先週のこのコーナーでは、ラスベガスがあるネバダ州、そしてアリゾナ州、カリフォルニア州など隣接する州での新規コロナ感染者数の急増に関する懸念を書いた。
今でもその増加傾向に大きな変化はなく、コロナ騒動は収まる気配を見せていない。そうなってくると益々暗いニュースばかりになってくるのだろうと思いきや、全米各地から前向きな話題も飛び込んできている。
ディズニーワールドが再開園
たとえば全米50州で現在最悪といわれているフロリダ州(日々の新規感染者数が 7月10日以降、同州だけで連日1万人超え)にあるディズニーワールドが、約4ヶ月に渡る閉鎖期間を終え 7月11日から営業を再開。
無謀とも思える再開園だが、経済優先になりがちな共和党の州知事であることを考えると、驚くほどのことではないのかもしれない。(自粛や解禁の判断は、どこの州も州知事が決めるのが普通)
一部ではあるが、ディズニーランドも
またカリフォルニア州(同 7000人超え)にあるディズニーランドもすでにオープン。ただ、こちらは民主党の知事のためか、営業再開はまだごく一部の施設(Downtown Disney District など)にとどまっており、フロリダ州よりは慎重のように見受けられるが、それでも先月まで「7月17日に大半の施設をオープン」としていたので、こちらも経済優先の方向に舵を切ろうとしていることがうかがえる。
スポーツイベントも続々と再開
活動再開への動きは遊園地だけではない。スポーツ界も同様で、アイスホッケーのプロリーグ NHL は、コロナで保留となっていたプレーオフを 8月1日から隣国カナダで再開すると発表。
プロゴルフツアー PGA も先月から無観客ではあるものの、すでにトーナメントを開催し始めており、大リーグ野球 MLBでも練習試合が始まり、エンゼルスの大谷選手が 7月12日に今季初ホームランを打ったことは日本でも報じられたとおり。
「Go To」キャンペーンは反自粛の極み
日本といえばアメリカ同様、東京を始め主要都市で新規感染者数が増加傾向にあるにもかかわらず、プロ野球やJリーグサッカーは先週から観客を入れての試合をスタート。大相撲の7月場所も観客を入れて 19日からの開催を予定しているようだ。
そのような反自粛トレンドの中での極めつけは、7月22日から始めようとしている日本国政府主導の「Go To」キャンペーンだろう。これは、外出自粛などの影響で疲弊した観光業界や飲食業界を支援するための、いわば「日本の皆さん、出かけましょう!」キャンペーンで、自粛とはまったく逆の政策と言えなくもない。
安全と経済、どちらを優先すべきか
「もはやコロナは完全に終わった」かのような世の中の動きだが、日本でもアメリカでも、これには賛否両論あることは言うまでもない。
「国民の健康や安全を優先し、自粛や強制休業などを継続すべき」という慎重論が多い一方で、「移動や営業の再開を認めるべき」という経済優先論もある。
感染防止と経済の活性化、どちらも非常に重要だが、その両者は互いに相反する関係にあるところがむずかしい。感染防止に力を入れれば経済は停滞し、経済を優先すれば感染が拡大。このラスべガス大全としても地元の機運がどちらに流れるべきなのか、いくら考えてもその正解は出てこない。
日本では慎重論が優勢だが
ちなみに各メディアの世論調査などを見ている限り、日本では慎重論がかなり優勢のようだが、楽観主義者が多いのか、アメリカでは必ずしもそうではないようだ。
たしかに仕事や収入がなければまともな生活ができないばかりか、生活苦や失業を苦にした自殺者が増えないとも限らず、経済優先が必ずしも暴論とは言い切れないだろう。
不可解な事実
というわけで、一連の営業再開のニュースは何ら不思議ではないが、不可解というか興味深いことがある。
それは日本(特に東京)でもアメリカでも、現在よりも日々の新規感染者数が少ない時期に自粛や強制休業などをしてきたにもかかわらず、増えてきた今の時期になって解禁方向に向かっているという事実。
「もう我慢できない、これ以上の自粛はむり」
これをどのように解釈するかは人それぞれだろうが、この方針に至った根拠、つまり「感染者が少ない時期に自粛、増えてきた今になって解禁」という流れになってきている合理的な理由を探すことはむずかしいのではないか。治療方法やワクチンが開発されたというなら説明は簡単だが、そんな話はまだ聞かれてこない。
であるならば、解禁に至ったのは「もう我慢できない、これ以上の自粛はむり」といった極めて単純というか、人々や事業主たちの自然な欲求を優先しただけではないのか。
ようするに、日本もアメリカも「このまま自粛を続けていても感染者をゼロにすることはむずかしそうだ。ならば、どうなるかわからないけど、とりあえず解禁しちゃえ。あとのことはあとで考えよう」といった程度の発想が真相のようにも思えるが、政治家はそのようなホンネを口にするわけにはいかないだろう。
いずれにせよ、日本の「Go To」キャンペーンにも言えることだが、賛否両論あることがわかっていながら、どちらかの結論を出さなければならず、さらにその結論に至った根拠を批判を浴びないように説明しなければならない政治家という職業は、想像よりも楽な商売ではないのかもしれない。
歓迎すべき航空各社による増便計画
話はラスベガスに戻って、「根拠などどうであれ、経済活動の再開や活発化はそのコミュニティーにとって良いこと」と仮定するならば、ラスベガスにとって極めて好ましい歓迎すべきニュースが飛び込んできた。航空各社による大幅な増便計画だ。
先週のこのコーナーでもふれたとおり、砂漠に囲まれた陸の孤島のようなラスベガスの観光業界にとって空路は欠かせない。5時間以内の陸路で当地にアクセスできる主要都市はロサンゼルス、サンディエゴ、フェニックスぐらいで、あとの都市からは10時間以上のドライブか、航空便ということになる。
本数で80%以上減、利用者数で90%以上減
その航空便が4月以降はほとんど飛んでいなかった。結果として、今でもラスベガスを訪問する者の大半は、近隣の都市から自家用車でやって来る人たちで占められている。
ちなみに地元メディアが報じたところによると、3月中旬にラスベガスのカジノホテルがすべて閉鎖されてから5月末までの、サウスウエスト航空、ユナイテッド航空、デルタ航空、アメリカン航空など主要航空会社の1日の到着便の合計本数は約100便程度で、前年の同時期と比べると本数で80%以上、利用者数で90%以上のダウンというからコロナによるダメージは凄まじい。
それでもカジノホテルの営業が再開された6月初旬以降は、まだ通常時の本数には遠く及ばないものの、その数は200本前後に増えてきているというから明るい方向に向かいつつあるのかもしれない。
「中央の座席」の議論
この増加傾向をそのまま8月に当てはめて良いものかどうかはなんとも言えないが、航空各社は8月には大幅に増便するというから頼もしい。
計画通りに増便できれば、毎日300便以上がラスベガスに到着するようになるとのことなので(それでもコロナ前の半分程度)、この増便の話題はラスベガスにとって大いなる朗報といってよいだろう。
ただ、未知の部分もいくつかあり、朗報を単純に喜ぶのは早いかもしれない。というのも、前述の「どうなるかわからないけど、とりあえずやってみよう」的な発想が航空会社にもあるようで、コロナ次第で8月以降の需要がどの程度になるかわからない状況での増便発表も大いに不安だが、「中央の座席」の議論もこの先が読めず、運行や座席供給量に対する不安定要因となっているからだ。
中央の席を売る航空会社、売らない航空会社
アメリカの国内線で使用されている機材の座席は、1本の通路の両側に3列ずつ、つまり横1列全部で6席という配置になっているのがほとんど。そしてその真ん中の座席の扱いをどうするかで各社の対応が分かれている。
座席配置を「A B C 通路 D E F」とするならば、B席とE席を売るのかどうかという議論だ。
サウスウエストとデルタは、乗客同士のソーシャルディスタンスを確保する必要があると判断し、とりあえず9月末までは中央の座席を空席にすると発表。
一方、ユナイテッドとアメリカンは中央の座席も販売するとのこと。その根拠は、そこを空席にしたとしても、A席とC席、あるいはD席とF席では一般的に奨励されているソーシャルディスタンス(6フィート、約180cm)を確保できないばかりか(C席とD席も近すぎ)、そもそも機内の空気は常に天井方向からフロア方向に流れており、3分程度で機内の空気のすべてが外気と入れ替わるか高性能のフィルターを通過するようになっており安全だからだ、としている。
たしかに機内の換気のサイクルは一般の室内よりも遥かに速いというのは事実のようで、感染者のくしゃみなどの飛沫がいつまでも浮遊していることはないらしい。
真ん中の座席を空けるべきだとする論文
ところが、つい先日、ユナイテッドとアメリカンにとっては聞き捨てならないニュースが飛び込んできた。
マサチューセッツ工科大学の研究チームが発表した論文だ。それによると、真ん中の座席を空けることで新型コロナ感染リスクを約半分に低減できるとのこと。
その論文の信ぴょう性がどうであれ、航空業界が今後ざわつきそうなことは確実で、ユナイテッドとアメリカンも何らかの反応を示さないわけにはいかないだろう。
もし今後、真ん中の座席を空けることが航空業界のスタンダードとなったりした場合、アメリカの国内線における座席数は横1列で6席から4席に減ることになり、航空運賃の見直しなども含めて収益構造に大きな変化が生じることは確実なわけだが、運賃や座席供給量という意味では中央の座席を空席としないほうが、ラスべガスにとっては朗報なのかもしれない。ユナイテッドとアメリカンの今後の判断に注目したい。
宿泊需要は伸びていない可能性も
さてこれで最後。朗報といえば、順調にカジノホテルが次々とオープンしており、トロピカーナホテルも9月にオープンする計画でいることを発表。
とりあえずかつてのラスベガスに戻りつつあるようにも見えるが、その一方で先週、パラッツォホテルが「需要に合わせるため平日の営業を停止する」と、再開業後わずか一ヶ月で逆戻りするような方針を発表した。
これはまさに宿泊需要が伸びていないことを裏付けるもので、今後のラスベガスの復活に暗雲が立ち込めるような悪いニュースといえるが、トロピカーナホテルが再開業を目指しているということは、需要が伸びつつあると解釈できないこともない。
ただ、その部分には次のような分析もできそうだ。現在は近隣都市からの陸路での訪問者が多く、それはすなわち週末のギャンブラーなどが中心と考えられ(まだナイトショーもナイトクラブもやっていたいため、ギャンブルが訪問目的となりやすい)、コンベンションなどのビジネス出張族や、海外からの観光客などは皆無に近く、そうなると平日と週末の需要の落差が大きくなりやすいことが予想される。
いずれにせよ、今後の需要を伸ばすためには航空便の復活が欠かせないと思われるので、8月以降の航空各社の努力に期待し、今週の記事を終わりとしたいが、フライトの本数が増えても感染を恐れて飛行機自体に乗りたくないという者が増えているとも聞く。今後のラスベガスの復活、はたしてどうなることやら。
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