今週は、おとな向けのお色気ショーとされる「バーレスク」について、だらだらとあてもなく書き綴ってみたい。
(上の写真は、フラミンゴホテルで開催されている「X Burlesque University」の広告。なお、この記事内にバーレスク系の写真をこれ以上掲載すると、アダルトサイトと自動判定されたりしかねないので、一切掲載しないものとする)
昨年末に公開された映画「バーレスク」。シェールとクリスティーナ・アギレラという音楽を本業とする二人が演じているところが珍しいのか、ストーリーが単純なわりには、日本でもけっこう話題を集めていると聞く。
そんな影響もあってか、ラスベガスのバーレスク事情に関する問い合わせが読者から2件寄せられた。
意外にも、声の主はどちらも女性だったところが興味深い。
それはさておき、ラスベガスではこの映画の公開前からバーレスクというエンターテイメントの存在感がじわりじわりと増してきていた。
といっても、その性質ゆえか、メディアで大きく取り上げられることも少なく、その実態は今でもあいまいだ。
そもそも「バーレスク」という言葉の意味自体が漠然としており、「アダルト向けのショーの総称」と解釈すればいいのかと思いきや、そうでもないところがむずかしい。
いわゆるストリップショーのようなただ単に女性が踊るだけのショーとは似て非なるものとされ、演じているほうも観に行くほうも、世俗的なアダルト・エンターテイメントと同格に扱われることを嫌うようだ。
そしてこのヨーロッパを起源とするバーレスクには歴史や文化や思想があるというから何とも奥ゆかしい。
とはいっても、それは古き良き時代の話のようで、今では大多数の観客にとってバーレスクは単なるトップレスショー以外の何モノでもないというのが現実だろう。
ということで、とりあえずは「セクシーなダンサーが踊ったりしながら風刺や笑いなどパロディー的な要素も演出するおとな向けの興行」とでも考えておけばよさそうだが、マニアックなファンなどからは、「ストリップショーとはちがう。もっと含蓄のある高尚な芸能だ!」と叱られてしまうかもしれない。
元々があいまいな存在なだけに、実際に最近ラスベガスに登場したバーレスクも今ひとつ掴みどころがないのが現状だ。どこかでポツリと登場してはすぐに消えたりする。
それでもこの街から完全に消え去り全滅してしまうことは決してない。
シルクドゥソレイユのような近代的でゴージャスなショーがどんなに増えてきても、絶対に駆逐されずに必ずどこかで生息し続けているのがバーレスクで、ラスベガスにはそれをはぐくむ土壌がある。
出現する場所も規模も継続期間も気まぐれでありながらも、昔からこの街全体を覆うように漠然と浮遊してきたという意味では、雲のようなお化けのような存在なのかもしれない。
ただラスベガスが景気低迷から抜け出せていない今、バーレスクは大規模な舞台装置を必要とする本格的なナイトショーとは異なり比較的簡単に参入しやすいのか、需要に対して供給が多すぎるのも事実で、ビジネスとしては厳しい状況にあるようだ。
毎晩20~30人しか集客できていない公演も散見されるなか、新規参入が後を絶たないのは、「それでも踊りたい」というダンサーがこの街に溢れている証拠だろう。
ダンサーたちにとっては景気の回復が何よりも待たれるところだが、景気のいかんに関わらず、中長期的なトレンドとしてはラスベガスでバーレスクが下火になることは考えにくい。
というのも、この街全体がおとな向けのマーケティングに突き進んでいるからだ。
かつてギャンブル一色の世界にバーレスクが華を添える感じだった80年代までのラスベガスは、その後の巨大テーマホテルの建設ラッシュとともに、家族みんなで楽しめるディズニーランド化の方向に進んだ。
子供向け無料アトラクションやテーマレストランなどが次々と出現したのはそのころで、そんなトレンドが生まれることになったのは、アトラクションを作れば小さな子供を持つギャンブル好きのお父さんもラスベガスに足を運びやすくなると考えられたからだ。
しかし街を上げてのその壮大な実験は10年ほどで失敗が確認された。
妻や子供と一緒に来るお父さんたちはカジノで大金を使ってくれないのである。
「怖い女房や子供の前ではバカな姿は見せられない」といったところだろうか。
結局カジノはおろか、高級レストランやナイトクラブでお金を使うこともなく、子供たちをローラーコースターに乗せてまじめな父親や夫を演じて帰ってしまう。
しかし今のラスベガスは大きく変わった。子連れの優等生お父さんは眼中に無く、公的組織である観光局までもが率先して怪しげなおとな向けのマーケティングを展開するようになった。
そしてその観光局からとんでもないスローガンまで飛び出したのである。
その “官製スローガン” は、What happens in Vegas, stay in Vegas。
直訳では「ラスベガスで起こることはラスベガスに残る」といったところだが、英語がわかる人にとっては限り無くキケンな爆弾メッセージだ。
「ラスベガスであなたがやったことはラスベガスの外に出ることはない。人にいう必要もなければバレることもないので、少々ハメを外しても大丈夫。すべての思い出はラスベガスに残しておけばいい」 といったかなりアブナイ意味合いになる。
「乱交や浮気旅行などを助長しかねないこんなスローガンを公共の機関が掲げていいものか」と、メディアや地元民を巻き込んでの激しい論争となったが、今でもその公式サイト www.visitlasvegas.com のボトムに、商標登録済みのスローガンとして掲げているから観光局もあっぱれだ。
Sin City(罪の街)と呼ばれて久しいラスベガスの面目躍如といったところか。
公共機関がそんな調子なら民間もあとに続けとばかりに、昨年12月にオープンした大型カジノホテル「コスモポリタン」も、Just the right amount of wrong という斬新なキャッチコピーで世間をあっといわせた。
これも直訳では意味が通じないが、そこに隠されたニュアンスは「せっかくラスベガスに来たのなら少々悪いこともしてみよう。犯罪にならない程度のギリギリのところまでならば大丈夫」といった過激なもので、これも物議を醸したことは言うまでもない。
街中がそのような調子なのでバーレスクが肩身の狭い思いをするようなことは今後もまずないだろう。
むしろ、ますますラスベガスは昔ながらのおとなの街へ回帰していくものと思われる。
そのトレンドは、カジノ内のブラックジャックのピット(ブラックジャックテーブルが数台集まってひとつの “島” を形成している部分)などを見ても明らかで、最近は多くのカジノが通称「パーティー・ピット」と呼ばれる島を設け、そこではセクシーな女性が怪しげなポールダンスを踊っていたりする。数年前まではほとんど見られなかった光景だ。
もはやこの街のスローガンは、「老若男女(未成年の “若” は除く)、ラスベガスに来て、みんなでハメを外そう!」といったところで、街全体のトレンドが「アダルト化」に向かっていることは疑う余地の無い事実だろう。
日ごろ「おとな」であり続けなければならないおとなたちも、たまには非日常的な「ちょいワル」をしたくなるときもあるもので、そんな需要に応えられる街が世界の中に一つや二つあってもいい。
ここの読者もぜひラスベガスに来て何かしでかし、日頃のうっぷんを晴らしリフレッシュしてもらいたいものだ。
ちなみに冒頭で「問い合わせの主は女性」と書いたが、このたびフラミンゴホテルではバーレスクの公演だけでなく、女性向けのバーレスク教室 “X Burlesque University” までも「開校」してしまった。
この街らしくて大いにけっこうなことではないか。プロのショーガールたちが、ダンスのみならず衣装や化粧についても教えてくれるというから、女性読者が興味を示すのも無理はない。
男子禁制ということでまだ取材の許可を得ていないが、機会を見てレポートしてみたい。
話が長くなってしまったが、決して景気が良くない今の時期でも、ベガスにアダルトエンターテイメントはしっかり存在している。
すでにロングランの域に入っているリビエラホテルの Crazy Girls、MGMグランドの Crazy Horse Paris、ラクソーの Fantasy、そして人気上昇中のプラネットハリウッドの Peepshow、などはその典型だが、タイトルそのものにバーレスクという言葉が含まれているショーもあるので、それを2つ紹介しておきたい。
ひとつはフラミンゴの X Burlesque、そしてもうひとつがウェスティンの Burlesque The Show だ。
どちらもダンサーの数は6人で、会場の広さも規模なども似たようなものだが、大きくちがう部分が2つある。
それはダンサーの身長と客の入りで、フラミンゴのものは身長約170cm前後、客は100人以上集まりほぼ満席に近い。ウェスティンは160cm前後で、閑古鳥が泣いている。
内容の差というよりも立地条件やマーケティングの差のようにも思えるが、ウェスティンの公演はまもなく打ち切りになってしまいそうな気がするので、興味がある者は早めに観ておいたほうがいいだろう。
チケットはフラミンゴのショーでも当日券でたぶん間に合い、料金は半額チケット屋などを利用すれば50ドル以下で買える。観客の多くはカップルなので、女性だけでも入場をためらう必要はまったくない。
なお、たとえば先週プラネットハリウッドホテルやダウンタウンのエルコルテスホテルでかなり本格的なバーレスクイベントが開催されたが、それらが1回限りの公演だったように、一発物が多いのもこの世界の特徴なので、街中で無数に見られる電光表示の広告塔やフリーマガジンなどに目を光らせ、そのつどタイムリーなバーレスクを探すようにするとよいだろう。
また、バーレスクを伝統芸能や文化として伝承に努める非営利組織の「バーレスクの殿堂」 的なサイト burlesquehall.com も登場しているので、旅行前にそういったところをチェックしてみるのもよいかもしれない。
今も昔もラスベガスは「街そのものがバーレスク」といってよいのではないか。
せっかくこの地を訪問してそれを楽しまない理由はないだろう。
(ラスベガスにおける Burlesque の発音は、「バー」と伸ばさずに「バレスク」もしくは「ブレスク」と、かなり短く早口で発音すると通じやすい)
【注】 ここまでの記述は「ちょいワル系の人たちでも楽しめる場所が増えてきている」 ということであって、「家族連れなど一般の人たちが楽しみにくくなっている」という意味ではない。マジックやサーカスなどの一般のナイトショーはもちろんのこと、グルメ、ショッピング、大自然観光など、一般の人向けの健全な場所のほうがはるかに多いことはいうまでもない。