さて、いよいよ今年もクリスマスの季節になったが、アメリカの現状についてあまり詳しくない読者の多くは、ラスベガスのクリスマス装飾は華やかだと思っているのではないか。
そう思ってしまうのは、毎年恒例のニューヨーク・ロックフェラーセンターでのクリスマスツリーの点灯式などが日本で大きく報道されている影響かもしれないが、現実はそうでもない。というか、かなり質素で日本のクリスマスイルミネーションのほうが遥かに派手で盛大だ。
そんな状況なので、「ただでさえ何ごとにおいても派手なラスベガス。クリスマス装飾もさぞかしゴージャスなんだろう」と期待して今の時期に当地を訪れると拍子抜けすることになりかねない。
なぜそんなことになってしまっているのか。それは公共の場所においてクリスマスを祝うことへの自粛のようなムードが全米に定着しているからだ。簡単に言ってしまえば宗教への中立性に対する過度の反応ということになる。
ようするに世界中からさまざまな宗教の人たちが集まるアメリカにおいて、公共の場でキリスト教の文化だけを派手に演出することへの遠慮のようなもので、近年よく話題になる “差別をなくそう” 的な動きのいわゆる 「ポリコレ」(political correctness)と考えればよいだろう。
これには賛否両論があることは言うまでもないが、現時点ではポリコレ賛同派の勢力のほうが強いのか、もしくは反対しづらい世相になっているのか、街中からクリスマスらしさが失われてきていることは疑いのない事実で、キリスト教信者にとっては歓迎しがたい傾向なのかもしれない。
(ただし一般の家庭レベルではその限りではなく、住宅地などでは外壁や庭をクリスマスライトなどで飾った昔ながらの光景を見ることができる)
というわけで、日本ほど華やかなクリスマスイルミネーションを期待することはむずかしくなってきているが、何ごとにおいても「揺り戻し」というものがある。つまり、ある一定方向に振れすぎた習慣などが、その反動で元に戻ろうとする動きだ。
保守派のトランプ氏が次期大統領に決まったからということでもないだろうが、今年はラスベガスのクリスマス装飾に華やかさが戻ってきているように感じられる。
これまでの行き過ぎたポリコレの現状、たとえば企業間などにおいて「メリー・クリスマス」という言葉や、クリスマスカードを送り合う習慣がほぼなくなってしまったことを考えると(それに関しては最後の部分で解説)、装飾ぐらいはそろそろ揺り戻しがあっても不思議ではないだろう。
そんな今の状況を、ポリコレなどが騒がれていなかった過去の全盛時代のクリスマス装飾と比較しながら写真で紹介してみたい。

過去はこんなにすごかった。シーザーズパレスの前庭に飾られた巨大クリスマスツリー。(2006年12月撮影)

ベネチアンホテルの前庭に飾られたクリスマスツリーはこんなに立派だった(2011年12月撮影)。参考までのこのホテルのオーナーだった保守派のシェルドン・アデルソン氏(2021年に他界)はトランプ氏の大口献金者としても知られている。
以下は2024年12月の現在の様子。かつてほどの巨大ツリーはまだ復活していないが、徐々に派手な装飾も増えてきており揺り戻しが感じられる。

ベラージオホテルの室内植物園に飾られた高さ14メートルのツリー。11万個のライトと8700個のオーナメント。頂上にはスワロフスキークリスタルが輝やいている。

巨大なクマのぬいぐるみには7500本のプリザードローズが使われている。ちなみにこの展示は2025年1月4日まで。

アリアホテルのロビーに出現した巨大なトナカイ。

アリアホテルのロビー。トナカイの下には列車が走っている。

アリアホテルのロビーの列車とベーカリー「ARIA Patisserie」の列車がリンクしている。

ベネチアンホテル。アトリウムに展示されているベニスのゴンドラの周辺にはポインセチアが。

コスモポリタンホテルのプールエリアに設けられたアイススケート場「The Ice Rink」のツリー。ロビー周辺や玄関周辺にはクリスマス装飾は無かった。

アリアホテルに隣接する高級ショッピングモール「クリスタルズ」のフォトスポット。事実上の禁句となっている「メリークリスマス」という言葉の代わりに「ハッピーホリデーズ」が使われているところに注目。

クリスタルズに飾られたツリー。たぶんストリップ地区で一番大きな大きなツリーと思われる。高さ17メートル、5000個のスワロフスキークリスタルのオーナメント、10万個のLEDライト。

同じくクリスタルズ。ポインセチアのドレスをまとうマネキン。

ウィン・ラスベガス。今年の装飾は「クリスマスの12日間」という歌からヒントを得たディスプレーとのこと。ちなみに、この歌は歌詞が1780年にできたようでタイトルには「クリスマス」という言葉が使われているが、ウィンのこのディスプレーの説明ボードでは、「The Twelve Days of Holiday Cheer」となっており、クリスマスという言葉をあえて避けていることがうかがえる。行き過ぎたポリコレといった感じだ。

ウィン・ラスベガス。ビクトリア朝風のパーティードレスを着た動物たちはチョコレート製。

MGMグランドホテルのロビー。ロデオ大会「National Finals Rodeo (NFR)」が12月14日まで開催されていることもあり、ロビーのライオン像もカウボーイ姿に。(ジェンダー的配慮から「カウボーイ」ではなく「カウパーソン」とすべきか)

トレジャーアイランドホテル内のシルク・ドゥ・ソレイユ「ミスティア」劇場の前に飾られたツリー。何ごとにおいても派手なラスベガスとしてはかなり質素なツリーではあるが、この程度のツリーがポリコレを意識した最近の傾向といえる。

パークMGMのロビーに飾られたツリー。こちらもトレジャーアイランドと同様、ラスベガスとしては質素なツリー。
ということで写真での現状の紹介はここまで。
参考までに以下は過去記事と内容が重複するが、企業間でのやり取りなどにおいてクリスマスカードが完全になくなってしまったり、メリークリスマスという言葉が死後になってしまった背景について。
【メリークリスマスという言葉は死語】
もし揺り戻しがなければ公共の場所からクリスマスという文化や風物詩が消滅しかねない状況だが、存続が危ぶまれているのはクリスマス装飾など街の景観だけではない。「メリー・クリスマス」という言葉も死語になりつつある。
もちろん家庭内や友だち同士の間ではまだ使われているが、少なくとも企業間などで取り交わされるクリスマス・カードの中からはほぼ姿を消した。
そもそも「クリスマス・カード」という呼び方自体、企業や役所などでは奨励されていない。
理由はもちろん取引先や顧客、さらには職場内にもいるかもしれない他の宗教の信者たちに対する配慮で、たとえばイスラム教徒の人に「メリー・クリスマス」と書いたクリスマス・カードを送ることは失礼というわけだ。
もし、いまだに「メリー・クリスマス」と書かれたカードを取引先などに送っている企業が存在しているとしたら、その企業は時代遅れか確固たる信念を持っているかのどちらかだろう。
【「クリスマス」に代わる言葉は?】
さようにアメリカ社会からクリスマス文化が消えつつあるわけだが、クリスマスという言葉に代わって登場してきたのが「ホリデー」だ。
これはすでに広く定着しており、たとえばクリスマス・シーズンはホリデー・シーズン、クリスマス・セールはホリデー・セール、メリークリスマスはハッピー・ホリデーズという言葉に置き換わっている。
なぜホリデーか。それは 11月の第4木曜日のサンクスギビング・デー、12月25日のクリスマス・デー、1月1日のニューイヤーズ・デーは祝日で、日本とちがって祝日が少ないアメリカにおいては、この時期はまさにホリデー・シーズンだからだ。
【日本のクリスマスは】
そんなアメリカのトレンドとは逆に、日本では「キリスト教国でもないのにどうしたことか」と思われるほど年々クリスマスが派手になってきている。
もちろん日本にもキリスト教信者はたくさんいるが、大企業や役所などの公共機関までもが率先してクリスマスを盛り上げているのは、いささか滑稽にも思えるが、いかがだろう。
各企業などがクリスマス商戦など商業目的でクリスマスを利用するのは理解できるが、公共機関が公費でやるのであれば、それはクリスマス装飾よりも新年に向けた門松や松飾りのほうであるべきのように思えるが、そんなことを気にする者はほとんどいないのかもしれない。
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