トランプ氏推薦の判事、マスク着用の義務化は法律違反との判決

4月18日以前のラスベガス国際空港第3ターミナルのセキュリティーチェックポイント。

4月18日以前のラスベガス国際空港第3ターミナルのセキュリティーチェックポイント。

  • URLコピー

 アメリカは「合衆国」というだけあって 50もの州が集まって出来ている国。
 そんな事情もあり、ほとんどのルールはやそれ以下の行政単位ごとに決められるのが普通で、「国が関わるのは軍と外交だけ」といわれたりもする。(それは少々大げさで、実際には国が決めていることは他にもたくさんある) 
 ご多分にもれずラスベガスにおけるマスク着用のコロナ対策ルールも国(連邦政府や議会)ではなくネバダ州が決めており、すでに 2022年2月10日からカジノやナイトショー会場を含むほぼすべての場所でのマスク着用義務が解除されているわけだが、このたび国レベルで急転直下の新たな変化が見られた。

州が解除を認めても国が認めない

 すでにネバダ州以外の州でも解除されているため、もはやアメリカでのマスク着用義務は完全になくなったかのようにも思われがちだが、実はそうではない。州が解除していても国の組織が解除を認めていない分野もあるからだ。空港や機内がまさにそれに該当する。
 出発地と到着地では州が異なるばかりか飛行中はいろいろな州をまたぐため、ルールを空港所在地のそれぞれの州が決めていたのでは何かと不都合が生じてしまう。

国内線に限って全面解除

 そんな背景もあって、各州でマスク着用義務が解除されたあとでも空港や機内だけは全国レベルで解除されていなかったわけだが、それは先週までの話。
 では今はどうなっているのか。結論から先に書くならば、4月18日から空港内や機内でも全国的かつ全面的に解除された。つまりマスクをしなくてもよい。
注意: 今回の話はすべてアメリカの国内線での話であって国際線に関しては相手国側の事情もあるため必ずしも全面解除になったわけではない。またアメリカ国内の空港でも出入国審査場などでは例外的に引き続き着用となっている場合もある)

ラスベガス国際空港第3ターミナルのバゲージクレーム付近。マスク無しがほとんど。(2022年4月20日 4pm ごろ撮影)

ラスベガス国際空港第3ターミナルのバゲージクレーム付近。マスク無しがほとんど。(2022年4月20日 4pm ごろ撮影)

コロナ対応、民主党と共和党の違い

 今回の全国レベルでの解除に至るまでにはいろいろな議論があったようだ。というのも国の組織といってもさまざまで、それぞれ役割や立場が異なるからだ。
 たとえば健康や衛生の分野を担当する組織としては着用義務をなるべく長く継続したいだろうし、経済や景気に関わる組織はあまり厳しい規制は望んでいない。
 政党によっても違いがある。民主党はどちらかというと規制もやむなしといったスタンスで、逆に共和党は厳しい規制には反対だ。

「鶴の一声」での決着?!

 そんな複雑な事情がある中で、このたびの着用義務解除はあっけなく簡単に決まってしまったようなので興味深い。なにやらトランプ元大統領(共和党)の息がかかる人物による「鶴の一声」的な感じでの決着だったようだ。
 その経緯や内情を 4月18日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じているので、ラスベガスでエアラインに勤務する知人から聞いた現場の話と合わせて紹介してみたい。

鶴を任命したのはトランプ元大統領

 WSJによると、その「鶴の一声」を発した張本人は連邦裁判所の若き判事 Kathryn Kimball Mizelle 氏(34)で、彼女は 4月18日、民主党のバイデン政権主導の元で CDC(米国疾病予防管理センター)が決めた公共交通機関でのマスク着用の義務化は違法、と断じたのである。
 さらに彼女はその根拠として、国の管理下の組織であるCDCといえども全国民を対象としたマスク着用の義務化は組織に与えられた権限を超えており、また義務化の決定に至るまでの手続きも法に沿っていないとしている。彼女を任命したトランプ元大統領としては「してやったり」といったところか。

TSA も航空会社もマスク解除

 もちろんCDC側は立場上、引き続き「マスクは感染拡大防止に効果がある」と着用を奨励しており、またバイデン政権側も今回の判事の決定を不服としているが、空港や航空機の安全を守っている TSA(米国運輸保安局)はただちにマスク着用義務を解除。アメリカの各航空会社も社員および搭乗客に対してマスク着用は義務ではないと発表している。
(くどいようだが、あくまでも国内線の話であって国際線は着用不要とは限らない)

機内で捨てられたたくさんのマスク

 ラスベガスの空港で勤務する知人から聞いた話によると、すでに利用客の多くが着用しておらず、空港で働く者も続々とマスクを外しているとのこと。
 もちろん中には引き続き着用している現場スタッフもいるようだが、必ずしも感染を恐れてのことではなく、化粧やヒゲを剃る手間を省きたいという理由で着用を継続している者も少なくないというから、心配性の日本人としては理解しがたい職場の雰囲気なのかもしれない。
 またサウスウェスト航空のフライトアテンダントの話として、飛行中の機内で「たった今、機内でのマスク着用の義務が解除されました」とアナウンスしたところ搭乗客の多くが歓喜を上げ一斉にマスクを外し、そのあとのドリンク類などのゴミを回収する際には、ゴミ袋にたくさんのマスクが投げ込まれたとのこと。良いか悪いかは別にして、日本と比べると感染リスクに対する緊張感や問題意識はかなり低いようだ。

一部の搭乗客からはいかりの声

 アメリカ人のすべてが緊張感を持っていないのかというと必ずしもそうではない。
 WSJ などが報じたところによると、複数の航空会社のフライトにおける 4月18日の事例として、機内でマスク着用義務の解除をアナウンスすると、搭乗中の客からいかりの声が上がることが少なからずあったという。
 全員がマスクを着用しているという前提で安心安全を信じて搭乗している者からしてみれば、怒りたくなるのももっともなことで、日本人の感覚からすると共感できる部分があるのではないか。

機内でのケンカの対応が困難に

 そのような一部の搭乗客から不満の声が上がっているという話を聞くと、気になってくることがある。さらなる機内での不和だ。
 複数のメディアが報道しているところによると、航空業界の団体 Airlines for America の広報担当者は、「コロナに関するさまざまな規制はすぐにでも撤廃すべきで、我々は以前からそれを求めてきた。今回の判決は非常に勇気づけられることで歓迎したい」と語ったとのこと。
 また同様に、共和党のフロリダ州知事もこの判決に「航空会社の従業員にとっても利用者にとっても悲惨な状況を終わらせることができた」と歓迎。

 だが今回の判決が航空会社のスタッフ、とりわけフライトアテンダントや機長、そして利用者にとって本当に良い結果をもたらすのだろうか。いやな予感がしないでもない。
 というのも、一律に着用が義務だった今までも機内でのトラブルが絶えなかったらしいが、今後 着用は任意というルールのもとで着用派非着用派が狭い機内で混在するとなると、トラブル自体の急増のみならず、任意であるがゆえにそのトラブルの解決がむずかしくなると予想される。となりの席の非着用者の大きなクシャミによる言い争いなど毎日のように多発するのではないか。
 今までならルール違反ということで非着用者をつまみ出して飛行機から降ろせば済んだことだが(飛行中は無理だが)、今後はルールがないだけにそのような対応が必ずしも合理性のある解決手段とはなり得えない。
 搭乗客同士のさまざまなケンカに対処しなければならない機内スタッフにとって不必要な仕事が増える可能性が高いことは間違いなく、航空業界はどのような対応策を考えているのか興味は尽きない。

コロナは終わっていない、マスク必携

 最後に、着用解除に対する賛否はともかく、着用解除に向けた判決が出たからといってアメリカ国内からコロナ感染が完全になくなったわけではないことはしっかり認識しておくべきだろう。
 ちなみにここ数週間における新規感染者数はピーク時と比べると大幅に減ってきてはいるものの、州によっては人口比で日本と大差ないレベルかそれ以上の感染者数をカウントしている。またカウントされていない感染者もかなりいると思われる(それは日本でも言えることだろうが)。

 したがって今回の判決でマスク着用解除になったのはコロナが終息に近づいているからではなく、インフルエンザや一般のカゼなどと同程度の扱いになってきているためと考えるべきで(後遺症などを危惧する専門家などはコロナを軽視することに警鐘を鳴らしているが)、ゴールデンウィークなどにラスベガス旅行を計画している読者は油断することなく安全対策を忘れずにラスベガス滞在を楽しんで頂ければ幸いだ。

関連カテゴリー
  • URLコピー

コメント(1件)

  1. NY より:

    たかだかフロリダ州タンパ地裁の判決が出ただけで、かつ司法省とCDCは控訴すると即日発表しているにもかかわらず、TSAがマスク不要という決定をしたのは驚きですね。

コメントをお寄せください!

ご意見、ご感想、記事内情報の誤りの訂正など、以下のコメント欄にお寄せいただければ幸いです。なお、ご質問は [フォーラム] のほうが返事をもらえる可能性が高いです。

※ メールアドレスが公開されることはありません。
※ 以下に表示されているひらがな4文字は、悪質な全自動プログラムによる大量の書き込みなどを防ぐためのアクセス・コードです。全角ひらがなで入力してください。
※ 送信いただいたコメントが実際の画面に表示されるまで15分程度の時間を要することがございます。

CAPTCHA