明暗を分けた2大ホテルグループ、MGMはついに利益を計上

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 先週、明るい経済ニュースと暗い経済ニュースがほぼ同時にラスベガスを駆け巡った。ウォール・ストリートでも関心が高いようで、ビジネス関連のメディアを中心に連日のように報じられている。
 今週は、一般観光客にとってはまったくどうでもいい話題で恐縮だが、地元経済やラスベガスの今後を占う上においては非常に重要な出来事なので、それについて書いてみたい。

 明るいニュースとは、MGM社がリーマンショック以降、ついに6年ぶりにやっと利益を計上できたという決算発表、そしてもう一方の暗いニュースは、経営難に苦しむシーザーズ社が、財務状況を改善するために打ち出した手段が裁判沙汰になりそうで、さらなる困難に直面しているという新事実だ。

 世界に冠たる目抜き通り「ストリップ」に巨大カジノホテルが軒を並べていることは、だれもが知るところ。
 しかし、一般観光客の多くは、それら各ホテルは互いにライバル関係にあると思っているのではないか。
 だが実態はさにあらず。図の通り、青で示したMGM社と、緑で示したシーザーズ社の寡占状態で、どちらかに所属する同系列のホテルばかりだ。

 もちろんこの2社以外にライバルがまったく存在しないわけではないが、大多数の日本人観光客が泊まる「主要ホテル」という条件では、ライバルと呼べるのは、ウィン & アンコール(この2つのホテルは名前こそ異なるものの、実態は本館と新館という形態を取っており、同一の会社が一つのカジノライセンスで運営)、ベネチアン & パラッツォ(同)、そしてトレジャーアイランドとコスモポリタンぐらいだ。
 リビエラは完全に老朽化、トロピカーナは存在感が低く、フーターズは小規模すぎることもあり、これら3ホテルに日本人観光客が泊まることはほとんどない。
 つまり、数の上では MGM社系列のホテルが、そして中心街を制圧しているという意味ではシーザーズ社系列のホテルが、それぞれ他を圧倒している。

 こういった現状を知れば、両社の業績がいかに税収や雇用など地元経済に直結しているか、そして一般市民も両社と運命共同体の関係にあることがわかるはずだ。
 ちなみに一つのホテルだけで 約3,000~6,000人程度が働いているとされる。両社合わせて約20 のホテルが1割の人員削減をしただけでも大変な数の地元民が失業することになる。さらに経費の大幅カットなどの方針を打ち出せば、納入業者など取引先に多大なる影響が及び、その波及効果による雇用問題も無視できない。まさに MGM社とシーザーズ社はラスベガス経済そのものなのである。

 両社の業績は 2006年ごろまで絶好調だった。空前の好景気に踊らされ、MGM社は巨大プロジェクト「シティーセンター」(ベラージオホテルとモンテカルロホテルの間の土地の再開発)の建設資金など、その頃までに日本円にして約1兆円の借金を、そしてシーザーズ社も(実際にはシーザーズ社を買収した投資ファンドなど)TOB資金などで約2兆円という天文学的な数字の借金をすることになったが、社債の引受など貸し手はいくらでも存在していた。
 ところが、2007年から2008年に起こったサブプライムローン問題に端を発するいわゆるリーマン・ショックの不景気で観光客が激減、MGM社もシーザーズ社も倒産の危機に瀕した。
 2007年後半、90ドル台で取引されていた MGM社の株価はわずか1年余りでなんと 1ドル台にまで大暴落。(シーザーズ社はTOB により上場を取りやめていたため株価は非公開)
 その後、今年に至るまで、両社は一度も利益を計上することができず、借金の返済もほとんど進んでいなかった。MGM社はその間、資金難からトレジャーアイランドホテルを地元の投資家に売却したりもしている。
 「金利負担があまりにも大きく、よほど業績が回復しない限り借金の返済は無理。特にシーザーズは好景気に沸くマカオからの収入がないので非常に厳しい」というのが経済アナリストなどの共通した認識だ。

 そんな状況でこのたび発表されたMGM社の四半期決算。わずかではあるが利益を計上し、長いトンネルの先に光が見えてきたということで地元も大いに沸いている。
 またウォールストリートでも同社の株価指標の PER(1株当たりの利益に対する株価の倍率)を算出できるようになり、約6年ぶりにその数値が発表された。暴落していた株価も現在約25ドル前後にまで回復。まだ PER が約90倍という異常な数値ではあるものの、株価からも復活の兆しが見え始めている。
 また、今回の利益計上により、モンテカルロホテルとニューヨークニューヨークホテルの間の空き地で、つい先日からMGM社が始めた大型アリーナの建設工事も途中で頓挫する可能性が減り、雇用環境の改善や地元建設業界からの期待も膨らむ。

 一方のシーザーズ、こちらは非常に厳しい。マカオにも進出したMGM社や、ラスベガスよりもマカオに軸足を置くウィン社やサンズ社(ベネチアンとパラッツォの運営母体)とは異なり、マカオからの収入がまったくないばかりか、ベガスの業績も回復の兆しが見えておらず、引き続き苦境に立たされている。
 そんな同社は昨年、子会社 Caesars Growth Partners を設立し(58% の株式を保有)、バリーズ、プラネットハリウッド、クワド、クロムウェル、シーザーズパレスの一部の棟などを、その子会社に売却。売却代金で借金を埋め合わせ、見かけ上のバランスシートの改善策に乗り出した。

 これはまるで、借金を作ってしまった親が、自分の子供に家などを売りつけ、得たおカネで借金を返済しているようなもので、当然のことながらこの手法には賛否両論あったが、毎年のように直面する借金の返済期限(おもに社債の償還)に対する応急処置としては、とりあえずうまくいっているかのように見られていた。
 ところが、このたび投資ファンドなど債権者の一部が、担保保全などの意味からその手法は債権者にとって問題が多すぎるとのことで裁判沙汰に。結果的に、本業以外の部分でもシーザーズ社は新たな問題に直面することになってしまった。

 数年前に再上場した同社の株価は、今年の前半、約25ドル前後だったが、じりじりと値を下げ現在は約半値の13ドル前後で取引されている。PER はもちろん算出不能で、時価総額はわずか約20億ドル(約2000億円)。ラスベガスの超一等地にこれだけの土地やホテルを所有している企業の価値が約2000億円。いかに巨額の借金を抱えているかがうかがえる。ちなみにMGM社の時価総額は約1兆3000億円。
 もちろんシーザーズ社も何もせずに景気の回復を待っているだけではない。今年4月、同社のテリトリーのほぼ中心地ともいえるフラミンゴホテルのすぐ裏側に、社運をかけて世界最大の観覧車を完成させた。今その集客パワーに期待がかかっており、次回の決算発表が注目されている。
 それでもアナリストの間では、巨額の返済期限が迫る来年から再来年あたりに倒産することになるのではないかとささやかれている。
 はたしてシーザーズ社の復活はあるのか。業界関係者はもちろんのこと、ラスベガス市民にとっても大いに気になるところだ。

 なお最後に、仮に倒産することになったとしても一般観光客が心配する必要はまったくないことを付け加えておきたい。
 「ホテルの倒産 = ホテルの閉鎖」ではないからだ。
 すでにシーザーズ社系列のホテルに宿泊予約を入れている場合でも、そのままで何ら問題はない。
 ホテルの倒産はラスベガスではなんら珍しいことではなく、被害を被るのは株主および銀行や納入業者などの債権者、そして受け皿企業によってリストラなどが行われるであろう従業員たちだけだ。休業など無く通常通り業務は引き継がれるので安心してかまわない。

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