルの店を目指すのであれば、もう少し落ち着いた雰囲気のほうがいいように思えるが、これも好みの問題といったところか。
また、ドリンク類のオーダーにおいて、各テーブルにタブレット端末が置かれ(写真下)、それを通じても注文できるようになっているが、はたしてそんなものが必要か。
ハイテクの導入は時代の先取りとも解釈できるが、高級レストランに伝統的なサービスを求める客層には歓迎されないかもしれない。
最後にきびしいことも書いてしまったが、料理のレベルは非常に高く、まだ食べていないアイテムの中にも絶品が数多く存在していると思われるので、引き続き何度も足を運んでみたい店であることは間違いない。
店の場所は、パリスホテルのカジノフロア内のほぼ中央。ハイリミットセクションのすぐ脇。
営業時間は特に定められていないが、ディナータイムのみの営業。要予約。電話番号やメニューなどは公式サイトで閲覧可能。
なお、このメニュー内に料金が並列に2種類記載されていることがあるが、それは一般料金と、Total Rewards Card 保持者向けの料金。
(Total Rewards Card とは、パリスホテルおよびその系列のホテルが、その顧客のカジノでのプレー実績などに応じて、各種割引や特典、さらにはキャッシュバックなど、さまざまな還元サービスをおこなうために発行しているカードのこと。だれでも無料で取得可能)
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