ギャンブルのメッカを標榜する当地ラスベガスのカジノでは、ルーレット、バカラ、スロットマシンなどの一般的なカジノゲームのみならず、スポーツの試合結果にも賭けられることは多くの人が知るところ。
野球、アメフト、バスケ、ボクシングなどは言うに及ばず、ゴルフ、テニス、カーレース、そして開催国などに制限がないため欧州や南米のサッカーはもとより日本のプロ野球、さらにはオリンピックの一部の競技にも賭けられるようになってきているなど、賭けの対象となるスポーツの拡大はとどまるところを知らない。
さて話はここからが本題。つい先日、読者から「日本の大相撲にも賭けられるようになったのでは。調べてみてほしい」とのメールを頂いた。
八百長疑惑が付きまとう大相撲が賭けの対象になるわけがない、と疑いながらいろいろ調べてみたところ、どうやらデマとかではなさそうなことがわかってきた。
地元の有力紙 Las Vegas Review-Journal と Las Vegas SUN が大相撲への賭けに関して3年前にしっかりと記事にしていたのである。
その記事を要約すると、コロナ禍で主要スポーツの多くが中止になったことを受け、開催されているスポーツをカジノ側(スポーツブック側)が探していたところ、無観客でも開催することが決まった2020年大相撲春場所を見つけて賭けの対象とした、というもの。
ちなみにそのスポーツブック(胴元)は英国を本拠地とする世界的な企業 William HILL。
同社はラスベガスにも進出しており、シーザーズパレス、フラミンゴ、パリス、トロピカーナなど複数のカジノホテル内でスポーツの賭けを受け付けている。
当地に住みながらその記事を見落としていたことは誠にお恥ずかしい限りだが、それはともかくコロナ禍の異常事態がきっかけで始まったこととはいえ、大相撲を賭けの対象としたことには驚きを禁じえない。長らく八百長疑惑がつきまとっていたからだ。
それでも賭けの対象とした背景には、近年日本の大相撲がいわゆるガチンコ勝負になってきた、つまり八百長相撲(相撲協会の用語では「無気力相撲」)を一掃した(とされているが真偽は不明)という環境の変化があり、それをスポーツブック側が察知したのかもしれない。
たしかに一昔前までは横綱や大関が負け越すようなことはめったになかったが、今では横綱はともかく(横綱は負け越しそうになると休場するのが慣例)大関の負け越しなど毎場所のように見られる出来事で、昇進したばかりの大関が陥落することも珍しくなくなってきている。
また横綱や大関も本気で対戦するようになったためか負傷することが多く休場が後を絶たない。
そしてとうとう先日終わったばかりの2023年春場所では横綱も大関も全員休場という前代未聞の異常事態となった。
スポーツであると同時に興行でもある大相撲は観客や視聴者に楽しんでもらうことが一義的な目的であり、だとすると横綱と大関の不在は非常に好ましくない不都合な事態といえるわけだが、それでもそれが現実に起こってしまったということはケガをするほどのガチンコ勝負が増えてきている何よりの証拠といってよいのではないか。
話をカジノでの賭けに戻す。
そのような八百長相撲の一掃という日本側の変化と、コロナ禍で賭けの対象とする新たなスポーツを探していた William HILL側の事情が重なったことにより 2020年春場所で実験的に始めてみたようだが、はたしてコロナ禍がほぼ終わって多くのスポーツが再開されている今でも大相撲に賭けることができるのだろうか。
結論から先に書くならば、その答えは「ノー」だ。少なくとも在ラスベガスの合法カジノにおいて今は大相撲に賭けることができない。(違法カジノがどこでどのような活動をしているかは当方の知るところではない)
2023年春場所の開催期間中だった先週、William HILL に運営を委託しているシーザーズ系列のカジノホテルはもちろんのこと、当地で最大勢力を誇るMGM系列のカジノホテル、さらには大規模なスポーツブックとして定評の Westgate ホテルとダウンタウンの Circa ホテルのそれぞれの窓口に出向き、3年前のニュース記事を現場の担当スタッフにスマホで見せながら現在(2023年春場所の対戦)も受け付けているかどうか確認してみた。
その結果、どこの窓口においても端末機で念入りに調べてくれたり該当部署などに電話してくれたりしたものの残念ながら大相撲への賭けは現在は受け付けていないとのこと。
そのような状況なのでコロナ禍が落ち着いてきた現時点ではたぶん来場所(5月)以降も大相撲が賭けの対象になることはなさそうな気配ではあるが、3年前に一度でも William HILL が大相撲に着目してくれたという事実は大に注目に値する出来事といってよいだろう。
少なくともすでに大相撲の存在には気づいてくれているわけで、再び賭けの対象となる可能性は十分にあると考えたい。
もし賭けられるようになった場合、払戻倍率などの賭率はどこでだれが決めるのか非常に興味深いところではあるが、ビジネスとして成り立たせるためには各力士の体調や対戦成績などかなりレベルの高い情報を集める必要があるはずなので、おそらく日本側に専属のスタッフや契約スタッフを置くことになるのだろう。
それでも本格的な相撲ファンだったらそのカジノ側よりも精度の高い勝敗予想ができる可能性もあり、そうなれば払戻倍率のわりには有利な賭けを見つけることができるかもしれない。
たぶん初期の段階では、カジノで高額のカネが動いているとなると八百長などの懸念も出てくるので賭金の上限が1000ドル程度に抑えられると思われるが、それでも相撲ファンとしては勝率的にもかなり楽しめるギャンブルになるのではないか。カジノが大相撲への賭けを復活してくれることを首を長くして待ちたい。