ChatGPT における自慢話
今年の1月まで日本ではほとんど知られていなかった人工知能 ChatGPT。
今ではさまざまなメディアが毎日のように報道しており、今年の流行語大賞に選ばれそうなほどの勢いで認知度がアップしている。
手前味噌というか自慢話になってしまうが、この ChatGPT のことを日本語で最初に紹介したのが当サイトだったのか(ごく一部の個人のブログなどではすでに紹介されていたようだが)、それともあまりにもセンセーショナルに書いたためか(毎年1月初旬に当地ラスベガスで開催される世界最大級のハイテク業界のコンベンション「CES」を前にこの週刊ラスベガスニュース 第1337号 で取り上げた)、年末から年初にかけて日本の複数のメディアから ChatGPT について問い合わせがあった。
「住所表記の革命」 What3words
そんな ChatGPT の第二弾というわけではないが、今週は日本ではあまり知られていないイギリス発の「住所表記の革命」こと What3words(日本語版もあり無料で利用可能)を日本の読者に紹介してみたい。
と言ってもこの What3words は数年前から日本でも一部のメディアが取り上げているので、すでに知っている人は知っている。
したがって今回は新しい話題の提供ではなく認知度アップや利用促進のための紹介ということになる。
住所を指定しただけでは会えない
さてここからが本題。集合場所や目的地など地理的な位置を特定する場合、一般的には住所(番地)を使うのが普通だろう。もしくはアメリカでは道路名、日本では交差点の名前などを補助的に使うことも少なくない。
しかし番地や交差点名などで指定された目的地が巨大な施設だった場合はどうなるか。
たとえば当地ラスベガスでいうならば、大型カジノホテル、巨大な駐車場、広いカジノ、アリーナ、シアター、ショッピングモールなどで友人と待ち合わせをする場合、番地だけで指定しても広すぎて会うことができないはずだ。
「正面玄関の前で待っている」などと言っても、正面玄関らしき場所が複数あったりする。
住所も名称も曖昧な観光地もある
そもそも目的地に住所や番地があるとは限らない。グランドキャニオンやデスバレーのような広大な大自然観光地などがその典型だが、市街地の観光スポットなどにおいても番地が割り当てられていなかったり、あいまいだったりすることはよくある。
この写真の場所が良い例だ。ここはラスベガスにおける人気の観光スポットで 国家歴史登録財(National Register of Historic Places)にも指定されている1959年設置の名物看板だが、そんな著名な場所であっても番地があいまいだったり(とりあえず 5100 Las Vegas Blvd South がその番地らしい)正式名称すら定まっていなかったりする。
つい最近になってやっと名称が定着してきたのか、写真のような道路標識「”WELCOME TO LAS VEGAS” SIGN」が見られるようになったが、この場所を初めて訪れる者にとっては番地も名称もわからないままではガイドブック無しには簡単にたどり着くことができないだろう。
(ちなみに現時点の日本語版 Google Map では現場の看板と同様 Fabulous が付け加えられて「Welcome to Fabulous Las Vegas の看板」と表記されている)
緯度や経度はなじまないし紛らわしい
もちろん番地や名称がなくても位置を特定する手段が無いわけではない。緯度や経度を使う方法だ。
ちなみにその国家歴史登録財の位置は北緯36.082059度、西経115.172777度 なので Google Map などに「36.082059, -115.172777」と入力すればピンポイントで場所を確認することができる。
とはいえ緯度や経度を相手に口頭で伝えたりするのは技術屋的な印象があるからか庶民感覚としては何となくなじまないばかりか、数字を聞き間違えたりする危険性も付きまとう。
そもそも緯度・経度には10進法での表記と60進法(度、分、秒)での表記があるので紛らわしい。
なげた。うりあげ。おしらせ で特定
そんな不便を解消するために考案されたのが What3words で、たとえばその「WELCOME TO LAS VEGAS の看板」の位置はたった3つの単語「なげた。うりあげ。おしらせ」で特定できるようになっている。(1つ目の単語と2つ目の単語のあとには [。] が必要)
なぜそのようなことができるのか。それは海も山も砂漠も含めた地球上のすべての場所を碁盤の目のように3メートル四方のマス目に区切り、それぞれのマス目に3つの単語を割り当てているからだ。
日本語も英語も用意されている
利用者の国籍などに応じて、それぞれのマス目にはさまざまな言語の3単語が割り当てられており、母国語で利用できるところがありがたい。
たとえば先ほどの「なげた。うりあげ。おしらせ」の位置を英語版サイトやアプリで表示させると「waddle.hotel.smoke」となっており、同じ位置でも言語別にまったく意味が異なる単語が割り当てられていることがわかる。
(なお利用頻度が少な海洋上は英語だけしか用意されていないエリアもあるとのこと)
約57兆個のマス目を3つの単語で
3メートル以内に集合できれば相手に出会えないことなどありえないので、3メートル四方という設定は必要十分な狭い範囲といってよいだろう。
ちなみに地球上すべてのマス目の総数は約57兆個というから凄まじい数だ。たとえば4万の単語の中から3つを選ぶ順列が約64兆通りなので、英語にしろ日本語にしろ4万近い数の単語を集めたと思うと感心してしまう。
Uberの乗車位置も目的地も3単語で
さてラスベガスは広大な砂漠の中に誕生した都市。何もかもが巨大であるばかりか大自然観光のオプションも豊富なので一般の都市以上にこの What3words が役立つ場面が多そうだ。
とはいえ当地ならではの独創的な使い方が続々と生まれてきているかというとそうでもない。
それでも Uber を利用する際の乗車位置や目的地の指定に What3words が使えるようになってきているなど、全米規模ではどんどん用途の範囲が広まってきていることは間違いないので、今のうちに What3words に慣れ親しんでおくのも悪くないだろう。
ベンツやスバルのカーナビでも採用
参考までに、つい先月、車載向け音声認識ソフトウェアの米国企業 Cerence社(NASDAQ: CRNC)と what3words社は業務提携し、世界中の主要自動車メーカーに売り込むことを決定。
すでにメルセデス・ベンツ、そして日本のスバルや三菱もそのカーナビにおいて what3word に対応させるとしているから(スバルは「クロストレック」、三菱は「エクリプス」)、今後カーナビにおける目的地の入力は音声による3単語入力が世界のスタンダードになるかもしれない。
花見、花火大会、海水浴でも活躍
それはそうと、カーナビに限らず日本社会でももっと広く利用されるべきと感じたりもしている。というのも日本でも広範囲において需要があるからだ。
たとえば春の花見、夏の花火大会、フェスティバルのような野外イベント、最近ブームとなっているキャンプ、さらには海水浴やハイキングなどは日本人が好きなアクティビティーのはずで、それらはすべて位置を特定しづらい状況に置かれやすい。
「集合場所の特定などは Google Map でも十分機能している」という声も聞こえてきそうだが、やはりそこは慣れの問題で、What3words を使いこなしていればその便利さに気づくのではないか。
1丁目、2丁目の次は4丁目?
さらに住所表記という意味でも日本では需要があるように思える。
なぜならアメリカにおける住所は道路名と数字という1次元的な「線」による概念で表記するのが普通で、その数字は線上で(道路上で)順番に増えていくため目的地を探しやすいが、日本の場合そうではないからだ。
たとえば1丁目の先に2丁目が並んでいたら、その先は3丁目と思われるが、実は4丁目だったりすることがよくある。
つまり日本では1次元の線(道路)ではなく2次元の「面」に数字を割り当てているのでそのような不便が生じやすい。
したがって日本においては、ゼロ次元的な「点」(3メートル四方は面ではあるが地球全体で見たら小さな点)という概念で位置を特定している What3words の発想は、運送業者など、配達先の住所から位置を特定しにくい状況に置かれがちな業種においては利用価値があるように思える。
1階席と2階席は区別できない
良いことばかりを書き並べてきたが What3words にも欠点がないわけではない。
既存のカーナビや緯度経度の座標でも言えることだが、垂直方向の情報は含まれていないということ。
つまり3単語で位置を指定しても、たとえばスタジアムやコンサートホールなどでの1階席と2階席を区別することはできない。
同様にショッピングモールなどの駐車場で車を置いた場所を3単語で記憶させておいても何階に駐車したかは頭で覚えておく必要がある。
一企業によるインフラの独占はダメ
技術的な部分以外での欠点を指摘する声もある。
地球上の位置に対する表記はもはやインフラ的なものであるため、それの名称(3単語による指定)を一企業が勝手に決めたり、その利用権を一企業が独占するのはいかがなものか、という意見だ。(「3単語による位置指定」は各国で特許を申請しているらしい)
たしかに緯度や経度や標高などの使用が特許で制限されていることなどありえないわけで、そう考えると3単語による位置表示を一企業が独占するのは問題かもしれない。
「じしん。かみなり。かじ」はイヤだ
さらに、What3words社が完全にランダムに単語を割り振ったのか、もしくはある程度何らかのルールを設定して割り振ったのかは定かではないが(さつじん、ごうとう といった悪い単語は排除してあるとの話も聞くが)、不幸な単語や縁起の悪い単語が並んでしまうということに対する批判の声もある。
たしかに偶然であったにせよ、自分の家の玄関が「じしん。かみなり。かじ」とか「ふごうかく。しっかく 。らくせん」などになったりしたらいい気分はしない。
どのような使い方があるか思案中
まぁいろいろ問題があるため世界中で広く普及する前に消滅してしまう可能性も否定はできないが、ベンツやスバルの採用例もあるのでそれなりの速度で広まり全世界に定着していくような気がしないでもない。
特に発展途上国などの極度に貧しい地域では道路も番地もないエリアがあると聞く。そのような場所では What3words は重宝するに違いない。
当サイトとしても、この What3words をラスベガスで使用し(たとえば各ホテルにおける Uber の乗り場を3単語で指定するとか)、日本からの訪問者の利便性を高めることができないか現在あれこれ思案中なので、もし良いアイデアがあれば提案いただければ幸いだ。
コメント(1件)
Gigazineで読んだ記憶があるなと思って探してみたら、モンゴルで正式導入されたという2016年6月の記事と、様々な問題点があるという否定的な2019年4月の記事でした。その後、問題点が解消されて普及しだしたんですね。私は趣味の関係でGPS座標にはとても馴染みがあるので、LV大全のフォーラムで場所や店をを紹介するときに座標を書いていましたが、これからはWhat3Wordsを使ってみます。