当地ラスベガスはいろいろな業界の中心地、聖地、総本山だったりする。「エンターテインメントの聖地」、「ギャンブルの総本山」などがその一例だが、ボクシング、ショービジネス、コンベンション、ナイトクラブなどの分野においても世界の中心地的な存在として知られている。
さらには、ややマイナーなスポーツになってしまうが、ロデオ、ボディービルディング、ボウリング、バスフィッシングなどの世界大会が開催されることから、これらの分野に携わっている人たちにとってはやはり聖地になっているようだ。
前置きはそのへんにして、聖地という表現はふさわしくないが、まったく別の分野で「ラスベガスが世界的にみて突出している部分」を紹介してみたい。それは「水道水の硬度」だ。
一般の観光客にとってはどうでもよさそうな情報かもしれないが、ここの読者はかなりマニアックなベガスファンも多いようなのであえてその話題を取り上げてみたい。
ラスベガスは世界屈指の超硬水
世界的にみてアメリカの水は総じて硬度が高いとされている。その広大な国土の中でも特にラスベガスは屈指の超高いレベルにあるので知っておいて損はないだろう。
「それを知ってどうするんだ!」と言われそうだが、ラスベガスに滞在中、直接水道水を飲むことはないにしてもホテル内でシャワーを浴びたりすることはあるはずで、その際「なぜこんなに泡立ちが悪いのか? 安物のシャンプーなのか?」などと思ったりする可能性がある。
硬水がその原因であることを知らないと、せっかく好きで選んで泊まったホテルを嫌いになってしまいかねない。
カルシウムとマグネシウムから算出
話を進める前に水の硬度について簡単に触れておきたい。
いわゆる「硬水」、「軟水」といった言葉で表現されがちな水の硬度とは、その水の中の鉱物(ミネラル)の含有量のこと。
そしてその数値の算出方法は国際的に決められており、水の中に存在するカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのさまざまな鉱物の中のカルシウムとマグネシウムの含有量から導き出される炭酸カルシウムの濃度を数値化したものが硬度で(単位は mg/L、1リットル当たりのミリグラム)、その数値が高いほうが硬水、少ないほうが軟水だ。
硬度の差はとてつもなく大きい
意外と知られていないのがその硬度のレベルの差、つまり世界各地の水の硬度に差があることは多くの人がなんとなく理解していても、硬水と軟水の硬度差がとてつもなく大きいことはあまり知られていないのではないか。
その差は2倍とか5倍のレベルではない。数十倍の開きがあったりするのでまさにケタ違いの差と考えてよいだろう。
日本は全国的に軟水
具体的な数値としては、硬度10以下の軟水から硬度数百の超硬水まで実際に存在していおり、世界的な基準としては以下のように分類されている。
ちなみに沖縄など一部の地域を除く日本の大部分の地域の水道水は 40~50mg/L とされているので全国的に軟水だ。(ただし関東と熊本はやや硬水)
0 ~ 60: 軟水
60 ~ 120: やや硬水
120 ~ 180: 硬水
180 以上: 超硬水
「アメリカ=硬水」とは限らない
アメリカは総じて硬度が高いことはすでに書いたが、国土が広いので軟水地域もかなりあり、ニョーヨーク、ボストン、シアトル、ニューオリンズなどは日本と同レベルの軟水となっている。なので「アメリカ=硬水」と決めつけて考えないほうがよい。
一方ラスベガスは世界トップレベルの「超硬水」で(2022年に水道当局が発表した直近の数値では 265mg/L)、近隣のロサンゼルスなどと比べても突出して数値が高い。コロラド川水系の地質やミード湖の環境が大きく影響しているとされている。
やはり「それを知ってどうするんだ!」と言われてしまいそうだが、たしかにその通りで一般観光客にとっては前述の石鹸やシャンプーの泡立ち以外には特に知っておいて得するような情報ではないかもしれない。
ここで話を終わらせてしまってはつまらなので水の硬度に関する余談をしてみたい。
水道水のほうがミネラルウォーター
日本ではボトルに入って売られている水のことをミネラルウォーターと呼んだりすることが多いようだが、硬水の地域が多いアメリカでは水道水そのものにミネラルがたっぷり含まれているためかミネラルウォーターと呼ぶことは少ない。一般的には bottled water が普通だ。
日本でも水道水よりもミネラルが少ない水が売られたりしているので、ボトルに入っている水を一律にミネラルウォーターと呼ぶのはおかしな話ではある。
ちなみに日本で売られている国内産の水の多くは硬度 100mg 以下なので、水道水(平均40~50mg)と大差ないか、むしろ水道水よりもミネラルが少ない。
参考までにサントリーの公式サイトによると、『サントリー天然水』の硬度は産地によって異なり、南アルプス(30mg)、北アルプス(10mg)、奥大山(20mg)、阿蘇(80mg)となっているので、阿蘇産以外は水道水のほうがミネラルウォーターといえそうだ。ミネラルを摂取したくて買っている人は考え直したほうがよいかもしれない。
両極端なボルヴィックとエイビアン
ミネラルの多い少ないでいえば、世界的に広く知らているブランドで両極端なのはボルヴィックとエイビアンだ。
ボルヴィックの硬度の低さは有名で約60mg。日本産はともかくヨーロッパブランドの水としては異例の低さで、もはやミネラルウォーターとは呼べないレベルの軟水だ。
一方、硬いことで知られるエイビアンの硬度は約300mg、ボルヴィックとは5倍もの開きがあるのでミネラル好きにとってはたまらないブランドといってよいだろう。
ついでにエイビアンほど有名ではないかもしれないが、炭酸水系のペリエとサンペレグリノはそれぞれ約400mg、600mg というからさらにその硬度は驚異的だ。
硬水と軟水、どっちがいい?
さてここでだれもが気になってくるのが「硬水と軟水、どっちがいいんだ?」ということになるだろう。
結論から先に書くならば、健康と泡立ちの部分以外は「各自の好みの問題」と考えてよいのではないか。
「硬い水のほうが美味しい」という人もいればその逆の人もいる。「日本料理には軟水が合うが、洋食には硬水だ」という人もいたりする。
食の専門家からは異論もありそうだが、一般の人にとっては大きな違いは感じにくいような気がするが果たし実際はどうなのか。
病気がちの人などは要注意
健康に関する部分では注意が必要かもしれない。運動をして汗を流したりしたあとはミネラルを補給したほうがよいと言われたりする反面、腎臓病や腸が弱い人、さらに乳幼児にはミネラルの摂取は要注意とされている。
ボルヴィックとエイビアンのように極端に差があったり、スポーツドリンクでもミネラルの含有量が大きく異なっていたりするので、病気がちの人などは気をつけたほうがよさそうだ。
「天然=安全」とは限らない
あとこれは硬度の話とは少しずれるかもしれないが、何でもかんでも「天然=安全」と考えるのは要注意だ。
たとえば大自然の典型のようなヒマラヤ地域やその周辺エリアの地下水のミネラルの中にはヒ素も含まれており(ヒ素は人間が作った化合物と勘違いしている人も多いようだが、天然の大地に存在する元素)、実際にバングラディッシュなどでの大規模なヒ素中毒は国際的な問題となっている。
WHO(世界保健機関)はもちろんのこと、日本のJICA(国際協力機構)も対応にあたっているが、かなり深刻のようだ。
有毒とされる鉛や水銀も天然に存在する元素なので食の安全を考える際は天然や無調整といった言葉を過信しないほうがよい。
やはり硬水はやっかいな存在
さて最後にラスベガスの硬水に話を戻す。硬水と軟水、どっちがよいかは好みの問題と書いたばかりだが、味などの部分以外では硬水はやっかいな存在になることが多い。
石鹸やシャンプーの泡立ち以外にも困ることだらけで、たとえばミネラルがこびりついたりする関係で蛇口や配管など水回りのダメージが大きく、温水シャワー便座、食洗機、さらには庭のスプリンクラーなども故障しやすい。
また、洗ったワイングラスなども乾く前にきちんと水分を拭き取らないと見苦しい状態になってしまうし、同様にスプリンクラーの水が風に流されて駐車中の車などにかかると窓ガラスや車体が白くなってしまう。(特にラスベガスは湿度が低いので乾くのが速い!)
ベガス市民はどうやって対応?
そんなやっかいな超硬水に不便を感じているラスベガス市民はどのように対応しているのか。それはソフナー(softener)だ。
ソフナーといっても日本で売られている洗濯洗剤などのたぐいではない。家庭内に(おもにガレージなどに)設置する直径数十センチ、高さ1メートル強のタンクのような装置だ。これに外からの水道水を通して家庭内の配管に送る。
そのよう事情からラスベガスなど硬水の地域のホームセンターなどにはソフナーがずらりと並んでいるわけだが、全家庭がこれを設置しているとは限らず、泡立ちの悪さや配管のダメージなどを気にしないという人たちは設置していない。
ラスベガスのホテルでも一部の高級ホテルではソフナーで処理した水を客室に供給しているようだが、維持費がかかるため(ミネラルを除去するためにソフナーには塩化ナトリウムなどを常に補給しておく必要がある)、ごく限られたホテルだけだと聞く。
具体的にどこのホテルがそうしているかは残念ながら調べていないので、ここの読者がシャワーで泡立ちが良かったといった経験をしたホテルがあったら報告して頂ければ幸いだ。
(日本の水の硬度などに関して東京大学大学院総合文化研究科の堀まゆみ特任助教らの研究資料を参考にさせて頂きました。厚く御礼申し上げます)
コメント(4件)
助教授という役職は、今の日本にはありません。
「特任助教授」ではなく「特任助教」ですね
ラスベガス大全をご閲覧、そしてご指摘も頂きありがとうございます。
お恥ずかしい限りです。至急「授」を削除し訂正させて頂きますので少々お待ち頂ければ幸いです。
シーザーズパレスは軟水に処理されていると思います。日本から持参したシャンプーも洗濯石鹸も変わりなく泡立ちました(^^)-2022.11月-