毎年この時期は恒例のスーパーボウル(アメリカンフットボールのプロリーグNFL の年間チャンピオン決定戦)の話題ということで、昨年とほぼ同じような内容になってしまうばかりか、日本の読者にとっては何の役にも立たない話題で恐縮だが、在米読者や訪問予定者に向けた情報としてラスベガスのスポーツブックにおけるスーパーボウルのオッズや賭け方などに関してレポートしてみたい。
スポーツブックの総本山
スポーツブックとは、スポーツの試合結果などに賭けるためのギャンブル場や業者のこと。
当地ラスベガスのカジノホテルのほとんどがその施設を持っており、そこには世界各地のスポーツイベントを実況中継するための大小さまざまなテレビ画面や払い戻し倍率(オッズ)などを示す電光パネルが所せましと並んでいる。
今回の取材で訪れたのはウェストゲートホテル(かつてはラスベガスヒルトンと呼ばれていた)。何十年も前からスポーツブック業界をリードしてきたカジノホテルで、スポーツブックの総本山といっても過言ではなく実際に賭けの対象となるスポーツの種類や賭け方の豊富さではライバルカジノの追随を許さない。
ラスベガスとは関係ない LVIII
スーパーボウルの開催地は毎年異なり、第58回大会となる今年は 2024年2月11日に奇しくも当地ラスベガスの ALLEGIANT STADIUM で開催される。
なおこれは余談。スーパーボウルの大会回数を表す数字(今回の場合は「58」)はローマ数字で表記するのが慣例となっているため、この写真の左側の白いひし形内に読み取れる赤い文字のように LVIII と表記されるが、ラスベガスの略称 の LV とはなんら関係ない。
(ローマ数で L は50、V は5、I は1、ということで LVIII は第58回を意味している)
Super Bowl はアメリカの国民的行事
7試合制の大リーグ野球のワールドシリーズとは異なり、スーパーボウルは1試合だけの一発勝負。そのためか注目度は半端ではなく、もはや冬の風物詩ともいえるほどのアメリカの国民的行事となっている。
特にギャンブルの街ここラスベガスでの過熱ぶりはすさまじく、日ごろ賭けごとやアメフトに縁がない者までもが、なぜかこの日ばかりは大金を賭けて友人宅などに集まりテレビ観戦パーティーを楽しんだりする。
カジノ側も元スター選手を招いてのサイン会や解説イベントを開催するなど、年に一度のビッグビジネスチャンスに余念がなく、チーム名すら知らない者や、ひいきチームを持たない者でも楽しめるような特殊な賭け(以下で紹介)もたくさん用意し、たっぷり散財してもらうもくろみだ。
49ers がやや有利で -2.5点のハンデ
今年の対戦カードは「カンザスシティ・チーフス 対 サンフランシスコ・フォーティナイナーズ」。
ラスベガスのカジノではフォーティナイナーズ(以下 49ers)がやや強いと見られており、その強さの度合いを示すポイントスプレッド(いわゆるハンデのこと。この写真内では PS と表記)は -2.5点。
(当地ラスベガス時間の 2024年2月6日の正午ごろの数値)
この電光表示の緑色のハンデ -2.5 が意味していることは「実際の試合結果の 49ersの得点から 2.5点を差し引く」、つまり 49ers に賭けた場合、49ers が3点差以上で試合に勝たなければカジノでの賭けは的中にならないということ。
そして逆にチーフスに賭けた場合は、実際の試合でチーフスが負けても 2点差以内であればカジノでは的中になり払戻金を受け取れる。
(写真の左側に見える 101 や 102 は現場での賭けの整理番号なのでここでは無視してかまわない)
このようなハンデ込みの賭けの場合、どちらのチームに賭けた場合も的中確率はほぼ半々になるので(半々になるようにカジノ側がハンデを設定しているので)、払い戻しの倍率はどちらのチームに賭けた場合も1倍(元金も含めれば2倍)になるべきだが、実際にはカジノ側が経費として手数料を取る必要があるので(その手数料の率はカジノによって異なることもあるが -110 に設定しているカジノがほとんど。この -110 の意味は以下でくわしく説明)、100ドル賭けて的中しても 200ドル(賭け金も含めて)が戻ってくるわけではなく、多くのカジノでは 110ドル賭けて 100ドルの儲けとなり、合計 210ドルが戻ってくることになる。
ハンデ無しで賭けることも可能
スーパーボウルの場合、以上のようなハンデ込みの賭け方(ポイントスプレッドによる賭け)が一般的ではあるが、ハンデ無しで賭けることもできる。それをマネーラインでの賭けと呼んだりしている(上の写真内の ML)。
たとえばチーフスのファンが、「ハンデなどいらない。とにかく試合に勝つことしか考えていない」という場合は、ハンデなしでチーフスに賭けることも可能というわけだ。その場合、今回のチーフスの ML は +115 となっており、同様にハンデなしで 49ers の勝ちに賭ける場合のマネーラインは -135。
この「マネーライン」とは、得点によるハンデではなく賭け金の増減で実力差を調整しているようなものと考えればわかりやすい。
(数字の前の + と – は、数学におけるプラスやマイナスの意味とはまったく関係がないので単なる記号と考えるべき)
+115 の意味は、100ドル賭けて的中すると 115ドル受け取れる(自分の賭け金も含めれば 215ドル受け取れる)ことなのでわかりやすい。
一方の -135 は非常にわかりにくいが、その意味は 100ドル勝ちたい人は 135ドル賭けてください、ということになる。
(つまり 49ers に 135ドル賭けて的中すると 100ドルの利益。自分の賭け金も含めれば 235ドルが払い戻される)
なお、これらマネーラインの賭けの場合、すでにその数値にカジノ側の手数料が組み込まれているのでそれ以上差し引かれたりすることはない。
それにしても + が付く数字の場合はともかく、– が付く数字の場合はなんともわかりにくく、慣れていない者にとっては「馬鹿げている。単純な倍率で表記すべき!」と言いたくなるだろうが、ラスベガスの伝統というか昔からの習慣なので受け入れるしかない。
参考までにマネーラインにおいてマイナスで表示される数値の絶対値 A から、その賭けの払い戻し倍率 B を求める計算式は以下のようになる。
B = (100 / A)+ 1
応援したいチームがない場合
どちらのチームが強いのか、もしくはどちらのチームが好きか嫌いかなどにまったく興味がない人たちに人気があるのが トータル得点に賭ける賭け方で(上の写真内では TOT と表記)、今年のスーパーボウルにおけるその数値は 47.5点。
これはどちらかのチームに賭けるというものではなく、両チームの得点の合計がこの数値を超えるか(Over)、超えないか(Under)を当てる賭けで、これに賭けた場合、テレビ観戦などでの応援スタイルは、「どっちのチームでもいいから、とにかく早くたくさん点を取ってくれ~!」、もしくはその逆に「点を取るな~!」といったカタチで観戦することになる。
配当倍率は Over も Under も -110 が一般的、つまり 100ドル勝ちたければ 110ドル賭けなければならない。
(10ドル多く賭ける必要があるのはもちろんカジノ側が手数料を確保するためだが、カジノによっては -105 の場合もある)
ハンデもマネーラインも変化し得る
なおハンデ(ポイントスプレッド)にしろマネーラインにしろ合計得点にしろ、その数値はファンの賭け方の偏りに応じて、どのような試合結果になってもカジノ側が損をしないように日々刻々と変化し得るものなので、ここまでに書いてきた数値は固定的なものではない。
したがって今の時期にラスベガスに滞在予定の者でこれから賭けに参加する場合は、必ず電光パネルなどでそのつど最新の数値を確認してから賭けるようにしたい。
(余談: カジノ側がハンデの設定をしくじったり、ハンデに対して想定外の微妙な試合結果になってしまった場合など、たまにカジノ側が損をすることもある)
さまざまな特殊な賭け方
なお、ここまでに説明した賭け、つまりハンデあり、ハンデなし、合計得点などはどこのカジノにもある人気の賭け方だが、それ以外にも各カジノのスポーツブックでは独自のユニークな賭け方がたくさん用意されている。
たとえばこの写真の整理番号 66001 の賭けは「試合開始の先攻後攻を決めるコイン・トスにおいて表が出るか裏が出るかで表が出る!」に賭ける場合のオッズだ(-101 はかなり良心的な手数料)。
66003 や 66004 は「どちらかのチームが3回連続で得点を入れることがあるかどうか」、66005 や 66006 は「試合開始後 6分半以内に得点が入るかどうか」といった感じで単なる勝ち負け以外にもさまざまな賭けが用意されていることがわかる。応援しているチームがないといった人たちはこの種の賭けに参加してみるのも面白いだろう。
その他にも「両チームのタッチダウンの回数の合計はいくつか」、「反則は何回起こるか?」など何十種類もの賭けが用意されているわけだが、たとえば以下の写真のような合計得点を当てる変則的な賭けもある(この賭けの払い戻し倍率の説明はあえて割愛)。
49ersは練習環境が悪くて不公平?
さて両チームともにすでに先週から開催地ラスベガスに入って作戦計画や練習など準備に余念がないわけだが、先週から今週の始めにかけて意外なことに当地は悪天候に見舞われている。
砂漠気候であるためほとんど毎日晴天のラスベガスにおいてここ数日だけは雨が降り続いており、この記事を書いている火曜日もかなり大量の雨が降った。
そこで問題になっているのが練習環境で、チーフスに割り当てられた練習スタジアムは室内。一方の 49ers は屋外スタジアム。
まさかこれほど雨が降り続くとは予想されていなかったため、その事前の割り当て自体は特に問題にならなかったが、異例の悪天候により 49ersの練習グラウンドは現在ぐちゃぐちゃ。49ersのファンからは「まともな練習ができない。不公平だ!」との不満も。
水曜日からは晴れるとの予報になっているが、この練習環境の違いは無視できないとのスポーツ評論家の意見も聞かれたりしている。
チーフスに賭けるべき?
どちらかのチームのファンであればそのチームに賭ければよいし、そうするのが普通だが、カジノでの賭けをなりわいとしている人たちの多くは、練習環境の問題とは別の理由でチーフスに賭けるべきとしている。
その理由は、ラスベガスは西海岸エリアに存在している関係で、ラスベガスのスポーツブックに賭けに来る訪問者は同じく西海岸のサンフランシスコからのほうが内陸のカンザスシティーよりも多く(そもそも人口がサンフランシスコのほうが多い)、実際の実力やハンデに関係なく 49ersに賭ける人のほうが多いからだ。
さらに当地ラスベガスに住む市民の中にもサンフランシスコから引っ越してきた者は多く、そのような人たちは 49ersに賭けると予想される。
カジノはどちらのチームが勝っても損をしないようにするため、賭けが両チームに分散するようにハンデを付けることから、現在のハンデ -2.5点は実際の実力差よりも49ers に厳しい数字となっていると考えるのが妥当というわけだ。
そう考えるとチーフスに賭けるべきということになるが、果たして結果はいかに。
オンラインによる賭けについて
スーパーボウルの日にラスベガスに滞在予定の読者は年に一度のこの国民的イベントに賭けで参加というのも悪くないだろう。観戦中の盛り上がりと興奮は賭けていない場合とは比べ物にならず、ラスベガスならではの貴重な体験と思い出になることまちがいなしだ。
賭け方は極めて簡単で、スポーツブックの窓口へ出向き、そこで賭けたい金額と賭けの整理番号を告げるだけ。何も難しいことはない。(現場に設置されている端末機で賭けることもできるが、ユーザーインターフェースの出来が悪いため操作が難しく、窓口へ出向いたほうが簡単)
なお、近年オンラインアプリを通じて賭けられるようになってきているが、ネバダ州の法律などの関係で地元民しかアカウントを作れなかったり、アカウントを作る際に窓口に出向いてのペーパーワークが必要だったりするなど、残念ながら州外からの一時的な旅行者にとっては現実的ではない。
コメント(2件)
さすがラスベガス、スーパーボールをネタに色々な掛け方があって興味深々です。テラ銭もどこかの国の宝くじと違って割と良心的かなと思いました。どこかの国の宝くじを私はていの良い税金徴収と呼んでいます。
NFLとスポーツブックが大好きな者にはたまらない記事です、ありがとうございます。スプレッドはサンフランに不利な傾向があるのですね、参考にさせていただきます。今回は地元?開催でストリップ沿いのホテルはどこも売り切れ、公式旅行会社のサイトではチケットとホテルこみで1万5千ドルとかでていて、泣く泣く行くのをあきらめました。古い話で恐縮ですが、パッキャオ対メイウェザーのタイトルマッチの夜、お膝下のMGMのカジノではブラックジャックのテーブルに予約席のボードが出ていたり、開いているテーブルもミニマム300ドルだったりして、どんな人が座るのだろうとあきれながら見ていました。今回はどんな狂乱物価になっているのか、スーパーサンデーの夜のカジノの様子など記事にしていただけると、楽しく読ませていただけると思いますが、いかがでしょうか。