日本で過ごした幼少期、毎年クリスマスに母親が作ってくれたチキン料理を食べたことを思い出す。
美味しければそれで十分だったのか、「なにゆえクリスマスにチキンなのか」と疑問に思うこともなく、それを母に質問することも一度もなかった。質問したところで答えてもらえなかっただろう。
あれから半世紀以上が経過した今、大多数の国民がキリスト教信者ではないにもかかわらず今でもその習慣が広く日本に根付いているところが興味深い。
ただ近年はいわゆる「おふくろの味」のような手造りのチキンではなく KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)など外食産業のチキンを買う人が多いと聞く。おせち料理も手造りではなく完成品の購入が普通になってきているというから KFCからの調達も時代の流れといったところか。
手造りか購入かはともかくそんな日本でのクリスマスとチキンの関係、理由やルーツには諸説あるようなのでここではあえて掘り下げないこととするが、ここラスベガスでは、いやアメリカ全土でもキリスト教徒かどうかに関係なく 11月のサンクスギビング(感謝祭)にターキー(七面鳥)を食べることはあっても クリスマスにチキンを食べる習慣はまったくと言ってよいほど一般的ではない。
それぞれの国に独自の習慣があるのは当たり前のことなので、日本とアメリカのクリスマスが同じである必要はぜんぜんないが、非常にビックリというか「おやっ?」と思った話をつい先日ネットニュースで耳にした。日本の KFC がクリスマスを前にした 2022年10月からチキンバーガーの販売を開始したというのだ。
日本の読者にしてみれば、「えっ、KFCのチキンバーガーなんて前からあったよ」と思うかもしれないが、その認識は正しくない。
日本の KFCがチキンバーガーを販売したことは過去に一度もなかったはずで、そのことは今回 KFCが発表した内容からもわかる。
では長らくKFCが販売してきたものは何だったのか。それはチキンサンドイッチだ。そして 10月から売り始めたのがチキンバーガー。
商品名としては「チキンフィレバーガー」、「チーズチキンフィレバーガー」、「和風チキンカツバーガー」などいろいろあるようだが、とにかく従来の「サンドイッチ」(あるいは「サンド」)という言葉がすべて「バーガー」に置き換わったのである。
「チキンサンドイッチがチキンバーガーに変わったぐらいでどこがビックリなのか?」と言われそうだが、世界のフード業界の常識からすると大事件レベルのビックリ案件といっても過言ではない。
なぜならチキンバーガーは本家本元のアメリカの KFC に存在しないどころか、そもそもアメリカ全土においてもチキンバーガーという名称のものは存在しないからだ。
どこかの都市、もしくはどこかの店に存在している可能性は否定できないが、チキンバーガーという表現は反則というかルール違反というか使ってはいけな単語なのである。
その理由は簡単で、バーガーというものは牛肉、つまりバンズの間に挟まれているものはビーフでなければならないからだ。それ以外のものが挟まれている場合はサンドイッチと称されることになる。マクドナルドのフィレオフィッシュはフィレオフィッシュバーガーとは呼ばない。
なので長らく日本のKFCはルールを守って「チキンサンド」という言葉を使ってきたわけだが、それを今回「チキンバーガー」に変えてしまった。もちろん反則行為ということはわかっていての決断だったと思われるが、なぜそこまでしてでも改名する必要があったのか。
いろいろなニュース記事によると、日本で「サンド」と表現すると一般的なハンバーガーの形状、つまり上下2つのバンズの間に何かが挟まっているモノを想像してもらえない、ということが理由らしい。
日本における「サンド」は食パンを使ったものがイメージされやすく、結果的に KFCは損をしてきたようだ。
なぜなら、せっかくハンバーガー形状のチキンサンドを用意していたにもかかわらず、その存在に気づいてくれない消費者が多かったからとのこと。たしかに「KFCはチキン単体を買いに行く場所」という印象が強い。
そのような理由で日本の KFC はビーフを使用していない商品をあえてバーガーと称して販売するという業界の常識を無視した行為に出たわけだが、そのうち訪日アメリカ人観光客などから「ビーフではない! だまされた!」と指摘され騒動に発展しないのか少々心配にもなってくる。
とはいえ今回の名称変更をアメリカ側のKFCが承認していないとも思えないので、大きな問題にはならないだろうとの読みがあるのかもしれない。
いずれにせよ、国によって一つの単語の解釈や定義に大きな違いがあるということは興味深いことであると同時に知っておいて損はないはずだ。
アメリカ旅行の際、ファストフード店などで「ワン・チキンバーガー、ツー・ビーフハムサンドイッチ、プリーズ!」などと言わないようにしたい。
ちなみに「ハム」は必ずポークという決まりがあり、原則としてビーフやチキンを使ったものをハムと称することはない。
クリスマスにまつわる話として日米の違いを取り上げてみたわけだが、ついでに余談を。というか、こっちが本題かもしれない。
食べ物ではなくクリスマスそのものに関しても日米の違いは年々広まりつつある。
簡単に言ってしまえば、日本では街中のイルミネーションなどイベントとしてのクリスマスの存在が年々大きくなってきており、アメリカではその逆、ということ。
アメリカにおいて「メリー・クリスマス」などといった挨拶は話し言葉でも書き言葉でももはや死語になりつつあり、また企業間でクリスマスカードを送り合うという習慣もほぼ消滅した。
その代わりどのような挨拶があり、どのようなカードを送り合うのか。それに関しては話が長くなってしまうので以前に掲載した 週刊ラスベガスニュース第1089号 を参照されたし。
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