昨年秋に日本のゼネコン大手、大林組が技術の粋を集めて完成させたフーバーダム・バイパスブリッジ。 険しい渓谷に架かる雄大なアーチ橋で、フーバーダムとセットになった新たな観光名所として注目されている。(上の写真は、完成したばかりのブリッジを眺める大林組のスタッフ)
橋そのものに関しては、開通式直前の現地取材レポートとしてこのコーナー(バックナンバー711号)で取り上げたが、開通後の様子はまだ報告していなかった。
その後、「橋を見ることができなかった」、「橋を歩いて渡る方法がわからなかった」 などのメールが寄せられるなど、観光客にとって現場の案内標識がわかりにくいことが判明。そこで今回このブリッジへのアクセス方法(レンタカー利用)を徹底検証してみた。
困っているのは、なにも日本からの観光客に限ったことではない。地元民ですら勘違いする者が多く、案内標識の不備などがすでに各方面で指摘されている。
アクセス方法がわかりにくい最大の理由は「車両でこの橋を渡ること」と「歩行者として渡ること」は、まったく独立した別の行動が求められ、現場の道や駐車場もその前提で設計されており、また、それに関する案内標識も非常に不親切になっているからだ。
つまり、多くの人は、「車で橋を渡るついでに、橋の手前の駐車場などに車を置き、歩いても渡れるようになっているのだろう」と考えているようだが、実際はそうではない。徒歩で渡る場合の駐車場へは、まったく異なるルートでのアクセスが求められる。
混乱を大きくしている理由はそれだけではない。国道93号線を車両で道なりに進むと自動的に橋に進入することになるわけだが、渡っていることに気づきにくいばかりか、下界のフーバーダムもまったく見えないため、距離感を把握していない多くの旅行者は、その先に橋やフーバーダムが出てくるものと勘違いし、そのまましばらく走り続け、いつのまにか、はるか先まで行ってしまう。
さらに悪いことに、通過した後の道は、中央分離帯付きの荒野の中の一本道で Uターンがむずかしく、アメリカの運転に慣れていない者には戻る方法がわかりにくい。
うまくどこかで93号線を降りて戻ることができたとしても、結局また橋もフーバーダムも見ることができない。(上の写真は、橋を通り越してしまったあと最初に現れる出口)
なぜそんなことになっているのか。それは脇見運転防止のため下界の景色が見えないようにコンクリート製の高いフェンスが車道の両側に設置されているからだ。
(写真はブリッジを渡り終える直前。ブリッジ部分だけ、フェンスが高いことがわかる)
まったくすき間がないフェンスのため下界の景色はおろか水平方向の景色もほとんど見えず、また、このアーチ橋は路面より上方に支柱などの構造物がないため、意識していないと橋を通過していることにすら気づきにくい。
もちろんなんとなく橋の上を走行しているような感じは伝わってくるが、想像しているあの美しいアーチ橋とは似ても似つかぬ殺風景な光景なので、無名の小さな橋を渡っているものと勘違いしてしまいがちだ。
ということで、道なりに黙って走っていれば、何も気づかないうちに自動的に橋を渡ることができるわけだが、それでは何も見ることができず、面白くもなんともない。
(地図内の赤い線、つまり新しくできたバイパスおよびその延長線上にあるブリッジを車で走っている限り、フーバーダムなど景色を見ることができないばかりか、駐停車禁止なので車を降りてブリッジを徒歩で渡ることもできない)
ではどうすればいいのか。目印は、ダムやブリッジの4kmほど手前にある「ハシエンダ」という小さなカジノホテル(このホテルの名称は近日中に変わる可能性あり)と、その向かい側にあるガソリンスタンドだ。何もない荒野の道にポツリと現れるので、この両方を見落とすことなどまずあり得ない。
このハシエンダかガソリンスタンドが現れたら、その約200メートル先が要注意の分岐点だ。
そこにはとりあえず「Hoover Dam」という案内標識が本線ではない右方向を指し示す形で立っているが、それがダムそのもののことなのか、ブリッジから眺めるダムのことなのかわかりにくい。
仮にダムだと想像できてもブリッジはどっちに行けばいいのか示されていない。
そもそも大部分の観光客は、ダムとブリッジの位置関係も、歩行者と車両でちがうアクセスが求められることもまったく知らないわけで、この標識はどう考えても不親切だ。
それはともかく、その分岐点を道なりに進むとそのままブリッジに向かうバイパスに進入してしまうので、そこを右側に降りていくような形で細い側道に入る。
すぐに行き止まりになるので、左折する形でバイパスをくぐり、そして今度はすぐに右折。
それでやっとブリッジやバイパスが完成する前から存在していた旧道に入ったことになるので、あとはそのまま進めばよい。すぐに検問所(写真下)に出くわす。
その検問所は、フーバーダムは経済的にも政治的にも非常に重要な意味を持つ歴史的建造物となっているため、テロリストに狙われやすいということで、2001年の911同時多発テロ事件直後に設置されたものだ。
ここ数年は、少なくとも小型車両に対しては検査が行われることはほとんどなく、形式的な存在となっていたが、ビンラディン騒動が原因なのか、最近また1台1台車内を目視検査するようになってきた。
といっても、よほど不審な荷物を持っていない限り、中身の検査を受けるようなことはまずないので特に気にする必要はない。
その検問所を過ぎてすぐに右手に見えてくるのが、橋を徒歩で渡る人のための駐車場だ。今後有料になる可能性もあるが、とりあえず今は無料で利用できる。
そこで車を降りて、橋に向かうわけだが、橋は駐車場よりもかなり高い位置にあるため、小高い丘を登らなければならない(写真内の右上に白っぽく見えるのが橋の入口)。
ちなみに階段の数は69段。ジグザグになった車椅子用のスロープも用意されているが、どちらを使うにせよ、日ごろカラダを動かしていない人にとってはちょっとした運動になる。
登り切ったらそこはもう目的のフーバーダム・バイパス・ブリッジ、正式名称「Mike O’Callagham – Pat Tillman Memorial Bridge」だ。
Mike が元ネバダ州知事の名前、Pat がアフガニスタンで戦死した元アリゾナ・カージナルスのプロフットボール選手の名前。
2つの州名がかかわっていることから想像できる通り、この橋の手前半分がネバダ州、向こう半分がアリゾナ州で、橋のほぼ中央付近には州境を示すプレートが埋め込まれている。
車両も歩行者も通行料を取られたりすることはないので、現場に管理者などはいない。ゲートなどがあるわけでもなく、勝手に渡り始めてよい。
橋幅の振り分けは、進入方向に対して左側から歩行者専用通路、アリゾナ方面からネバダ側に向って来る車道2車線、アリゾナ方面に向かう車道2車線で終わり。つまり、歩行者用の通路は片側にしかない。
また、その通路と車道を分ける部分にはコンクリート製の高いフェンスがあるので、進行方向に向かって右側の景色は常にまったく見えないことになる。
一方、歩行者用通路の左側は普通の手すりになっているので、フーバーダムを始めとする絶景を楽しめるようになっている。
ただ、下界のコロラド川から足元までは、東京新宿の高層ビル群の中で一番高い東京都庁ビル(243m)よりも高い 262m もあるため、高所恐怖症の者にとっては景色どころではないかもしれない。
またここは下界が無風でも、ほとんど常に強風が吹き荒れており、手すりの高さが約130cmしかないのが少々気になる。
とりあえず普通のおとなの胸ぐらいまではあるので、十分な高さであることは頭でわかるが、突風が吹いたりした際はどことなくこわい。
橋の長さは測定範囲をどこにするかで変わってくるが、おおむね600m。アリゾナ州側の終点まで歩いても何も無いので、景色的にも時間的にも体力的にも、中央付近の州境まで歩けばそれで十分だろう。
途中、歩道の手すり部分に「大林組が建設した」という記念プレートがあるので(もちろん英語)そこで記念撮影をするとよい。
なお、歩くのが疲れたからといって、小さな子供を肩車したりすることは厳禁だ。風が穏やかでも瞬間的に突風が吹くことがあるので危険極まりない。
帽子やカメラが飛ばされないように注意する必要もある。夏場以外は風が冷たい場合もあるので寒さ対策も忘れてはならない。
売店のようなものは一切ないが、トイレだけは駐車場にある。駐車場の門が開いている時間は明確には決められていないが、日の出から日没までで、夜間は閉鎖されると現場に記載されている。
帰路はそのまま来た道を戻れば道に迷うことはないだろう。
もし、せっかくなので車でも渡ってみたいという場合は、ハシエンダ付近の分岐点まで戻り、バイパスに進入すればよい。
ただし前述の通り、橋上の車道からは何も見えない。もちろん駐停車禁止であることは言うまでもない。
橋を渡ったら、1500m ほど走ると Kingman Wash Access Road という降り口が出てくるので、そこで降りて反対車線に入れば帰路につくことができる。
その降り口を見落としたりするとやっかいなことになるので (しばらく降り口がない)、注意が必要だ。
ラスベガスのホテル街からの所要時間は片道小1時間、ブリッジの散歩も含めて全行程約3時間の旅ということになる。ハシエンダホテルまでの道順は、ネットの地図などで調べれば簡単にわかるはずだ。