日本では 40度に迫るような猛暑がニュースになっているが、猛暑といえば、砂漠性気候のラスベガスも負けてはいない。というかラスベガスは 猛暑が当たり前の都市 なので、40度超えは普通のこと。(ただし湿度が低いので日本の夏ほどは不快ではない)
夏も終りだが、ベガスで45度
とはいえ、当地のような海洋から遠い砂漠地帯では、日射量がそのまま気温に直結しやすいため、太陽の位置が最も高くなる夏至(今年は6月20日)から2ヶ月も経過した8月後半は猛暑のピークをとっくに過ぎており、夏の終りにさしかかっている時期といえる。
それでも今は異常気象なのか、ここ数日は7月のピーク時に勝るとも劣らない高温を記録しており、この先も一週間ほど、日中の最高気温が40~45度になるとの予報が出ている。
デスバレーでは 54.4度
そんな季節外れの高温が続く今年のアメリカ西海岸地方だが、この地域で猛暑といえば忘れてはならない存在なのが、ラスベガスから車で2時間半ほどの場所に広がるデスバレー国立公園、いわゆる「死の谷」だ。
そして 8月16日の午後3時半すぎ、その国立公園内の公式観測所で摂氏 54.4度(華氏130度)という超高温を記録したので、ちょっとした騒動になっている。
というのも猛暑で有名なデスバレーといえども、今の時期の 50度超えは珍しいばかりか、この気温が世界記録ではないかと盛り上がっているからだ。
というわけで今週は、新型コロナの「3密」問題とは無縁のデスバレーにおける世界最高気温にまつわる話を紹介してみたい。
3密とは無縁のデスバレー
カジノ、ナイトショー、ナイトクラブ、グルメ、コンベンション、ウェディング、それにボクシングを中心とする各種スポーツイベントなど、ラスベガスが世界に誇るエンターテインメントや独自の文化はどれも新型コロナの影響を受けやすく、現在は集客に苦しんだり、営業を再開できないなど苦戦を強いられている。
そんな中、唯一「3密とは無縁」ともいえる観光資源がグランドキャニオンに代表される大自然で、ラスベガスの周辺には複数の国立公園や世界自然遺産が存在していることは広く知られるところ。
そしてその中でも比較的近いのがデスバレー国立公園で、特に今の時期はロサンゼルス地区から陸路でラスべガスにやって来る訪問者が多く(コロナ感染を恐れてか、空路は人気がない)、その人たちにとってデスバレーは位置的に立ち寄りやすい。ここの読者の中にもロサンゼルス在住者は多いはずだ。
50度超え、恐ろしいけど体験もしてみたい
50度超えの超猛暑と聞けば、恐ろしいと思う反面、体験してみたいと思う人も多いに違いない。このあと数日は 50度近い最高気温が予想されているので、興味がある人は立ち寄ってみるとよいだろう。
もちろん3密とは無縁の世界なので新型コロナに対しては安全だが、熱中症など高温に対する危険は高いので、車のコンディションの確認や十分な水の搭載など、トラブルに備えた準備が必要なことは言うまでもない。
なお天気や気温を知りたい場合は、「天気 Furnace Creek, CA」で検索すると、さまざまな天気予報サイトを見ることができるはずだ。(Furnace Creek は公式の観測所が存在するデスバレー内の中心地、CA はカリフォルニア州。サイトによっては温度の単位が摂氏ではなく華氏なっている場合もあるので要注意)
サハラ砂漠の58度は記録抹消
さて話を気温に戻すと、今回の 54度は過去にもあり、近年でも3回記録している。2013年6月30日、2005年7月19日、1998年7月18日で、どれも夏至から1ヶ月以内だ。
ちなみに長らくデスバレー史上最高気温は 1913年7月10日に観測された 57度とされ、この記録は、1922年にリビアのサハラ砂漠やイラクのバスラで観測された 58度に次ぐ世界第2位の高温とされてきたが、その後、リビアやイラクの記録は測定方法や測定機器が現代の基準とは大きくかけ離れたものであったことがわかり(実際には 54度前後であっただろうと推測されている)、公認記録としては抹消されることになった。
世界記録100周年に記念式典
その結果、今日では、そのデスバレーでの 1913年の 57度が、世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)から世界最高気温として認定され、その100年後の2013年7月10日には、世界記録100周年ということで、国立公園管理当局が主催する記念式典が開かれたりもした。
そんないきさつもあり、その気温である華氏134度(摂氏57度を、アメリカにおける温度単位の華氏に換算した数値)と大きく書かれた Tシャツなどが、Furnace Creek のギフトショップにおける人気商品として売られている。
記念式典の3年後に異議
ところがその記念式典の3年後の 2016年10月、カリフォルニア州の気象学者 William T. Reid 氏が 1913年の記録に対して、「測定方法などに誤りがあった可能性もあるので再検証したほうがよい」との異議を唱えたので、話がややこしいことに。
たしかに 100年以上も前の記録の精度にまったく疑義がないと考えることのほうが無理があるかもしれない。
今回の54.4度を新たな世界記録に
それでも「世界最高気温を記録した場所」というふれ込みが、観光地デスバレーにとって都合が良いのか、Reid 氏の異議や再検証に関してはうやむやにされたまま今日に至っていたわけだが、そこにこのたびの 54.4度というニュースが飛び込んできたので、にわかに論争は復活。
最新の機器で精密に測定した今回の気温こそが正真正銘の世界記録とすべき、との意見が出てくるなど、専門家の間で静かな論争が巻き起こっている。
うやむやのまま終わることを期待
とはいえ、過去の記録の誤りを証明することは極めてむずかしい。この論争、だれもが納得する形で決着することはたぶん無いだろう。
100年以上も前の異議ありの57度を世界記録とするか、だれもが認める今回の 54.4度を世界記録とするか、地理や気象の専門家たちにとっては放置できない事案かもしれないが、世界記録という宣伝文句を維持したい観光地デスバレーとしては、どちらもデスバレーでの記録である限りどっちでもいい。いや 57度にしておくべきだろう。そのほうが他の都市に記録を破られにくいからだ。
同じ理由で、デスバレーへのゲートウェー都市ラスベガスとしても 57度を支持すべきだし、ラスべガス大全としても、この議論がうやむやのままで終わることを期待して、今週の記事を終わりとしたい。