ラスベガスを代表する無料アトラクションといえば、やはりなんといってもベラージオ・ホテルの噴水ショー。
曲に合わせて演出されるその華麗な動きはもはや芸術的で、多くの観光客の目を釘付けにしている。
そんな圧倒的人気を誇るアトラクションではあるが、意外にも、1998年の開業以来、ほとんど何も変わっていないのも事実。
曲目の大半は過去10年以上、変わることなく演奏され続けており、リピーターなどからはマンネリとの言葉すら聞かれ始めている。
人気があるから変える必要がないのか、それとも改良に対する意欲の欠如か、はたまた予算がないのか、いずれにせよ、何ごとにおいても短期間にコロコロ変わってしまうラスベガスにしては珍しい存在だ。
さてそんな噴水ショーに新たに3曲追加されることが昨年末、同ホテルから発表された。
そしてクリスマス特別バージョン(クリスマスソングによる噴水ショー)が終了した先週から、通常バージョンの時刻表にこれら新曲が正式に組み込まれ、すでに新たなローテーションでの公演が始まっている。
その3曲とは、グレンミラー・オーケストラの「イン・ザ・ムード」、ビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、そしてマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」だ。
それぞれヒットした時期もジャンルも異なっており、幅広いファン層を意識したバランス感覚の良い選曲といってよいだろう。
さて、この噴水ショーでこれまでレギュラー上演されてきた曲の数は 21曲。(クリスマスソングなど季節限定の曲や、短期間で消え去った一時的な曲は除く)
今回の3曲が加わり全部で24曲ということになるわけだが、それぞれ噴水の動きや照明の使い方など微妙に異なり、似た動きはときどき散見されるものの、どれも独創的で個性豊かだ。
噴水そのものだけでなく曲の雰囲気も含めて鑑賞するという意味においては、似たような演出は何一つない。
そうなると、「できるだけたくさん観たい」と思うのが人情というものだが、大多数の人にとって、それはいくらなんでも時間的に無理。
そのようなこともあってか、「どれが一番おすすめか」、「どれを見るべきか」といった質問をときどき受けることになるが、その答えはむずかしい。
なぜなら、だれにとっても、嫌いな曲や知らない曲よりも好きな曲のほうが感動できるはずで、ならば好きな曲を時刻表(このページの下に掲載)の中から探して見に行けばいいことになるが、曲は良くても噴水が貧弱、ということがあるからだ。
その逆も当然あり、曲は知らないが噴水はすごい、という場合もある。
前者の典型は、セリーヌ・ディオンが歌う映画タイタニックのテーマ「My Heart Will Go On」と言えるのではないか。
曲自体は非常に有名で、セリーヌ・ディオンのファンのみならず、多くの人が感動しながら噴水を鑑賞していると思われるが、音楽なしで噴水だけを切り離して考えると、大したことはないというのがもっぱらの評判だ。
曲と噴水は不可分なので分けて考えること自体がナンセンス、との意見もあるだろうが、写真に収めようと頑張ってカメラを構えている者にとっては、噴水の要素だけが重要になってくる。つまり、噴水が豪快に舞い上がるシーンがたくさんないと静止画の撮影には適さず、結局、好きな曲であればいいということにはならない。
その逆、つまり後者の典型は、フランク・シナトラの「Luck Be A Lady」で決まりだろう。
この曲は一般の日本人にはあまり馴染みがないようだが、全24曲中、最も継続時間が長いばかりか、ダイナミックに高く舞い上がる迫力や水量では他を圧倒しており、シャッターチャンスは群を抜いて多い。豪快であればいいというわけではないが、繊細な動きばかりでは物足りないはずだ。
好きな曲を選ぶか、噴水自体を選ぶか、それは悩むところだが、大好きな曲で噴水の内容も良いというのがベストであることはいうまでもない。
そういう意味ではやはり一番人気は「Con Te Partiro」(Time to Say Goodbye)といってよいのではないか。
事実ベラージオホテル側もこの曲をこのアトラクションのテーマ曲としており、アメリカ国歌に続いて毎日最初に演奏するほど、思い入れは強いようだ。
では今回加わった3曲はどうか。結論から先に言うならば、曲と噴水のマッチという意味では断然「In The Mood」だろう。
若い世代でもだれもが一度は耳にしたことがあるはずのこの名曲は、ラスベガスの雰囲気にピッタリ合っているばかりか、噴水の振り付けが実に絶妙で、24曲の中でも「Con Te Partiro」に次ぐ完成度といってよいのではないか。
「Billie Jean」は曲全体の強弱が乏しいこともあり、噴水も単調になりがちで迫力に欠けるが、よく見ていると、水にムーンウォークをやらせているような場面があり、そこだけは見逃さないようにしたい。
また途中で水を機関銃のように軽快にパンパンと打ち上げる場面も独創的でおもしろい。
「Lucy」は、始めと終わりに水面全体にモクモクと煙が広がるのが特徴。
力強い場面が少ない曲ではあるが、けっこう豪快に舞い上がるシーンもあり、曲の印象よりもシャッターチャンスは多いかもしれない。
時刻表と、それぞれの曲のアーティスト名、継続時間、今回の新作3曲以外の特徴などは以下のとおり。
♪ All That Jazz
華麗なトランペットの音色で始まり、その後すぐに軽快なピアノに引き継がれる。前半は総じてスローだが、後半から登場するボーカルに合わせたジャズはダイナミックで、噴水の動きも活気を帯びてくる。水の動きとしてはグニャグニャ系だが、ラスト1分はグニャグニャ系とダイナミック系が融合されたおもしろい演出。そこそこ楽しめるように仕上がっているが、ロマンティックさに欠けるので、カップルが愛をささやくような状況には不向き。
♪ Ayeshe’s Dance
ハチャトリアン作曲の名曲だが、ラスベガスのこの雰囲気にはあまり似合わないように思える。クラシックが悪いとか、弦楽器やオーケストラが似合わないということではなく、この曲自体、盛り上がりに欠け、噴水ショーとしての見せ場がない。最後に一発ドーンと上がる部分以外は、あまりにも単調(なおかつ短調)で、楽しさにも欠ける。ただ、横一直線に噴水が走る場面が非常に多く、シャープな直線的な動きはこの演目の特徴で、その部分においては観ている者を飽きさせない。華麗さもあるので、ロマンティックな気分を味わいたいカップルには悪くないかもしれない。
♪ Hey, Big Spender
これも曲の主旨としては、ラスベガスらしい曲ということになるが、Viva Las Vegas のようなダイナミックさや軽快さはなく、むしろスローテンポ。おもしろおかしく、かつ怪しげでセクシーなメロディーに沿った演出なので、感動的な要素は少ない。独創性は感じられるが、ダイナミックさを期待する者からも、華麗さを期待する者からも支持されないように思える。
♪ Con Te Partiro / Time to Say Goodbye
この噴水ショーのテーマソングで、どの曜日のスケジュールにおいても、この曲が国歌と並び最初に演奏される。エレガントな旋律とシンガーの歌唱力、それに噴水の流れるような動きが絶妙にマッチしているのか、女性からの人気は絶大で、男性が観てもそれなりに感動できる。ロマンティックさでは他の追随を許さず、カップルにとってはこの曲をおいて他にない。ただ、ダイナミックに噴水が舞い上がる豪快なシーンを求める者には物足りなさが残るかもしれない。
♪ Ecstacy of Gold
このエンニオ・モリコーネの傑作は湖面に広がる煙から始まる。神秘的なこの曲の振り付けは、噴水よりも煙やライティングに注目したい。点滅するライトの光が煙に当たって湖面に浮かび上がる光景はまさに幻想的。ダイナミックさには欠けるものの、この曲のイメージや特徴を考えると、十分うまくまとまっているように思える。
♪ Fly Me To The Moon
日本人にもおなじみのシナトラのナンバー。最初は湖面に広がる煙でスタート。どちらかというとエレガントでロマンティックな曲だが、シナトラがうまく軽快に歌い上げていることもあり、噴水の動きが曲のイメージよりもかなりな直線的でダイナミック。そこそこお洒落でゴージャス感も味わえ、カップルが愛をささやく場面にも十分使える可能性あり。
♪ God Bless the USA
湾岸戦争の時に大ヒットしたリー・グリーンウッド作のこの曲は、911テロ事件以降 “第二の国歌” と称されるほど、愛国心を高揚するような場面でよく歌われている。ゆったりしたテンポに反して噴水の動きは終始ダイナミックで、牧歌的イメージが漂うのどかな旋律にもかかわらず、アメリカという国の底力を感じさせる力強い演出が特徴。
♪ Hoe-Down
前半は弦楽器の調べが美しく、噴水の動きは軽やか。後半はオーケストラならではの荘厳な雰囲気の中で突然水面から煙が出てきたり、空高く爆発的に水柱が舞い上がるなど、水の動きは変化に富んでいる。可もなく不可もなくといったところで、万人向き。
♪ Luck Be A Lady
ラスベガスにゆかりのあるフランクシナトラの最も “ラスベガスっぽい歌”。「マイウェイ」や「夜のストレンジャー」とちがい日本人にはあまりなじみがない曲だが、ここラスベガスではエルビスプレスリーの「ビバラスベガス」と並び最も親しまれている曲のひとつ。噴水の豪快さは天下一品で、時間も5分14秒と最も長く、軽快なリズムに合わせて噴出される水の総量はダントツの1位。明るさ、楽しさ、元気さ、三拍子そろっており、ダイナミックな噴水を観たい者にはこれに限る。ただ、この歌を初めて聞く者にとっては少々とっつきにくいメロディーなので、あまり楽しめない可能性あり。
♪ One, Singular Sensation
Hey, Big Spender 同様、少々セクシーな雰囲気が漂う水のダンスが特徴。曲のイメージと噴水の動きがうまくマッチしており非常に愉快な演出ではあるが、遊び心ばかりが目立ち、感動は少ないかも。全体的にくにゃくにゃした動きが多く、最後のフィニッシュの場面でやっと豪快なシーンを見ることが出来る。
♪ Pink Panther
なじみの曲ではあるが、この噴水ショーでの評価はイマイチか。怪しげなムードに合わせた噴水の演出は独創的ではあるものの、華麗さやダイナミックさに欠け感動が少ない。遊び心を楽むようにすれば、それなりに満足できるかも。
♪ Rhapsody on a Theme of Paganini
浅田真央が演技に使ったこともあるラフマニノフの名曲。エレガントでゴージャスな旋律にマッチした光と水の演出は華麗そのもの。上品な中にもしっかりとした力強さが感じられ、その場面で舞い上がる噴水は圧巻。多くの曲が最後に高々と打ち上げる噴水を持って来ているのに対して、この曲は静かに噴水が消えていくように終わる。気品漂う演出はカップルにもお勧め。
♪ Rondine al Nido
パバロッティの力強い歌に合わせた水の動きはどこか重厚感が漂っており一種独特な味わいがある。曲から伝わってくるイタリアンな雰囲気が、アメリカにいることを忘れさせてくれると同時に、ベラージオホテルのテーマがイタリアであることを再認識させられる。そこそこゴージャス感もロマンティック感もあるので、できればカップルで楽しみたい。
♪ Simple Gifts
曲が始まる前に水面に煙が漂い、静かに木管楽器の調べで始まる。前半は美しい旋律で、その後次第に力強い荘厳な旋律に変わる。後半はかなりパワフルで感動的な部分が多いが、せっかく盛り上がったところで曲が終りに近づいてしまうのが少々残念。
♪ Singin’n in the Rain
日本でもおなじみの曲だが、軽く聞き流すタイプの曲のためか、インパクトや感動にやや欠ける。美しい演出ではあるものの、水の動きに主張が感じられず、見せ場や盛り上がりを探すのがむずかしい。ただ、最後の部分がユニークで、曲が終ったあとも水がしばらく噴出し続けるあたりは、テーマの雨をイメージしているようでおもしろい。
♪ Star Spangled Banner
湾岸戦争時の 1991年のスーパーボウル(プロフットボウル NFL の決勝戦)の開会式でホイットニーヒューストンが国歌を斉唱したことを機会に、彼女のバージョンは国歌の定番に。そんな彼女の熱唱が 911テロ事件後、この噴水ショーに採用され、毎日大とりを務めている。米国のナショナリズムに特別な嫌悪感を持っていない者であれば、日本人でもかなり感動できるのではないか。とにかくこれを聞いていると「アメリカに来ているんだ」という気にさせてくれる。また、曲の流れと噴水の動きが絶妙にマッチしており、盛り上がりの部分などは非常に華麗かつダイナミック。なお、この曲だけは毎日出番が決っており、その日の最初と最後に必ず登場することになっている。ちなみに最後は深夜 12時ではないので注意が必要だ。原則としてアトラクションは 12時までとなっているため、この曲は 11:55pm から始まる。
♪ This Kiss
スタート前に幻想的な煙が湖面に広がったかと思うと、それをゆっくり見ている間もなく突然ドカンとダイナミックな噴水で始まる。おなじみのさわやか系の軽快な曲だが、噴水の量はかなりヘビーで重量級。高く舞い上がるシーンも総じて多く、特に後半は水量が増え見応えがある。最後の一発も度肝を抜く迫力。ただ、「観たぁ!」という満足感は得られるが、ゴージャス感から来るような感動は得られないかもしれない。
♪ My Heart Will Go On / Titanic
かの有名な映画タイタニックのテーマソング。最初の1分ほどは煙による演出で噴水は一切無し。途中から出てくる噴水も動きは終始おとなしく哀愁が漂っている。曲のエンディングは再び煙が出てきて、潮が引くように静かに終わる。悲劇を題材とした映画のテーマ音楽らしく、情緒的な描写が多く、派手な演出はほとんどないが、これはこれでよいといった感じ。どんなに噴水の演出がすばらしくても知らない曲ではあまり感動できないというもの。そういう意味では、この曲はだれもが知っている曲なので万人向きと言えるかもしれない。
♪ Viva Las Vegas
エルビスプレスリーが残した数あるヒット曲の中では、比較的日本人にはなじみが薄い曲だが、当地ラスベガスにとっては象徴的なテーマ曲で、これを聞かずしてラスベガスを語ることはできない。軽快で楽しいリズムに合わせた噴水は終始激しく動き回り、ダイナミックさではピカイチ。噴水の高さも十分で迫力満点。圧巻は矢のような細い一直線の一本の噴水が舞い上がるシーンで、この装置での限界の高さに迫っているとか。一方、華麗かつ繊細な演出を期待する者にとってはまるでダメで、特にエレガントな噴水ショーを観ながら愛を語り合おうなどと思っているカップルにはまったく不向き。幸運とエネルギーをもらってカジノに直行したくなるような曲なのでギャンブラーにお勧め。
♪ Winter Games
ピアノの軽快なリズムとダイナミックな水の動きが見事にマッチ。ロマンティックな雰囲気はないものの、スピード感があふれるさわやかなイメージはそれなりに楽しめる。ただ、テンポが速く演奏時間がやや短いので、ゆっくり味わう暇もなくも一気に駆け抜けてしまう感じなのが少々残念。
♪ Your Song
エルトンジョンの歌自体は悪くないが、噴水をデザインした者にセンスがないのか、この演出では歌と動きがあまりマッチしていないように思える。見せ場にも欠け、噴水はほとんどふにゃふにゃした動きばかり。ちなみに、噴水が軽快に横一直線に走る場面と高く舞い上がる場面は歌の後半に一回あるだけ。豪快であればいいというわけではないが、もう少し工夫が欲しい。
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