ラスベガスのステージで活躍する日本人パフォーマーの数は意外にも多い。実際にシルク・ドゥ・ソレイユの8つのショーでは 20人近くの日本人が活躍しており、宣伝力のある露出度の高い大規模なショーのためか、日本のメディアで取り上げられる機会も多く、彼らの中には知名度が高いパフォーマーも少なくない。
しかし、あまりメディアでも取り上げられない小さなステージで頑張っている日本人がいることも忘れてはならない。
今週は、そんなパフォーマーにもスポットを当てるべく、プラネットハリウッド・ホテルに隣接するシアターでのナイトショー「V – The Ultimate Variety Show」でラートを演じている吉川泰昭(よしかわ・やすあき)さんに話を聞いた。
【LV大全 】
すばらしい演技、お疲れ様でした。実際にこうしてお会いして拝見するよりも、ステージ上ではかなりお若く見えましたよ、20代後半ぐらいに。
失礼ですが、今おいくつですか。読者も知りたいことでしょうから、ご経歴など簡単なプロフィールも含めてお聞かせいただければ幸いです。
【 吉川 】
えっ、今 39歳ですが、そんなに若く見えましたか。演技前に軽く化粧して、シワを隠しているからかもしれませんね(笑)。
生まれは奈良県で、大学は沖縄でした。そこでマングローブ関連の動植物の研究をしていたんですが、偶然に出会ったラートの第一人者の演技に惚れ込み、大学の勉強そっちのけでラートにハマってしまいました。ついでにシルホイールにも。
その後は、自分で申し上げるのも恥ずかしいですが、2003年に世界選手権個人銅メダル、2001年から 2006年の間に全日本ラート選手権の個人の部で5回優勝させていただき、2011年には全米ラート選手権と、全米シルホイール選手権の両方で個人タイトルを取ることができました。近年では、「Absinthe」の姉妹の世界ツアーショー「EMPIRE」、そしてラスベガスでマッスルミュージカルに出させていただいていました。現在のショーは今年の4月からです。
【LV大全 】
世界選手権個人3位、日米で優勝とは、すごいご経歴ですね。あ、そういえば思い出しましたよ、何年か前にマッスルミュージカルでラートの演技を見たことを。そのとき初めてラートという言葉を知ったので、よく覚えています。あの演技、吉川さんだったんですね。
知らない人が多いと思いますので、ラートやシルホイールについて簡単に説明していただけますか。
【 吉川 】
写真からおわかりいただける通り、ラートは2つの金属製の輪を平行につないだもので、シルホイールはその輪が一つのものです。
ラートは 90年ぐらい前にドイツで生まれ歴史が長いですが、シルホイールはカナダ人のダニエル・シルさんが近年になって考案したもので、その歴史はまだ 20年ぐらいでしょうか。
両者は似たものではありますが、技術的には微妙に異なるテクニックが要求され、両方をやっているパフォーマーは意外と少ないように思います。
【LV大全 】
サイズ、幅、重量などに制限のような規則みたいなものがあるんですか。
【 吉川 】
競技会などでは、国際基準で決められた、協会が用意したラートを使用しなければ出場できません。直径は 5cm 刻みで、身長プラス 35cm から 45cm のものを使用します。
一方、競技会以外では基本的に自由です。それでも自分で設計して作ったラートを使用している人は、世界に数名しかいません。僕の場合、狭いステージでパフォーマンスするために特化したものを自分で設計しました。ですので世界で一つしかありません。
一般の人は、丈夫で長持ちするということで、ドイツ製の規定のものを使っている人が多いと思います。
【LV大全 】
ご自身で設計ということは日本から持って来られたんだと思いますが、こんな大きなものをどうやって運んできたんですか。
【 吉川 】
ラートやシルホイールの運搬は、空港の通路や搭乗ゲートを転がしながら機内に持ち込むんです。飛行機のドアの高さが低い場合、よくトラブりますよ、というのは冗談で(笑)、ネジで簡単に4つに分解できますので普通に預け荷物として運べます。
【LV大全 】
ラートってやったことがない人にとっては、簡単なのかむずかしいのか想像しにくいんですが、危険なスポーツっぽいですよね。手を離しちゃって、頭から落ちちゃうとか、特にシルホイールはリング以外に持つところがないので、指を床に挟んだりしそうですが、そのへんはどうなんでしょうか。
【 吉川 】
ラートもシルホイールも日常生活では体感できない不思議な動きという意味ではむずかしいとも言えますが、しっかりと補助がつけば、だれでも回れます。こんど体験されますか、僕が補助させていただきますよ。
ちなみに、この世界では、指を挟むことを「ラートからのギフト」って呼んだりします(笑)。指の1本や2本、挟んで痛い思いをしないと、どうやってその事故を防げるかを真剣に考えないので、ラートからのギフトは上達のための近道ということなんです。
【LV大全 】
もはや完全なスポーツっていう感じですが、オリンピックの競技種目として採用される可能性とかは無いんですか。
【 吉川 】
オリンピック種目になれるように国際ラート連盟も普及活動をしておりますが、まだまだオリンピックの基準に達していないため、むずかしいのが現状です。そのためにも少しでも多く回り続けて、みなさんに知っていただかなければと思っております。
現在競技として広く定着しているのは、ドイツ、オランダ、スイス、オーストリア、ノルウェーなどで、総じて、ヨーロッパの国々で人気です。最近では、アメリカ、カナダが盛んになってきています。ちなみに日本は現在1、2を争う強豪国です。
そのようなわけですので、もっと多くの国々や人たちに広めたいと思っているところですが、大全の記事の中で個人的に宣伝してもよろしいでしょうか。
【LV大全 】
この記事自体がすでに少なからずラートやシルホイールの認知度を高める宣伝になると思うんですが、何か他にも宣伝されたいんでしょうか。
【 吉川 】
実は僕、ラートやシルホイールを販売しているんです(笑)。ラートには、規定の重さや太さがありますので、その範囲内で忠実に日本の技術を最大限に生かして作っております。
色には規定がありませんので、そこに着目して、色をカスタマイズできるようにもしてあります。
また、実はシルホイールには規定がありません。ですので世界選手権に出場した際に、素材の違いや、重さや強度、太さなど、いろいろ違ったたくさんのホイールを触ることができました。その中で、女性に適したもの、初心者に適したもの、プロを目指す人に適したもの、いろいろな特徴がわかったんです。
そんな経験を元に、日本の試作会社と話し合い、それぞれに合った3種類のシルホイールを開発させていただきました。
これから始める人にとって、より安全に、そして長持ちし、そして回りやすいホイールになっております。値段は 9万円から 13万円です。とても安いでしょ(笑)。
僕が今、日本の試作会社と提携して企画しているものは、鉄製ですが、一般品よりも薄い鉄を使うことで、アルミ製の軽さと耐久性を両立させています。
もし僕の製品に興味がある人は、ショーを観に来ていただいた際、公演終了後にパフォーマー全員で劇場の出口に立ってあいさつしますので、そのときに声をかけていただければ幸いです。
【LV大全 】
いいですね、パフォーマーと製造販売の両立。
ところで、ラートやシルホイールがスポーツとなると、いくら大会で優勝するレベルに達しているとはいえ、日々の練習は欠かせないと思うんですが、ご自宅では狭すぎて、練習なんてできないですよね。どこで練習されるんですか。
おっと失礼、まだご自宅におじゃまさせて頂いたこともないのに勝手に狭いと決めつけちゃって(笑)。
【 吉川 】
芸人は人に知られてなんぼの世界ですから、交通の妨げにならないよう、公道で練習してます、深夜のストリップ大通りとか、というのは冗談で(笑)、パフォーマー用の有料の練習施設があって、そこを利用しています。ショービジネスが盛んなラスベガスならではといった感じで、いろいろな種類のパフォーマーたちが集まる場所なのでおもしろいところですよ。よろしかったら、こんど見学にいらしてください。
【LV大全 】
ありがとうございます。あ、狭いといえば、楽屋も狭いですが(笑)、今回の V Show のステージ、マッスルミュージカルのときと比べて、すごく狭いですよね。
マッスルのときは、ステージの端から端まで使ってのびのびと演技されていた記憶があるんですが、今回のステージはスペースがなくて、気の毒に思っちゃいました。やりたいことが出来ずにフラストレーションが溜まっているんじゃないですか。(上の写真は、楽屋で準備をする吉川さん)
【 吉川 】
たしかに、もっと広いといろんな技を入れることができますし、狭いとコントロール能力がとても必要になってむずかしいのですが、逆にとてもやりがいがあります。客席とステージまでの距離が近いため、お客さんの表情もよく見えますし。その表情を見て、僕も一緒に楽しみながらお客さんと会話しているように演技させていただいております。狭い劇場は、お客さんとその時間と空間を共有して、一緒に楽しむことができるという良さがあります。
【LV大全 】
そうなんですね、今の会場が嫌いじゃなくて安心しました(笑)。
ところで、V Show って、週7日公演があって、休みの曜日が全然ないようですが、これって珍しいですよね。パフォーマーの方たちは毎週一度も休まずにステージに立っているんですか。
【 吉川 】
いや、そんなことはないです、ちゃんと休みを頂いていますよ。僕の場合、現在は木曜日と金曜日が休みです。来年から土曜日と日曜日になるかもしれませんが。
【LV大全 】
それって、労働基準法みたいなルールで、週7日、休まずに働いてはいけないってことですか。社員じゃなくて個人事業主としての契約でしょうから、そんなことないですよね。たくさん働いてたくさん稼ぎたい、っていうパフォーマーはいないんですか。
【 吉川 】
労働基準法のようなことはあまりよくわかりませんが、ロングランの公演ですので、一回一回最高のパフォーマンスをするためにも休養は必要ですので、パフォーマーごとにプロデューサーと話し合い、休みの日数を決めています。ですので、他のパフォーマーさんたちもみんなちゃんと休んでいますよ。
【LV大全 】
ショー自体は休みがなくて、パフォーマーさんたちは週2回休むとなると、ショーの内容は日々異なることになりますが、そのへんはどんな感じなんですか。
【 吉川 】
12組ぐらいのパフォーマーさんが契約していて、そのうちの休みを取っていない 7~8組がステージに上がっていることになります。ですから毎日ぜんぜん違った公演内容になるわけではありませんが、微妙な違いは必ずあります。そこがこのショーのおもしろいところでもありますし、特徴でもあります。
【LV大全 】
休みの日は何をされているんですか。やはりラートやシルホイールの練習、それともゴルフとか。
【 吉川 】
趣味というか好きなことは、大自然の場所へ行くことですね。レッドロック・キャニオンをトレッキングしたりするの、大好きですよ。ゴルフはやりません。
【LV大全 】
レッドロック・キャニオンなら、ラートを持って行って青空の元で練習もできちゃいそうですね。
【 吉川 】
あんなゴツゴツしたところではラートは出来ませんよ(笑)。
【LV大全 】
駐車場とかはかなり平らな感じですが。それに緩やかな坂道、ラートで転がったら楽しそうですが、どうでしょう(笑)。
冗談はさておき、どのへんにお住まいで、食事とかはどこの店に行くことが多いんですか。というのも、吉川さんに会って一緒に写真を撮りたいという読者もいるかもしれませんし、地元の読者もいらっしゃいますので(笑)。
【 吉川 】
住んでいる場所は、西寄りのチャイナタウン地区です。ですので、外食として行く店は、ラーメン屋さんでしたら…、あ、店の名前を出したら宣伝になっちゃいますが、いいんですか。
【LV大全 】
よくないですね(笑)。
【 吉川 】
でしたら「近所のラーメン屋さん」ということにしておきましょう。居酒屋さんだと… そのラーメン屋さんと同じ経営の居酒屋さんです(笑)。
【LV大全 】
それで十分にわかると思います、地元の読者には(笑)。日本からの読者には、偶然の出会いに期待してもらうしかないですね。
【 吉川 】
レストランでの偶然の遭遇に期待している方は、そんな確率が低いことに期待せずに、ぜひショーの会場にいらしてください(笑)。
【LV大全 】
吉川さんにレストランで会うことを期待している人は、はじめからショーに行くはずですので心配無用かと。
あ、もうそろそろ次の2回目の公演の時間ですね。7:00pm と 8:30pm、1日2回公演ってお疲れになるでしょうから、このへんで切り上げさせていただきますが、最後に、失礼な質問かもしれませんが、よろしいですか。(上の写真は、バック・ステージでラートやシルの準備に余念がない吉川さん)
【 吉川 】
もうすぐ出番なので、疲れる質問はご勘弁を(笑)。
【LV大全 】
先ほどの1回目の公演のステージ上では、ニコニコ笑いながらの演技だったので、似ているとは思わなかったんですが、こうして普通にお目にかかっていると、作曲家の小室哲哉さんに似ていると思うんですが、言われたことないですか。
【 吉川 】
そう来ましたか(笑)。そんなこと言われることめったにないんですが、実は超ビックリしたことがあるんです。車の免許証の取得の際、陸運局の窓口で言われたんです。日本じゃないですよ、アメリカの窓口で。
中国系のアメリカ人だったと思いますが、その窓口のスタッフが、「おまえはあいつに絶対に似ている。いや、絶対に本人だ。あのミュージシャンだろ。間違いない。隠してもダメだ。えぇーと思い出せない。あいつの名前、なんていったっけ。あ、思い出した!」って言いながら、その名前を発音したんですが、よく聞き取れないでいると、紙に漢字で書き出したんです。それが小室哲哉。あれにはビックリしましたよ(笑)。
【LV大全 】
でしょ、やっぱり似ているんですよ。ま、似ていても損も得もないでしょうが、小室さん、イケメン系なので良かったんじゃないですか。小室さん、そろそろお時間になりました、出番のようです。
【 吉川 】
では大全の読者の皆さん、V Show、絶対に見に来てくださいね! このショーに出演しているパフォーマーさんたち、僕なんて遠くおよばないような、すごい人たちばかりです。人気テレビ番組 America’s Got Talent で準優勝した人や、シルク・ド・ソレイユでも活躍していたパフォーマーなど、とにかく有名な人、たくさんいます。来場、心よりお待ちしております。
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