マンダレイベイ・ホテル内にあるハウス・オブ・ブルースの照明や音響設備などが 36万ドルをかけて一新されたというので、その会場で毎週行われているゴスペル・ブランチに行ってみた。
(上の写真は、ハウス・オブ・ブルースの入口の前に飾られたトレードマーク)
まず始めに「ゴスペル」と「ハウス・オブ・ブルース」について簡単にふれておきたい。
ゴスペル(GOSPEL) とは、聖書などに出てくる元々の意味は別にして、一般的には教会の活動などで歌われる音楽のことを指す。
教会音楽というとパイプオルガンや聖歌隊の賛美歌など、神聖なる雰囲気が漂う静かな旋律の曲をイメージしがちだが、実際のゴスペルはその種のものばかりではない。
一般のジャズやブルースと何ら変わらない普通の音楽であったり、最近はロックやパンクに近いかなり騒々しいゴスペルもある。
また、賛美歌などのイメージがあるためか、人数構成も大規模なものを想像してしまいがちだが、必ずしもそうではなく、少人数の場合も少なくない。
会場も教会に限らず、宗教施設となんら関係のない一般のコンサートホールが使われたりもする。ここハウス・オブ・ブルースのゴスペルはまさにその典型だ。(このページに掲載されている写真は、すべて 5月6日に撮影)
そもそもゴスペルの起源は、アメリカ南部に住み、奴隷として苦労を重ねてきた黒人たちが神を歌い込んだ音楽と言われており、そういう意味ではジャズやブルースに似ていてもなんら不思議ではない。(この写真は、このたびステージ上部に設置された最新鋭の舞台装置)
パンクやハードロック系のゴスペルは本来の起源から少々それることになるが、最近は「神に捧げる魂が入った音楽ならなんでもゴスペル」と拡大解釈される傾向にあり、ゴスペルの音楽ジャンルとしての範囲は非常に広くなっている。
したがって、スピーチや歌詞を真剣に聴き取り、その内容を理解して初めてゴスペルらしさが伝わってくることもあり、ばくぜんと聴いている限りでは、大多数の日本人にとってゴスペルと一般の音楽との違いを見い出すことはむずかしいかもしれない。
それでもゴスペルが一般のコンサートとは明確に異なる部分もある。それは、出演者側がボランティアで演奏し、聴衆側も入場料を寄付金として払っていることが多いということ。(写真は、5月6日の公演におけるリードボーカリスト)
今回紹介するハウス・オブ・ブルースのゴスペルがどの程度のチャリティー色があり、どの程度のビジネス色があるのか、売上金の配分までは確認できなかったが、一般的にはゴスペルは営利と無縁の(ホンネの部分ではそうでもないこともあるようだが)布教活動やチャリティーを目的としたコンサートと考えてよい。
そういう意味では、ゴスペルと食事が一緒になったゴスペル・ブランチなどへの参加は一般アメリカ市民の日頃のライフスタイルをかいま見るチャンスであると同時に、寄付活動への参加と解釈できないこともないので、通常のコンサートのように、料金と内容だけで高い安いを議論すべきではないかもしれない。
さて次に会場のハウス・オブ・ブルースについてだが、これは日本でもよく知られているライブハウスで、現在ラスベガス以外にも、ロサンゼルス、シカゴ、ニューオリンズ、オーランドなど全米に十数ヶ所、存在している。
テーマは、アメリカ南部や黒人文化で、施設内のいたるところにその種のユニークかつアーティスティックな装飾品、絵画、家具、置物などが飾られており、見る者を飽きさせない。
規模こそ大型コンサートホールに遠く及ばないものの、芸術的かつ個性豊かな造りや音響効果は多くのミュージシャンから高く評価されており、有名スターがしばしば登場する会場としても知られる。
また、どこの都市の会場においても、日曜日の朝から昼にかけてはゴスペル用に開放されることが多く、その地域密着型の運営は地元民からの評価も高い。
なお、2006年に経営母体が入れ替わってから、ややカラーが変わってきているといった声も聞かれるが、とりあえず表立った大きな変化は見られず、ここラスベガスでも10年以上に渡ってゴスペル・ブランチが継続されている。
ちなみにそのラスベガスの会場は、カジノホテルであるマンダレイベイ内に同居しているものの、カジノのギラギラしたイメージやインテリアに毒されることなく、ハウス・オブ・ブルース独自の伝統的な雰囲気がしっかり維持されているので、カジノに隣接しているからといって、そのことを心配する必要はない。
余談になるが、この会場では、ドリームズ・カム・トゥルー、B’z、宇多田ヒカルなど、日本のミュージシャンも過去にコンサートを開いている。
前置きが長くなってしまったが、今回紹介するのはそんなハウス・オブ・ブルースにて毎週日曜日に開催されているゴスペル・ブランチ。
前述のとおり 10年以上も続いているイベントで、何ごとにおいてもめまぐるしく変化するラスベガスでこれだけのロングランは、偉大かつ貴重な存在といってよいだろう。
内容はその名が示す通り、ゴスペルを聴きながらブランチを楽しむというものだが、実際にはブランチを先に食べてしまったあとでゴスペルを聴く感じになる。
通常の食べ放題バフェィとは異なり、あくまでもコンサートということで、原則として全席指定席となっている。ちなみにキャパシティーは約200席。
この写真はステージのすぐ目の前に設けられた中央のダイニングエリアで、知らない者同士が仲良く一緒に食事を楽しむ。「みんな一緒に」はゴスペルの精神であると同時に、ハウス・オブ・ブルースの経営理念のひとつでもある。
この中央のエリアのまわりに 1メートルほど高くなったセクションもあるが、ここでも二人用のテーブルは少なく、基本的には長テーブルによる相席制だ。高い位置からステージを見ることができるので見やすいともいえるが、横位置になる席が多く、どちらのセクションが良いかは好みの問題といっていいだろう。ちなみに各種料理はその外周セクションに置かれている。
なお、この会場には2階席もあるが、ブランチでは利用しない。
気になる食事の内容だが、「自分で取りに行く食べ放題形式」 という意味では一般のバフェィと同じになっているものの、ゴスペル本来の雰囲気を壊さないようにしているのか、ケイジャン料理など、アメリカ南部の伝統料理を意識したものも含まれており、そのあたりがこのブランチの特徴といってよいだろう。
味付け的には、ジャンバラヤやバーベキューチキンなど比較的日本人の口に合うと思われるアイテムもあるが、そうでないものも少なくない。(上の写真はフレッシュオレンジジュースを使ったミモザ)
総じてアメリカのホームパーティーで見られるような質素な料理が目立ち(日本とは異なり、アメリカにおける仲間内のパーティーでは豪華な料理は作らないのが普通)、高級食材を使った料理はあまり期待しないほうがよいかもしれない。
また、南部の料理といえばカキを中心としたシーフードなども想像してしまうが、残念ながらカキを使った料理はない。それでも、中サイズのプリプリしたエビを使ったシュリンプ・カクテルなどは満足できるレベルのものだった。
客のリクエストに応じて目の前で作ってくれるオムレツや、好きなサイズにカットしてくれるプライムリブ(写真上)なども、高級ホテルのブランチと比べても遜色のないレベルにあったように思える。
いずれにせよ、映画に出てくるようなアメリカの家庭料理の再現とそれの体験と考えれば、それなりに有意義なブランチを楽しめるのではないか。
チケット売場はマンダレイベイのカジノフロアからハウス・オブ・ブルースに向かって左端にあり、料金は税込みで $40。電話での事前購入の場合、2ドルの手数料が加算される。
ブランチとしては決して安いとはいえないかもしれないが、コンサートと考えればリーズナブルで、ましてやチャリティーの要素もあるのであれば、むしろ安いといってよいのではないか。
開催は日曜日の 10:00am と 1:00pm、つまり週2回だけとなっており、売り切れとなることも少なくないので、チケットは前日までに買い求めた方がよいだろう。
定刻(10:00am または 1:00pm)にドアが開いて入場が始まり、席に案内された順に食事を始めることになる。そして定刻後約45分、つまり 10:45am および 1:45pm にステージの幕が開きゴスペルが始まるので、あまり遅く入場するとゆっくり食事を楽しむ時間がない。(1枚上の写真は、ゴスペルが始まってからかなりの時間が経過し、皿などが片付けられたあとの会場の様子)
ゴスペルが始まってからでも席を立って食事を取りに行くことは可能だが、あまりそういう雰囲気ではないので、落ち着いて食事を楽しみたい者は、なるべく早めに入場したほうがよい。そのためには定刻前に入口の前に行き、行列の先頭集団に並ぶ必要がある。定刻の20分前には並ぶようにしたい。(上の写真は開門直前の入口の様子)
出演者は毎回異なる可能性があるが、今回の取材時は、いわゆる黒人音楽といわれているジャズやブルース系のサウンドが中心だった。
歌詞を意識せずに聴き流していれば宗教色はほとんど感じないが、ときどき入るトークなどに耳を傾けていると、かなり宗教的な色彩が強く、ゴスペルを聴きに来ていることを実感できる。
終盤になると客の一部がステージに上がり(写真上)、会場内も総立ちになり手拍子を打ったりするので、静かな賛美歌などを想像して行った者は、盛り上がりの大きさに驚くかもしれない。
場所は、マンダレイベイホテルのカジノフロア内の北側(LUXORホテル側)。行き方は、エクスカリバーホテルから無料モノレールでこのホテルに到着したら、順路に従って進み、カジノフロアに入ってすぐの場所を壁沿いに右手に進む。タクシーなどで正面玄関前に到着した場合も同様にカジノを右手奥に進めばよい。
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