コロナ後のコンベンション業界は消滅の道をたどるのか

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 当地ラスベガスで毎年1月初旬に開催されてきた超大型コンベンションCESが先週無事に終了した。
 終了したといっても新型コロナの影響で今年の開催はオンライン。つまり例年のように世界各国から著名企業や何十万人もの人たちが一堂に集まったわけではない。ネット上の仮想空間に集まっただけだ。
(後述するが、30日間延長となったので厳密にはまだ終了していない)

日本でも注目される巨大イベント

 ちなみにCESは毎年4000社以上が出展するハイテク業界の見本市
 もちろん日本企業の露出度も高く、ソニーやパナソニックなどエレクトロニクス業界は言うに及ばず、近年はトヨタ、ホンダ、ニッサンといった自動車業界も参戦するなど、日本の名だたる大企業が多数出展することから日本でも注目されている巨大イベントだ。規模ばかりか、半世紀以上も前から続いているので歴史も長い。
2019年開催のCES。

2019年開催のCES。

今回のCESは大いなる実験

 毎日のように大小さまざまなイベントが開催され「コンベンション都市」といわれて久しいラスベガスにとってもCESは最大のイベントであり、それがゆえに今年のオンライン開催は地元の関連業界(例年であれば、ホテル、飲食、運輸、設営、広告、印刷、通訳などが大いに関係していた)はもちろんのこと、世界中のさまざまな業界にとっても今後を占う「大いなる実験」として注目されていた。

コロナ前の状態に戻れるのか

 特にコンベンション業界そのもの、つまりモーターショー、アパレルショー、フードショーなど世界各地でコンベンションを企画したり主催している企業や団体にとって、今回のCESのオンライン開催の成否は自分たちの今後の存続やあり方を左右しかねない試金石となるだけに、固唾を呑んで見守っていたに違いない。
 はたしてアフターコロナの時代、コンベンションはどのような方向に変化していくのか。あるいは変化せずにコロナ前の状態に戻るのか。それを以下で考えてみたい。

コンベンションの定義

 ちなみにここでいうコンベンションとは、いわゆる見本市、展示会、新製品発表会、国際会議、代理店会議、表彰式 などを含む「たくさんの人や企業やモノが一堂に集まるイベント」のことで、業種などは問わない。
 コンサートなども含めても良いのかもしれないが、とりあえずそのへんの線引はあまり深く考えないものとする。
 ただしスポーツイベントはアスリートが現場に集まる必要があるため(オンラインで競技可能なスポーツもあるが)、ここでの議論に含めるべきではないだろう。

在宅勤務の定着と同じことが

 そんな広義のイベントの代表格ともいえる巨大コンベンションのオンライン版が実験的に開催され、そしてそれが終了した今、さまざまな業界やメディアやシンクタンクなどがいろいろな角度から分析したり将来予想のためのデータ集めなどに奔走しているようだが、「今後の開催はほとんどオンラインになる。従来型のコンベンションはなくなるだろう」といった過激な意見はまだ聞かれて来ない。
 あまりにも影響が大きすぎるので慎重になっているのか、悲観的な推測は自分たちの業界にとって好ましくないので発表しにくいのか、そのへんの事情はわからないが、いずれにせよ今後のコンベンションのあり方がコロナでまったく影響を受けないとは考えにくい。
 コロナでにわかに注目され始めた在宅勤務がそのまま定着するのではないかと言われているのと同様、元の状態には戻らない可能性はいくらでもあるように思える。

観光局は当事者

 余談になるが、コロナ後のコンベンションは、企業や業界のみならずラスベガス観光局にとっても大いなる関心事のはずで、他人事ではないというかむしろ当事者というべきだろう。
 なぜなら観光都市ラスベガスの経済に大きく影響することもさることながら、なんとラスベガス観光局は ラスベガス・コンベンションセンターを所有・運営 しているからだ。
 さらにCESの将来的な巨大化を見据えて2年前から巨額を投じ 新たなコンベンションセンターを建設し始め、このたびそれが完成したばかりというから何ともタイミングが悪い。

税金の無駄づかいでも批難なし

 参考までにその建設費の原資は地元での税金だ。もし今後従来型のコンベンションが縮小あるいは消滅の方向に向かうのであれば無用の長物となりかねず、予期せぬコロナが理由であったにせよ納税者から批難を浴びる可能性があるわけだが、たぶんそうはならないだろう。
 というのも、その税金は地元で徴収されたものではあるが地元民が払ったわけではなく、ホテルの宿泊税(宿泊料金の約13%)として観光客などが払ったものであるため、世界各地に散らばるそれら納税者からの批難の声がラスベガスに集まるとは考えにくいからだ。

元の状態には二度と戻らない

 話は横道にそれてしまったが、ここからが本題。今後のコンベンションの成り行きを今あえてここで予想するならば、元の規模での開催はほとんど無くなってしまうような気がしてならない。
 つまりコロナが完全に終息したとしても 従来型の巨大コンベンションは二度と戻ってこないと予想する。

 といっても数字的な根拠などがあるわけではない。長年に渡りさまざまなイベントをラスベガスで見てきた立場としてのいわゆる肌感覚だ。

出展者は成功、主催者は失敗

 今回のオンライン版が大成功を収めたからそう感じているわけではない。そもそも成功したかどうかの判断はまだ時期尚早だし、むしろ失敗の可能性もある。というか失敗、成功の定義がむずかしい。
 出展企業は成功したと思っていても、主催者は失敗だったと感じているかもしれない。いや、たぶん失敗だったと思っているはずだ。
 出展企業にとっての成功か否かは費用対効果、つまり出展にかかった費用に対してマーケティング的な意義や宣伝効果がどの程度あったかで決まる。
 オンライン開催の場合、ブースの場所代や設営費用、さらには出張者の交通費、宿泊費、食費などが不要になることを考えると、宣伝効果が多少減ったとしても成功と感じる可能性はある。

ブース代、3坪で60万円

 一方、主催者にとってオンライン開催は良いことなどほとんどないのではないか。
 というのもコンベンションビジネスの収益源は、イベント会場の所有者からスペースを安く借り、それを出展企業に高く売ること だからだ。
 ちなみにラスベガスで開催される主要コンベンションのブース代は1区画おおむね 3000~6000ドル(30万円~60万円)が相場といわれている。
 1区画とは通常「10 by 10」(テンバイテン)と呼ばれる 10フィート(約3メートル)四方、つまり約9平方メートルのサイズで、日本流に言うならばわずか約3坪ということになり決して広くない。
 大企業のブースともなれば 10区画以上を使用するのが当たり前で、結局、場所代は日本円換算で数百万円にもなる。場合によっては1千万円を超えることも少なくない。
 オンラインで開催すると、主催者はその巨額の収入を得る機会がなくなってしまう。ちなみに場所代の仕入値は売値の10%以下だったりするので利益率は半端ではない。

主催者の収入源は多彩

 主催者にとっての収入源はそれだけにとどまらない。イスやテーブルなどブースで必要な物品の貸し出しも立派な収入源だ。
 さらに膨大な数の出展者や出張族のためにホテルの客室を大量に安く仕入れ、それを高く売ったりもする。イベント会場内で飲食物を販売する指定業者からの場所代あるいはコミッション収入も馬鹿にならない。
 もちろん会場全体の装飾やシャトルバスなどの手配、さらにはイベント自体の宣伝などそれなりに経費は必要なので必ずしも儲かるビジネスとは限らないが、ブース代の収入が収益の大黒柱になっていることは間違いない。

オンライン開催は意味無し

 そのような背景を考えると、主催者にとってオンライン開催を続ける意味があるのかという疑問が湧いてくるわけだが、たぶん無いだろう。
 その証拠というか、CESの主催者は今回のオンライン開催をあくまでも今回限りのものと位置づけており、来年からはまた通常に戻すとしている。当たり前の判断だ。
 「オンライン開催もやってみたらなかなか良いではないか」などと思っていたら来年もオンライン開催を検討するはずだが、そんなことはありえない。コロナの問題さえなくなればすぐにでも通常のリアル開催に戻すはずだ。

主催者よりも出展者

 しかし出展企業側は逆の立場かもしれない。今回のCESで「オンライン開催も悪くないかも」と考えた企業が少なからず存在しているように思える。ブース代や出張費が不要になるばかりか、準備に時間がかからず設営や片付けたりする手間も省けるからだ。
 そうなると主催者と出展者の思いが一致しなくなるわけだが、その場合、今後どっちの意見が優先されるべきなのかとなると、それは言うまでもなく出展者の意見だろう。出展者あってこそのコンベンションであり、出展者が望まない形でのコンベンションなど長期的に存続できるわけがない。

20年前から予想されていた

 じつは20年ほど前、インターネットが広く普及し始めたころ、「近い将来コンベンションは無くなってしまうはずだ」と多くの業界関係者が本気で考えた時期があった。
 理由は「新製品の発表などは各社が自分のウェブサイトで出来るようになってきた。わざわざ高い経費や時間をかけて一堂に集まる必要はない」と考えたからだ。筆者もその意見に納得したものだ。
 しかし予想は外れて、さまざまな業界においてコンベンションはまったく衰退していないどころか、むしろその多くは規模を年々拡大してきている。(もちろんコロナ前までの話)

主催者とメディアの関係

 業界のお祭りだ、ネットでは伝わらないことがある、取引先と顔を合わせないと商売にならない、同業他社の多くが参加している、参加しない企業は取り残されてしまう、などコンベンションが年々拡大してきた理由はいくつかあるようだが、出展企業側がそのように感じてしまう背景にはメディアの影響が大きい。
 どのコンベンションにも共通していえるのは、主催者がメディアを大切にしているということ。自身のイベントを大々的に宣伝してもらうことに余念がないからで、今も昔もその構図に変わりはない。
 実際に主催者はメディアをさまざまな形で手厚く優遇しており、どのような形で優遇しているかはそれぞれのイベントごとに違うので具体的にはふれないが、主催者とメディアが切っても切り離せない蜜月関係にあることは間違いない。
 イベント会場内でテレビ局、新聞社、雑誌社、業界専門誌などのカメラマンやレポーターをやたら多く見かけた記憶がある人は少なくないのではないか。

アップル社は例外の典型

 そのような背景もあり、企業の多くは「みんながそんなに注目するイベントなら参加しないわけにはいかない」と思いがちで、結果的に採算を度外視してでも参加したりすることになるわけだが、その傾向はブランドイメージなどを大切にしたがる大企業に多いように見受けられる。
 というのも予算的に余裕がない中小企業は本気でバイヤーや仕入先を探すことを目的に、費用対効果などを真剣に考えながら参加してくるので、お祭り気分だけで参加するようなことはしないからだ。
 なお大企業でもコンベンションでのイメージアップや業界内での仲間意識などはまったく気にせず、出展などに興味を示さない会社も少なからず存在している。そのような企業は自社や招待客のみのイベントで新製品を発表したりすることになるわけだが、アップル社などがその典型といえるかもしれない。

完成度の高さが皮肉な結果に

 くどいようだが、やはりどう考えても 従来型のコンベンションは衰退する傾向にあるように思える。もちろん肌感覚だが、たぶんその予想は的中するだろう。
 SNSなどが広く普及してきた今、メディアの影響力が相対的に低下して来ているのも理由の一つになるかもしれないが、それよりも大きな理由はネットの世界における技術の進歩だ。
 一昔前までのウェブサイトは文字と写真を単純に掲載する程度だったが、今は異なる。さまざまな角度から新製品の細部をリアルに表現したり実演や体験が可能となってきたりしているため、出展企業にとって自社製品の紹介における表現方法が多様化してきている。
 結果的にリアルのコンベンションに参加して実物を展示しなければ目的を果たせないというケースは減ってきているわけだが、皮肉にも今回のCESの高度な演出がそのような傾向に拍車をかけているところがなんとも興味深い。
 ようするにオンラインによるパソコン画面上での開催の完成度が高いと、出展者にとってリアルなコンベンションへの参加意欲や参加の必要性が低下してしまう。これはオンラインコンベンションの主催者としては「痛し痒し」といったところだろう。

フードショーは例外

 CESに限らず世界中のコンベンションの主催者はもはや従来型のイベントのことはきっぱり忘れてしまったほうが良いのかもしれない。
 フードショーにおける食品メーカーのように、バイヤーに味見をしてもらう必要がある場合などは例外として、ほとんどのイベントがオンラインで目的を達成できてしまうようになりつつあるからだ。
 もはや各コンベンションの主催者はオンライン開催を前提としたビジネスモデルの構築を早急に考えるべきだろう。

閲覧の有料化で生き残り

 実際に今回のCESにおいて、出展企業やメディア関係者などを除く一般閲覧者に対してはアクセスを有料にしていた。昨年までの従来型の開催においても一般の入場者は有料だったので驚くべきことでもなんでも無いが、オンラインでの参加者の有料化はビジネスモデルの一つの方向性として大いに検討する価値があるだろう。
 申込みのタイミングや参加可能な範囲などで(たとえば著名企業のカリスマ経営者などのライブ講演も視聴できる権利付きなど)料金体系は複雑だったが、最低の参加料でも 100ドル程度はしており、それなりの収入源となっているにちがいない。
 ただ、出展企業に対する「オンライン開催でのブース代」はあまり高く設定すべきではないだろう。それを高く設定してしまうと「じゃぁ自社サイトでやるよ」となってしまうからだ。
 ちなみに今回の開催におけるブース代は非公開とのことだったようなのであえてその数字をここでは記載しないが、従来型のブース代のように日本円換算で何百万円もしたわけではない。

オンライン開催で無限の利益

 イベント主催者にとって、リアル開催からオンライン開催に変化することが必ずしも減収になるとは限らない例がある。したがって今の段階であまり悲観的にならないほうが良いのかもしれない。
 その典型がコンサートだ。リアル開催だと会場の座席数が決まっているため販売できるチケットの枚数も限られてくるが、オンライン開催の場合、事実上 無制限だ。
 ネット回線や機器のキャパシティーが許す限り 100万人にだって売ることも可能で、実際に日本でも人気グループのコンサートなどにおいてそのような事例が実際に起っている。

収入源はハードからソフトへ

 つまりリアル開催におけるコンサートの主催者にとっての販売商品は 座席というハードになるが、それをオンライン開催にすることによって映像などソフトに切り替えることができ、無制限に販売できるようになるというわけだ。
 同様にコンベンションの主催者にとってもリアル開催の場合、ブースの面積というハードが販売商品になるが、オンライン開催にすることによりそれがアクセス権利というソフトに切り替わり無限に販売可能となる。

どうなる「開催期間」?

 オンライン開催では販売数が無制限になるばかりか期間も無制限にすることができる。ちなみに今回のCESにおいてあらかじめ決められていた開催期間(1/11~1/14)が終了したあと、主催者が「30日間の延長」をアクセス権利を持っている者にメールで通達してきた。
 期間の延長は出展企業にとっても閲覧者にとっても何のマイナス要因にもならないので当然の判断だろう。今後のオンライン開催のコンベンションにおいては開催期間という概念が変わって来るかもしれない。

日本でも対岸の火事ではいられない

 悲観的な話ばかりで長くなってしまったが、それぞれの主催者たちが知恵をしぼれば、生き残りの道が見つかるかもしれない。それがリアル開催になるのかオンライン開催になるのかはわからないが、ラスベガスという街を応援してきた立場の者としては可能な限りリアル開催を続けてもらいたいものだ。
 そうでなければ世界に誇るコンベンション都市としての資産である巨大なコンベンション施設も、そして開催を可能にしてきた15万を数えるホテルの客室も存在価値を失いかねない。そして何より、コンベンションを陰で支えてきたさまざまな業界の人たちも職を失ってしまう。

 そんな状況だけは何としてでも避けたいと思っているところだが、コンベンション業界がおかれた環境の激変はなにもラスベガスに限ったことではない。世界全体に及ぶ。
 当然のことながら日本の各地にあるコンベンション施設が無用の長物になってしまう可能性もあるばかりか、裾野が広い業界なだけにホテル、運輸、設営、広告、印刷などの分野にも多かれ少なかれ影響が出るはずだ。遠いラスベガスの対岸の火事とは思わずに、関係業界はそうなる日に備えて事前に対策などを考えておいたほうがよいだろう。
 コロナがなかったとしても遅かれ早かれコンベンション業界は大きく変化することになっていたかもしれないが、いくらなんでも変化が早すぎる。1年前、今年のCESがオンラインになるとは世界中のだれ一人として想像できなかったはずだ。
 やはりコロナが憎い。一日も早くコロナが消え、コンベンション業界にいつもの元気が戻ることを願いたい。

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