今週末のベガス、48度の異常高温警報でグランドキャニオンツアーは要注意

グランドキャニオン上空を飛行する軽飛行機。(写真提供:シーニック航空)

グランドキャニオン上空を飛行する軽飛行機。(写真提供:シーニック航空)

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 今週末の当地ラスベガスは記録的な猛暑になることが予想されており、異常高温警報が出ている。7月16日の予想最高気温は摂氏48°C。
 猛暑で知られる当地としても、これはかなり記録的な気温なので、この週末にラスベガスに滞在予定の者は注意が必要だ。

 では何に注意すべきなのか。ゴルフを予定している場合はもちろんのこと、炎天下の繁華街を歩くときなどの熱中症に注意すべきことは当然だが、今回は航空機の離陸に対して注意を促しておきたい。
 具体的には軽飛行機でのグランドキャニオンツアーなどが予定通り催行されない可能性があるということ。もう少し正確に言うならば、搭乗人数を減らされる可能性が高く、予約していたのに乗れないことがあり得るということ。

 ちなみについ数日前、スペインからイギリスに飛ぶイージージェットの航空機が重すぎて離陸できず、約20人ほどの乗客に降りてもらったというニュースが報道されたばかりだが(降りることに協力してくれた客には500ユーロ(約7万8000円)が支払われたとのこと)、ラスベガスが異常高温のときはこれと似たようなことが起こり得るので覚えておきたい。
 この「重すぎる」の意味は、その機種ごとに安全基準で定められた「離陸して良い上限の機体重量」と比べて重すぎるということで、その重量はその日の、風向き、滑走路の長さ、標高、気温などさまざまな条件によって自動的に決まってくる。

 ラスベガスの場合、標高気温の条件が他の都市の空港と比べて著しく悪く、重すぎて飛べないということが夏期にはしばしば起こってしまう。
 といってもラスベガス国際空港から離陸する一般の航空路線ではそれほど多く直面する問題ではない。なぜなら燃料を限界ギリギリまでたくさん搭載しなければならない国際線の長距離便が少ないからだ。

ラスベガス国際空港にアムステルダムから到着した KLM の 635便。数少ない長距離国際線のフライト。(筆者撮影)

ラスベガス国際空港にアムステルダムから到着した KLM の 635便。数少ない長距離国際線のフライト。(筆者撮影)

 多くのフライトはアメリカ国内向けの短距離あるいは中距離便なので、その場合は燃料を満タンにする必要がなく「離陸して良い重量」以下に抑えることが可能となる。
 問題となってくるのは日本人観光客の多くが参加するグランドキャニオンツアーなどで利用される軽飛行機だ。この種の飛行機は標高の高さと高温に非常に弱い。

グランドキャニオン上空を飛ぶ軽飛行機。(写真提供:シーニック航空)

グランドキャニオン上空を飛ぶ軽飛行機。(写真提供:シーニック航空)

 まずは標高について。ラスベガス一帯の標高は約650m「大した標高ではないじゃないか!」と思われるかもしれないが、山岳地帯にある特殊な環境の小規模空港を除けば、米国で1000mを超える空港はデンバー空港(約1600m)などごくわずか。
 ちなみに日本国内にも大小さまざまな空港が100近く存在しているが、ダントツに高くぶっちぎりの1位は松本空港の標高650m。2位の福島空港が370m、3位の広島空港が330mであることを考えると、600m を超える空港がいかに特殊な条件にあるかがわかるだろう。

 次に気温。摂氏48°Cは常軌を逸している気温ではあるが、世界を見渡せばまったくありえない気温ではない。ただしその気温と標高650mという2つの悪条件が重なる空港は、世界広しといえどもあまりないのではないか。

 ではなぜ標高が高く気温も高いと離陸にとって都合が悪いのか。それは標高が高いと空気が薄くなり、気温が高くなると空気が膨張するためやはり空気は薄くなる。
 空気が薄いと、つまり空気の密度が低いと揚力が減る。翼の上を流れる空気は速度が速く、翼の下を流れる空気よりも翼を押す力が弱い。その結果、翼の下の空気が翼を上にほうに押し上げる効果が働き、それが揚力というわけだが、空気の密度が薄いとその揚力が弱まってしまう。
 さらに空気の密度が低いとエンジンに取り込まれる酸素の量も減ることになり出力パワーも落ちるので、揚力の減少と相まってダブルで悪条件が重なることになる。

 もちろん悪条件が重なっても滑走路を長くすれば安全に離陸できるが、一度建設してしまった空港の滑走路を長くするわけにはいかない。
 「飛行中の上空はもっと標高が高いじゃないか!」と思うかもしれないが、それは十分すぎるほどの速度が出ているので大丈夫なだけで、離陸時はそんなに速くないので揚力不足となる。

グランドキャニオン上空を飛行する機内から窓の外を撮影。プロペラが止まっているように見えるのはシャッタースピードが高速だっただけで、このときはエンジン全開で飛行中。(筆者撮影)

グランドキャニオン上空を飛行する機内から窓の外を撮影。プロペラが止まっているように見えるのはシャッタースピードが高速だっただけで、このときはエンジン全開で飛行中。(筆者撮影)

 以上のような理由で夏期のラスベガスは離陸条件が非常に悪く、特にグランドキャニオンツアーなどでの軽飛行機ではその影響が大きい。
 過去の経験則から思うに、摂氏48°C の場合、たぶん 「3人ほど降りて頂くことになります」などといった何らかの重量調整があるはずだ。

 さらに都合が悪いことがある。なんとグランドキャニオン・サウスリム国立公園の空港の標高はラスベガスよりも遥かに高い 2000mの超高地。
 高地だと気温が多少下がるが、この標高差は気温差以上に最大離陸重量を大きく下げてしまう。滑走路が長ければなんとかなりそうだが、現在の同空港の 2700mでは十分ではないことが多い。
 したがってラスベガス側での離陸時の悪条件ではなく、グランドキャニオン側の事情を考慮し始めから人数制限されてしまうことが少なくない。
 今週末にグランドキャニオンに行く計画をしている人は乗れないこともあり得るという覚悟をしておいたほうがよいだろう。もちろんそうなったらそれはそれで非常に残念なことではあるが、未体験ゾーンの摂氏48°C を肌で感じてみるのも旅の良い思い出になるのではないか。

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コメント(1件)

  1. ヒマワリ より:

    東京も38度になるなど猛暑ですが、ラスベガスではこの程度は序の口ですね。
    昔3回ほど行きましたが、11月ごろなので40度は体験していません。
    さて、高所の空港ですがボリビアのラパスの空港は富士山よりも高い標高4000メートル
    にあるそうです。 ざっくり調べてみましたが、4000メートルの滑走路があり、
    コロンビアのボゴタまで2400キロをノンストップで飛んでいるようです。

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