ラスベガスでも日本でいうところの非常事態宣言のようなコロナ関連の規制が徐々に緩和されてきていることに伴い、続々と多くの飲食店が営業を再開。まだ「座席キャパシティの50%まで」という人数制限は残っているものの、「テイクアウトだけ」といった店はすでに少数派で、全体としてはほぼ平常時に近い営業になりつつある。
今週は、しばらくグルメ関連の情報を取り上げていなかったのと、以前から注目していたレストランが本格的に営業を再開したのでその店を紹介してみたい。
店の名前は鼎泰豊。英語表記では Din Tai Fung。言わずと知れた台湾がルーツの小籠包(しょうろんぽう)に特化した人気店だ。場所はアリアホテルのカジノフロア内。
昨年の10月、コロナで観光客がほとんどいない時期に静かに新規オープンしたものの、その後は厳しい人数制限を強いられ、「予約者のみ入店可」という条件でほそぼそと営業を継続。そしてこのたびやっと平常時に近い形での営業ができるようになったので今月こそが新規開業といった感じだ。
日本人が大好きな小籠包の店ということで紹介する機会をうかがっていたわけだが、よく考えたら今の時期はまだ日本から当地を訪れる観光客はほとんどいない。そもそもこのディンタイフォンは日本でも百貨店の高島屋とのタイアップで多店舗展開をしており日本の読者に紹介してもあまり意味はないし新鮮味もない。
ならば現在このサイトを閲覧してくれている読者の多くは在米の日本人と思われるので、そういった読者がベガスへ行く際に役立てて頂ければとの思いで書き始めたが、ディンタイフォンはアメリカにも存在している。
というわけで、どういった読者を想定してこの店を紹介すべきなのか悩むところではあるが、とりあえず取材に行ってしまったので現状をそのままレポートしてみたい。
世界に存在するすべてのディンタイフォンに行ったことがあるわけではないので勝手な想像は慎むべきかも知れないが、たぶんラスベガスのこの店は世界で一番ゴージャスなディンタイフォンといってよいのではないか。
何ごとにおいても派手でゴージャスなラスベガスのストリップ地区のホテル。その中でもトップレベルに位置づけられているのがアリアホテルで、その館内レストランともなれば高級感の演出に対するこだわりは半端ではなく、実際にそのインテリアには目を見張るものがある。
特にこの店の場合、スケールの大きさを演出の中心に置いているのかフロアの広さも天井の高さも窓の大きさもすべてが規格外で、店内に足を踏み入れた瞬間、だれもがその雰囲気に驚くはずだ。
「広すぎて落ち着かない」というネガティブな印象を持たれてしまう可能性もあるが、最近のこのご時世、密を避けられるという意味でこの大空間はポジティブに考えたい。
なお、ディンタイフォンのトレードマークともいえるガラス越しに見える厨房(調理をしている場所というよりは小籠包や餃子を包む作業場)はここでもしっかり公開されており、受付からダイニングルームへ向かう通路の途中で見学できるようになっている。
さてさっそくこの店のメニューなどに関しての感想だが、食べてみたのはもちろん小籠包。他にもいろいろなメニューがあるが、この店で小籠包を食べないことには話にならない。
というわけで、小籠包の全種類を試食。全種類といってもメニューに掲載されているのは以下の3種類だ。
(ちなみに XLB とは小籠包 Xiao Long Bao の略)
◎ Kurobuta Pork XLB ($9.75)
◎ Crab & Kurobuta XLB ($12.50)
◎ Truffle & Kurobuta XLB ($30.00)
価格差はかなりあるが、数はすべて6個で見た目も蒸籠(せいろ)のサイズもすべて同じ。さて味の違いはどれほどか。
3種類を同時にオーダーしたが、冷えてしまわないような配慮か、ちゃんと時間をずらしてテーブルに運ばれてきたのはありがたい。
最初に運ばれてきたのは意外にも一番高い Truffle & Kurobuta XLB、「トリュフと黒ブタの小籠包」だ。6個で30ドルということは日本円換算で1個 500円以上。
かなりの高級品ということになるが、値段のわりに大したことがないというのが正直な印象だ。高価なトリュフをケチって香りがしないというわけではない。しっかりトリュフの香りはしたが、小籠包にトリュフはあってもなくてもどうでもいい存在というか、あまり似合っていないということ。
というわけでこのメニューはディンタイフォンにとって味が良いかどうかはあまり関係なく、好奇心旺盛な客がついついオーダーしてしまう利益確保のためのメニューという位置づけのような気がしないでもない。
トリュフで少々残念に思っていたところに2番目として運ばれてきたのが Kurobuta Pork XLB こと「黒ブタの小籠包」。
ちなみにこの「Kurobuta」という言葉、最近のアメリカのレストランではしばしば登場する単語ではあるが、現場のウェイターやウェイトレスはほとんど何のことだかわかっていないことが多い。
今回のこの店の話ではないが、わざと「What is Kurobuta?」と質問すると、プロとしての意地やプライドがあるのか、わかっていなくてもわかったふりをして何らかの返事を返してくるのがアメリカ人のさがで、一瞬こまった顔をしてもすぐに笑顔になって得意げに話し始めるのがお決まりのパターン。
「ジャパニーズポーク」、「ブラックポーク」、「ハイエンドポーク」などさまざまな返事が返ってくるわけだが、それはそれで良いとして、ときどきその会話の中で「クロブテ」との発音を耳にすることがある。
「ほぉー、アメリカでは黒ブタではなく黒ブテという発音で定着しているのか」と思いながら手元のメニューに目をやると、Kurobute と印刷されていたことが何回かあった。数ヶ月後に同じ店に行っても Kurobute のまま。客も含めて印刷ミスに気づく者などいないようだ。
ようするにその店の全員が何がなんだかわからないまま「ブタの料理の説明では、とりあえず Kurobuta や Kurobute にしておけば高級なポークという印象になるようだ」ぐらいに思っているフシがあるが、まぁそれは日本でもいえることかも知れないのでご愛嬌といったところか。(普通の豚を使っているのに「黒ブタ」と表示している店が日本でも少なからず存在していると聞く)
話は横道にそれてしまったが、この店での表記はもちろんちゃんと Kurobuta になっていたので安心してかまわない。ちなみにウェイターからの返事は「ジャパニーズポーク」だった。
さて味に関してだが、さすがに看板メニューだけあって申しぶんなかった。皮もこの店自慢の超極薄。薄くても中のスープを漏らすことなくしっかり包み込んでいるところがディンタイフォンの面目躍如といったところか。
最後に運ばれてきたのが Crab & Kurobuta XLB こと「カニと黒ブタの小籠包」。ちなみにメニューに書かれているカニの説明によると、使われているカニは「Blue Crab」と「Snow Crab」とのこと。
日本にもカニシューマイというものがあるので、このたぐいの料理にカニが合わないわけではないだろうが、トリュフほどではないものの、カニもここの小籠包にはあまりマッチしていないように感じた。
というわけで好みの問題もあるので異論を承知の上で結論を書くならば、一番美味しく感じたのは黒ブタ小籠包、次がカニと黒ブタ、最後がトリュフと黒ブタ。皮肉にも値段とは逆の順番という結果になってしまった。
いろいろな種類を食べてみたくなる気持ちはわかるが、もしこの店に行く場合は予算的にも味的にも黒ブタだけにしておいて後悔しないと思われる。
さて余談だが、上の写真でもわかるように食材を固めたカニの形をしたものが添えられていた。ならばブタも添えたほうが子供は喜ぶのではないかと思われるが、ブタを添えないのは子連れのリピーター客などに値段が高いカニを選ばせるための戦略なのかもしれない、というのは考えすぎか。いずれにせよトリュフは形で表現するのがむずかしそうだ。
小籠包だけでは空腹を満たせないという場合は麺類のメニューが豊富なのでそこから選ぶとよいが、その前に忘れてはならないのが、世界各地のディンタイフォンで小籠包に次ぐ看板メニューとなっている House Jidori Chicken Soup。これはお世辞抜きで本当に絶品なのでオーダーしてみるとよい。
ちなみにこれまた余談になってしまうが、黒ブタと同様、地鶏も最近のアメリカのレストランのメニュー内でやたらと多く目にする。ためしに担当のウエイターに「What is Jidori?」と質問してみたところ、「ジャパニーズチキン」との返事が返ってきた。「通常のチキンとどのように味が違うのか?」と質問してみようかとも思ったが、自分自身でも味の違いをよくわかっていないので断念。
麺類はたくさんある中からラーメンのたぐいをオーダーするつもりでいたが、「スープヌードル」というセクションの見出しと「ソースヌードル」をうっかり見まちがえて「ソースヌードル」のセクションの中から選んでしまい、つけ麺のようなものが出てきてた。
写真がそれで Noodle with Minced Kurobuta Pork Sauce という名称のヌードル。味のレベルなどは見た印象から想像できる範囲のもので結果的には満足できた。
デザートがおもしろい。小籠包の店らしくデザートもほとんどが皮に包まれた小籠包のような形をしており、見た目はどれも似たりよったり。
写真は今回オーダーしてみたのは Red Bean & Mochi XLB。ようするにアズキの小籠包だ。これも見た印象から想像できる範囲の味で特に問題はなく普通に楽しめた。くどいようだが Mochi もアメリカのレストランでは広く定着している単語で、Mochi ice cream という形で登場することが多い。
長くなってしまったが、黒ブタ、地鶏、餅、さらにはビールも7銘柄中3銘柄が日本ブランド(アサヒ、サッポロ、キリン)、そして日本酒も八海山や黒澤など7銘柄が用意されているなど、台湾がルーツにしては何やらメニューの中に日本語が多く目につく店という印象を受けた。
「それがどうした」と言われてしまうと特に返す言葉はないが、日本の食文化が世界に広まっていることは単純にうれしい。
最後にオーダー方法に関してだが、テーブルにオーダー用紙(上の写真)があるので、各メニューの横に数量を記入して担当のウェイターやウェイトレスに手渡す。
ただ、コロナ禍における今の時期は各自のスマートフォンでテーブルに置かれているQRコードを読み取り自分のスマホからオーダーする方式が現場でも奨励されているので、そのようにするとよい。
場所は前述の通りアリアホテルのカジノ内。北側の玄関付近の窓側に沿って存在している。
営業時間は月曜日から木曜日が 4pm~10pm、金曜日から日曜日が 10am~11pm となっているが、変更になる可能性があるのでそのつどアリアホテルの公式サイトなどで確認するようにしたい。
コメント(3件)
カニと黒ブタの小籠包の紹介の記事の部分。KurobuteならぬCrab&Kurabuta XLB となっているのも、ご愛敬だったりして。👩
ウチニ様
わぁーホントですね。お恥ずかしい限り!
訂正させていただきました。
ご閲覧、そしてご連絡、ありがとうございました。
20年以上前から毎週記事が出るのを楽しみにしている、台北の鼎泰豊で、
トリュフ入りを食べた好奇心旺盛な客です(笑)
これだけは1個で注文でしたが・・・好奇心旺盛なのを後悔しましたよ。
色んな国で色々食べてみて、おっしゃってるようにポークが一番美味しいと思います。
やはりオーソドックスな味が良いですね。
カニの飾りはこの蒸篭がカニだという目印だとお店のかたがわざわざ説明していましたから、聞く人が
多いのかも?
木曜日更新で・・・あれ、まだ?と思ったら、そちらは木曜日になったばかりですね。
失礼しました!