ここ数週間、新型コロナ騒動に関して「だれもマスクを着用していない」など、ラスベガスの平穏ばかりを伝えてきたが、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
いや、怪しいという次元を通り越し、すでに大変な事態になってきている。このままでは全米で一番コロナ騒動の影響を大きく受ける都市になりかねない状況だ。
今週は、本日 3月10日から始まった、建設業界の世界最大級の展示会 ConExpo から示唆されるラスベガス大不況についてレポートしてみたい。
(掲載写真は、日付が記載されていない限り、すべて 3月10日に撮影)
感染者数は州全体でもわずか数人
各国や各都市が発表する新型コロナ肺炎の感染者数は、検査を受ける人の数が違えばどうにでも変わってきてしまうものなので(検査を受けなければ潜在感染者はカウントされない)、単純に比較すること自体あまり意味がないが、とりあえず現時点におけるネバダ州全体での感染者数はわずか数人だ。
したがって、中国やイタリアのように移動や行動が制限されたり病院などで混乱が起きたりしているわけではなく、せいぜいトイレットペーパーやハンドサニタイザーなどの買い占め騒動が散見される程度で、一般市民の生活においては特に平常時と大きなちがいは見られない。
むしろアジア系のレストランなどにおいて、日ごろ予約が必要な人気店でも並ばずに入れるなど、便利な部分もあったりする。
また観光客にとっても、MGM系列の各ホテルが来週からバフェ(日本でいうところの食べ放題形式のバイキング。不特定多数の者がトングなどにふれることから感染リスクが高いとされている)の営業を停止すると発表していること以外、直接的な不便はほとんど無いと思われる。
(今後ナイトショーやナイトクラブなどが続々と休演、休業になる可能性は十分にあるが)
ラスベガスはコンベンションのメッカ
というわけで現時点ではイタリアやアジア各国、それに非常事態宣言をしたカリフォルニア州やニューヨーク州などアメリカの他の地域などと比べると、感染の恐怖という意味では大した騒動にはなっていない。それでもラスベガスは未曾有の大変な危機に直面している。なぜか。
それは、ラスベガス経済が観光業に大きく依存している産業構造でありながら、来訪者の激減が確実視されるようになってきたからだ。個人旅行の来訪者のみならず、コンベンションの中止による出張族の減少もほぼ確実だ。
ちなみにラスベガスはコンベンションのメッカとされ、巨大な会場がいくつもあるなど、展示スペースの面積でも来場者数でも世界一を誇っている。
被害の範囲はあまりにも広い
新型コロナにおびえての個人旅行の中止もコンベンションの中止も、感染者がほとんどいない現時点においては過剰反応といえなくもないが、とにかく来訪者が来ないことには話にならない。来訪者が来なければ、この街の機能は停止してしまう。
直接的なダメージを受けるホテルなどはもちろんのこと、ホテルに付随する飲食業、リネン業、清掃業、そしてカジノやショーの関連業、その他にも来訪者を運ぶ運輸業、大自然観光などのツアー業者、コンベンション会場の設営などに関わる業者、印刷業、看板業、さらにはコンパニオン、通訳、エンターテイナー、ミュージシャンなどのフリーランスまで、来訪者減少による影響の範囲はあまりにも広い。
それだけではない。これらの業界に従事する者が職を失い収入が減れば、外食やレジャーを控えたり、衣服や雑貨を買わない、ヘアサロンへ行かないなど地元ビジネスに対する消費も減り、観光業とはまったく関係のない業界にまで被害が及ぶ。
出展を取りやめる企業が続出
そのような悪循環に陥る心配は先週のこのコーナーでも簡単にふれたとおりで、数週間前から多くの地元民が懸念していたことではあったが、今週になってその不安が現実のものとなってしまった。
というのも、ConExpo において出展を取りやめる企業が続出しているばかりか、来場者そのものも少ないことが、本日 3月10日に発覚したのである。
ちなみにこの ConExpo は、他のコンベンションと比較して、中国や日本などアジアからの出展企業の比率は相対的にそれほど高くないとされているが、それでも出展予定の約3000社のうちの 15~20%(各メディアや現場からの情報)が出展を取りやめたようなので状況は深刻だ。
会場内の至るところで「手の消毒」や「握手は遠慮しましょう」といった新型コロナ対策が奨励されており、感染リスクを一瞬たりとも忘れさせてくれない張り詰めた雰囲気は、3年に一度の盛大なイベントとしては違和感を禁じえない。(ConExpo は毎年ではなく 3年ごとの開催)
また、これは新型コロナとは関係ない偶然ではあるが、めったに雨が降らないラスベガスにしては珍しく、開幕日の 3月10日は小雨が降ったり低い雲が立ち込めるなど、寂しいイベントに追い打ちをかけるような、あいにくの悪天候となってしまった。
医療スタッフを待機させたブースを5ヶ所も
開催に至るまでの主催者の苦悩が公式サイトの 新型コロナに関する特設ページ からも読み取れる。
そのページ内には、「熱が出たりした場合のために医療スタッフを会場内に常時待機させています。その医療相談窓口を会場内に5ヶ所設け、もし新型コロナに感染している恐れがあると判断された場合は、すぐに病院へ救急搬送し隔離できるような体制を整えています。感染が広がりにくい環境になっていますので安心して来場してください」といった内容が記載されているわけだが、いま開催されているこの ConExpo においてもそれほどの準備をしなければならない現状を知って、今後開催が予定されている各コンベンションの主催者が開催に踏み切ることができるだろうか。
どうなる ASD ?
このあと 3月22日から予定されている雑貨業界の大型見本市 ASD においては、中国企業が中心的な存在となっている。
だがしかし、現在アメリカ政府は中国に滞在歴のある者の入国を制限。ある業界関係者は、約2800社ほどの出展予定企業のうちの半数以上は出展不能か出展を取りやめるのではないかと懸念しているが、それでも ASD の主催者はその公式サイト内に設けた 新型コロナに関する特設ページ で楽観的なコメントを発信している。はたしてどうなることか。
そのページは刻々と更新されているので、出展企業や見学予定者はこまめにチェックしたほうがよいだろう。
日本企業の動向が気になる NAB
4月19日から予定されている放送業界の世界最大のコンベンション NAB も心配が絶えない。まだ1ヶ月以上先なので開催中止の懸念は ASD ほどは目立っていないものの、巨大なイベントだけにブース設営業者などは心穏やかではないようだ。
地元メディアによると、今後数ヶ月間に予定されている中小規模のコンベンションの多くがすでに中止を決めているとのことで、また別のメディアは、それら中止を決めたコンベンションから仕事をキャンセルされた業者の悲痛な叫びを報じている。
ちなみに NAB の 2000社近い出展予定企業の中におけるアジア企業の比率は ASD ほどは高くないが、大型ブースの多くはソニー、キャノン、パナソニックなど日系企業が占めているので、もしこのあとアメリカ政府が日本からの来訪者に対して入国制限をするようなことがあれば、NAB の中止も現実味を帯びてきそうだ。
NFLドラフト、ホテルは戦々恐々
タイミングが悪いことに、今年は ASD や NAB よりもはるかに巨大なイベント「NFLドラフト」が 4月に予定されている。毎年恒例のイベントではないため単発的な開催ではあるが、ラスベガス史上最大のイベントと称され、注目度は半端ではない。
4月23日から3日間の開催期間中の参加予定者は 60万人とも70万人とも言われており、もし中止にでもなった場合、各ホテルは延べ 数10万室規模の空前絶後のキャンセルを余儀なくされるとのことで戦々恐々としている。もちろんホテルのみならず多方面の業界に甚大な影響が及ぶことは言うまでもない。
大坂なおみが出場予定の大会が中止
「NFLドラフトは中止にするには巨大すぎる」という声も聞かれるが、安心していられない理由がいくつもある。それは他のスポーツイベントの動向だ。
一番世界を驚かせたのは、ラスベガスのイベントではないが、大坂なおみも出場を予定していたテニスのビッグトーナメント BNPパリバ・オープン の中止だ。
3月11日からカリフォルニア州で開催される予定だったが、開催直前になって主催者は中止を決めた。カリフォルニア州が非常事態宣言を発令したことも大きく影響しているようだが、この決定が他のイベント主催者などに少なからず衝撃を与えたことは想像に難くない。
また、アメリカの四大プロスポーツである大リーグ野球の MLB、アメリカンフットボールの NFL、バスケットの NBA、それにアイスホッケーの NHL の各団体は、試合開催に関する再検討のみならず、サイン会などにおいてハイタッチや握手の代わりにグータッチを推奨するなど、ファンとの交流に関してもさまざまな対策を打ち出してきており、いくら巨大なイベントだからといって NFLドラフトが予定通り開催できる保証はどこにもない状況になりつつある。
ちなみに NFLドラフトにおいてはサイン会など、ファンと往年の名選手や新人選手との交流が、このイベントの重要な要素を成している。
過剰反応という意見も少なくないが
日本でもそうだが、アメリカでも感染者の数は人口比にすると、現時点では 10万人に一人程度の話。
「その程度の存在率に対して、政府の対応やメディアの報道は大げさすぎ」という意見は少なくない。
たしかに過剰反応はその国やその都市の経済に甚大なダメージを与えかねず、そのダメージが大きくなりやすい観光都市ラスベガスの市民としてはほどほどにしてもらいたいところだが、その一方で、自分だけは感染したくないという恐怖心があるのも事実。
コンベンションの中止が、感染者の増加を一人でも抑え込む効果があるのであれば、それを全面的に否定することはむずかしい。だからといって、膨大な数の失業者を生み出す対応策がいいのかというと、それでいいわけでもない。
少数の健康や人命を優先すべきか、多数の経済的安定を優先すべきかはむずかしい問題だが、多数の健康や人命が犠牲になるリスクを防ぐためということであれば、その大義に反対することはむずかしいだろう。一日も早いコロナ騒動の終息を祈るばかりだ。
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コメント(13件)
ラスベガスには2001年の渡米依頼5,6回(以上)は行ってますが、そのたびにラスベガス大全にはお世話になっています。ラスベガスもコロナで大変そうですが、サイト運営頑張ってください。アメリカに来た頃から考えるとウェブといってもほとんどすべてが変わってしまった中で、ラスベガス大全だけはずっと変わらない。訪れると懐かしい存在です。
ひろ 様
長年に渡りラスベガス大全をご閲覧いただきありがとうございます。
また激励のお言葉、感謝にたえません。
ひろ様の益々のご活躍ご発展をお祈りいたします。
2000年に初めてラスベガスを行くときにラスベガス大全をインターネットで見つけ、ホテル、ショー、カジノ、交通機関などの情報を印刷してファイルにして何度も読んで勉強し、ドキドキしながらラスベガス旅行を楽しんでからはや20年。その後もラスベガス大全を毎週楽しみに見させていただいています。ありがとうございます。その後もラスベガスへは10数回行っています。
高校受験を終えた娘、中学に進学する息子を連れて家族4人で3月24日からカリフォルニアディズニー3泊、ニューヨークニューヨークに4泊の旅行を去年の10月に予約しました。今のところキャンセルせずに行くつもりですが、いつアメリカへの入国 停止措置が発令されるのか、また反対にアメリカから日本に帰国できなくならないか心配です。旅行をキャンセルすればいいのかもしれませんが、1年前から計画し、それをモチベーションに勉強してきた子どもたちと同じく仕事をしてきた我々夫婦もあきらめきれずにモヤモヤした気持ちで毎日を過ごしています。ラスベガス大全で新しい情報、ミスターVEGAS様の率直な感想や意見を参考にあと12日間、考えてみます。もちろんどういう結果になっても今後の自分の決断、行動は自己責任であることは重々承知の上です。これからもラスベガスの情報を楽しみに待っていますし、早く現在の状況が好転しますよう切に祈っています。長文を最後まで読んでいただきありがとうございました。
Yuさん、はじめまして。
私もラスベガスが好きで、1度息子に異次元の世界を見せたいと、この息子の中学卒業に合わせて1月早々飛行機とホテルを予約しました。息子の受験も終わり、希望校に合格。さぁ気持ち良くアメリカ旅行!と思っていたら、このコロナ騒動です。出発予定は12日だったのですが、毎日毎日「○○県で初の感染者」「新たに感染者が」「アジア人への被害」等々…をニュースで知る度、気持ちが滅入る毎日。本当ならば出発に向けてウキウキする期間なのに、日に日にテンションも下がり⤵️トランプ大統領の入国拒否発言等もあり、とうとう息子の気持ちが切れちゃいました。でも、息子との卒業旅行なんて、もうないかもしれないので、出発予定の1週間前にアメリカ行きはキャンセルを決め、国内旅行に切り替えました。これはコロナを恐れてではなく、息子の気持ちを優先したのです。
幸い飛行機会社はコロナ措置でキャンセルOk,ラスベガスの次に行こうと思っていたアリゾナのホテルも、スタッフの方が良くして下さりキャンセル出来ました。
キャンセルが出来たので、今行き先を変えての卒業旅行の真っ最中です。
ラスベガスに行かれなかったショックは図り知れませんが、息子が「大学決まったらリベンジ!」と前を向いてくれたので、気持ちが変わらない事を願って3年後を待ちたいと思います。
出発まで落ち着かないと思いますが、どうかご家族の悔いのないよう決断されることを祈っています。
ご家族の皆さんにとって、思い出深い素敵な旅になりますように。
Kamome さん、コメントありがとうございます。息子さんを連れてのベガス旅行、今回は残念でしたが
息子さん本人の気持ちを優先されたことは立派だと思います。希望校を合格され国内旅行も楽しく行ける
と思います。ぜひ楽しんできてくださいね。そして3年後が待ち遠しいですね!
私はと言いますとその後カリフォルニアディズニーリゾートとそのホテルがすべて休業となり前半の予定は
白紙となりました。こどもたちにラスベガス(ニューヨークニューヨーク)だけでも行く?それともまたにする?と聞いたところ二つ返事で「行く!」だったのでまだあきらめずにラスベガスを前倒しにして7泊を画策しています。
常識で考えれば世界的なコロナウイルスの流行の中どうかしていると自分でも思いますが、渡航禁止命令などが出ない限り行くつもりです。あたたかいお言葉身に沁みます。家族の健康に留意し、周りの方々に迷惑をかけないように十分注意して行ってきます!
その後…MGM系列が閉館となり、やむなく断念しました。
YUさん
YUさんからの返信を読み、気持ちが分かり過ぎて苦しくて…簡単にコメントが出来ないでおりました。そして私もラスベガスの状況が気になり、毎日チェックしていた所、ホテル閉館との知らせ。皆さんのお気持ちを察すると、掛ける言葉が見つかりません。自分の事のように落ち込んでいます。
でも事態は変えられません。ですので気持ちを切り替えて別の旅を企画してはどうですか?お節介は重々承知です。
お互いにラスベガスにはまた行きましょう。今回のせっかくのお休みは、違った形での思い出に残るファミリーイベントに切り替えて素敵な思い出作りをして下さい。
場所はどこでもきっと楽しい時間になると思います。
余談も余談ですが、私達が予定を切り替えて訪れたのは沖縄でした。沖縄は思っていたより都会で驚きました 笑
それでも息子との良い思い出になりました。
どうか皆さんにとって有意義なお休みになりますように。
Kamomeさん、私たち家族も沖縄旅行に行くことにしました。無事航空チケットとホテルもとることができ、ホッとしています。Kamomeさんが沖縄の話をしてくれなかったらこの話はなかったと思います。本当にありがとうございました!
ラスベガスが大好きで5回行った事があります。ラスベガス大全を見て最新情報を収集して楽しんでいます。私は毎年でもラスベガスに行きたいのですが主人が色んな国へ行ってみたいと言うので3年に1度くらいのペースでラスベガスへ行っています。
世界中がコロナで混乱していますね。フェイクニュースや買占めが起こっているのがとても残念です。ラスベガスもコロナの影響が大きくなってきているのが心配です。
非日常を楽しめてスケールの大きいラスベガスが本当に大好きです!
早くいつも通りのラスベガスに戻るように祈っています!
やはり「バフェ」は、そうなりましたか。。。ゲームの「ポイント」で”バフェ三昧”とか楽しんでました。
~自己紹介~
アメリカ旅行 26回中10回をラスベガスに。昨年は、転職にて断念。今年は、今の時点では「中止」の予定です。。。ラスベガスを訪れて、主に写真を撮影し「販売(ストックフォト)」しております。
本サイト(大全)は、訪問前は勿論、訪問決定時より毎週、チェック・参考にさせて頂いております。
細かな情報が記載される事もあり、撮影情報収集に大いに役立っております。
本年、どうなるか分かりませんが引き続き、現地の情報のご提供をお願いします。
PS: ”Game of Thrones” ”WESTORLD” に関する些細な情報がありましたらお願いします!
みなさま、長年に渡りラスベガス大全をご閲覧いただき、誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げます。
太郎様:
Game of Thrones、WESTORLD に関してですが、お恥ずかしながら、あいにく視聴しておりませんので、詳しい情報を持ち合わせておりません。
もしよろしければ、同じご質問を「フォーラム」に投稿されてみてはいかがでしょうか。どなたか詳しい方が、的確な情報を提供してくれるかも知れません。
お役に立てず申し訳ございません。
れな様:
たくさんベガスにいらして頂いているようで、ベガスを紹介している立場の者としては嬉しい限りです。また激励ありがとうございます。
YU様:
今回の旅行を楽しみにされていたお子様たちのことを思うと、コロナ騒動が早く終息することを願うばかりですが、カリフォルニアとニューヨークということですと、現時点では、かなり状況は厳しいかと思います。ベガスも感染者こそほとんどいないものの、毎日のようにイベントが中止になっており、残念ながら今の状況では、この先いい話が出てくる気配がありません。コロナ騒動の奇跡的な好転を願うばかりです。
記事には>MGM系列の各ホテルが来週からバフェの営業を停止、とありますが事態はもっと深刻で
Wynn, Bellagio, CityCenter, Excalibur, Luxor, Mandalay Bay, MGM Grand, The Mirage, New York-New York, Park MGM and T-Mobile Arenaもクローズするそうです。
ラスベガスは非常事態宣言が出て3月18日から1ヶ月間スーパー、病院、警察、消防、ガソリンスタンド以外は全部クローズするそうです。もちろんホテルには泊まることが出来ません。大変なことになりました。