こちらはアメリカ・ラスベガス。ところ変わればルールや習慣も異なるのが当たり前。交通ルールも例外ではない。
「アメリカは右側通行」、「一時停止して安全を確認すれば赤信号でも右折してよい(例外もあるが)」、「停車中のスクールバスは児童や生徒の乗車・下車が終わるまで追い越してはならない」など、日米における交通ルールの違いはすでに多くのレンタカー族の知るところ。
だが、ヘッド・イン・パーキング(Head-in Parking)のルールは意外と知られていないのではないか。
ヘッド・イン・パーキングとは読んで字のごとく、「頭から入れる」という駐車場での習慣で、アメリカでは何十年も前から暗黙の常識として定着している。
もちろん駐車場の形状などによっては例外もあるが、特に注意書きなどがなければ頭から入れるのが常識だ。
つまり日本で一般的な「バックで入れる駐車」は非常識ということ。
このヘッド・イン・パーキング、交通ルールというほどの厳格な規則ではないため頭から入れなかったからといって罰金を取られることはまずないし、この写真のように実際にバックから入れている車両も少なくないが、このたびラスベガス国際空港の駐車場がヘッド・イン・パーキングを正式なルールとして発表したので地元ではちょっとした話題となっている。
このルールに関してもう少し正確にいうと、同空港を管理しているクラーク・カウンティー(カウンティーは行政区域の単位で、「郡」と訳したりすることが多いが、面積的にも運営的にも日本の「都道府県」に近いと考えたほうがよいかも)が条例第20条20項08.040号として定めたということ。
まだ試験的に始めた段階なのか具体的な罰金の額までは公表されていないが、日本人観光客がレンタカーなどを空港で駐車したりする際はこのルールを忘れてはならない。
というか罰金のある無しに関わらず、また空港の駐車場に限らず、アメリカ国内で運転する際はヘッド・イン・パーキングを常に意識すべきだろう。
ということで今回のこの記事で伝えたいことは以上で終わりだが、せっかくなのでヘッド・イン・パーキングがアメリカで常識となっている理由やそのメリットを以下に列挙してみた。参考にして頂ければ幸いだ。
(ちなみに今回条例が制定されることになった最大の理由は、一番最後に記載したナンバープレートの読み取り問題とされている)
◎ バックで入れると排気ガスなどで背後の壁や、背後に向かい合って駐車している車両を汚す可能性がある。
◎ バックで入れると背後の壁などに乾燥した板など可燃性の構造物があった場合、高温の排気ガスで火災の危険性がある。
(寒冷地や高温多湿の地方などでエンジンをかけたままエアコンをオンにして仮眠したりするドライバーがいることを想定すると、これは極めて重要)
◎ バックで入れると背後に駐車している車両の車内で仮眠している者などがいたりした場合、排ガス中毒を起こす危険性がある。ヘッドインパーキングであれば開放された通路側に排気されるので比較的安全。
◎ バックで入れた場合、トランクが通路側に無いのでショッピングした荷物などをトランクに入れるのが困難。ヘッドインパーキングであればショッピングカートをトランクの近くまで寄せることが可能。
さらにバックで駐車した場合、ショッピングカートを無理にでもトランクの近くまで運びたくなり、周囲の車にショッピングカートをぶつけたりするトラブルが発生しやすい。
◎ 同様の理由でバックでの駐車の場合、ショッピングカートが車両と車両の間などに放置されやすく、ショッピングカートの回収作業の効率が悪くなる。
◎ どんな熟練ドライバーにとっても、前進よりも後進のほうがむずかしいのが普通。バックで入れる場合、後進で広い場所からせまい場所に入れることになる。
一方、ヘッドインパーキングの場合、後進で狭い場所から広い通路側に出ることになる。バックで入れる場合のほうが車両の出し入れに要するトータル時間が長くなりがちで、結果的に駐車場内での渋滞を招きやすい。
◎ 同じ理由、つまり後進のほうがむずかしいという理由で、左右の境界線に対して中央かつ平行に駐車させることがむずかしく、斜めになったり、ずれた状態で駐車してしまいやすい。
◎ 後進の際は、昼でも夜でも車両後方のバックライトが自動的に点灯するが、前照灯は意識的にオンにしないと点灯しない(最近は自動点灯の車も増えてきているが)。
バックで駐車していた場合、暗い環境において前照灯を付け忘れたまま車両を出すと、通路側を走行している車両の運転手にとって認識しづらく接触事故を起こしやすい。
◎ 前方の視界に比べ、後方の視界のほうが悪く、障害物までの距離感を取りにくいのが普通(最近は後方視界のカメラや自動ブレーキ付きの車両も増えてきているが)。 結果的にバックで入れると駐車スペースのギリギリ奥まで入れないことになりやすく、通路部分のハミ出しが大きくなりやすい。
◎ 各駐車スペースの奥に置かれているコンクリート製の車輪止めは、車両の通路側のハミ出しを少なくするためギリギリ奥に設置されているのが普通。そしてアメリカではそれはヘッドインパーキングを想定した位置に置かれている。
バックで入れると、一般的な車両は(特にアメリカで人気のピックアップトラックでは)フロント・オーバーハング(前輪の車軸から車体の最先端までの距離)よりもリア・オーバーハング(後輪の車軸から車体の最後部までの距離)のほうが長いので、比較的大型の車両が車輪止めまで進入しようとした場合、背後の壁などにぶつけてしまう危険性が高まる。
◎ 通路を進行しながら斜め方向に進入するカタチで駐車する構造になっている施設、つまり進入通路に対して駐車スペースが 90度に配置されていない駐車場においては、そもそもバックで進入することが極めて困難。
◎ バックで入れると管理人や警察あるいはハイテク装置などがナンバープレートを通路側から読み取ることができない。
なぜなら車両の後部にはナンバープレートが付いているが、アメリカでは前部にナンバープレートを付けていない車両が多いから。
今回の話題となっている空港での条例を定めた最大の理由はこれで、バックからの駐車の場合、長期間の不審駐車などを取り締まる際に不便が生じる。
さてここからは余談だが、これほどまでにいいことばかりのヘッドインパーキングがなぜ日本ではあまり定着していないのか。
「日本人は先に苦労して、あとから楽をしたい」という性格なので、むずかしい車庫入れは先に済ませたいからと言った人がいたが、本当の理由はたぶんアメリカと比べると駐車スペースや通路のスペースが狭いためと思われる。
というのも車両の構造上、前進よりも後進のほうが狭いスペースに車両を入れる際に有利だからだ。
それはフォークリフトを見ればわかりやすい。倉庫内の所定の位置にピタリと進入させる必要があるフォークリフトの多くが一般車両とは逆、つまり運転手のハンドル操作が前輪ではなく後輪に伝わるように設計されているわけだが、それは前進して曲がる際、前輪ではなく後輪の向きが変わるようになっているため、車体の後部を大きく振りながら曲がれるから。一般車両の場合もフォークリフトと同じ理屈でバックのほうが前部を大きく振りながら狭い場所に入れやすいことになる。
とはいえ日本にも広い駐車場はたくさんある。そのような場所ではヘッドインパーキングのほうが利点が多いので(特にショッピングの荷物をトランクに入れる場合など)、バックでの駐車にこだわる必要はないのではないか。
高速道路のパーキングエリアなどでは斜め駐車の場所(そこではヘッドインパーキング)が増えてきていると聞く(逆走防止が理由らしいが)。日本でも今後はヘッドインパーキングが増えるような気がしないでもないが、狭いコインパーキングなどがある限り、バックでの駐車の習慣が消えることはないだろう。
コメント(3件)
“Head-in Parking”というんですね。勉強になりました。
私が住んでいる沖縄では多くの人たちがHead-in Parkingを好んで行っています。
アメリカ軍統治時代の影響と、面倒なことは後回しにしたいという県民性が相まってこのような傾向にあるのだろうと思っています。
日本のディズニーランドの駐車場と同じシステムですよね?
日本で普及していない最大の理由は、アメリカの駐車場と違って直角にラインが描かれているからですね。
アメリカみたいに斜めに描かれていれば、頭から入れやすいし、出るときもバックしやすい。
でも直角なので、頭から入れるのはよほど道路が広く無い限り困難です。そのためバックから入れざるを得ないですね。