今週はいつもとおもむきを変えてクレー射撃の話をしてみたい。
もちろんカジノやナイトショーなどとはまったく関係ない。ラスベガスやコロナ騒動とも特に関係ないので、「なにゆえラスベガス大全がクレー射撃を?」と疑問に思われるかもしれないが、それの答えは「たまたま現場に行ったから」。
さらに理由を無理やりこじつけるならば、「ラスベガスやコロナと少し関係があるかも」と言えなくもない。というのも、クレー射撃場は全米各地に数あれど、広大な砂漠に向かって撃つという雄大な環境は当地ならではのものであり、また感染リスクが高い「3密」とは無縁の環境にあるという意味ではコロナ禍に適した屋外アクティビティーだからだ。
元総理はクレー射撃の五輪選手
こじつけ理由はそのへんにして、話を進める前に念のため。
銃の所持や扱いに厳しい規制がある日本はもとより、アメリカでも銃規制に関して賛否両論あるため、「わざわざ日本人に射撃を紹介するとはいかがなものか」といった意見もあるかもしれないが、ここではそのような思想的なことにはふれないものとする。
そもそも今回紹介するクレー射撃はあくまでもスポーツ。それを否定的に捉えてしまっては愛好家や競技選手たちに失礼というもの。
選手といえば元総理大臣の麻生太郎氏もその一人で、クレー射撃の日本代表選手としてオリンピック(1976年モントリオール大会)に出場していることは知る人ぞ知るトリビアだ。
最も一般的なのは「トラップ」
競技内容などを知らない人のために簡単に説明しておくと、クレー射撃とはその名の通りクレー、つまり粘土を焼き固めたようなオレンジ色の円盤状の標的が発射台から打ち出され、それを散弾銃で撃ち砕く競技。
クレーの数や飛び出し方などによっていくつかの種目があるが、今回ここで紹介するのは最も一般的な「トラップ」と呼ばれる種目。
同時に2枚のクレーが飛び出しその2枚を撃ち砕く 「ダブル・トラップ」とは異なり、「トラップ」では1回の試技に1枚だけなので初心者にも馴染みやすい。
1ラウンドは25枚。クレーは撃ち手の前方に設置された発射台から右奥、左奥、真っすぐ奥などランダムな方向に放出される。
さらに詳しく知りたい場合はネットで検索すればルールから動画までたくさん見つかるはずなのでそちらを参考にされたし。
広大な砂漠に向かって撃つ!
ではラスベガスでのクレー射撃は何がどのように特徴的で楽しいのか。それは冒頭でも簡単にふれたとおり、なんといってもその環境だろう。
射撃という性格上、どこの都市でも広大な施設になっていることは共通しているが、ラスベガスの射撃場は「無限」という言葉で表現してもよいほど果てしなく続く広大な砂漠に向かって撃つように設定されており、そんな環境に身を置いているとカジノ街の喧騒もコロナも忘れさせてくれる。
オレンジとブルーのコントラスト
注目すべきは雄大な環境だけではない。いつも晴天のラスベガスでは色彩も美しい。真っ青な空に向かって舞い上がるクレーのあざやかなオレンジ色と背景のブルーとのコントラストはなんとも絶妙で、砂漠の静寂の中に響き渡る銃声がさらにその色彩美を引き立ててくれる。
そして命中。オレンジという色そのものが霧のように飛び散り青空の中に吸収されていくさまは、爽快であると同時に小さな打ち上げ花火のようなはかない瞬間でもある。命中せずに砂漠の大地に静かに落ちて消え去るオレンジ色の塊もこれまたはかない。(クレーが空中を飛んでいる写真や、砕け散る瞬間の写真を撮影できなかったのが残念)
コツは進行方向の少し先を狙う
命中させることは決して容易ではない。簡単に命中させることが出来てしまったら競技になるはずもなく、初心者ならたぶん25回の試技で命中するのは数発だろう。ゼロ発ということも覚悟しておいたほうが良いかもしれない。
命中させるコツは、クレーが飛ぶ方向や速度を先読みして進行方向の少し先を狙って撃つことのようだが、横方向に飛んでいる場合と奥方向に飛んでいる場合では見かけの速度が異なるのでそれなりの調整が求められる。
さらに散弾そのものの速度も遠くになれば失速してくるので、ターゲットまでの距離に応じた到達までの時間差などを読み取る能力も必要だ。
場所はホテル街から車で30~40分
何やらむずかしいようだが、命中してもしなくても楽しめるのがクレー射撃というもの。
ラスベガスで自家用車やレンタカーを運転できる状況にあったらぜひ現場まで足を運んでみるとよいだろう。仮に実際に撃たなくても見学するだけでもそれなりの驚きや新たな発見があるはずだ。
射撃場の場所はラスベガスのホテル街から北北西の方向に車で30~40分ほど走った位置にある Clark County Shooting Complex。
行き方としては Decatur Blvd の北端の終点まで走るだけなのでわかりやすい。
なお現場は広大であるばかりか、いくつかの施設が点在しているためクレー射撃の受付の場所が簡単に見つからない可能性がある。以下の北緯と西経の座標をグーグルマップに入力して、その建物に向かうようにするとよいだろう。
36.341869, -115.210954
銃はレンタル、弾は買う
現地の受付ではいくつか質問される。その内容は、やりたい射撃の種目、散弾銃(Shotgun)を持参しているのかレンタルするのか、弾は持参しているのか買うのか、買う場合はどれだけ必要か、そして何ラウンドしたいのか(1ラウンドはクレー25枚)、など。
それぞれ順番に「トラップ」、「レンタル」、「弾は買う。25発」、「1ラウンド」と答えればよい。
なお、その際に弾のサイズも聞かれ、さらにそのサイズに応じて銃も変わってくるので初心者にとってはわかりにくい。「初心者におすすめのものをお願いします」といえば適切なものを用意してくれるはずだ。
行政組織が運営しているため良心価格
気になる料金は意外にも安く、上記のすべてで約30ドル程度。私企業ではなくクラーク郡という行政組織が運営しているため良心的な料金設定になっているようだ。
なお受付の際、安全に関する誓約書などに署名させられ、さらに身分証明、つまりアメリカ在住者なら運転免許証、日本からの旅行者ならパスポートを預ける必要があり、また3分程度の安全に関するビデオを視聴しなければならない。視聴が終わると、視聴済みである証明として小さな黄色の紙を手渡される。
そのビデオで絶対に学び取らなければならないことは、銃口を人に向けない、持ち歩いたりする際は銃をオープン状態にして(折り曲げるようにして)だれが見ても弾丸が飛び出さない状態であることがわかるようにしておく、発砲する直前まで弾を入れない、などでこれらルールを破ったら即刻退場になると思ったほうがよい。
大きな声で「PULL」と言う
受付での手続きが終わると銃、弾、腰に装着する弾用のポーチ、そして丸いシール(1ラウンド分の料金を支払ったレシートだと思えばよい)を受け取り射撃のステーションに向かうことになる。
各ステーションの横幅は約45メートル。それが1番から24番まで並んでいるので端から端まで 1km を超える。
あまりにも壮大な施設に感動しているのもよいが、受付で指定されたステーションが若くない番号(たとえば10番以降)の場合、歩いて行くには遠すぎるので自分が運転してきた車で移動したほうがよい。重い銃を持っての徒歩での数百メートルの移動はかなりつらい。
ステーションに到着したら現場のスタッフに丸いシールを手渡す。あとは弾を箱から取り出して腰のポーチに入れ、銃を持って(折り曲げた状態で)所定のスポットまで進むだけ。
弾を装填したら目の前にマイクロフォンが設置されているので、そこに向かって大きな声を発するとクレーが空に向かって飛び出す。どんな声でも反応してくれるが、「PULL」というのが一般的だ。
25発を撃ち終わったら終了。なお、同じ角度の位置から撃つのではなく、5発撃つごとに5つあるスポットを横に一つずつずれながら異なる角度からの射撃を楽しむことになる。
目標は 25発中 5発の命中
最後に注意点と持参すべきものを説明して今週の記事を終わりとしたい。
発砲した際の衝撃で銃が自分の右肩部分(右利きの場合)に当たることになり、これがけっこう痛い。心配な場合は肩に当てるタオルのようなものを持参するとよいだろう。
サングラス(度が入っている必要はないので通常のメガネでよい)と耳栓も必携だ。耳栓がなければティッシュペーパーを丸めて耳に入れるなど、何らかの方法で発砲音から耳を守るようにしたい。
すべてが終了して現場を去る際には預けておいた運転免許証やパスポートを受け取るのを忘れないこと。
日本では講習会を受け、さらに試験に合格してライセンスを取得しなければ楽しむことが出来ないクレー射撃。アメリカでは主要都市ならほとんどどこの都市でもライセンス無しで楽しめるが、当地の雄大な施設での射撃はまた別格。そんなラスベガスならではの射撃体験を楽しんでいただけたら幸いだ。初心者ならとりあえず 25発中 5発の命中を目標にするとよいだろう。