日本の水不足とは根本的に異なる砂漠都市ラスベガスの深刻な渇水

フーバーダムがコロラド川をせき止めて出現したミード湖。赤い矢印のラインが満水レベルで、この写真の左半分に見える陸地はかつて水中だった。

フーバーダムがコロラド川をせき止めて出現したミード湖。赤い矢印のラインが満水レベルで、この写真の左半分に見える陸地はかつて水中だった。

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 今週は、ゴルフコースの存続どころか街の存亡論も聞こえて来るほど当地ラスベガスが水不足で深刻な事態に陥っているという話題をお届けしてみたい。

 人口200万の砂漠都市ラスベガスが必要としている水のほぼすべては昔も今もコロラド川から取水されている。
 地下水の利用や他の地域からの供給もまったくないわけではないが、それはごくわずか。つまりこの街にとってコロラド川はまさに水の生命線だ。

 そんな貴重なコロラド川の水をせき止めて貯水しているのがアメリカが世界に誇る超巨大建造物「フーバーダム」
 このダムが出現してから約90年、いま過去に前例がないレベルにまで水位が下がり、ラスベガスでは公共施設などはもちろんのこと一般家庭も企業もかなり強制的な厳しい節水を強いられ事態は年々悪化している。
 ラスベガス市内から車で約1時間ほどの場所に位置するそのフーバーダムへ行ってきたので、まずは百聞は一見にしかず、その異常事態を写真でご覧いただきたい。

 この写真はフーバーダムの全容。2007年に航空機から撮影したもので、写真に向かって右側が上流、ダムを境に左下が発電施設。4本見える取水塔の様子などから、この写真の撮影時点ですでに満水時よりも約3分の1ほど水位が下がっていることがうかがえる。

フーバーダムの全容。(2007年に航空機から撮影)

フーバーダムの全容。(2007年に航空機から撮影)

 次の写真は下流側から上流側を見たところ。ほぼ満水時の1998年に撮影。写真に向かって右上方向に人造湖「Lake Mead」(ミード湖)が形成され、満水時はラスベガス市民にとっては頼もしい水源となっていた。

下流側から上流側を見たところ。満水時の1998年に撮影。

下流側から上流側を見たところ。1998年に撮影。

 次の写真も1998年のもの。4本の取水塔は先端部分だけが水面上に見えており、ほぼ満水状態であることがわかる。なお手前に見えている横長の直線状の堰は、余剰の水をあふれさせて発電施設を通さずに別ルートで流すためのもの。

4本の取水塔は先端部分だけが水面上に。(1998年撮影)

4本の取水塔は先端部分だけが水面上に。(1998年撮影)

 次の写真は2011年に撮影。3枚上の航空写真(2007年)の時点と比べて水位に大きな変化はなく、満水時よりも約3分の1ほど低下していることがわかる。

水位は満水時よりも約3分の1ほど低い。(2011年撮影)

水位は満水時よりも約3分の1ほど低い。(2011年撮影)

 次が今年2022年2月の様子。貯水量はすでに悲劇的なレベルに。これよりもさらに水位が下がる7ヶ月後の2022年9月の状態と比べるために、写真内の左下の3つの丸い岩に注目。この時点では一番右側の岩は水面に接している。

赤丸内の3つの岩に注目。(2022年2月撮影)

赤丸内の3つの岩に注目。(2022年2月撮影)

 次の写真が昨日(2022年9月5日)の様子。水面の位置は3つの丸い岩から約10メートルも後退していることがわかる(それほど大きく後退しているようには見えないかもしれないが、それはダム全体が巨大なため)。
 公式データによると水位は直近の7ヶ月間で約6メートル低下している。なお、この水位では発電機能も大幅に低下しているはずだが、ラスベガスで消費される電力の大半はまったく別の地域にある火力発電所から供給されているので、発電に関しては特に大きな問題にはなっていない。

水面は赤丸内の3つの岩から大きく後退。(2022年9月撮影)

水面は赤丸内の3つの岩から大きく後退。(2022年9月撮影)

 フーバーダムの写真は以上。さて、このラスベガスの渇水は日本のそれとは根本的に性質が大きく異なっていることを理解して頂きたい。
 日本でも水不足はしばしば問題になるが、期間限定であることがほとんど。つまりその年だけの問題で、翌年にまで持ち越されることはまずない。
 というのも日本の水不足はその年の降水量だけが原因となることが多く、前年の天候が影響することはほとんどない上、翌年に必要な水は翌年の降水量でまかなわれるからだ。
 また渇水で被害を被るのは農業が中心で、生活用水が足りなくなるといったケースはそれほど多くない。
 そもそも日本ではどの地域においても水源(おもに河川)が複数あるばかりか、砂漠性気候ではないため雨が少ない年であってもそれなりに降る。
 このような期間限定や農業といった部分は、昨今騒がれているヨーロッパ諸国の水不足などにおいても同じようなことが言えるのではないか。

 一方、当地ラスベガスは砂漠性気候のため年間平均降水量は100ミリ程度。これは普通サイズのコップを屋外に1年間放置しておいても(蒸発はないものとしても)、あふれるほどには溜まらないレベルの量だ。参考までに東京の年間平均降水量は約1500ミリ。
(今年の8月にラスベガスの洪水被害が広く報道されたが、日本では当たり前の道路脇に設けられた排水口から地下に雨水を流すような治水がきちんとなされていないことが原因で、その日に実際に降った雨はわずか10ミリ程度)

 年間100ミリの降水量ではたとえ例年の2倍3倍降ったとしてもフーバーダムの水位は上がらない。そもそもラスベガスに降った雨は地形的にコロラド川やミード湖にはほとんど流れて行かない。
 ではラスベガスの水、つまりコロラド川の水はどこから来るのか。それは1000kmほど東北東に位置するロッキー山脈のエリアからやって来る。

 そのエリアに大量の雨や雪が降らないと水不足になるわけだが、残念なことにロッキー山脈に大量の雨や雪が降ってもフーバーダムの水位は1年や2年では大きく増えない。満水のレベルになるまでには何年も要する。日本の水不足がその年だけで終わり翌年に持ち越されることはほとんどないのとは大違いだ。
 また日本の水不足が及ぼす問題はおもに農業に対してだが、ラスベガスでは幸か不幸か農業がないにも関わらず、いきなり一般家庭を直撃する。

 専門家の間からは街の存亡論も出てくるほどの深刻な状況にあるため、庭などへの散水制限や割増料金(規定量を超えた使用には単価アップ)など水の使用に関して毎年のように厳しいルールが発表されているわけだが、ここの読者の多くは「自分には関係ない」と思っているにちがいない。
 しかし今後は注意が必要かもしれない。観光客にも関係してくる可能性が高いからだ。

 たとえばホテル内でのシャワーやトイレの水量制限、噴水関連のアトラクションの回数制限、プールにおける水の使用量や営業期間の短縮などが水道当局によって検討されており、観光客も少なからず影響を受けることになる。
 さらに当地でのゴルフを予定している者にとっては聞き捨てならない事態がすでに起こっている。水不足によるグリーンの荒廃だ。

Primm Valley Golf Club のグリーン。(2022年9月3日)

Primm Valley Golf Club のグリーン。(2022年9月3日)

 1つのゴルフコースと1軒の巨大カジノホテルはほぼ同じような量の水を消費しているとされているが、水道当局はいつもゴルフコースの方に厳しい。
 その理由は、カジノホテルは観光都市ラスベガスに不可欠な基幹産業だからというだけではない(ゴルフコースも観光客が利用する)。ホテルの排水は再利用が可能だからだ。
 シャワーやトイレなどホテル内で使用される水の多くは下水道を経由して処理後に再利用されるが、ゴルフコースの芝生に撒かれた水は土の中に消えるか蒸発してしまう。

 そのような理由ですでにゴルフコースには厳しい水の使用制限が課せられている上、さらにフェアウェー以外の芝生面積の制限の厳格化(ラフ部分をバンカーなどに変更)、そして現在の水の年間使用制限の6.3フィート(芝生の面積に対する降水量換算で1920ミリ)を2024年1月から4.0フィート(1220ミリ)に変更することなどが検討されている。

Legacy Golf Club のグリーン。(2022年9月6日)

Legacy Golf Club のグリーン。(2022年9月6日)

 現在の6.3フィートでもまともな芝生管理ができず、多くのゴルフコースで枯れた芝生が目立ってきており、その上にさらなる制限ではもはやゴルフコースの存続の危機だ。
 グリーンの土台部分は水はけの良い砂などが多く使用されているためフェアウェーよりも乾燥しやすく結果的に枯れやすい。
 枯れたフェアウェーと緑のグリーンならば許容できるが、その逆の状態でプレーしたいと思うゴルファーはほとんどいないだろう。2024年以降のグリーンコンディションははたしてどうなるのか。なんとかそれまでにロッキー山脈に大量の降雪、降雨があることを祈りたい。

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コメント(4件)

  1. 池田耕一郎 より:

    20、30年前にラスベガス市街の水道水の使用をウオーターポリスが取り締まる事があると本で読んだことがあるが、この21世紀になってもあるとは、大変ですね今度行く時が有れば心配しない位回復を❤️‍🩹望みます。

  2. うっぴるっぴるー より:

    帰国前PCR検査と陰性証明書提示が不要に!9月7日から海外旅行再開!
    待ちに待ったラスベガス旅行
    うれしい!

  3. Morris より:

    単純に水を流さない、もしくは流す量を制限すればいいのでは?
    下に住む人は困るけど、将来枯渇するより良いと思う。

  4. 会員番号00001320 より:

    ミード湖のことが今朝、ニュースになっておりました。現地でも話題になっているのでしょうか?

    ///ラスベガス近接の湖から死体が続々 ドラマや映画の世界が現実に///
    https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%99%E3%82%AC%E3%82%B9%E8%BF%91%E6%8E%A5%E3%81%AE%E6%B9%96%E3%81%8B%E3%82%89%E6%AD%BB%E4%BD%93%E3%81%8C%E7%B6%9A%E3%80%85-%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%82%84%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%8C%E7%8F%BE%E5%AE%9F%E3%81%AB/ar-AA12BHnN?ocid=msedgntp&cvid=6210a41cb5954741a01fe8e850383957

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