ここの常連読者からは、「またラーメンの話かよ」と言われてしまいそうだが、たしかにその通り、またラーメンの話。(下の写真は、今回の話の舞台となるコスモポリタン・ホテル)
世界中で大ブームとなっているラーメンは、もはやアメリカでもぜんぜん珍しい存在ではなく、ここラスベガスのホテル街でもごく普通に目にするようになった。
しかし今回紹介するのは、そんじょそこらのラーメンではない。フランス料理やイタリア料理の高級食材として知られるトリュフをたっぷりトッピングした高級ラーメンだ。
場所は、ストリップ大通りのほぼ中央という申しぶんない立地条件にあるコスモポリタン・ホテル内。
店の名前は Momofuku(一番上の写真は入口付近の様子)。ニューヨークで大成功をおさめたラーメン店で、このたびラスベガスにも進出してきた。
このラスベガス店では、ラーメンのみならず中華や和食の創作料理も人気で連日たくさんの人たちでにぎわっており、週末の夜などは1時間以上待たされることも少なくない。ちなみにオーナーは日本人でも中国人でもない韓国系アメリカ人。
話が少々横道にそれるが、この店の名前 Momofuku は、カップヌードルやチキンラーメンなどの製造で知られる日清食品の創業者 安藤百福(あんどうももふく)氏の名前に勝手にあやかったのだろうか。ちなみに安藤氏は台湾出身で、韓国とは関係がないと思われる。どういう経緯でこの名前になったのか…。
それとも、この店が使っている業務用の麺の仕入先が明星食品の米国法人で(ロサンゼルス郊外。実際に全米に業務用の麺を供給している)、明星食品の親会社が日清食品ということもあり、安藤氏とまったく無関係ではないということからの命名か…。残念ながら訪問時に会えた現場責任者は、「Lucky Peach という意味です」ということ以外に、店名の由来に関しては何も知らないとのこと。
店名のことはさておき、何はともあれ、まずはトリュフ・ラーメンをオーダーしてみた。値段は $33。
高級食材なだけに、この値段を高いと見るか安いと見るかは意見が分かれるところだろうが、まぁ妥当なレベルと考えたい。
待つこと約15分。運ばれてきたトリュフ・ラーメンは、半熟というよりも限りなく生に近い黄身が目立っている以外、見かけはごく平凡で、どんぶりもやや小さめ(内径15.2cm、高さ 8.5cm)。
値段のわりに威厳に欠けるというか見栄えがパッとせず、少々ガッカリしていると、すぐに別のスタッフがやって来て、そのラーメンの上で何やらゴシゴシと削り始めた(写真上)。見る見るうちに、卵の脇に何かが積み上がっていく。そう、それこそがトリュフだ。
削り終わった状態が右の写真。上昇する湯気の影響もあってか、すでにこの段階でトリュフ独特の香りが周囲に広がってきており、否が応にも食欲と好奇心がそそられてくる。
麺はかなり太め(太さの等級でいうと 18号前後と思われる)。ストレート麺ではないものの、ちぢれ度はそれほど大きくない。
さっそく緊張しながらスープ(トリュフから遠い部分のスープ)を飲んでみると、表面に油が浮いているわりには、それほどこってりしていることなく、あっさり系のおとなしい味。トリュフの存在に敬意を表し、その香りをじゃましないための配慮か。
さて、いよいよトリュフの香りが染み出している側のスープを飲んでみると、なんとこれがまったく別ものであることに気づく。もはやラーメンのスープではない。鶏ガラでもなければ豚骨でもない。かつお節でもなければ昆布でもなく、当たり前の表現になってしまうがトリュフ・スープだ。
たとえ鶏ガラや昆布などが使われていようとも、圧倒的なトリュフの香りが他の素材を制圧し、ドンブリ内のすべての風味を支配している。
結論としては、味も香りも素直に評価できる絶品ではあるが、一般的なラーメン論、つまりラーメンというジャンルの食べ物として、このトリュフ・ラーメンを語るとなると、意見が分かれる可能性が高い。なぜなら、あまりにもラーメンのスープとしては特殊であり、ラーメンと呼べる範囲からはみ出してしまっているからだ。
というわけで、トリュフをこよなく愛する者やトリュフ未体験者にはおすすめだが、あくまでもラーメンというジャンル内の食べ物としてこの料理を楽しみたいという場合は避けたほうがよいかもしれない。スープ・パスタだと思って楽しめば、満足度もアップすること、まちがいなしだ。
ラーメンで有名になった店なので、ついでにほかのラーメンにもトライしてみた。
写真がそれで、メニューに記載されていた名称は Pork Ramen。値段は $18。
そのまま訳せば「豚ラーメン」ということになるわけだが、そんなありふれたものが $18 もしたのでは「高すぎる!」と思うのが普通だろう。
しかし、ストリップ地区の飲食店の価格相場は一般的な場所の倍といわれているので、これを高いと思うことなく、標準的な「ラスベガス価格」と考えるぐらいの余裕がほしい。
さてこの豚ラーメンの内容についてだが、豚肉以外に、もやし、ねぎ、なると、温泉卵が入っている。特に珍しいものは入っていないが、やはりアメリカということもあり、日本のラーメンとはどこかが違う。メンマが入っていないことに原因があるのか、全体的として味そのものが微妙に異なる。
それでもラーメンのカテゴリーの範囲からはみ出したようなものではなく、異国の地でラーメンを食べたくなった際には十分にその欲求を満たしてくれるレベルにあるので、オーダーするのを恐れたりためらったりする必要はない。
なお、良い意味で意外だったのは、トリュフ・ラーメンの麺とは異なる麺を使っていること(こちらは標準的な太さのちぢれ麺)。仕入れや在庫管理の手間が増えるので麺は共通かと思いきや、わざわざ別の種類のものを用意しているあたりは、この店のラーメン店としての意地やプライドのようなものが感じられ好感が持てる。
ついでなので、獅子唐辛子がアメリカで大ブームになりそうだ、という話。
寿司、ラーメン、天ぷらなど、日本食の「ジャンル」のみならず、「単品の食材」としても完全にアメリカに定着しているものがある。
その代表は豆腐や枝豆などで、すでに一般的なスーパーマーケットでも「TOFU」、「EDAMAME」として広く売られているが、それに続きそうなのが獅子唐辛子だ。
すでに和食店以外でも「SHISHITO」というそのままの名前でメニューに載せている店が急増中で、あと数年もしたら、だれもが知る食材として広く定着することはほぼ間違いないだろう。
上の写真はこの店における SHISHITO で、値段は $9。パウダー状のかつお節が乗った逸品で、日本の味と何ら違和感なく楽しむことが出来る。小腹がすいたとき、ラーメンなしでも、これをつまみに軽く一杯といった利用方法も悪くなさそうだ。ちなみにビールの値段は、小瓶サイズで、クアーズなどの一般的なアメリカのビールが $7、シンガポールのタイガーが $9、日本の木内酒造の常陸野ネストが $17。
場所はコスモポリタン・ホテルの2階のレストラン街。店内は、ラーメン店らしいカウンター席はもちろんのこと、高級感あふれる広々としたダイニングルームもある。
営業時間は午前11時から午後11時まで。バーのセクションは日曜日から木曜日が深夜12時、金曜日と土曜日は深夜1時まで。
もし混んでいてすぐに店内に入れない場合は、入口のスタッフに名前と人数を告げると、だいたいの予想入店可能時刻を教えてくれるので、その時間までカジノなどで遊んでいればよい。