今週はラスベガスを訪れる観光客にとってはあまり関係のない経済ニュース的な話題を取り上げてみたい。
つい最近、経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、全米各地のショッピングモールの苦境を報じた。
店を閉じるテナントがあとを絶たず空室率が急上昇。それに伴い不動産価値が数年前と比べて約4分の1以下にまで下がってしまったモールも少なくないというからその急変ぶりには驚くばかりだ。閉鎖に追い込まれたモールもあるらしい。
ちなみにここで言うショッピングモールとは、半世紀ほど前の消費ブームの時代に全米各地に続々と誕生した大規模の商業施設のことで、30年ほど前から姿を見せ始めたアウトレットモールとは少々形態が異なっている。
そんなニュースを聞かされると我が街のモールも気になってくるので、かつてよく利用していた地元のモール「Boulevard Mall」へ久しぶりに足を運んでみた。
10年ぶりくらいだろうか。駐車場には往年の活気がないことに気づく。不安を感じながら恐る恐る施設内に入ると、すぐに当地ラスベガスも例外ではないことがわかった。とにかく寂れている。
現場の話を続ける前に、そもそもショッピングモールとはどのような形態の商業施設なのか。
アウトレットモールは日本にもほぼ同じ形態のものがたくさん存在しているので今さら説明するまでもないが、ショッピングモールに関しては日本のそれとは似て非なるものがあるので少々説明が必要だろう。
アメリカのショッピングモールには必ずと言ってもよいほどアンカーテナント(中核となる大規模店)が存在する。
多くの場合、いわゆる百貨店がその役目を果たしており、その数は3~6店ほど。(土地に余裕があるためか、アメリカの百貨店は日本とは異なり2階もしくは3階程度の低層の建造物に入居。取扱商品も日本とは微妙に異なっている)
そしてそれら百貨店が適度の距離を保ちながら配置され、各百貨店をつなぐような形で50~200程度の小売店が軒を並べているというのが一般的なショッピングモールの形態だ。
ちなみにアウトレットモールにはアンカーテナントと呼べるほどの突出した大型テナントは存在しない。存在していたとしても百貨店ではないのが普通だ。
そんな重要な役目を果たしている百貨店が近年まったく元気がない。
具体名を挙げるならば、シアーズ と JCペニー が往年の2大巨頭で、その他にメイシーズ、ノードストローム、ディラーズ、ニーマン・マーカス、ブルーミングデールズ、サックス・フィフス・アベニュー、マービンズ(ここは百貨店というよりも雑貨店に近いかも)などもあったが、どこも極度の経営難か、もしくはすでに倒産などで姿を消している。
集客という役目を果たさなければならないアンカーテナントに元気がなければショッピングモール全体も寂れてくるのは当然の成り行きで、百貨店の不振からの悪影響は計り知れない。
一般の小売店ばかりか、百貨店そのものも閉店という悪循環が続くと、モールの所有企業としては百貨店が出て行ったあとの巨大スペースを埋めるための努力を迫られる。
実際に多くのモールが「アンカーテナントの脱百貨店」を目指すことになり、当地のモールも例外ではないようだ。
すでに10年近く前から始まっている動きではあるが、カジノホテルが軒を並べるホテル街の巨大モール「Fashion Show」では、かつてブルーミングデールズが存在していた広いスペースにスポーツ用品の大型店「DICK’S」を誘致、郊外にある「Galleria Mall」でも同様に DICK’S を、そして同じくベガス郊外の「Meadows Mall」では日本企業のラウンドワン(ボウリング場など)を呼び込んでいる。
まだ生き延びている百貨店の多くも経営難であることを考えると、今後さらに脱百貨店の動きは加速しそうだ。
さて本題というか話を久しぶりに訪れた Boulevard Mall に戻すと、現場では驚きの脱百貨店が起こっていた。
かつて一斉を風靡していた4つの百貨店、シアーズ、JCペニー、メイシーズ、ディラーズのすべてが消え去っており、JCペニーがあった場所に新たに出現したのはメキシコの商店街をテーマにした「El Mercado」だった。(他の百貨店の跡地は小売業とは無関係の組織などが入居)
この El Mercado、3年前に出現したとのことだが、長らく足を運んでいなかったこともあり、恥ずかしながら今までその存在にまったく気が付かなかった。
El Mercado は非常に小さなサイズのスペースを個人商店などに貸し出す方式で一つの商店街として形成されており、店舗数は約200。
もちろん屋内施設ではあるが、まるで露天商が集まったメキシコの市場のような雰囲気が醸し出されており、演出としてはそれなりにうまくいっているようにも見受けられる。
ただ、斬新なアイデアとして興味深い試みではあるが、果たして往年の百貨店のような集客パワーを発揮できるのかどうか。まだ1回しか訪れていないのでそれは何とも言えない。
ちなみに家賃は1ブースにつき月額800ドルとのこと。ほとんどの店は低価格帯の雑貨を取り扱っているので、この家賃でやっていけるのか大いに気になるところだ。
さて長々といろいろ書いてきたが、残念ながら百貨店もモールも企業努力だけでかつての隆盛を取り戻せるようには思えない。
ここ十数年の長期的な不振の原因はアマゾンなどのEコマースの出現にあることは言うまでもないが、他にも新型コロナ以降のライフスタイルの変化など社会全体の根本的な構造変化もありそうで、今すぐに百貨店もモールも全米から完全に消え去るとは思えないものの、少なくともいわゆる構造不況業種であることはまちがいないだろう。このまま何もしなければ遅かれ早かれひたすら衰退の道を歩むことになると思われる。
というわけでアメリカ旅行のついでにショッピングを楽しみたいと思っても、従来型のモールに行ってもガッカリさせられる可能性が高い。
どうせ行くなら活況を呈している COSTCO や、それなりに人気を維持しているアウトレットモールに行ったほうが良さそうだが、両方とも日本に存在しているのが悩ましいところで、特にアウトレットの場合、価格的に現在のドル円レートだと日本のほうが安かったりする。もはや従来のようなショッピングは楽しめないのかもしれない。
最後に、日本にはイオンモールなどに代表されるスーパーマーケットや飲食店を中心としたモールはあっても、アメリカ型のショッピングモールがないのは幸いだが、百貨店そのものはアメリカ同様、前途が心配される業種である。すでに食品部門、いわゆる「デパ地下」以外には客がほとんど入っていないと聞く。
アメリカの百貨店にデパ地下のようなセクションがあったら現在のような経営不振に陥っていなかったかもしれないといったタラレバ的な話はともかく、デパ地下だけで日本の百貨店が今後も生き残れるとは限らないので業界関係者の新たな戦略に期待したところだ。
と書いているところにパソコンの画面から「新宿の伊勢丹本店、業績大幅アップで売上高過去最高」との日本のニュースサイトの記事が目に飛び込んできた。このご時世、何をどうやったら業績アップにつながったのか興味が尽きない。