大リーグ・アスレチックスのベガス移転の背景とチームの惨状

アスレチックスの新スタジアムの建設予定地。奥に見えるのはストリップ地区のホテル街。

アスレチックスの新スタジアムの建設予定地。奥に見えるのはストリップ地区のホテル街。

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 日本のスポーツメディアなどでもすでに報じられているとおり、メジャーリーグ野球(MLB)「オークランド・アスレチックス」が本拠地をラスベガスに移すことがほぼ確実となった。
 新球場を建設するのための用地の売買契約が先週やっと合意に至ったためで、あとはMLB側や関係各所の承認を待つだけとなっている。(新球場の場所やアスレチックスの現状に関しては後述)

4大スポーツのうち3チームが当地に

 アメリカの4大プロスポーツリーグと言われているのがその MLB と、アメリカンフットボールの NFL、アイスホッケーの NHL、そしてバスケットボールの NBA
 すでにNFLではラスベガス・レイダースが、そして NHLではベガス・ゴールデンナイツがそれぞれ当地に存在してるので NBA以外の4大スポーツチームがラスベガスに出そろうことになる。

ベガス以外にはたった8都市しかない

 ちなみに女子のプロバスケットボールリーグ WNBA のラスベガス・エーシズも当地を本拠地としていることを考えるとかなりすごいことと言ってよいのではないか。
 何がすごいのか。それは MLB、NFL、NHL、WNBA のチームが集結している都市(*厳密には都市圏)はそれほど多くないということ。
 アメリカ広しといえどもニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントンDC、ダラス、シアトル、ミネアポリス、フェニックスの8都市しかない。
* たとえば大谷選手が所属するロサンゼルス・エンゼルスの本拠地球場は厳密にはロサンゼルス市ではなくアナハイム市だがロサンゼルスの都市圏と位置づけられているのと同様、上記の各都市の所属のチームもその市ではなく近隣の市にスタジアムがあったりする)

今の状況になったのはつい最近のこと

 というわけでラスベガスが9都市目ということになり、集客環境などを重視しなければならないチームのオーナーたちからすると何やら魅力的な都市になっているようだが、当地にプロスポーツチームが集まって来たのは古い話ではない。つい最近のことだ。

2016年:NHL Golden Knights が新設され当地に誕生。
2018年:WNBA Aces がサンアントニオから当地に。
2020年:NFL Raiders がオークランドから当地に。
2027年:MLB Athletics がオークランドから当地に移転予定。

F1グランプリもラスベガスで

 ついでに言うならばカーレースのF1も今年の秋にラスベガスで開催されることが決まっている。2023年度のF1グランプリの米国開催はラスベガス以外ではマイアミオースチンだけとなっており上記の8都市では開催されない。

「プロスポーツの聖地」に

 ラスベガスがボクシングの聖地であることは以前から広く知られていることだが、もはやここ数年で一気に「プロスポーツの聖地になった」と言っても過言ではないほど当地に各スポーツが続々と集まってきている。

実は小都市ではなかった

 ではなぜ最近になってスポーツ界から注目されるようになったのか。逆の言い方をすれば、なぜ長らく注目されていなかったのか。
 「ベガスはカジノやエンターテインメントで栄える単なる観光都市であり、一般市民はそれほど多く住んでいないはず。人口が少ないとプロチームが本拠地にしても集客で苦労するから注目されなかったのでは」との意見も聞こえてきそうだが、それは正しくない。

 たしかに小都市のようなイメージがあるかもしれないが、ラスベガス市、ノースラスベガス市、ヘンダーソン市を含めた都市圏人口は220万人を超えている。これは全米の他の都市と比較して決して小さい数字ではない。

4大スポーツの本拠地の人口

 ちなみに以下は4大スポーツのチームが本拠地としている中規模都市の2020年における都市圏(いわゆる metropolitan area)の人口だ。

 グリーンベイ 32万人
 ソルトレイクシティー 130万人
 メンフィス 130万人
 ミルウォーキー 150万人
 クリーブランド 210万人
 インディアナポリス 210万人
 シンシナティ 220万人
 ラスベガス 220万人
 ピッツバーグ 230万人
 カンザスシティー 240万人
 サクラメント 240万人
 ポートランド 250万人
 シャーロット 260万人
 サンアントニオ 260万人
 オーランド 270万人
 セントルイス 280万人

 これらの数値から、ラスベガスは小都市であるためにスポーツ界から注目されていなかったという説は説得力に欠けることがわかる。

スーパーボウルという言葉の使用禁止

 ではなぜ人口規模は十分なのに今まで注目されてこなかったのか。
 ここからは勝手な推測になるが、ラスベガスのカジノではスポーツに賭けることができるからではないか。つまりスポーツ界はそれを理由にラスベガスとはなるべく距離をおきたかったということ。
 特に NFL「青少年が注目するフットボールの試合を賭けの対象にするとはけしからん」と言わんばかりに、年間チャンピオン決定戦である「スーパーボウル」という言葉を各カジノの賭けの現場に対して使用することを禁じていたほどだ。

スポーツ賭博だけは別扱い

 ちなみにルーレットスロットマシンなどの一般的なカジノゲームが解禁されている州はかなり以前からいくつも存在していたが、スポーツへの賭けが合法だったのは長らくここラスベガスがあるネバダ州デラウェア州などごく一部の州だけだった。
 スポーツの賭けには常に八百長問題が付きまとうので一般のカジノゲームとは異なる別扱いになっていたのもわからないではない。

スポーツ賭博のイメージアップ

 ところが 2018年、大きな変化が起こったのである。
 「我が州でスポーツ賭博が解禁されていないのはおかしい」との裁判が起こされ、連邦最高裁判所が原告の主張を認め、これまでスポーツ賭博を禁止していた州に対しても解禁を命じる判決を下したのである。

 闇で運営していた違法胴元などの撲滅にもつながるこの判決は総じて多くの州で好意的に受け入れられたようで、結果的に全米規模でスポーツ賭博に対する風当たりが変わり、イメージアップにも繋がった。
 たしかに次々に賭けて大金を失いがちなスロットマシンなどのカジノゲームと比べると、むしろスポーツの試合に賭けることは少額でも長く楽しめるという意味で健全なエンターテインメントと言えなくもない。

スポーツ賭博は最高裁のお墨付き

 以上のような経緯を経てスポーツ賭博に対する世間からの風当たりが変わってきたことにより、各スポーツ界がラスベガスを見る目を変えてきた、と勝手に想像している次第である。

 もちろんNHLのゴールデンナイツが当地に誕生したのが最高裁判決よりも前の 2016年であることは今述べた推論と矛盾するかもしれないが、その判決がスポーツ賭博に対するイメージを大きく変えたことは間違いないだろう。
 何と言っても最高裁のお墨付きなのだから、スポーツ界もいつまでも批判的なスタンスではいられないはずだ。

ビジターチームのファンもやって来る

 ちなみにカジノとは関係なく、プロチームにとってラスベガスという都市は魅力的な環境にあるらしい。というのも、ホームチームのファンのみならずビジターチームのファンの入場もかなり期待できるからだ。
 たとえばオークランド・アスレチックスとニューヨーク・ヤンキースが対戦した場合、ヤンキースのファンがはるばるニューヨークからオークランドのスタジアムに足を運ぶことはほとんどないだろうが(その逆も真なり)、ラスベガスで開催すると観光地であるがゆえに 旅行がてらにラスベガスを訪れるというビジターチームのファンも少なからず存在し彼らがスタジアムに足を運んでくれるというわけだ。
 そのような環境にあることも各球団のオーナーたちがラスベガスに魅力を感じている理由の一つといってよいだろう。

オークランドは治安に疑問

 さて話をオークランド・アスレチックスにうつす。
 このチームはこれまで長らく、そして今も困難に直面している。
 まず本拠地としているオークランドについてだが、サンフランシスコの都市圏の中にあるこの都市はすこぶる印象が良くない。地元民の読者からは異論があるかもしれないが、全米規模で犯罪都市のイメージが定着してしまっている。治安の悪さは当然集客にもマイナス要因となることは言うまでもない。

老朽化した球場とレイダースの脱出

 現在使用しているスタジアムもかなり老朽化しており(1966年完成)プレーヤーからも観客からも不満の声が絶えないようだ。
 実はアスレチックスよりもひと足早くベガスに移転を決めたオークランド・レイダースもこのスタジアムを使っていた。野球とアメフトという形態が異なるスポーツで両チームで共用していたためいろいろな不便もあったと聞く。レイダースが移転を決めたのも当然だろう。

大リーグで一番寂しい球場

 そしてさらに困っているのがアスレチックスの今だ。
 ここ数年「大リーグで一番寂しい球場」と揶揄されることもあるほど観客が少なく、今シーズンも開幕して約一ヶ月が経過した今、3000人程度しか入らない日が少なくないという。

年俸の総額が最低、藤浪投手も不調

 観客が少なく収益が上がらないからか選手の年俸の総額も低く、大リーグ30球団の中で毎年オリオールズと最下位を争っているほど年俸が低いというから選手も気の毒だ。
 その選手の中のひとりに阪神タイガースから移籍した藤浪晋太郎投手がいるわけだが、開幕から4試合連続で火だるまになるほど打ち込まれ4連敗
 チームもこの記事を書いている時点で 5勝19敗でア・リーグ西地区の最下位に沈んでいるというからなんとも痛々しい。

ベガスへの脱出は正しい決断

 新スタジアムが完成するであろう 2027年シーズンから、ラスベガスの地元民がこの弱小チームをどのように迎え入れて応援するかはともかく(その前に強いチームになってほしい)、オークランドのファンには申し訳ないが、とりあえずベガスへ脱出することにした決断は正しい判断と言ってよいのではないか。

IN-N-OUT BURGER のすぐ西側

 さてその新スタジアムの場所についてだが、このたびやっと決まったようだ。
 当地の地理に明るい読者にわかりやすい表現をするならば、高速15号線トロピカーナ・アベニューが交差している地点の北西カドの空き地で(人気のハンバーガー店 IN-N-OUT BURGER のすぐ西側)、かつて Wild Wild West という小さなカジノと Days Inn ホテルがあった場所だ。
 現在はすでにほぼ更地になっており、写真のとおり建設機械などが置かれている。

アスレチックスの新スタジアムの建設予定地。トロピカーナ・アベニューから北北東側に向かって撮影。

アスレチックスの新スタジアムの建設予定地。トロピカーナ・アベニューから北北東側に向かって撮影。

 行政側との調整なども残されていることから、まだ移籍が最終的に確定したわけではないが、新スタジアムの建設が順調に進み、強いアスレチックスになって当地にやって来てくれることを願うばかりだ。

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