今週は、ラスベガス観光とは無縁の情報ではあるものの、潔癖症の人などにとっては大いに気になりそうな各レストランの衛生評価に関する話題を取り上げてみたい。
このたび当地の衛生保健局は、観光客でもその場で利用できるようにと、各レストランのABC評価を閲覧するためのスマートフォン用のアプリを公開した。早い話が「清潔度の評価のアプリ」と考えれば手っ取り早い。
ABC評価とは、衛生保健局の検査官が抜き打ちに飲食店を訪問し、衛生管理に関する規則がどの程度守られているかの検査結果を格付けしたもので、A が最高で、B、C の順で評価が下がる。ちなみに Cよりも悪い X は営業停止処分だ。
(検査項目や採点方法などに関しては、このラスベガス大全のバックナンバー第400号に、衛生保健局を取材した記事として詳しく掲載されているので、興味がある人はそちらを参照していただきたい。上の写真は評価の証書で、各レストランは、この証書をよく見える場所に掲示しなければならない)
衛生保健局は、これまでにも長らくウェブサイトでベガス一帯の全飲食店のABC評価を公開してきた。ただしそれはあくまでもパソコン用に作られたもので、地元民などがレストランを訪問する前に自宅で閲覧するには便利だったが、観光客が旅先でスマホから閲覧するには少々使い勝手が悪かった。
昨今のスマホの普及に合わせて、観光客にも積極的に利用してもらおうというのが今回のアプリ公開のねらいだ。
ダウンロード方法は簡単で、もちろん無料。アンドロイド・スマホなら Google Play、アイフォーンなら App Store に行って、Restaurant Grades Southern NV と入力してインストールするだけだ。(上の写真はインストール画面。Southern NV とは、ネバダ州南部のこと)
アプリを起動すると、GPSの位置情報と連動するようになっているので、自分がいる場所の周辺のレストランが自動的に表示される。
(写真は、プラネットハリウッド・ホテルのカジノの中央付近でこのアプリを起動したときの画面。以下に示す理由により、この段階では、ほとんどの店がA評価になっているはず)
もちろんその店の近くに行かなくても、レストラン名で検索することも可能なので、ホテルの客室内や日本からでも利用できることは言うまでもない。
店の名前が画面に表示されたらそれをタッチすると、すぐに評価結果の詳細(単なるAとかBだけでなく、評価の理由なども含めて)が表示される。
ちなみに過去の評価もすべて列挙されるので、原則として歴史が長い店ほどたくさんの情報が並ぶことになるが、衛生検査はランダムに行われるため、歴史の長さと検査結果の数が必ずしも比例するわけではない。
検査の頻度はおおむね1年に1回程度と言われているが、不衛生な店ほど検査回数が多くなりやすいとの噂もあったり、また、C評価はもちろんのこと、Bの場合でも、すぐに再検査を受けることがほとんどなので、開業1年程度の店でも評価結果が4つも5つも掲載されていることがある。
(営業的に不利な BやCの評価証書をそのまま店頭に掲示し続けることは避けたいので、店側はすぐに再検査の希望を出すのが普通。希望を出さなくても原則として B評価の場合 30日後までに、C評価の場合は 10日後までに再検査を受けるルールになっている)
高級店のほうが評価が高くなりやすいかというとそうとは限らない。だれもが知る一流の店が BやC評価を受けてしまうことはよくある。
また、マクドナルドやデニーズなど管理マニュアルがしっかりしている全国チェーン店は大丈夫かというと、これまたそうでもなかったりするから興味深い。つまり知名度や会社の規模だけで簡単に Aを取得できるわけではないようだ。
ただ、ここからが非常に重要な部分なので、よく理解していただきたい。「BやCはよくあること」と書いたばかりだが、実際に店頭の掲示がBやCになっていることはまれだ。また、このアプリをいじってみればすぐにわかることだが、大部分の店が実際にAになっていることが確認できる。なぜか。
それは、すでに書いた通り、悪い評価になってしまった店は、早く良い評価を得てその良い評価の証書を店頭に掲示したいがために、問題部分を改善したあと、すぐに再検査のリクエストを出し、数日から数週間以内にA評価を取得するからだ。
したがって、どこの店も直近の検査による評価、つまり現在店頭に掲示されている評価はAが当たり前なのである。そんな事情を知っていれば、その店の日頃の衛生レベルを知りたい場合は現在の評価ではなく、数日から数週間で消えてしまった過去の評価を見る必要があることがわかる。
ためしに実際の店の記録をこのアプリで閲覧してみた。たとえば、このラスベガス大全の過去記事で取り上げた3店、プラネットハリウッド・ホテル(PH)にある有名サンドイッチ店 EARL of SANDWICH、同じく PH 内のカリスマシェフのハンバーガー店 PH Gordon Ramsay Burger Restaurant、そして全国チエーンの Denny’s (2110号店) の過去の全評価を調べてみると、以下のようになっている。
EARL of SANDWICH : AAACAABABACACAA
PH Gordon Ramsay Burger : ABA
Denny’s #2110 : AOACAABAABAO
これら評価は左のほうが直近の検査結果で右のほうが古い。アプリ内で検査の日付を見れば読み取れるが、B や C の評価を受けたあとの次の検査(そこでAを取得)までの期間がすごく短いことがわかる。
つまり悪い評価が店頭やアプリで公表されている期間は非常に短く、長くても2~3週間程度だ。それがゆえに大多数の店の現在の評価はAになっているのである。
なお、デニーズのO の評価は、開業時や改装時などの開業前検査において問題がなかったことを意味しており、これは無視してかまわない。
そのようなわけで、行きたい店を調べる際は過去の記録を見るべきであることは理解してもらえたと思うが、自分が利用するのは現在あるいは未来なので、直近の評価Aの内容も気になるところ。
現在の評価がAならば衛生状態は完璧なのか。実はそうとも限らない。バックナンバー 400号に詳しく掲載されているが、評価は減点法によって採点されることになっており、減点の数の合計が 10点までならばA、11~20点がB、21~40点がC、41点以上の減点はX評価で営業停止処分という規則に基づき判定される。
したがって、Aだからといって減点がゼロというわけではない。むしろ減点がゼロということは極めてまれだ。
ちなみにその減点のことをアプリ内では Demerits という数値で、そしてその減点となった理由を Violation という言葉で表現しているので、本当にその店の衛生状態を調べたいのであれば、評価がAかBかだけでなく、Demerits や Violation の項目もよく読んでみるとよいだろう。
ただ、この種の評価は検査時の運はもちろんのこと(たまたま冷蔵庫に保存しておくべき食材が、まな板の上などに出しっぱなしになっていただけで大きく減点されてしまう)、検査官のさじ加減、さらには業種や事業規模によっても有利・不利が生じてしまうので、あまり気にしても意味が無いように思える。
たとえば、取り扱う食材の数が多くなりがちな居酒屋のような店は、ラーメン専門店やステーキ専門店よりも不利になりやすいし、大規模な店ほど検査場所が多くなるので減点が積み上がりやすい。
そんな規模の有利・不利をなくす目的もあり、大きな店はメインダイニング、カウンター・セクション、バー・セクション、さらには厨房も複数に分けて評価されたりすることが多いが(たとえば写真のように Bellagio Buffet で検索してみると、シーフード、チャイニーズなど、10ヶ所ほどのセクションに分かれて評価されていることがわかる)、それでも公平性を完璧に保つことは極めてむずかしく、やはりこのABC評価は参考資料程度にしておくべきだろう。
食べたい料理があるのに過去にC評価が多いからといって、お気に入りではない店で食べても楽しくないはずで、評価を気にしすぎて行きたい店に行かないのは本末転倒というもの。もちろん味だけを追求し食中毒になってしまうのも本末転倒だろうが、そんなことになる確率は限りなくゼロに近いと考えたい。どうか AでもCでもあまり過敏になることなく、ほどほどに利用していただければ幸いだ。