広告媒体といえば、だれもが思いつくのはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などだろう。
そして当地ラスベガスでは、もう一つ忘れてはならない重要な広告媒体がある。ビルボード(billboard)だ。
ビルの外壁や屋上など設置場所はいろいろあるが、今回のこの記事内でいうビルボードとは、高速道路や街道沿いなどに高くそびえるように設置されている横長の広告塔のこと。
ラスベガスに限らずアメリカの郊外をドライブしているとしばしば目に飛び込んでくるので、決して当地特有のものではないが、市内にも多数乱立しているという意味では数的にも設置範囲的にもラスベガス名物と言ってよいのではないか。
砂漠内に人工的に造られた比較的若い都市であるため視界的に広く開けた環境が多く、またカジノホテル以外は高層の建造物がほとんどないため遠く離れた位置からでも視認性が高いことから広告主にとっては好条件がそろっている。
またラスベガスにビルボードが多い理由は地形的な要因だけではない。広告主の業種によってはテレビや新聞などよりもビルボードのほうが効果的だったりする。
たとえばナイトショーの広告などは一般住民ではなくその日にラスベガスにやって来たばかりの観光客に告知したいわけだが、彼らは到着したあとショーが始まる時間帯までにテレビや新聞を見たり読んだりすることはほとんどない。
一方、彼らは自家用車であろうが空港からのタクシーであろうが、視界に入ってくる景色を興味深く丹念に見る傾向にあり、ビルボードが効果的というわけだ。
広告主にとって好条件であれば広告主が簡単に集まるわけで、であるならばビルボードを設置して広告収入をビジネスにしようと考える企業が現れるのは当然の成り行きというもの。
その結果、他の都市からラスベガスに入ってくる高速道路沿いや空港周辺にはこれでもかというほどたくさんのビルボードが設置されている。
参考までに、現在ラスベガスにおいてビルボードを設置し管理運営している大手企業としては Lamar、Clear Channel、Connellの3社が存在している。
インターネットの普及とともに、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など従来型の広告媒体の市場規模が年々縮小しているなか、ビルボードだけは古典的な広告媒体であるにも関わらず、当地においては増えることはあっても減っている様子はうかがえない。
特に近年のハイテク化による経費節減の効果は大きく、業界としては追い風が吹いているように思える。
半年前のこのコーナーで DOOH業界のことを取り上げた際、近年のビルボードは電子化され広告内容を手作業で書き換えたり張り替えたりする必要がなくなってきていることを書いたが、まさにその電子化されたビルボードが急増中というわけだ。
(DOOH とは Digital Out of Home の略。一般的には「屋外デジタル広告」と訳されることが多いが、実際には商業施設内などの屋内広告も含まれるので「自宅外デジタル広告」と訳されるべきだろう)
そのように当地におけるビルボード業界は衰える気配を見せていないことは幸いだが、ここ数年、じわじわと何やら不気味な変化が起こっている。正確には「業界の変化」というよりも「広告主の変化」というべきかもしれない。
何十年も前からビルボードの広告主といえばカジノホテルか、そのカジノ内に存在するビジネス、つまりナイトショー、レストラン、クラブなどだった。
そして数年前からは、当地ネバダ州がマリファナを解禁したことをきっかけに、マリファナ販売店の広告も目立つようになった。
ところがである。最近になってカジノホテルやナイトショーの広告が減り、さらにマリファナ販売店の広告もすっかり見かけなくなってきている。上の写真は今では数少ないマリファナ販売店の広告だ。
さすがに観光客の視界に入りやすい空港周辺の道路では、カジノホテルやナイトショーの広告はまだ健在だが、それでも減ってきていることは間違いない。
コロナの影響や広告規制が理由ではないかといった意見も聞かれるが、ナイトショーの公演はすでにコロナ前の状態に完全に戻っているし、マリファナの広告が規制されたという話も聞いたことがない。
ではビルボード業界は広告主不足で困っているのかというと、そうでもない様子で、それなりの投資をしながら従来型のビルボード(手作業で書き換える必要があるビルボード)を続々と電子化ビルボードに置き換えている。なぜ投資を続けられるのか。
ラスベガスに無数に存在しているビルボードの多くに、ある業界が広告を載せているからだ。その数、半端ではない。
その業界の広告は空港周辺でもかなり目立ち始めてきており、ホテル街から離れたエリアではほとんどがその業界の広告になっているというから驚くばかりだ。
カジノ、ナイトショー、レストラン、クラブ、マリファナ販売店、製品メーカーなどに代わってラスベガスのビルボードを席巻しているその業界とは…。次号の後編に続く。
(その業界の広告は、このページ内に掲載している写真の中にはあえて写り込まないように撮影しているため、探しても見つかりません)