日本でもアメリカでもスーパーマーケットなどでは人件費の抑制という目的とは別に、最近は新型コロナ対策として「密」や店員との接触を避けるために「セルフ・レジ」が増えているようだが、ラスベガスのスポーツブックにおいても セルフ投票用のマシン が急増している。
今週はそんな話題を取り上げてみたいが、本題に入る前にカジノ初心者のためにスポーツブックについて簡単にふれておきたい。
スポーツブックとは
ここラスベガスではスロットマシンやルーレットなどと並び、スポーツの試合結果にもおカネを賭けられることは多くの人が知るところ。
その賭けを行う場所、つまり賭け金を支払い投票券を受け取る場所が「スポーツブック」と呼ばれるセクションで、ラスベガスのほとんどのカジノに存在している。
ちなみにこの「ブック」とは、もちろん「BOOKMAKER」(賭けごとの胴元)のことで「書籍」のブックではない。
このスポーツブックには多くの場合、投票窓口の他に、配当倍率や勝敗結果などを表示するための電光掲示板、そしてそれぞれの試合を実況するための大小さまざまなディスプレイが設置されている。
だれもが自由に実況中継を観戦できるようにたくさんのイスやソファーが置かれているのが普通だが、コロナ禍の現在はソーシャルディスタンスを確保するために座席は間引きされており、またマスクを着用していない者は入ることができない。
なおコロナ以前から、スーパーボウル(アメリカンフットボールNFL の優勝決定戦)など大きなスポーツイベントが中継される際は混雑が予想されるため、座席が有料になったり招待客のみとなったりすることもあるが、通常は総じてすいている。
賭けの対象となるスポーツの種類
賭けの対象となっているスポーツは広範囲に渡っており、野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーなどのアメリカを代表するプロスポーツは言うに及ばず、ゴルフ、テニス、サッカー、カーレース、そしてもちろんボクシングにも賭けることができるので、まもなく開催される 井上尚弥(WBA・IBF バンタム級王者)のタイトルマッチ(10月31日、MGMグランドホテル)に賭けてみるのもよいかもしれない。
米国在住者は帰宅後にテレビ観戦も
特に最近はコロナの影響により日本からの旅行者が減っている関係で、ここの読者の中心はアメリカ在住の日本人となっており、ロサンゼルス周辺から陸路で毎週のようにやって来るギャンブル好きの読者もいると聞く。そのような人たちにとって、スポーツへの賭けは大いに楽しめるのではないか。
というのも、日本からの旅行者と違い翌週や翌月の試合など、滞在期間中に試合結果が出ないスポーツにも賭けることができるため、帰宅後も自宅などでテレビ観戦を楽しめるからだ。
日本からの旅行者の場合、3ヶ月や6ヶ月など、的中チケットの換金期限があることから滞在期間中に結果が出る試合以外には賭けにくい。(最近は換金期限が1年のチケットも増えてきているが)
オンラインは居住地による制限あり
ちなみにここ数年、スマホやパソコンから投票できるオンラインによるスポーツブックも普及し始めているが、それのアカウントの取得には居住地による制限、つまりネバダ州(ラスベガスがある州)以外の者は登録できないなど、米国在住者であっても利用できなかったりするので、ラスべガス訪問時のリアルなスポーツブックは貴重な存在といってよいのではないか。
セルフ投票マシンのメリット
さて前置きが長くなってしまったが、さっそく本題のセルフ投票用のマシンについて。なお以下は、MGM社側とのタイアップ記事なので、同社の系列ホテル以外のセルフ投票マシンの現状については調査していないことを、あらかじめお伝えしておきたい。
マシンによる投票であっても、スマホやパソコンのオンライン投票とは異なり、在ラスベガスの正真正銘のリアルなスポーツブックであるわけで、住所など聞かれることなく旅行者でも賭けることができる。
そしてうれしいことに、窓口での対面ではないのでコロナ感染のリスクが軽減されるばかりか英会話の必要もなく、初めての者でも恥ずかしがったり躊躇する必要はまったくない。
端末マシンはどこにある?
まずは MGM系列のカジノホテル内でそのマシンを探す必要があるわけだが、それほどむずかしいことではない。
スポーツブックの周辺には必ずあるし、それ以外の場所でもカジノ内に点在しているのですぐに見つかるはずだ。以下の写真のような「BET」という文字が画面に表示されていれば、それが目当てのマシンということになる。(BET とは賭けのこと)
ちなみに在ベガスの MGM系列のカジノホテルとは、MGMグランド、パークMGM(9月30日に再開業)、ベラージオ、アリア、ミラージュ、マンダレイベイ、ニューヨークニューヨーク、ルクソール、エクスカリバー。
スタートは画面へのタッチから
「BET MGM」や「BET HERE」などと表示されている画面をタッチすると、賭けのための初期画面が開く。
(タッチ自体が不衛生だと感じる者は、周囲を探せばアルコール消毒などのスタンドがすぐに見つかるはず)
あとは画面上部に並んでいるスポーツの種類を選ぶことになるわけだが、目指しているスポーツが見当たらない場合は端にある横スクロールボタンをタッチすれば、次のスポーツのリストが表示される。
そのあとは、そのスポーツで予定されているイベントを選び、さらに賭けたい内容と金額を決めるだけなので、むずかしいことはなにもない。
イベントと賭けたい内容とは
ここでいうイベントとは、たとえば野球(MLB)、アメリカンフットボール(NFL)、バスケット(NBA)などのチームスポーツを選んだ場合、それぞれの試合のこと。つまり当たり前のことだが、どこのチームとどこのチームの試合に賭けたいのかを指定する必要がある。
テニスなどの場合でも同様に、準々決勝や準決勝のどの試合に賭けたいのか、あるいは決勝に賭けるのかを決めなければならない。
そして賭けたい内容とは、たとえばどっちのチームが勝つかだけではなく、その試合の最終的な両チームの合計得点が何点以上になるか何点以下になるかなど、またゴルフの場合であれば試合を選んだあと、どの選手が優勝するのか選手名を選ぶ必要がある。
ボクシングの場合は勝敗だけではなく、「何ラウンドにノックアウトで決着する」、「判定に持ち込まれる」といった試合内容に関するさまざまな賭けが用意されているので、それも選ばなければならない。
とはいえ、いずれの場合も画面に表示された選択肢の中から希望のものをタッチするだけなので特に難しいことはなにもない。
だが初心者にとっては難しいことがある。それは配当倍率の表示方式を理解することだ。
やっかいなのは配当倍率の表示
画面の操作方法は極めて簡単だが、難しいのは配当倍率の表示方式を理解すること。日本の競馬などのように、2倍とか3倍という単なる倍率での表示になっていないことが多く、初心者は理解に苦しむはずだ。
多いというか、むしろその変則的な表示がほとんど。日本人の感覚ではすぐにでも改善してもらいたいところだが、伝統というか、しきたりというか、アメリカのギャンブラーはこの表示方法に慣れてしまっているようなのであきらめるしか無い。
強いほうが「-」、弱ほうが「+」
記号としては、強いチーム(あるいは強い選手)のほうが「-」、弱ほうが「+」と考えれば覚えやすいが、そんな単純なものでもないところがむずかしい。
それでもとりあえず今の段階では、そのように覚えてもらって次の実戦例に話を進めてみたい。
たとえばこの画像、つまり先日の女子テニスの全米オープンの決勝戦を例に上げると、
大坂なおみ -170
アザレンカ +140
となっているわけだが、大坂にマイナス記号、アザレンカにプラス記号が付いているので、カジノ側としては大坂のほうが強いとみなしていることがなんとなくわかる。
では記号のあとの 170 と 140 の意味は何か?
まずはプラス記号のほうから説明すると、プラス記号が付いたチームや選手の数字の意味は、「100ドルを賭けて的中すると(そのチームや選手が勝つと)、その金額を受け取れる」という意味。
つまり言い換えれば、「100ドルを賭けて的中した場合の利益の額」ということになる。
したがってこの全米オープンの例では、アザレンカに 100ドル賭けて実際にアザレンカが勝った場合、140ドル受け取れることになり(元の賭け金も含めれば 240ドル受け取る)、これはなんとなくわかりやすい。
ではマイナス記号のチームや選手の場合はどうか。100ドル賭けて的中したら、さらに 170ドル取られる? そんなわけがない。
実はこのマイナス記号のあとの数字は「100ドル勝ちたかったらその金額を賭けなさい」という意味で、この例では大坂に 170ドルを賭けて実際に大坂が試合に勝った場合、100ドルの配当金と 170ドルの元金、合わせて 270ドル受け取れることになる。
マイナスの場合の倍率算出方法
「じゃぁ日本の競馬のような単純な倍率に換算すると何倍なんだよ?」とだれもがその数字を知りたくなるはずだが、+140 のアザレンカの 2.4倍(元金を除けば 1.4倍の利益)はわかりやすい。
では大坂の -170 の配当倍率は何倍なのか? それは、この方式に慣れ親しんでいるアメリカ人ギャンブラーといえどもわかりにくいとされ、ばくぜんと「100ドル勝つためには 170ドル賭けなければならないことぐらいはわかっているよ」程度の認識で賭けに参加している者がほとんどのようだ。
倍率を知りたい日本人ギャンブラのために正確な数値を求める数式をあえて示すと以下のようになる。
B = (100 / A)+ 1
(A はマイナス記号が付いている数値の絶対値 、B は日本の競馬的な表示方式による払い戻し倍率)
つまり大坂の「-170」は、1.588倍ということになる。
ゴルフの場合は全員がプラス
強いチーム(あるいは強い選手)が「-」、弱ほうが「+」と考えれば覚えやすいと書いたばかりだが、必ずしもその表現が正しいとは限らない。
たとえばゴルフの試合(以下の画面は先日の男子の全米オープン)の優勝者を当てる賭けの場合、松山英樹の +3300 やタイガーウッズの +4500 のみならず、強い選手も弱い選手も全員がプラス記号になっていることが見て取れる。
このプラス記号の意味は上の説明を読めばわかるはずなので省略するが、とにかくこのゴルフのような場合こそ、「松山英樹 33倍」と表現してくれたほうがよっぽどわかりやすい。(全員がプラスの場合、そのように単純な倍率で表現しているカジノもあるにはあるがまだ少数派)
先発ピッチャーを選べる野球の賭け
もうプラスやマイナスの記号の意味はわかってもらえたと思うので、他のスポーツに関しても特に説明の必要はないだろう。ただ、野球のプレーオフシーズンが始まったこともあり、野球に賭けたい読者も多いのではないかと思われるので、野球の場合の特殊な賭け方を補足しておきたい。
このサイトのバックナンバー 第794号 でもふれたが、先発ピッチャーを選べる賭けや、5回の裏までに限定した賭けがあることを覚えておいて損はない。
ここの読者ならば日本人選手を応援したい気持ちが少なからずあるだろう。たとえば、「ダルビッシュが投げるならばシカゴ・カブスに賭けてみたい」とか。
その場合、もし賭けたあとに、試合直前の練習でなどで肩を痛めて彼が投げないことになったりしたら賭けた意味がない。
そんなときに知っておくと便利なのが「先発ピッチャー限定」という条件付きの賭けだ。つまり「ダルビッシュが先発登板する」という前提での投票で、ダルビッシュが登板しなければ賭けは不成立となり、そのまま払い戻される。
ちなみにピッチャー限定を選んでも配当倍率が変わることは原則としてほとんどない。なぜなら、そもそも掲示されている倍率はそのピッチャーが投げることを想定しての数値だからだ。
なお、セルフのマシンではピッチャー限定の選択肢がないので(今後、選べるようになるかもしれないが)、ピッチャー限定を希望する場合は従来どおりの窓口に行って、「I bet on Darvish, please put his name on the ticket」とか言えばわかってもらえる。(次の写真は「ダルビッシュ先発」を条件にしてカブスに 165ドル賭けた際のチケットの現物)
「5回の裏まで」に限定した賭け
応援するピッチャーに賭けて、はがゆい思いをする状況は他にもある。こんどは先発しなかったという話ではない。
予定通りきちんと先発し、相手チームを完全に抑えたにもかかわらず、途中からベンチに引っ込み、後続のリリーフ投手陣が打ち込まれて逆転負け、といったケースだ。
投げすぎて肩を痛めたりしないよう、好投しているピッチャーでも完投させずに 100球前後で交代させてしまうことが多い大リーグでは、日本と比べて完投が少なく、そのような逆転負けはしばしばあるわけだが、先発投手を応援して賭けた者にとってはたまったものではない。
スポーツブックでは、そのような事態を避けるオプションがちゃんと用意されている。「5回の裏が終わった時点でどっちのチームが勝っているか」を当てる賭けだ。
これならば、好投しているピッチャーが5回を投げ切らずに交代することはまずありえないので、はがゆい思いをすることはない。
これに賭ける場合の投票方法は「先発ピッチャー限定」よりももっと簡単で、まったく英語を話す必要がないし、そもそもこの賭けはセルフのマシンの中にも選択肢がある。
つまりマシンの画面上で倍率の確認も投票もできるし、窓口で買う場合でも、通常の賭け(9イニングもしくは延長戦でのゲーム結果)の配当を示す電光掲示のすぐとなりの並行した位置に「1st 5 Innings」(最初の5イニング)などと書かれた配当の一覧表が掲示されているので倍率はすぐにわかる。また賭ける際はその整理番号(以下の写真内の赤い数字)と賭けたい金額を告げるだけでよい。
この賭けにしておけば、5回の裏の終了時点でシカゴ・カブスがリードしている限り、たとえそのあと逆転されても賭けとしては的中ということになる。
(以下の写真は「5回の裏まで」に賭けた際のチケットの現物)
配当倍率は原則として9イニングの場合とほとんど差がないのが普通で、あったとしてもごくわずかだが、興味深いことにこの日のカブス対インデアンスの試合では、9イニングで賭けると -165、5回の裏までで賭けると -170 だった。
これは、ダルビッシュが投げている可能性が高い前半のほうが、リリーフ陣が投げているであろう後半よりも戦力的に強いとカジノ側が読んだのか、それともただ単に 9回まで勝負を続けたほうがカブスの打線の強さがより確実に現れるということなのか、はたまた誰かが巨額を「5回まで、カブス」に賭けたことによる投票の片寄りを修正するための倍率調整なのか…。
その他
参考までに、2つ上の写真内のインディアンス対カブス戦の 4.0、-115、-105 という数字は、5回の裏を終了した時点での両チームの合計得点 が 4.0 よりも多いほうに賭けたい場合は -115、4.0よりも少ないに賭けたい場合は -105 という意味。5:15P は試合開始時刻。
ここまでの配当倍率の説明などにおいて「100ドル賭けたら…」とか「大坂に 170ドル賭けてみた」といった表現を使ってきたが、賭け金や配当金がキリのよいわかりやすい数字になるようにしてみただけで、100ドルも賭ける必要はない。10ドルでも受け付けてもらえる。
投票が済んだあとは、現場でも自宅でも試合観戦を楽しむだけだ。試合結果が出たらすぐに窓口で換金可能。
換金は窓口でチケットを差し出すだけなので、なんの会話の必要もないし(「100ドル紙幣でほしいか、20ドル紙幣でほしいか?」といった質問を受けることはあるが)、もちろん今回紹介したセルフのマシンでも換金できる。
換金の有効期限はそれぞれのスポーツイベントによって異なるが(「来年のワールドシリーズの優勝チームを当てる賭け」など遠い将来の賭けもたくさんある)、必ずチケットの裏面に明記されているのでそのつど確認するようにしたい。ではグッドラック!