今週は、最近問い合わせが急増中のハンバーガーショップ IN-N-OUT-BURGER の「裏メニュー」についてレポートしてみたい。
ちなみに裏メニューとは、「メニューには載っていないが、リクエストすると作ってもらえる料理」のことで、他の店でもときどき見られ、ネットなどで話題になったりすることが少なくない。
IN-N-OUT-BURGER のうわさの「十段重ねバーガー」などがまさにその典型だが、果たしてそれは実在しているのか…。
米国西海岸に住む者ならだれもが知る、そして東海岸では認知度が極めて低いが、知る人は知っているハンバーガーショップ IN-N-OUT-BURGER。
最近日本人観光客の間でもなぜか知る人が増え、特にこのサイトのフォーラムでも話題になったりしたためか、「裏メニュー」に関する問い合わせが急増している。
そんな裏メニューの話に入る前に、まずはこの IN-N-OUT-BURGER のバックグラウンドについてふれておきたい。
この店はマクドナルドのような全米展開のチエーン店ではない。1948年の創業以来 44年間、1992年にラスベガス1号店がオープンするまで、当時 100店舗ほどあったすべての店はロサンゼルス一帯の南カリフォルニア地区にのみ存在していた。
現在は 200店舗以上に事業を拡大しているが、それでも拡大先はサンフランシスコ、フェニックスなど西海岸の主要都市内にとどまり、今でも中西部や南部および東海岸での出店はまったくのゼロで、あくまでも西海岸だけの「地域限定」にこだわっている。
こだわっているのはそれだけではない。すべての店舗が直営店で(つまりフランチャイズではない)、なおかつこの会社は非上場企業だ。つまりファミリー経営にこだわっており、その結果、不特定多数の株主やフランチャイズのオーナーらの意見に左右されることなく、創業者ファミリーの一貫した経営哲学が維持されやすい環境に保たれている。
その経営哲学は独特でいくつかあるが、我々消費者にとって最も直接的に関係してくるのは、冷凍食材を使わない(店にフリーザーは存在しない)、電子レンジを置かない、オーダーを受けてから調理し始める、の3ヶ条だろう。
したがって、肉も野菜もすべて冷蔵輸送で、冷凍輸送されることはない。(右の写真はラスベガスの物流基地)。
その他にも、ジャガイモは毎日各店舗で皮をむきカットする、レタスは包丁を使わずに手でちぎる、出来上がったバーガーが冷めないようにするヒートランプは使わない(出来た物はすぐに出す)など、いろいろなポリシーがあるが、それらの多くはハンバーガーやポテトを包む紙などに印刷されているので、興味がある者は現場で確認してみるとよい。
冷凍保存や電子レンジの使用が必ずしも味に悪い影響を与えるとは限らないが、それらをかたくなに拒否し続けているポリシーが消費者に受けているのか、どこの店舗も同業他社に比べ総じて混んでいる。
その一方で、「オーダーを受けてから調理すれば待ち時間が長くなるので、店内が混んでいるように見えるのは当たり前。実際の客の数はマクドナルドと大差ない」という指摘もあり、さらに味に関しても「生のジャガイモを使っているので格段にうまい」という意見が多い反面、「マクドナルドの冷凍ポテトのほうがふんわりしていておいしい」という声も聞かれる。
この種のことは意見が分かれて当然なので、味の優劣に関しては各自の判断にゆだねるとして、とりあえずここでは「マクドナルドよりうまい」という前提で話を進めたい。
さて気になる値段に関してだが、「非冷凍 & 手作り」という効率が良いとは言えない運営にこだわっているわりには、フレンチフライ $1.19、チーズバーガー $1.95 と決して高くない。
それゆえ混雑し、なおかつ多くの者にとって「おいしい」とくれば、需要と供給のバランスが崩れるのは間違いないところで、通常ならここで値上げをするか店舗を増やすのが市場原理というものだが、非上場企業であるがゆえに必ずしも経済学のセオリーどおりに動かないところがこの会社のおもしろいところだ。
市場原理がすべてというクールなアメリカの企業社会において、このようなユニークな会社があってもいいし、あること自体、なにかほっとする部分でもある。
そんなところも支持されているのか、実は西海岸のみならず、東海岸の人の間でもこの店は隠れた人気で、とりわけ観光客が集まるラスベガス店(現在市内に7ヵ所あるうちの Dean Martin Drive にある店のこと、以下同様)は「非地元民率」が飛びぬけて高いらしい。つまり、ニューヨークやシカゴからラスベガスにやってきた人たちが、旅のついでにこの店に立ち寄っていくというわけだ。
そのへんの詳しい事情を確認しようと本社(ロサンゼルス郊外)に電話をしてメッセージを残したところ、予想に反してすぐにきちんと折り返しの電話が来たが、この店舗の売り上げが全店舗の中でナンバーワンかどうかに関しては非上場企業らしく(情報公開の必要なし)明確には答えてくれなかった。
それでも本社側がこのラスベガス店をマーケティング戦略の最重要店舗と位置づけていることはたしかで、その証拠に、総本山とされるモニュメント的存在の第1号店(ロサンゼルス郊外のボールドウィンパーク市。1948年オープン)以外の店舗では、ラスベガス店が唯一ギフトショップを併設する店舗となっているとのこと。
つまりラスベガス店はただ単にハンバーガーの供給だけでなく、東海岸など全米各地からの人たちに向けた第二の総本山として広告塔的な役割も果たしているというわけだ。
実際にそのギフトショップ(ハンバーガーを販売する店のとなりに存在する別の建物の中)は全米各地からの客でにぎわっている。(上2枚の写真はギフトショップで売られている商品の一部)
さて次はいよいよメニューについてだが、オーダーを受けてから作り始めるということもあり、メニューは極めてシンプルだ。
上の写真がその詳細だが、基本的には飲み物以外、ダブルダブル(肉とチーズが2枚ずつ)、チーズバーガー、ハンバーガー、フレンチフライの4つだけだ。ダブルダブルもチーズバーガーも、ハンバーガーのバリエーションのひとつと考えれば、メニューはハンバーガーとフレンチフライしかないことになる。
そんな寂しいメニューをこっそり補う形で存在しているのが、現場で「シークレットメニュー」と呼ばれるいわゆる裏メニューで、これは、それぞれの店舗における自由裁量や現場スタッフの気まぐれなサービスではなく、全店舗に共通した正式メニューとして存在している。
その証拠にその裏メニューをオーダーすると、きちんとレシートにもそれが表示されるようになっており、存在自体は会社側も正式に認めていることがうかがえる。
さて、そんな裏メニューを調査するために現場へ足を運んでみたところ、少なくとも以下のアイテムの存在を確認できた。
■ Veggie Burger(写真上)
ビーフパテやチーズが入っていない、つまりレタス、トマト、スプレッド、バン(bun)のみのバーガー。もはやバーガーとは言い難いサラダのようなバーガー。
■ Double Meat
ビーフパテ(patty)2枚、レタス、トマト。なおオニオンは入れても入れなくてもOK(他のハンバーガーにおいても、オニオンは常に自由選択制)。つまり通常メニューのダブルダブルからチーズ2枚を取り除いたものということになる。
■ Animal Style(写真上)
各ハンバーガーにピクルス、炒めた玉ねぎ、追加のスプレッドを乗せたもの。ちなみにこの店の通常のバーガーにはピクルスが入っていない。
■ 3-by-Meat
3枚のビーフパテ、チーズは無し。あとは普通のバーガー(レタスとトマト。オニオンは入れるか入れないか自由に選択可能)。
■ Protein Style(写真上)
プロテイン、つまりたんぱく質に重点を置き、炭水化物のバン(bun)を避けたハンバーガー。各種ハンバーガーに適用でき、とにかくバンを除きたいときにこのスタイルを指定する。結局、バンの代わりにレタスで肉やトマトを包むことになり、持ちづらいのが難点。
■ Grilled Cheese
チーズは必ず入り、レタス、トマトも黙っていると入っている。オニオンは入れるか入れないか自由選択。パテは無し。つまりチーズバーガーからビーフパテを抜いたものと考えればよい。ベジタリアン向け。
■ The Flying Dutchman(写真上)
2枚のビーフパテ、2枚のチーズのみ。つまりレタスもトマトもバンもなし。あまりにも見栄えが悪いこっけいな形が特徴。
■ Extra Toast
バンを通常より長めに焼いて、表面をカリッとさせたもの。それぞれのハンバーガーメニューに対して、バンの焼き方として指定できる。
■ Animal Style Fries(写真上)
フレンチフライに、2枚のチーズとスプレッドと玉ねぎの炒めたものが乗っている。
■ Light Fries
通常より揚げる時間を短くした、柔らかい感触のフレンチフライ。
■ Well Done Fries
通常より長めに揚げて、カリカリにしたフレンチフライ。
■ Neapolitan Milkshake(写真上)
チョコレート、バニラ、ストロベリーの3種を一緒に入れたシェーク。現場に置いてあるストローがシェーク用としては細いため、吸い上げるのに苦労する。
■ Tea Ade
アイスティーとレモネードを半分ずつコップに入れたもの。ようするにアーノルドパーマーのことで、特に新鮮味はない。
■ Lemon Up
レモネードとセブンアップを半分ずつコップに入れたもの。
■ ? x ?(写真上)
?マークの部分には数字が入り、2×4 ならツーバイフォー、4×4 ならフォーバイフォーと読み、左側の数字がビーフパテの枚数、右側の数字がチーズの枚数で、あとは普通のバーガーの構成、つまりトマトとレタスとオニオンということになる。
これこそが裏メニューの代表で、この数字を 10×10 にすると伝説の「十段重ねバーガー」になり、さらに 100×100 にすることも可能だ。いや過去形で「可能だった」というのが正しい。
実は今回、10 x10 を実際にオーダーしてみたが、拒否されてしまった。
混雑しているラスベガス店だけのことなのか、本社に問い合わせてみたところ、今は全店舗において最高 4×4 までしか受け付けていないとのこと。
英語のサイトをいろいろ検索してみると、10×10 や 100×100の写真を見ることができるが、それらはもはや過去のモノということになる。
「1000枚以上を実際にオーダーしてみると受け付けてもらえるか」といったバカなことを試みた映像などが動画サイトに載っていたりするが、そういういたずら的なことが多かったからやめてしまったのか。
やめた理由はサイトなどでは「見てくれが悪いから」などとなっていたりするが、それが本当の理由とは思えないので、そのへんの事情に関して聞いてみたところ、「詳しいことはわからない」とのこと。中止の理由はともかく、せめて 10×10 までは復活してもらいたいところだ。
ちなみに仕方なく 4×4 をオーダーしてみたが(写真右上)、意外にもパテは薄く(2枚のように見えるが、くっついているので実際にはこれで4枚)、一般の人でも楽に食べられるサイズという印象を受けた。
最後にオーダーの方法と行き方について。オーダーは、標準メニューであろうが裏メニューであろうが、普通に商品名を口頭で伝えて注文する。もちろん紙に書いて見せてもかまわないが、注文が終わると必ず、「Here or to go?」と聞かれるので、持ち帰りたい場合は [トゥーゴー]、店内で食べる場合は [ヒァ] と言えばよい。
ここまではマクドナルドと同じだが、この店の場合はさらに、バーガーにオニオンを入れるかどうか必ず聞かれるので、入れたければ [イエス、プリーズ] などと答えればよい(追加料金無し)。
なお、生のオニオンよりも火が通ったオニオンを希望する場合は [グリルドオニオン、プリーズ]。
支払いが終わると番号が書かれたレシートを手渡されるので、その番号が呼ばれたら呼ばれた場所に受け取りに行く。
なお、これは裏メニューではないが、Chili を酸っぱく漬けたようなもの(長さ3センチぐらいの黄色い辛子が2本入ったパック)があるので、欲しい場合は、オーダーしたものを受け取る際に「チリーズ、プリーズ」と言えば無料でもらうことができる。
さらにもうひとつ「裏プレゼント」として、「スティッカープリーズ」というと、子供向けのステッカー(シール)をもらえるので(写真右)、子連れファミリーは覚えておくとよいだろう。
営業時間は日曜日から木曜日が 10:30am~1:00am、金曜日と土曜日が 10:30am~1:30am。なおギフトショップは毎日 10:00am~6:00pm。
さて一番問題なのが行き方。実はこの店(前述の通りラスベガスに7店あるうちの、ホテル街から一番近い店でギフトショップも併設)、途中の道路の構造上、ホテル街から徒歩で安全に行けるような場所にはない。できればタクシーの利用をおすすめしたい。
位置としてはニューヨークニューヨークホテルの前にある自由の女神像からトロピカーナ通りを西へ 850メートル行った地点にあり(遠くからでも見える大きな看板が立っているので見つけること自体は超簡単)、距離的には十分歩ける距離だが、高速道路をまたがなければならず(歩道橋でまたぐのではなく、トロピカーナ通りを使ってまたぐ)、その部分が非常にあぶない。
もちろん高架になっているので、高速道路の本線を徒歩で渡れという意味ではないが、トロピカーナ通りから高速に進入する車と、高速から出て来る車の車線を徒歩で横切らなければならず、その部分の車の往来がかなり激しいだけに横断には細心の注意を要する。
またドライバーは歩行者がいるとは想定していない可能性が高く、そういったことも頭に入れておく必要がある。さらにその高速をまたぐ部分以外においても、トロピカーナ通りの歩道が途中で途切れていたりする部分があるので、もし徒歩で行く場合は十分な注意が必要だ。
なおタクシーで行く場合は、「IN-N-OUT-BURGER at Tropicana Avenue and Dean Martin Drive」と紙に書いて渡せばわかってもらえる。
帰りのタクシーを拾うことに関してはそれほど心配することはないだろう。なぜなら、タクシーで来る者がたくさんいるばかりか(写真上)、たくさんの運転手が休憩時間にこの店に立ち寄るからだ。