超人気のアダルト向けサーカス、シーザーズに残留

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 シーザーズパレスの屋外テント(写真上)で開催されているアダルト向けサーカス公演 「アブサン」(Absinthe)
 移転問題など一連の騒動が解決したとのことなので、久しぶりに最新の状況を探るべく現場に足を運んでみた。
 チケットが連日売り切れとなる超人気のこのショー、6年ほど前に始まった初公演のあと、会場のテントの構造が変わるなど、公演内容も出演者も含めてたびたび変更があり、さらに身内の騒動から、会場をコスモポリタン・ホテルへ移すという話が昨年の秋から浮上。法廷論争にまで発展したようだが、このたびやっと移転せずにシーザーズパレスに残ることで決着し、少なくともあと2年は現在の屋外テントで公演されることになった。

Absinthe  そんな経緯はともかく、何もかもが一風変わった非常にユニークなショーなので、シルクドソレイユなどを見飽きたというリピーター族におすすめのショーとして、あらためて紹介してみたい。
 ちなみにアブサンとは、黄緑色で水を加えると白濁する超高濃度アルコールの薬草系リキュールで、かつてヨーロッパでは中毒者が続出するほど社会問題となった禁断の酒のことだ。
 このショーでは現場の売店でそのアブサンを買って会場内に持ち込んで飲むことができる (写真)。
 プラスティックのカップ1杯 $14 と決して安くはないが、これを機会に禁断の酒を体験してみるのも悪くはないだろう。
 なお、買い求める際、「そのままで飲むか、それとも水と砂糖を少し足すか?」と聞かれるので、どっちを選んでもかまわないが、味としてはクミン・シードのスパイスが効いたカゼ薬のシロップのような独特なものであることは、あらかじめ覚悟しておいたほうがよい。

Absinthe  ラスベガスに数あるナイトショーの中でも極めて特異なこのアブサン、ショーそのものも非常に奇抜だが、会場が劇場ではなくテントというところも特徴的で、古き良き時代のサーカス小屋の雰囲気を実にうまく演出しているところが最大のウリといってよいのではないか。
実は今でこそ普通のテントが使用されているが、6年前の初公演当時は知る人ぞ知るスピーゲルテント (Spiegeltent) だった。
 スピーゲルテントとは、100年以上も前にベルギーで生まれた興行用テントで、今では全世界に数えるほどしか存在していないとされる。(下の写真が 2011年当時のスピーゲルテントの内部)

Absinthe  美しい装飾が施された木製の構造材と、その間に無数に組み込まれたステンドグラスや鏡など、非常に手の込んだ芸術的な造りになっている一方で、まともな輸送手段や機械がないなか、素早く町から町へと移動する必要があったため、短時間で組み立や解体ができるような工夫もなされているというから先人の知恵はすごい。
 そんなデザインへのこだわりと機能性を両立させた芸術的かつ実用的な施設は、当時のヨーロッパの華やかな興行文化を垣間見ることができる情緒いっぱいの会場だったが、諸事情でスピーゲルテントの維持がむずかしくなり、残念ながら現在の公演では一般のテントになってしまっている。

Absinthe  それでも室内シアターに移ることなく屋外テントに固執しているあたりは、「サーカス小屋」というコンセプトへのこだわりが感じられるわけだが、ちなみにこのショーを演じているサーカス団の名称は、その元祖テントへの思い入れなのか、スピーゲル・ワールドだ。
 また、一般のテントになってしまった今でも、古いスピーゲルテント時代を少しでも再現しようと、会場内には朽ち果てた鏡、絵画、シャンデリア、ピアノ、蓄音機などが飾られており(上の写真)、往年の場末のサーカス会場を彷彿させるような雰囲気がうまく演出されている。

Absinthe  テント公演における最大のメリットは、なんといってもその狭さから来る臨場感だろう。
 客席からステージまでの距離が非常に近いばかりか、その円形ステージも直径が9フィート(約2.7m)というから、なにもかもがコンパクトにまとまっており、遠い席というものがほとんど存在しない。
 そしてその直径3メートルにも満たないステージで、激しい動きのあるアクロバットや曲芸などさまざまな出し物が披露されるので、最前列付近は役者たちの息づかいも感じることができるほどの至近距離で、汗が飛んで来ることもある。実際にステージから客席にバシャバシャと水しぶきが飛んで来る演目もあり、ステージに近い観客には防水用のビニールシートが配られる。

Absinthe  さて、ショーの内容についてだが、基本的には初公演当時のコンセプトを踏襲しており、やっていること自体はサーカスやアクロバットのたぐいと考えてなんら差し支えない。
しかしコンセプトは一般的なサーカスとは大きく異なっており、お色気満点のバーレスクに近いサーカスということになる。(バーレスクの意味などに関しては、この週刊ラスベガスニュースの735号に掲載)
 つまり、サーカスといえば子連れファミリー向けというのが通り相場だが、このアブサンでは子供はまったくお呼びではなく、完全なアダルトショーだ。その証拠に年齢制限があり 18歳未満は入場できない。

Absinthe  サーカスとアダルト。接点などほとんどないようにも思えるが、その両者を強引に結び付けているところがこのショーの真骨頂で、結果的にそれが会場内をコミカルな雰囲気に包み込むことに成功している。
 シルクドソレイユのズーマニティーも似たようなコンセプトと言えなくもないが、こちらのほうがはるかにくだけており、下ネタのトークやブラックジョークなども多い。特に、久本雅美のアメリカ版のような女性役者が放送禁止用語も含んだ卑猥な言葉を連発する場面は注目の部分で、場内が爆笑の渦に包まれる。
 したがって、このショーのコンセプトを簡単にいってしまえば、「オトナのちょいワル」といったところで、女性のシンガーやダンサーが服を脱いでいくなどは当然のこと、男性役者が自分の性器部分を膨らませたり、尻を出したりするシーンもあったりする。一時期日本で人気を博したロシアの女性デュオ・t.A.T.u.(タトゥー)に似た女子高生のような二人が演じるセクシーに絡み合う空中ショー(写真下)も見どころだ。

Absinthe  あまり細かく説明するとネタバレになってしまうので、ほどほどにしておくが、男性二人組によるアクロバットやタップダンスなどは必ずしもセクシーな要素を強調した出し物とはいえないものの、それでも笑いを誘う部分が織り込まれているところなどは、なんともこのショーらしい凝った演出でおもしろい。
 なお日本人にとっては理解しづらい早口の英語によるトークの部分も少なくないが、下ネタなどで場内が大爆笑になっている同じ空間に身を置いているだけでも十分に楽しめるので、英語が苦手なことを理由にこのショーを敬遠する必要はまったくないだろう。

Absinthe  会場の場所はシーザーズパレスの前庭だが、テントが設置されている場所はその前庭の南端。つまりベラージオホテル寄りの位置で、行き方としては、ベラージオホテルから歩道橋を渡って降りてすぐ左側。フラミンゴホテルから歩道橋を渡った場合はほぼまっすぐの目の前。
 公演日時は、水曜日から日曜日の 8:00pm と 10:00pm の毎晩2回。月曜日と火曜日は休演。正味1時間20分。

Absinthe  料金体系はやや複雑だが、税込みでだいたい 110ドル前後。チケット売り場は会場のすぐ手前に専用ブースがあるので簡単にわかる。
 狭いテント内の円形会場ということで悪い席は特にないが、座席に関していえば、それぞれの座席が不ぞろいの安っぽいイスになっているところに注目したい。これも演出の一つのようで、なんともこのショーらしくておもしろい。

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