MGM社、カジノ内での写真撮影を解禁、その背景にある事情とは

MGM Resorts 社が運営するカジノのスロットマシンのセクション。

MGM Resorts 社が運営するカジノのスロットマシンのセクション。

  • URLコピー

 今週は、当地ラスベガスのカジノ内における写真撮影に関する話。
 多くの人が知るように、何十年も前からカジノ内での撮影は原則禁止とされてきた。
 その理由は、撮影されては困る場所があるからといったカジノ側の事情というよりも、客側のプライバシーの保護、つまり家族などに秘密でカジノに来ている人たちへの配慮などがおもな理由だった。それがこのたび撮影解禁になったと聞かされてびっくりした次第。

 実は今回の撮影解禁、数ヶ月前に当地のメディアで大きく報道されたようだが、恥ずかしながらなぜかそれを見落としてしまっていて、つい数日前まで知らなかった。
 したがってラスベガスフリークのここの読者ならすでにご存じかもしれないが、改めてここで取り上げてみたい。

 カジノ内撮影禁止という長年のルール(罰則などがあるわけではないので慣習と呼ぶべきかもしれない)は法律や条例などではない。あくまでも各カジノによる決めごとなので、解禁も各カジノの判断ということになる。
 今回この夏に解禁を決めたのはラスベガスで最大勢力を誇るカジノ大手の MGM Resorts社。大阪IRにも進出を予定している企業だ。
 まだ試験的な試みということで、現時点ではラスベガス内のカジノに限定しており、具体的には以下の9ヶ所のカジノが対象となっている。つまり全米各地やマカオなど他の都市で同社が運営するカジノは含まれていない。

 MGM Grand、Park MGM、Bellagio、Aria、New York-NY、Excalibur、Luxor、Mandalay Bay、Cosmopolitan。

 地元メディアなどによって報じられた MGM社の公式発表の内容を見る限り、長年の慣習を変更してまで解禁に踏み切った背景には若い世代を取り込みたいという営業戦略がうかがえる。
 インフルエンサーはもちろんのこと、若い世代の多くは(中年世代もそうかもしれない)自身の日々の体験などを写真や動画に撮ってソーシャルメディアで発信する傾向にあるため、そんな彼らの行動を利用しない手はないとの判断があったようだ。
 スロットマシンなどで大当たりが出たシーン、ゴージャスな館内、華やかで楽しそうな光景などの拡散はカジノにとっては非常に効果的な無料の広告となるので、撮影禁止の継続は宣伝機会の損失というわけだ。

 たしかにその考えは正しいだろう。むしろ今回の決断は遅すぎたのではないか。
 世の中にソーシャルメディアなどが存在しなかった何十年も前の紙焼き写真の時代であっても顧客に撮影を認めて拡散してもらったほうが(ソーシャルメディアのような拡散パワーはないにしても)カジノにとってメリットがあったはず。
 今まで解禁に踏み切れなかったのは、拡散による宣伝効果よりも顧客のプライバシー保護を優先すべきと考えてきたのだろう。
 しかし時代が代わった今、そんなことを言っていたのでは集客においてライバル企業に勝てない。今後はMGM社に限らず他のカジノも遅かれ早かれ追随するにちがいない。

 さて今回の解禁の詳細についてだが、「何でもかんでもどうぞ撮影してください! どんどん拡散してください!」というわけではない。
 それなりの制限やルールが必要になることは言うまでもなく、そのへんの細かい部分の調整のためにベガス限定で試験的に解禁したわけで、大原則を要約すると 「あくまでも現場スタッフが認めることが条件で、業務用のカメラなどではなく個人のスマホなどでの個人用途の撮影に限る」となっている。まぁ当然のことだろう。

 この条件以外にも何やらいろいろ制限があるようにも思えるが、意外と寛大で撮影の許容範囲はけっこう広く、スロットやビデオポーカーなどのマシンゲームのエリアのみならず、ルーレットやブラックジャックなどのテーブルゲームでの撮影も容認されている。
 さらに静止画だけでなく動画もOKというから、これまでの長年の撮影禁止を考えるとその劇的な方針変更には驚くばかりだ。

弊社スタッフの友人。本人たちからもカジノディーラーからも許可を得て撮影。

弊社スタッフの友人。本人たちからもカジノディーラーからも許可を得て撮影。

 撮影以外の部分も寛大になった。テーブルゲームにおいて従来は席をはずす必要があったスマホの利用も緩和され、メールなどの送受信は手短に終える限りは離席の必要がないというからありがたい。
 ただし音楽を鳴らすなど音モノはダメ。イヤホンを使っての音楽がダメかどうかは未確認だが、カジノ戦略の情報を遠隔から聞くなどの不正行為にも繋がりかねないのでたぶんNGと思われる。

 寛大になったと言っても常識をわきまえる必要があるのでそれなりの注意は必要だ。
 テーブルゲームなどでの撮影はあくまでもプレーの進行を妨げないことが条件と明記されている。つまり動画はもちろんのこと静止画であっても手短に終える必要がある。
 また、今回の解禁は自分自身や同伴者などを撮ることが大前提なので、他のプレーヤーやディーラー、さらにはカードのシャッフル場面、ルーレットホイールなどの機器類も撮影してはならない。
 ハイリミットセクション(高額の賭け金でプレーする顧客のためのエリア)内での撮影も要注意で、そこでは顧客のプライバシーが優先される傾向にあるためか、事前の許可など少々きびしいようだ。

 以上のように常識の範囲内の行為はかなり幅広く認められるようになったことがわかるが、現場での判断やルールの解釈に難しい部分もあったりするため、今後現場でさまざまなトラブルが発生することも予想される。

 たとえば 「not business use, personal use only」という言葉で規定されている個人目的の用途に限定といってもユーチューバーやブロガーなどが撮影した映像で収益を上げている場合はどうなるのか。そのへんの線引は難しい。
 また「長い動画やライブストリーミングは事前に許可を得ること」となっているが、動画の長さの線引が明確になっていないことやライブストリーミングかどうかの現場での判断も難しかったりする。
 さらにテーブルゲームの現場などで、「今あなたが撮影した写真、私も写り込んでいたはず! 今すぐに削除して!」 といった客同士でのトラブルもあるかもしれない。

 MGM社側では現在どのようなことが問題になっているのか、トラブルの内容や件数などを分析しているものと思われるが、その結果によっては今回の解禁が撤回となるかもしれないし、めでたく全世界の同社のカジノで採用となるかもしれない。他社の動向も気がかりだ。

 すでに4ヶ月ほどが経過しているのでそろそろ結論が出る時期と思われるが、いずれにせよ今後ラスベガスのカジノ内で撮影しようと思っている読者は、マシンゲームはまだしもテーブルゲームにおいては現場スタッフや同席する他のプレーヤーにひとこと「撮影しても良いですか」と声をかけてから撮影したほうがよいだろう。

関連カテゴリー
  • URLコピー

コメント(4件)

  1. M.N. より:

    だいぶ以前(10年位前だったような)、たしかBally’s(現Horse Shoe)カジノに入ろうとしたら、前を歩いていた(多分若い)人がふつうに動画撮影しながら入っていったのにびっくりした記憶があります。このころから「カジノ内撮影禁止」ということを知らずに、「SNSに写真や動画上げて何が悪いのか」と思う人がどんどん増えていったのでは。その人がカジノ内でスタッフに注意されたかどうかは確認していません。撮影といえばポーカーテーブルでの撮影はもっと前から自由になっている気がするのですが。日本人ポーカープレーヤー兼ユーチューバーの人もいろいろ上げていますし。周りに迷惑にならないようにだけはしてほしいものです。

  2. MixxVegas より:

    なんだか今更という感じがしますが? 私が勤務していたCaesars系は 2007年頃から写真撮影は解禁ですよ
    2012年まで Caesars系で CasinoMarketingで働いていて 顧客に写真撮影はOKと許可を出していましたから…

    • ラスベガス大全 より:

      MixxVegas 様

      ラスベガス大全をお読み頂き誠にありがとうございます。
      さて「2012年の時点でも撮影許可が出ていた」とのご指摘についてですが、もちろんMixxVegad様がカジノマーケティングのスタッフとして日々現場に立ち合っていたであろうハイリミットセクションなどにおきましては、MGMとかCaesarsに限らず、そして 2012年とかに限らず、当社がベガスに関わり始めた30年以上も前でも、顧客が撮影したいといえば撮影許可を出していました。さらにハイリミットセクションじゃなくてもそのハイローラーがカジノマーケティングに撮影したいと申し出れば、無条件でOKを出すのが普通です。
      MixxVegas様がまさにご存じのように、それほどハイローラーはカジノにとって神様のように重要ということで(一般客のプライバシーよりも遥かに重要)、唯一例外的に許可を出さないことがあるとすれば、そのハイローラーよりもさらに格上のハイローラーが写り込んでしまうような位置関係での撮影で、なおかつその格上ハイローラーが「撮らないでくれ」と言った場合くらいでしょう。
      というわけで、今回のMGMの新たな方針発表は、一般の観光客などの撮影行為に対する一般的な環境での話であって、今でも多くのカジノにおいて、テーブルゲームの現場などでカメラを向けますと注意されるのが普通です。
      もちろんここまでに書いてきたことは、MixxVegas様はすべてご承知のはずですが、一般の読者が「えぇ〜、とっくの昔からどこのカジノでも撮影自由なのね」と誤解されるとよろしくないので、あえてコメントさせて頂きました。

      たくさんのコンテンツが氾濫しているなか、ラスベガス大全をご一読頂きましたこと、改めて厚く御礼申し上げます。

  3. Danny より:

    私も数ヶ月前に、写真撮影解禁のニュースを見て、時代の流れだな〜、と感じました。
    今のようにカメラ付きのスマホがない時代は、デジカメやその前であればインスタントカメラなどで、スロットマシンで写真を撮る際も注意をされるなど、カジノ側も旅行者もかなり気を遣っていたのを覚えています。
    これは私が感じているだけかもしれませんが、ベガスを訪れる人の高年齢化もとても感じます。
    そういった意味でも、SNS(若者)の爆発的な宣伝力を利用しようとするのはとても効果的に感じます。
    さらに、先日のカジノハッキングで165億の収益損失を出していますし(保険で回収するみたいですが)、世界でもトップの映えスポットの集合地帯であるベガスを、無料で宣伝してくれる若者たちの力を利用するのはとても賢い選択肢だと思います。
    ただ、大きな勝ち(例えばロイヤルストレートフラッシュとかジャックポットとか)以外で、写真撮影のために何度もゲームが中断されたりするのは勘弁してほしいですが・・・。

コメントをお寄せください!

ご意見、ご感想、記事内情報の誤りの訂正など、以下のコメント欄にお寄せいただければ幸いです。なお、ご質問は [フォーラム] のほうが返事をもらえる可能性が高いです。

※ メールアドレスが公開されることはありません。
※ 以下に表示されているひらがな4文字は、悪質な全自動プログラムによる大量の書き込みなどを防ぐためのアクセス・コードです。全角ひらがなで入力してください。
※ 送信いただいたコメントが実際の画面に表示されるまで15分程度の時間を要することがございます。

CAPTCHA