ここ数ヶ月間のこのコーナーにおける題材に関して地域限定情報、つまり「ラスベガスに関連した情報」よりも、不特定多数の読者を対象としたトリビア的な話題のほうがグーグルからの評価が高い(いわゆる「グーグル砲」を得られやすい)ことがわかってきたので(話題に対して興味を示す読者の絶対数を考えると当然か)、今週もまた数週間ぶりに当地ラスベガスの観光情報とはほとんど関係ない話題を提供してみたい。
ずばりラスベガスから、いやほぼ全米からフカヒレスープが消えてしまったという話だ。それを現場の状況をストーリー風に書いてみた。
(なお、当初これを記事にする予定はなかったので、後半の乾物屋の場面までは写真を撮っていないことをあらかじめ了承いただきたい)
遠慮もなくフカヒレを要求する悪友
コロナに関する出入国規制が緩和されてきたことを受け、先日ひさしぶりに日本から悪友がやって来た。今回は奥様も一緒だ。
いつも日本で世話になっていたこともありディナーでもご馳走しようと料理ジャンルの希望などをたずねてみると、遠慮もなく「高級ホテルの中華料理店のフカヒレスープ!」とハッキリ意思表示。
といっても長年の親しい関係だからこそ可能な彼らしいいつものパターンなのでビックリはしない。
アメリカでもフカヒレは超高級食材
変に遠慮されるよりも気持ちがいいので希望を言ってくれること自体は大いにかまわないが、ご存じのようにアメリカでもフカヒレは超高級食材。
おごる立場としては予算的にビビってしまいそうだが、そうはならなかった。たまたま財布の中身に余裕があったこともさることながら、どのレストランにもフカヒレスープがたぶん存在していないだろうことは何となくわかっていたからだ。
ツバメの巣も存在せず一安心!
ディナー当日の晩、彼らが宿泊する高級カジノホテル「ウィン・ラスベガス」の中華料理店に入ってみると、はやりフカヒレスープはメニュー内に載っていなかった。とりあえず財布的には一安心といったところか。
それでも一瞬だけ、「『じゃぁツバメの巣のスープ!』と言われたらどうしよう。彼なら言いかねない」と、これまた高級メニューの存在が頭の中をよぎった。が、幸いにもツバメの巣もメニュー内には見当たらず再度一安心。
ちなみに存在していたスープは意外にもワンタンスープなど、この店の格としては庶民的なものばかりだった。
来客の要望は一番高い北京ダック
「なぜこんな高級店にフカヒレスープがないんだよ?」、「たしか法律で禁止されたらしいぞ」、「ホントかよ。まぁいいや、無いならワンタンスープで」と言いながら、ウェイターが置いていった分厚いメニューをめくり続ける悪友。
英語で書かれているためわかりにくいのか、なかなか視点が定まらないままページを行ったり来たりしていると、高そうなメニューが並んでいるページで視線がピタリと止まる。
「とりあえずこの一番高いやつ!」と指でさし示してきたのは北京ダックだった。実はそれが一番高いメニューというわけではない。
鹿児島産和牛のほうが高かったが
おごってもらう側が遠慮もなく思いっきり高い料理を選ぶのが我々の長年のサドマゾ的なしきたりだったので、北京ダックの倍以上もする鹿児島産の和牛をオーダーされる可能性もあったが、食通の彼は中華料理店で和牛をオーダーするような間抜けなことはしなかった。
それでも奥方の視線はかなり長時間、といっても数秒間、確実にその和牛のところで止まっていたので彼女はそれを食べたかったようにも見受けられたが、ダンナとは違い常に相手の懐事情にも気を配る彼女が和牛をオーダーしてこないだろうことは最初からわかっていた。
あとはありきたりの料理をみんなで数品選んでウェイターの到着を待つことに。
どんな高級ワインをオーダーするのか
ここまで読んで頂いた読者は「その悪友はこのあとどんな高級ワインをオーダーしたのか」と気になったりしているかもしれないが、フレンチやイタリアンならいざ知らず、中華料理店でワインをオーダーしないのが彼のスタイルなので残念ながらワインの話はない。
紹興酒も特に好きではない彼のこと、どうせバドワイザーでもオーダーするのだろうと思いきや、この店の雰囲気に配慮したのか、やって来たウェイターに彼が告げたのは青島(チンタオ)ビールだった。
末広がりの「八」は縁起がいい数字
店には配慮しても奥方やこちらの希望を聞くといった配慮には無頓着な彼は、さっさとウェイターに青島ビールを8本オーダーしながら(ちなみに日本と違って大ビンを互いに注ぎ合って飲む習慣がないアメリカでのビールの基本サイズは約350ml の小ビン)、ウェイターに「なぜフカヒレスープがないのか?」と、ぎこちない英語で質問。
ウェイターはフカヒレの質問のことよりも4人しかいないのに8本という部分に反応したのか一瞬キョトンとしていたが、「小瓶なのでどうせすぐに追加オーダーすることになるから最初から2本ずつオーダーする」といった意図を悪友が身振り手振りで説明するとすぐに納得してくれた様子。
その直後、ウェイターがフカヒレについて話し始めようとした瞬間、悪友は今思いついたのかそれとも前からよく使っているお決まりのおやじトークなのか、「中国では末広がりの『八』は縁起がいい数字なので、それを意識しての8本にしたんだ。このあとカジノでラッキーなことがあるようにね」といったことを、カジノの方向を指さしスロットマシンを回すしぐさを交えながら説明すると、その場がなごやかになったのはよかったが、ウェイターはフカヒレ禁止の話をするのを忘れてそのまま我々のテーブルから去ってしまった。
散財させることが目的の食事会
白人系のそのウェイターは8がラッキーナンバーであることを知らなかったようにも見受けられたが、そんなことはどうでもいい。悪友本人もフカヒレの話を忘れてしまっているところが笑える。
というか、そもそも日本でいくらでも楽しむことができるフカヒレに大して興味を示していないことなどお互いに始めからわかっていること。ようするにこの日のディナーはこちらを散財させることが目的の食事会というわけだ。
バドワイザーは置いていない
青島ビール、北京ダック、その他の料理が次々と運ばれてきて4人で楽しいひと時を過ごすこと約1時間。
まだ飲み足りないのか悪友は途中でバドワイザーを追加オーダーするも、この店にバドワイザーは置いていないことを知らされ仕方なくまた青島を2本。
「偶数本は縁起が悪いのでは」と少しからかってみたものの、こちらの話を聞いているのかいないのか完全に無視。
「遠慮の塊」のような最後に残された北京ダックに箸を伸しながらデザートメニューを手に取ったが、満腹なのかオーダーせずにそのままページを閉じてしまった。
こちらのさらなる散財に気を配ってデザートを遠慮してくれた可能性もあるが、たぶんそうではないことは長年の付き合いでわかる。
聞き損じてしまった XXXX の部分
アルコールが回ってきたこともあり、だれもフカヒレのことを思い出さないまま宴は終わりに近づいていたところで、ウェイターが伝票を持ってくると、悪友は突然思い出したかのようにフカヒレがメニューに無いことを質問。
「法律で禁止されているからです」という返事はこちらが想定していたものだったので全員が「やっぱりそうだったんだ」と素直に納得したが、そのあとに興味深い話を続けてくれた。
「当店では置いていませんが、最近フカヒレの代わりとなるモノとして XXXX が注目されていて、それを置いている店もあるようですよ」とのこと。
残念ながら全員酔っ払っていたため情報に対する貪欲さが失われていたのか、書き留めることを忘れてしまい、その XXXX の部分を失念。いや失念というよりも始めからだれも覚えようとしていなかった。
以下、いきなり日付が変わり、この悪友夫婦が日本へ帰国したあとの話へと続く。
フカヒレ、無いとは言わずに厨房へ
その数日後、ランチタイムにたまたま別の友人とチャイナタウンの西方にある中華料理店「J」に行く機会があった。
XXXX(←まだ思い出せない)に関するヒントでも得られるのではないかとの思いで、席に通されたあと担当スタッフに、わざと無いことを承知で「フカヒレスープってありますか?」とたずねてみた。
「ありません」と即答されるかと思いきや、新人スタッフだったのか「少々お待ちください」と言いながら厨房の方へ。
フカヒレ、事前予約で提供可能?
しばらくすると、「フカヒレは水に戻すのに時間がかかるので事前に予約して頂かないと…」とのこと。
たしかにフカヒレは水に戻してふやかすのに数日かかるので事前予約そのものは想定の範囲内だったが、「事前予約さえすれば提供可能」とも受け取れる返事に好奇心がくすぐられた。禁止されているはずなのにこれはどうしたことかと。
違法でも常連さんにはコッソリ提供?
さっそくテーブルに着席したまま台湾系の友人に電話をかけ、こちらが知りたい XXXX のことや今いる店の対応などを伝えると、「フカヒレが禁止されていることは間違いない。が、店によっては常連さんへのサービスとしてコッソリ提供することはあるのかもしれない。代替品の話に関しては情報を持っていないのでわからないが、かつてフカヒレを扱っていた乾物店に行ってみると何か情報を得られるかも」とのことで、その店の場所も教えてくれた。
台湾系の友人が教えてくれた乾物屋
チャイナタウンにあるというその乾物店はかなり前に行ったことがある店だった。さっそく行ってみると昔と変わっていない様子になぜか安心感が。
ひょっとするとフカヒレがあるかもと思いながらも、99%無いだろうことを承知で「フカヒレは?」とたずねてみると、店主と思われるチャイニーズ系の高齢スタッフが段ボール箱などの整理をしながら「輸入も販売も禁止されているのでそんなものは無いよ」とそっけない返事。
「フカヒレの代わりになるようなものがあるらしいが…」と続けて質問すると、めんどくさそうな表情で「それがなんのことだか分からないが、あのへんに置いてあるものじゃないのか」と、それらしきものが置いてある方向を指で示してくれた。
フカヒレに代わるものは蝴蝶花膠?
そこに置いてあったのが下の写真で、蝴蝶花膠という名前で販売されていた。併記されていた英語表記は dried fish maw。
これが先日の高級中華料理店のウエイターが言っていた食材なのかどうかは記憶が定かではないので何とも言えないが、違っているような気がしないでもない。
辞書で調べても maw の意味が今ひとつハッキリしないが、とにかく1LB(1ポンド、約450g)が $170 や $199 といった価格設定になっているので(ざっくり 100g で 5000円といったところか)、上級のフカヒレほどではないものの、それに負けず劣らず高いことだけはわかる。
この値段でも需要があるということはかなり美味しいのか、それともそうでもないのか。どうやって料理するのか。
いろいろ疑問が湧いてきたが、忙しそうにしている店主らしき人物にこれ以上質問するのも雰囲気的に気が引けたので、先ほどの台湾系の友人に「蝴蝶花膠というものがフカヒレに代わるもののようだが美味しいのか?」と写真を送って電話で質問してみた。
「フカヒレと同じような目的に使うのであれば美味しくないだろう。そもそもフカヒレもツバメの巣も何の味もしない。それらは貴重品ということで注目されているだけ。どちらも非常に高価ということを理由に接待向けの料理として重宝されているが、普通の台湾人がわざわざ自分でカネを払って食べるような食材ではない。蝴蝶花膠も一般的な食材ではないよ」とのこと。
禁止理由はフォアグラと同じ発想か
というわけで長い話になってしまったが、フカヒレ禁止に関してさらなる情報を知りたい場合は各自で「shark fin ban USA」などのワードで検索してみて頂きたい。
ここ数年で輸入も販売も禁止する法律が州レベルのみならず国レベルでも議論されており、またアメリカ国外にもその動きは広まっていることがわかるはずだ。
禁止の理由としては、生態系の保護などのようなことも言われているが、フォアグラ禁止の動きと発想は同じでホンネの部分は「ヒレだけ切り取って捨てられるサメが可哀想」といった感情論にあるように思える。
日本においてはサメはヒレだけでなく身の部分も蒲鉾など練り物に広く使われているので、他の国でもサメという限られた資源を無駄なく有効利用して頂きたいものだが、このままどんどん世界的に禁止になってしまうのか。フォアグラやクジラ同様、食文化の議論は非常にむずかしい。
(フォアグラの禁止に関しては少々古い情報になるが、当サイトの週間ラスベガスニュース 第806号 に掲載)
蝴蝶花膠に関する情報を募集中!
さて最後に蝴蝶花膠について。まだこれを食したことがないし、食したことがあるという知人友人から味などに関して聞いたことがない。(「メニュー内で maw soup をときどき見かけあ」という友人はいるが)
ネットで調べてみてもいろいろ動画などはあるものの、日本語でのわかりやすい情報が少ない。
どこの国に在住する読者でもかまわないので、味、レシピ、値段、販売ルートなど、なにか情報があったら以下のコメント欄にでも書き込んで頂けたら幸いだ。
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コメント(1件)
いつも楽しく拝読しております。
fish mawは魚の浮袋だと思います。何の魚なのかは気にしたことがないので、分かりませんが。
タイ料理で見かけます。タイ版のフカヒレスープですね。値段は数百円だった気がします。