世界に冠たる目抜き通り「ザ・ストリップ」に面した超一等地に立つ新築のハーモンホテルが、開業することなく爆破解体されることになりそうだ。
同ホテルを所有する MGM Resorts 社が爆破解体の許可を当局に申請したことを、地元各メディアが 16日、一斉に報じた。
解体の理由は施工ミスによる構造上の欠陥。なんともお粗末極まりない話だ。
(上の写真は北東側から8月16日に撮影。下の写真は南東側から。安全に爆破解体するための十分なスペースがあまりないことがうかがえる)
これだけの規模の新築建造物を、まったく利用することなく解体するなどほとんど聞いたことがない。
もちろんまだ当局から最終的な爆破の許可が下りたわけではないので何ともいえないが、実際に解体されるとなると、少なくともラスベガスでは前代未聞の建設不祥事ということになるはずだ。
このビルは、アリア・ホテル、マンダリンオリエンタル・ホテル、高級ショッピングモール・クリスタルズなどが含まれる大型複合施設「シティーセンター」を構成する建物のひとつとして、下半分がハーモンホテル、上半分が高級コンドミニアムという49階建の高層建造物 “Harmon Tower” になる予定で建設が進められたが、2008年8月、23階までの骨格が出来上がった段階で、鉄筋の組み方において施工ミスが発覚。
すでにコンクリートを流し込んでしまった部分も数多く含まれていたことから、そのまま工事を進めた場合の強度などを専門家が調べたところ、耐震基準を満たさないことが判明。
結局、49階まで建設すると下層階の強度が不足するため、上半分のコンドミニアム部分の建設は断念し、当初の予定の約半分の27階建てのハーモンホテルとして開業を目指すことに。
そしてほどなく、家具などの内装はともかく、外観だけはそのサイズでなんとか完成に至った。それが現在の姿だ。
その後、2009年末から翌春にかけて、アリアを始めとするシティーセンターを構成する他の建物は次々と開業することになったが、ハーモンホテルだけは、不況によるホテル業界の冷え込みや、どのように補強工事をすべきかの議論、さらには施工ミスの責任に関して発注側の MGM 社とゼネコンの Perini 社の間で裁判沙汰になるなど、さまざまな問題が重なり、開業はしばらく延期されることに。
その後、開業までの期間、何かに使わないともったいないとのことで、アリアホテルで行われているナイトショーの広告を外壁に貼るなど(写真上)、巨大広告塔として存在感を多少示すことはなんとかできているが、やはり開業しない限り、虚しさだけが漂う無用の長物だ。
そうこうしているうちに、この春、ニュージーランドと日本で相次いで大地震が発生。
その悲惨な光景が全世界に流れたことから、ラスベガスでも耐震性に対する関心は高まるばかりで、効果に不安が残る補強工事よりも、以前から選択肢の中の一つとして存在していた爆破解体論が一気に浮上。
ちなみに、意外と知られていないことだが、ラスベガスがあるネバダ州は、全米50州の中で、カリフォルニア州とアラスカ州に次ぐ全米第三位の地震多発州だ。
アメリカ地質調査所 USGS のサイト https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/map/(マグニチュード1の弱小地震から巨大地震まで、世界中の地震を地図上にほぼリアルタイムで表示する非常に有益なサイト)を見れば、その事実は容易にわかる。
といっても、その2州が飛び抜けて多いだけで、ネバダ州以下の48州で有感地震が発生することはほとんどない。
ちなみにラスベガスの住民としての体感的な地震の頻度は、日本でいうところの震度1か2程度の小さな地震が数年に一度あるかないかといったところではないか。
(マグニチュードは公表されるが、アメリカには震度という尺度はないので、USGSのデータから有感地震の数を調べることは容易ではない)
それでも千年、万年のタイムスパンで考えれば、かなり大きな地震が発生していることは専門家の一致した意見で、ラスベガスの建築業界も、より厳しい耐震設計など、日頃から地震に備えておいて損はないだろう。
そんな背景もあってか、このたび MGM 社はついに爆破解体の道を選んだ。
技術的な問題から営業的な戦略、さらには保険会社などを通じての補償問題から裁判の成り行きまで、さまざまな要因を総合的に考えての結論と思われるが、とりあえず安全という大義を優先させたことに対しては、潔い英断として評価してよいのではないか。
あとは当局からの許可待ちということになるわけだが、MGM 社側は、緩衝スペースがほとんど無くても、近隣に迷惑がかからないように爆破解体することは可能としている。
それでも距離的に近いクリスタルズとコスモポリタンの一部の施設の一時的な閉鎖は避けて通れないところで、また爆破後のがれきの撤去に相当な時間を要したり、さらには作業車両による交通渋滞や粉塵問題など、周囲にまったく迷惑をかけずに現場を更地にすることは不可能なはずだ。
当然のことながら、現場周辺施設を利用する一般の観光客にとっても何らかの不便を強いられることになるだろう。
ほんのちょっとした手違いから発生した施工ミス。それが莫大な建設費と長い歳月を無駄にすることになり、さらにこれからも不便を強いられるというなんとも馬鹿げた結末になってしまったが、せめて跡地で新たに計画されるプロジェクトぐらいはだれもが喜べる施設を造ってビジネス的にも大成功してもらいたいものだ。
そうでなければハーモンホテルが浮かばれないし、実際に工事中に命を落とした作業員6人(シティーセンター全体における事故死者)も浮かばれない。