新型コロナに関するさまざまな規制が世界中で緩和されるなか、日本でも 2022年3月から入国者に対するいわゆる水際対策が緩和され始めた。その結果、帰国時の行動制限が減ってきており、海外旅行を楽しめるようになりつつある。
とはいえ入国制限がまったくなくなったわけではなく、実際にはまだしばらく海外旅行は現実的ではない。
そんな状況を踏まえ、今後はなるべく観光客のための情報というよりも、現在読者の中心となっているラスベガスファンのための「なるほど情報」的なものをお届けすることとしたい。(ショーやグルメ情報などは観光客が戻って来るころに変わってしまう可能性があるので)
コロナが終わっても、さらなる難題
新型コロナによって観光業界のみならず一般市民も大きな影響を受けていることは世界中の他の都市と同様だが、ラスベガスの場合、コロナ騒動が終わったとしても、それに勝るとも劣らない大きな難題が待ち受けている。水不足だ。
当地が砂漠性気候の環境にあり雨が少ないことは広く知られていることだが、ここ数年それがさらに深刻化しており雨がほとんど降っていない。
満々と水を湛えるミード湖は過去の話
ちなみにラスベガス市民の水の供給源の大半はコロラド川およびその水を湛えるミード湖(Lake Mead)だ。
ミード湖はラスベガスから車で東に1時間ほど走った場所に建設された世界的に名高い巨大なフーバーダムによって形成された全米最大の人造湖。
ラスベガス周辺に降った雨はもちろんのこと、はるか東方に位置するロッキー山脈の雪解け水なども満々と湛えている。といってもそれは過去の話。今は満々ではない。
なんと驚きの満水時の35%
ここ数年、ラスベガスだけでなくロッキー山脈のエリアでも雨や雪が少ないようで状況は悪化するばかり。結果的にミード湖の水位は下がり続け、なんとその量、満水時の35%しかないというから問題は深刻だ。
なお、貯水量が減ればフーバーダムの水力発電能力にも影響が出てくるわけだが、現在ラスベガスで使われている電力のほとんどはまったく別の場所にある火力発電所から供給されているため、電力事情は大きな問題にはなっていない。
極めて深刻な危機的状況
話を電気から水に戻す。では水不足問題は具体的にどの程度深刻なのか。
コロラド川流域を管理する当局や衛星写真などで現場周辺を調査し続けているNASA などのデータによると、2021年夏に記録したミード湖の湖面の史上最低水位が海抜325m。現在のそれは 2フィート(約60cm)高いだけで、ほとんど増えていない。(ちなみに満水時の湖面は海抜約370m)
「でも減ってはいないじゃないか!」と楽観的に思うことなかれ。例年1月から4月にかけてはロッキー山脈からの雪解け水の流入により 2~3メートル水位が上昇するのが普通だからだ。今の時期でも昨年の夏から増加していないという現実は極めて深刻な危機的状況にあると認識しなければならない。
水の配分量、前年比で 7%削減
そのため当局はネバダ州への今年の水の配分量を前年比で 7%削減することをすでに決めており、今後さらに削減量を増やす可能性も出てきているというから市民生活への影響は必至だ。
参考までにコロラド川の水はラスベガスがあるネバダ州のみならず、近隣のアリゾナ州やカリフォルニア州の一般市民の水源、さらには米国南西部の広大な農地にも広く供給されており、一連の水不足問題はネバダ州だけにとどまらない。
庭の芝生への散水は週1回?
さてラスベガスの一般市民にとっての具体的な影響はどのようなものなのか。
一番端的にあらわれてくるのが各家庭における庭の散水だ。アメリカの戸建住宅の多くには庭があるわけだが、そこの芝生にまく水(ほとんどの場合、スプリンクラーで自動散水)が厳しく制限されており、先週までの冬期(11月から2月まで)はスプリンクラーの散水設定を「週1回までにすること」というルールが適用されていた。(以下の写真は各家庭に配られる散水ルールのカード)
春以降、日射が強くなるばかりか非常に湿度が低いラスベガスの自然環境においては、週1回程度の散水では芝生が枯れてしまう。そのためこのたび 3月と4月の2ヶ月間の散水ルールが「週3回」にまで緩和されたが、猛暑の時期を迎える 5月以降のルールがどうなるかはまだわからない。
芝生から石と岩とサボテンへ
そんな厳しい状況を受けて、ここ数年、水道当局では各家庭に対して庭を人工芝にするか、石を敷き詰めて大きな岩やサボテンなどでアクセントを付けるいわゆる「desert landscape」を奨励している。
消滅させた芝生の面積に応じて奨励金も出るため、すでに多くの家庭がそれに応じており、天然芝はもはや少数派になりつつある。
一般家庭がそうであるならば、公共の場所はなおさらだ。公園などでは必要最低限の場所以外の芝生はどんどん砂利などに置き換わってきており、また道路脇の沿道などからも天然芝は姿を消しつつある。
ホテルが立ち並ぶストリップ大通りの繁華街でも中央分離帯などの芝生が人工芝に置き換わってきており、一般観光客も当地の深刻な水不足問題を視覚的に体験できるはずだ。
ホテル業界とゴルフ業の対立の勝敗は
そこまで水が不足しているとなると、だれもが気になって来るのがゴルフコース、そしてラスベガスを知っている人にとっては各ホテルが展開するゴージャスな池や噴水などだろう。
実は何年も前から当局からの節水要性に対してホテル業界とゴルフ業界は対立する立場にあり、それぞれが水の利用権を主張し合っている。
どちらも水が不可欠な業界であることはだれにでもわかることだが、この問題、どちらかというとゴルフ場のほうが分が悪い。
なぜならホテル側の「顧客が客室のバスルームなどで使用する水を含めて館内で使用する水はすべて原則として汚水処理されたあとミード湖に戻ってリサイクルされているが、コルフコースでの散水はすべて蒸発してしまう。ホテルの池や噴水の水は昔からの利権に基づくもので、また蒸発の速度はゴルフコースほどではない」という主張はそれなりに説得力がある。
新設コース、地下水以外は使用禁止
そもそも観光で地元経済が成り立っているラスベガスにおいて、水道当局がホテル業界を厳しく規制できるわけもなく、ゴルフ業界のほうがしぶしぶ desert landscape 化に応じているという現状はやむを得ない当然の成り行きといえるかもしれない。
具体的にはほとんどのゴルフコースがフェアウェーとパッティンググリーン以外の芝生、つまりラフなどの芝生を砂利や広大なバンカーに置き換えている。
プレーするゴルファーにとってこれが景色的に美しい変更なのかどうかは人それぞれだろうが、ラスベガスのコース特有の景色であることは知っておいて損はないだろう。
ちなみに昨年の11月、「今後新設されるゴルフコースはコロラド川の水を使用してはならず、地下水のみで散水すること」という条例が可決された。地下水の利用権もいろいろ複雑なので、今後ゴルフコースの新設はかなりむずかしくなりそうだ。
いつの日かミード湖は消滅か
以下のリストはラスベガス地域を管轄する水道当局が発表した 2020年における水の消費量ワースト20(単位は100万ガロン)。やはりゴルフコースとホテルがほとんどであることが見て取れる。
最後に、その水道当局が発表したミード湖の水位の予想によると、2024年には現在すでに史上最低となっている水準よりもさらに 20メートル下がる可能性があるとしており、そうなるとさらなる節水に迫られるばかりか、水力発電も機能しなくなるとのこと。
地球温暖化が影響しているのかどうかに関しては意見が分かれるところだろうが、今後さらに米国西部地域で降雨量が減るとなると、雪解け水などがコロラド川に流れ込む量よりも蒸発する量のほうが多くなり、いつの日かミード湖が消滅しかねないとの予測もある。
はたして今後のラスベガスはどうなることやら。コロナ騒動よりも大きな試練であることは間違いなさそうだ。
2020年の水の消費量ワースト20
1. Angel Park Golf (436 百万ガロン)
2. Red Rock Golf (422)
3. Southern Highlands Golf (407)
4. Venetian Casino Resort (403)
5. Wynn Las Vegas (383)
6. Caesars Palace (369)
7. Mandalay Bay Hotel (360)
8. Summerlin Council (342)
9. TPC at Summerlin Golf (314)
10. City Center Facilities (295)
11. MGM Grand Hotel (292)
12. Nevada Property 1 LLC (286)
13. Bellagio Hotel (272)
14. Palm Valley Golf (269)
15. Canyon Gate Country Club (261)
16. TPC at Canyons (259)
17. SWITCH LTD (257)
18. Mirage Hotel (243)
19. Highland Falls Golf (242)
20. Summerlin North Community (241)