今週はラスベガスにおける命名権の話。ついでに日本の「味の素スタジアム」ならぬラスベガスのなんちゃって「味の素 マディソン・スクエア・ガーデン」の現状を写真で紹介してみたい。
命名権の対象範囲は非常に広い
「命名権」という言葉が使われる対象物の範囲は非常に広い。芸能人などの人名、バス停や駅名、さらには新発見された生物や天体の名前など、ありとあらゆるものに対して名前をつける権利のことだが、特に対象物がスタジアムやコンサートホールなど露出度の高い公共施設の場合、持ち主がその権利を企業などに高額で売ったりする。
命名権ビジネスは Win-Win
売り手にとっては施設そのものを売却するわけではなく名称だけを売るのでコストはゼロに近く、買い手にとっては社名や商品名の知名度アップという意味で、安く買えれば費用対効果が大きい。つまり双方が Win-Win の関係になりやすい。
アメリカでは20年以上も前から導入されているこの命名権ビジネス、日本でも最近はすっかり定着してきており、横浜国際総合競技場が「日産スタジアム」に、大阪ドームが「京セラドーム大阪」になったりしているのはその典型だが、とりわけ名高いのは Jリーグの FC東京や東京ヴェルディが使用している「味の素スタジアム」だろう。
ベガスで目立つ命名権による名称変更
話はいきなりラスベガスに移るが、この命名権による名称変更、当地でもかなり盛んに行われており、つい最近も大きな2つの施設が名前を変えた。マンダレイベイホテルに隣接するアリーナと、パークMGMホテルのシアターだ。
その他にもプラネットハリウッドホテルにあるシアターも数年前に名称変更しており、さらにあげるならば開業当初から企業名が付けられた Tモバイルアリーナ、東芝プラザ、アレジアント・スタジアムなど命名権の売買は枚挙にいとまがない。
そして最後に今回の話題の中心である味の素ならぬ MSG Sphere(まだ命名権を売っていないが)を加えた各施設を以下に写真で紹介してみたい。
ビールの名前が付いたアリーナ
マンダレイベイホテルに隣接する「Mandalay Bay Events Center」はスポーツイベントやコンサートなどさまざまな大型イベントに使われている 12,000席規模のアリーナ。
かつて「大相撲ラスベガス場所」が開催されたこともある(2005年)。現在は女子プロバスケットボールリーグ WNBA の Las Vegas Aces のホームアリーナとして使用されることが多い。
2021年から名称が「Michelob Ultra Arena」に変更。Michelob Ultra は、バドワイザーで知られるビール大手アンハイザー・ブッシュ社の商品名。
音響関連の研究開発企業が劇場名に
パークMGMホテル(元モンテカルロホテル)内の「Park Theater」は、かつて人気マジシャン「ランス・バートン」のマジックショーが開催されていた会場。それを拡張改装して誕生したのが現在の 5,000席規模の大型シアターで、レディー・ガガなど大物スターのコンサート会場として使用されている。
2021年から命名権の売却に伴い名称が「Dolby Live」に。Dolby は音響関連に特化した世界的に名高い研究開発企業。ちなみにアカデミー賞の授賞式が行われるハリウッドの劇場も同社の名前がついた「Dolby Theater」。
シューズの販売会社が命名権
現在のプラネットハリウッドホテルに隣接する 7,000席規模の大型シアターは、かつて「Aladdin Theatre for the Performing Arts」、その後「The AXIS at Planet Hollywood Resort & Casino」などたびたび名前を変えてきたが、2018年からは「Zappos Theater」に。命名権を買った Zappos社はシューズのネット販売の大手。
ちなみにこのシアターではかつてミス・ユニバースやミスUSA などのページェントが頻繁に開催されていたが、近年は開催されていない。
携帯電話会社名のアリーナ
T-Mobile Arena はパークMGMホテルとニューヨークニューヨークホテルの間の空き地に建設された 20,000席規模のアリーナ。2016年の開業当初からこの名称になっている。T-Mobile はアメリカの携帯電話会社。
プロアイスホッケーリーグNHL の地元チーム「Vegas Golden Knights」のホームアリーナであると同時に、さまざまな大型イベントの会場としても使用されている。
東芝など日本企業も命名権を取得
Toshiba Plaza は T-Mobile Arena の入口の前に広がる約2エーカー(約2,500坪)の広場。ステージが設けられており、野外コンサートやフェスティバルなど各種屋外イベントに利用されている。開業当初からこの名称。
日本企業がアメリカで命名権を取得するケースはそれほど多くないので、日本人としては喜ばしいことではあるが、東芝の業績が芳しくないので今後の成り行きが心配される。
参考までに、日本企業が命名権を取得している大規模施設としては「Honda Center」(アイスホッケーリーグNHLのアハナイム・ダックスの本拠地)、「Bridgestone Arena」(同、ナッシュビル・プレデターズの本拠地)、「Toyota Center」(プロバスケットボールリーグNBAのヒューストンロケッツの本拠地)などがある。
ベガス最大のスタジアムは航空会社名
Allegiant Stadium は 2020年に完成したラスベガス最大のスタジアム。座席数はイベントに応じて 約60,000~72,000席に可変。
アメリカンフットボールのプロリーグ NFL の地元チーム「Las Vegas Raiders」の本拠地であると同時に、大物スターのコンサートなど各種大型イベントにも使用されている。
Allegiant はラスベガスに本社を置く格安航空会社で、小規模の都市への路線に強い。
「味の素」っぽい名称の地球型施設
最後は現在建設工事が進められている地球型多目的ホール「味の素 マディソン・スクエア・ガーデン」。
「味の素」というのは冗談で、現時点での名称は建設主体である Madison Square Garden 社のイニシャルをそのまま使った「MSG Sphere」。Sphere は球体のこと。
なにゆえ「味の素」か。すでに多くの読者がご存じかと思われるが、アメリカで「味の素」のことは MSG。
うまみ成分であるグルタミン酸ナトリウムの英語表記 Monosodium Glutamate から MSG と呼ばれているわけだが、一般のアメリカ市民にとって「MSG」という言葉を聞いて連想するのは、たぶん「マディソン・スクエア・ガーデン」ではなくて「味の素」だろう。
そんなこともあり「MSG Sphere」が別の名称になるのではないかとの噂もあるようだが、マディソン・スクエア・ガーデン自体がすでに企業名になっているため命名権の販売という発想にはなりにくいと思われる。
どのような名称になるにせよ、この施設の完成は 2023年を予定しているが、当初 MSG社と共同でこのプロジェクトを企画した Las Vegas Sands 社がこのたび投資会社 VICI や Apollo などにこの施設の所有権や運営権を売却してしまったため、今後の成り行きが注目される。