海外旅行から日本に帰国する際、現地を出発する直前に取得しなければならない新型コロナの陰性証明が 2022年9月7日から不要になるとのこと。いよいよ日本人にとっての海外旅行も現実的なものになりそうだ。
この日を待ちわびていた人たちにとっては朗報ということになるわけだが、当地ラスベガスを目的地と考えていた人たちにとってはさらにもう一つ喜ばしいニュースがある。治安が良くなるかもしれないという話だ。
そう書くと「ラスベガスって治安が悪かったの?」と思われてしまいかねないが、そういう話ではない。ルールの新設だ。簡単にいってしまえば、犯罪歴がある者に対する繁華街への立入禁止条例。
今月初め、クラーク・カウンティー委員会は「有罪判決を受けたことがある者はストリップ地区内に立ち入ることができない」という条例案を全会一致で承認した。
ちなみに「カウンティー」とは行政単位のことで、日本では「郡」と訳されることが多いが、面積的にも権限的にも日本の「県」に近いと考えたほうがよいだろう。ラスベガスはそのクラーク・カウンティーに属している。
「ストリップ地区内」が意味する具体的な範囲は、南北に走るラスベガスの目抜き通り「ザ・ストリップ」の主要な繁華街部分で、北端はサハラホテル、南端はマンダレイベイホテル、東側はウェストゲート、ヴァージン(旧ハードロック)、OYO、そして西側はオーリンズ、パームスまでの各ホテルが範囲に含まれている。ダウンタウン地区は今回の条例案の対象外。
したがって対象者はストリップ地区のほぼ全域に足を踏み込めないことになるわけだが、例外として立入禁止区域内での就労、礼拝、さらに公共交通機関での通過などは認められる。
これまでにも売春や薬物取引などの犯罪歴がある者に対して、個別に立入禁止命令が出されることはあったが、今後は幅広い犯罪に適用される。
ただこの条例はおもに、犯罪により収監されていた者が仮釈放される際の条件、つまり「仮釈放を認めるが、ストリップ地区に立ち入ってはならない」という形での適用になりそうで、過去の犯罪歴者が永遠に立入禁止となるわけではなく、そのへんの有効期限的なことはまだ決まっていない模様。
今回このような条例が検討されることになった背景には、コロナの収束(完全にコロナがなくなったわけではないが)にともなう観光客の急増と、コロナ規制撤廃による解放感などに起因する犯罪の増加があるという。
ちなみにストリップ地区での犯罪件数は 2021年の同時期と比較して16%増加しているらしい。とはいえ窃盗などの財産犯罪が急増しているだけで、暴力、殺人、売春、薬物犯罪などは増加していないばかりか、そもそも2021年はコロナ禍で来訪者が少なかったことを考えると、その時期の数字と比較するのもどうかと思うが、犯罪が少なくなることが期待されるなら新条例を歓迎したい。(繁華街に侵入できなくなったからといって、住宅街で犯罪を犯されたのでは困るが)
このあと年末にかけていろいろ議論を重ねたのちに正式な条例として施行される運びとなりそうだが、立入禁止区域内への侵入をどうやって見つけるのかなどに関しては発表されていない。
仮釈放者にいわゆる「GPS足輪」を付けるのか、繁華街に設置する監視カメラとハイテク顔認識技術を駆使するのか、そのへんのことが明らかになってからまた改めて本件を考えてみたい。
最後に犯罪率に関して。読者からラスベガスの治安に関してときどき質問を受け、犯罪率などの話になったりすることがあるが、当地に限らず、どこの国でもどこの都市でもその犯罪率統計などはあまり真剣に受け止めないほうがよい。というか比較すること自体にほとんど意味がない。その理由は以下の通り。
◎ 「人口当たりの犯罪件数」といっても「人口」の定義が不明だったりする。観光都市においては訪問者によって人口が膨れ上がるわけだが、その増加人口をどのように調整しているのか明確になっていない統計が多い。
◎ 統計に含まれる犯罪の種類が国や地域にまちまち。自転車泥棒、贈収賄、選挙違反などを統計に入れているのかいないのか。
◎ 売春やマリファナなど、同じ行為でも犯罪になる国とならない国がある。
◎ 重複犯罪、たとえば強盗殺人などを1件の犯罪としてカウントしている国と、「強盗罪」と「殺人罪」の2件の犯罪として統計を取っている国があると聞いたことがある。(定かではない)
◎ 観光客にとって大いに気になるスリ、置き引き、車上荒らし、路上での暴行などは、発生してもすべてが警察などにレポートされているわけではない。
◎ 警察などにレポートされたとしても、それをしっかり統計として記録に取っておくとは限らない。(特に発展途上国などではそういったことが予想される)