先週のこのコーナーでも書いたとおり、今の時期、日本からのラスベガス旅行は現実的ではない。帰国時の日本側での入国規制があまりにも煩雑だからだ。
したがって以下の記事は米国在住の読者を想定して書いていることをあらかじめ了解していただきたい。
ベガスではオリンピックも賭けの対象
いよいよ東京オリンピックが始まった。ラスベガスのカジノではさまざまなスポーツの試合に現金を賭けられることはだれもが知るところ。ではオリンピックはどうか。実は賭けられる。
今週と来週のラスベガス滞在はオリンピックに賭けられるという意味で特別な環境にあり通常時とは違った楽しみ方もできるので、それに関連した話題にふれてみたい。
ありとあらゆるスポーツが賭けの対象
ラスベガスのカジノにはスポーツの試合に賭けるための窓口「スポーツブック」が存在している。そこには賭ける窓口の他、オッズ(配当倍率)や試合結果を表示するための巨大な電光掲示板、そして世界各地のスポーツ映像を流す大小さまざまなディスプレイがところ狭しと並んでいる。
野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーの4大プロスポーツは言うに及ばず、ボクシング、ゴルフ、サッカー、テニス、カーレースなど、ありとあらゆるスポーツに賭けることが可能だ。
アマチュア競技は八百長の温床?!
あらゆるスポーツとはいえ、長らくオリンピックは対象外だった。理由は、一般的なプロスポーツとは異なり無名の選手が多く出場するため過去のデータが少なく胴元側としてオッズを決めにくいということもさることながら、オリンピックに限らずアマチュアのスポーツ全般、とりわけ個人競技は賭けの対象にすべきではない、という暗黙の規制があったからだ。
その背景にあるのは八百長に対する懸念であったことは言うまでもない。アマチュアの場合、特にマイナーな競技種目であればあるほど、そして貧しい国の選手であるほど、実力があっても安定した収入が確約されているとは限らず日々の生活に困窮している者も少なからず存在している。
相手に賭けて自分が負ければ大金が
そのようなアスリートの場合、どのようなことが起こりえるのか。それは悲しいかな、自分が本命視されている状況で、なおかつカジノで賭けの対象となっていることを知った場合、わざと負ける八百長が頭の中をよぎったりする。
つまり家族や友人などに、自身が負けるほうに賭けさせ大金を手にしようという算段だ。(自分が本命であればあるほど、相手が勝った場合の賭けの配当倍率は高くなる)
また反社会勢力から大金を提示され八百長試合の話を持ちかけられることもありえるだろう。
年収やステータスが抑止力に
一方、それなりの名声や収入を得ている一流のプロ選手の場合、そのような誘惑には流されにくい。どんなに大金を積まれても、不正行為が発覚し現在のステータスを失うリスクを取ることは割に合わないからだ。
もちろんプロの世界でも八百長が無いとは言い切れないが、年収やステータスが抑止力となっていることは想像に難くない。
NCAA大学バスケは例外
ではこれまでラスベガスのスポーツブックではアマチュアの試合は完全に賭けの対象外だったのかというと、そうでもない。
その典型は NCAA(全米大学体育協会)の大学バスケットボールだ。これは日本の高校野球のように全米で盛り上がるビッグイベントで、カジノにとっても大金が動くドル箱のスポーツ競技といわれている。
ただこれは団体競技なので八百長をやりにくいという背景があり、「とりあえず健全性が保たれている」との前提でかなり前から賭けが認められている。
リオ五輪から解禁、対象は団体競技
そのような状況で長らく運営されてきたスポーツブックだが、ビジネスの幅を広げたいという業界側の思惑もあり、管轄する当局側も2016年のリオデジャネイロ大会からオリンピックへの賭けを解禁した。
もちろん八百長の懸念がなくなったわけではないので、なんでもかんでも無条件でやっていいということではなく、「賭けの対象とするのはプロなども参加する団体競技が望ましい。個人競技の場合、世界的に名の通った一流の選手などに限るべき」という努力目標的な附帯条項が付いている。
個人競技も対象、ただし種目は限定
そんな経緯をたどって解禁されたわけだが、解禁直後のリオ五輪やその2年後のピョンチャン五輪のときは賭けられる競技の種目がかなり限定されていた。
たとえばリオではサッカーやバスケットボールの優勝チームを当てる賭け、冬季のピョンチャンでは同様にアイスホッケーなどの団体競技が中心で、ごく一部だけ個人競技も対象になってはいたものの、その数は非常に限られていた。
東京五輪では完全解禁の様相
ところが今回の東京五輪ではほぼすべての団体競技、さらにはテニスやゴルフなど個人競技の多くも賭けられるようになったばかりか、カジノによっては優勝チームや優勝選手を当てるだけの単純な賭けのみならず、毎日おこなわれる予選の試合にも賭けられたりする。
たとえばサッカー、バスケット、野球などの予選リーグにおいて日本対アメリカのどっちが勝つか、テニスやボクシングなどでA選手とB選手のどっちが勝つか、といった賭けも認められており、もはや普通のプロスポーツと何ら変わらないほど完全解禁といった様相だ。
というわけで話が長くなってしまったが、自分が好きな選手や日本チームなどに賭けることができるので、大会期間中にラスベガスを訪問するのであればスポーツブックに足を運んでみるのも悪くないだろう。
「賭け番号」と「賭けたい金額」
さて賭け方についてだが、基本的には普通のスポーツに賭ける場合とまったく同じで、窓口のスタッフに「賭け番号」と「賭けたい金額」を告げて現金を差し出すだけだ。
賭け番号とは単なる整理番号、つまりたくさん存在している賭けを識別するためにカジノ側が付けた番号で、その番号はオッズを示す電光表示や印刷されたオッズ表の各行の一番左側に見ることができる。
ちなみにこの写真はゴルフ競技の優勝者を当てる7月26日時点でのオッズ表で、各行の左側の数字が整理番号で右側の数字は払い戻し倍率を 100ドル賭けた場合の払い戻し額として示している。つまり松山選手は11倍ということになる。(これらオッズは日々刻々と変わる可能性あり)
ネットでの賭けは地元民限定
なお最近はスマートフォンやパソコンでの賭けも普及してきている。ただ、ネット経由での賭けは原則としてそのカジノが存在している州(ラスベガスの場合、ネバダ州)の住民が事前に窓口に出向き運転免許証などを提示して口座を作っておく必要があるので、ネバダ州以外に住んでいるであろうここの読者の多くはネットでの賭けはあきらめるしかない。
したがって各カジノのスポーツブックに出向く必要があるわけだが、最近は現場に設置された端末機を使って賭けられるようにもなってきているのでそれを利用するのもよいだろう。
画面に従って進んで行けばわかるようになっているが、もし知らない用語とかが出てきたりした場合は窓口に出向いて賭ければよい。
オッズ表は印刷してもらえる
オッズ(的中した場合の払戻倍率)の告知は、一般的なスポーツの場合、電光表示や印刷物(壁側の棚などに置かれているのが普通)でなされるようになっているが、オリンピックの場合あまりにも種目が多いためか、もしくは賭ける者がまだ少ないためか電光表示も印刷物も用意されていないことが多い。
そのような場合は窓口へ出向き、賭けたいオリンピックの種目を告げればオッズ表を印刷してもらえる。もちろんその段階では賭ける必要はまったくない。
オッズ表が手に入ったら、あとは応援しているチームや選手が勝つ確率とオッズを自分なりに比較検討して、賭ける価値があると思った試合に賭けるだけだ。
4年に一度のせっかくのチャンス(冬季も含めれば2年に1回あるが)、もしこの時期にラスベガスを訪れる機会があるなら単なるテレビ観戦以外の楽しみ方として、ひいきの選手や日本チームに賭けながら応援してみてほしい。大いに盛り上がること請け合いだ。
今週の記事はここまで。以下は、的中確率はかなり低いにもかかわらず日本円換算で約100万円の夢を追いかけ日本人選手に賭けてしまったという身内の話。興味があれば「おカネをドブに捨てるようなものなのに…」と笑いながら読んでいただければ幸いだ。
ゴルフの松山選手の11倍はお得?
どんなスポーツであれ、自分が好きなスポーツの結果をあれこれ分析や検討しながら予想するのは楽しいもの。
たとえば参考までに上のゴルフ競技のオッズでいうならば、日本人選手以外の多くの外国選手はまだ日本入りしてから日が浅かったり、競技会場となるゴルフコースの下見や練習ラウンドが十分にできていないらしい。そればかりか時差ボケや不慣れな日本の高温多湿の猛暑とも戦う必要がある。
そうなるとすでに開催コースで練習を始めている松山選手は有利な条件にあり、今年のマスターズトーナメントに優勝したという実力をふまえると11倍はお買い得かも、などとあれこれ検討しているだけでも楽しめるし、結局ついつい賭けてみたくなったりもしてしまう。
わずかな賭金でのワクワク感が醍醐味
そんな分析をしたかどうかはともかく、松山に100ドル賭けた知人がいる。彼から提供してもらった投票券の現物の写真がこれだ。
松山が有利な条件にあるとはいえ優勝できない確率のほうが高いわけで、この投票券はたぶん紙クズになるだろう。
それでももし優勝した場合は賭け金も含めて 1200ドルが払い戻されることになる。数人で高級レストランに行ける金額と考えると、賭けていない人よりもワクワクしながら観戦できるという意味では100ドルの出費はライブ観戦チケット(今回は無観客開催のようだが)などの価格と比べても決して高くないはずだ。それがスポーツブックの楽しみ方というか醍醐味といってよいのではないか。
星野選手で1万円が100万円!
そんな松山に賭けた者の話を聞いて、「いやオレは違う」とばかりに約1時間半後に(賭けた時刻が印刷されている)別の選手に賭けるためにカジノに行った者もいる。その投票券の現物がこちら。
彼の推理は興味深い。「アメリカ在住の松山はすでに日本入りして開催コースで練習も始めているが、まだ日本に来たばかりで時差ボケが残っている。さらにコロナ感染から回復してまだ日が浅い。いくらマスターズ優勝者といえども今回ばかりは体調が不十分なはず。一方、すべてが万全の星野の95倍はお買い得だし夢がある」と分析。
たしかに 9500ドルは夢がある(日本円換算で約1万円が100万円になる計算!)。しかし限りなく紙クズになる確率も高い。
とはいえ星野も実力者。ひょっとしたら… が無いとも限らない。もし本当に優勝した場合はラスベガスで最高級の中華料理店でフカヒレスープやツバメの巣スープを振る舞ってくれることになっているが、果たしてどうなることやら。結果は日本時間の8月1日の午後にわかる。
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