シーザーズパレスの前庭で始まった屋外テント型のサーカス公演「アブサン」(Absinthe)がおもしろい。(下の写真は同ホテルの前庭)
ちなみにアブサンとは、黄緑色で水を加えると白濁する超高濃度アルコールの薬草系リキュールで、かつてヨーロッパでは中毒者が続出するほど社会問題となった禁断の酒。
ラスベガスに数あるナイトショーの中でも極めて特異なこのアブサン。ショーそのものも非常に奇抜だが、まず最初に会場についてふれておかないわけにはいかない。
サーカスにおいて屋外テントは決して珍しいものではないが、この会場は知る人ぞ知るスピーゲルテント (Spiegeltent)だ。(下の写真はその内部)
100年以上も前にベルギーで生まれた興行用テントで、今では全世界に数えるほどしか存在していないという。
美しい装飾が施された木製の構造材と、その間に無数に組み込まれたステンドグラスや鏡など、非常に手の込んだ芸術的な造りになっている一方で、町から町へと移動の必要があったため、短時間で組み立や解体ができるような工夫もなされている。
まさにデザインへのこだわりと機能性を両立させた芸術的かつ実用的な施設で、当時のヨーロッパの華やかな興行文化を垣間見ることができる。
ちなみに今回設置された施設においては、外側からは、入口付近に設けられた構造物が邪魔をして全体を見渡しにくいが、ガッカリすることはない。(写真内の赤と青のテントは会場とは無関係。スピーゲルテントはこの写真の右側に隠れている)
スピーゲルテントの見どころは内部にあるので、会場内に入ったらすぐに窓や天井、そして一番外側にあるブース席のデザインなどを観察するとよいだろう。ヨーロッパの伝統が随所に見られると同時に、100年前にタイムスリップしたような雰囲気を味わえるはずだ。
スピーゲルテント自体もすばらしいが、その中央に設けられた円形のステージもこれまたすごい。
なんと直径が9フィートというから驚きだ。直径3メートルにも満たないその狭いステージで、激しい動きのあるアクロバットや曲芸などさまざまな出し物が披露される。
ちなみに最前列の客席は、ステージの端から1メートルしか離れていない。役者たちの汗が飛んで来るほどの至近距離で迫力満点だ。
さて、ショーの内容についてだが、やっていること自体はサーカスやアクロバットのたぐいと考えてなんら間違いではない。
しかしコンセプトは一般的なサーカスとは大きく異なっており、地元メディアの言葉を借りるなら、バーレスクに近いサーカスということになる。(バーレスクの意味などに関しては、この週刊ラスベガスニュースの735号に掲載)
つまり、サーカスといえば子連れファミリー向けというのが通り相場だが、このアブサンでは子供はまったくお呼びではなく、完全なアダルトショーだ。その証拠に年齢制限があり、18歳未満は入場できない。
サーカスとアダルト。接点などないようにも思えるが、その両者を強引に結びつけたところがこのショーの真骨頂で、結果的にそれが会場内をコミカルな雰囲気に包み込むことに成功している。
シルクドソレイユのズーマニティーも似たようなコンセプトと言えなくもないが、こちらのほうがはるかにくだけていて面白い。
このショーのコンセプトを簡単にいってしまえば、「オトナのちょいワル」といったところか。たとえば上の写真のように、男女がまじめに空中アクロバットを演じていたかと思うと、下の写真のように突然怪しげな絡みのシーンになってしまう。またこれとは別に、意表をつくタイミングで衣服を脱ぎ、尻などを出してしまう役者もいたりする。
男性二人組によるアクロバットなどは必ずしもバーレスク的な要素は含まれていないが、それでも笑いを誘う部分が織り込まれているところなどは、なんともこのショーらしい凝った演出だ。
日本人にとっては理解しづらい早口の英語によるトークの部分もある。これがまたかなりあぶない内容で、人種のことや下ネタなど、いわゆる放送禁止用語も飛び出し場内は大爆笑に。雰囲気だけでも十分に楽しめるので、英語が苦手なことを理由にこのショーを見ることをためらう必要は全くないだろう。
あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので、あとひとつだけ紹介しておくと、大きな半透明の風船を持ったセクシーな美女が登場する。その美女は少しずつ衣装を脱ぎ、いつのまにか風船の中に入ってしまう(写真)。
最後にどうなるかは見てのお楽しみだが、これなどはセクシーな要素と笑いをうまく融合させたいかにもこのショーらしい印象深い演出だ。
スピーゲルテントが設置されている場所の一角は、日本でいうところの明治村とか昭和村といった感じのレトログッズや骨董品などが並べられた広場になっている。
自由に使用可能な昔ながらの遊び道具が置いてあったり、ビアガーデンも併設されているなど、アブサンのチケットを持っていなくてもアクセス可能なので、ぜひ足を運んでみるとよいだろう。写真のようなちょいワル系のオトナに遭遇できるはずだ。
会場の場所は冒頭で触れたとおりシーザーズパレスの前庭だが、スピーゲルテントが設置されている場所は、前庭の南端。
つまりベラージオホテル寄りの位置で、行き方としては、ベラージオホテルから歩道橋を渡って降りてすぐ左側。フラミンゴホテルから歩道橋を渡っても近い。
公演は、休演日の月曜日を除く毎日 7:30pm。火、木、金、土は 9:30pm の部もある。正味1時間20分。
チケット売り場は広場に入るところの手前に専用ブースがあるのですぐにわかる。
料金は 66ドルの一般席と、99ドルのVIP席。VIP席は会場内の外周部分にあるブース席で、ステージからむしろ遠い。したがって一般席で十分だが、自由席なので、早めに現場に行って列のなるべく前の方に並ぶようにしたい。
狭いテント内の円形劇場なので特に悪い席はないが、最前列を選ばないならば(迫力はあるが、近すぎるため空中アクロバットなどの時には首が疲れる)、一段高くなっている5列目以降の席が見やすい。
なおこのショーは、99ドルで48時間見放題の「ALL STAGE PASS」(詳細はバックナンバー717号に掲載。ただし現在は指定ショーの一部が変更されている)にアブサンが含まれているので、それを利用してみるのもよいだろう。
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