エンターテインメントの聖地ともいえるラスベガス。カジノやナイトショーはもちろんのこと、アトラクション、ナイトクラブ、コンサート、ボクシングのタイトルマッチなどなど、さまざまな演出で来訪者を楽しませてくれるこの街では、ダイニングも例外ではない。
世界中のカリスマシェフが監修する超高級レストランの競演もさることながら、ベガスで独自の進化を遂げたバフェ(日本でいうところの食べ放題形式のバイキング)は、質、量、演出、活気、どれも他の都市のバフェとは次元を異にしており、もはや 食のエンターテインメント といっても過言ではなく、多くの観光客がラスべガス滞在中に一度は必ず利用するほどの圧倒的な存在となっている。
(そのようなバフェがラスベガスに誕生した経緯や存在理由などに関しては こちらをクリックまたはタップ)
これまでの方法での運営はもはや不可能
しかし残念なことに、そんなバフェが現在コロナの影響で窮地に立たされているというから状況は深刻だ。
「3密」の典型として営業再開のめどがまったく立っていないナイトクラブや、そのままの座席配置ではソーシャルディスタンスを保てないナイトショーなどと同様、バフェにおけるコロナ対策も困難を極めており、ほとんどのカジノホテルではまだバフェの営業を再開していない。
再開に踏み切れない理由は、不特定多数の人がさわるトングは不衛生、感染者の飛沫が料理にかかる心配など、これまでの方法で運営することはもはや不可能とされているからだ。
どのように改良したのかに注目
そんな中、先週、コスモポリタンホテルがバフェを再開した。ちなみに先月ウィン・ラスベガスがどこよりも早く再開させているので二番手ということになるが、そのウィンのバフェ、従来とはまったく異なる形式での運営となっているためか(自分で好きな料理を取りに行くのではなく、普通のレストランと同様、着席したままスタッフにオーダーする方式)、評判は決して芳しくないようで、今回のコスモポリタンではそういった問題点をどのように改良しているのかに注目が集まる。
営業再開を検討中のライバルホテルにとっては、お手並み拝見といったところか。ちなみにシーザーズパレスは8月末までにバフェを再開すると発表しているが、はたしてどうなるか。
予約、営業時間、営業曜日に注意
さっそくそのコスモポリタンのバフェ「Wicked Spoon Buffet」に行ってみた。
今のコロナの状況では日本からのラスべガス訪問は現実的ではなく、日本の読者にとっては意味のない情報となってしまうが、在米の日本人読者も少なくないようなので、そのまま現場の状況をレポートしてみたい。
まず最初に知っておくべきことは、「密」を防ぐために入場制限をしているということ。そのため、従来のバフェとは異なり事前予約が奨励されている。
ただ、現場では予約なしの客も散見されたので、必ずしも予約が必要ということでもないようだ。それでも予約自体はコスモポリタンの公式サイトから簡単にできるので、とりあえず予約してから行ったほうがよいだろう。
もうひとつ知っておくべき重要なことがある。それは、現在のこの店の営業はコロナ前の三食制、つまりブレックファスト、ランチ、ディナーではなく、午前8時から午後3時までの「ブランチ・タイムのみ」となっており、さらに営業日は木曜日から日曜日までとなっているということ。月、火、水に行っても休業日なので要注意。なお料金は曜日や時間帯に関係なく一律 $36。(4~10歳の子供は $20)
メニューはQRコードで、座席数は減少
支払いを済ませると席に案内されるわけだが、その際にメニューとして QRコードが記載された印刷物を手渡される。自分のスマホでそれを読み取るとスマホ画面にメニューが表示されるという仕組みだが、サイズ的にも質的にも十分にしっかりした印刷物なので、最初からそれにメニューを印刷しておけばいいのにと思ったりもした。
入口には「6フィート(約180cm)の間隔を保つこと。食べたり飲んだりしているとき以外はマスクを着用のこと」との注意書きが掲示されており、いやがおうでも緊張感が伝わってくる。
通常時と比べてテーブルの数はかなり減らされており、活気という意味でやや寂しい感じがしないでもないが、感染防止のためなら仕方がないといったところか。
なお、これら写真には人がほとんど写っていないが、他人にカメラを向けづらい静かな環境だったこともあり、あえてだれもいない部分を撮っただけで、ガラガラに空いていたというわけではない。
2人で訪問したにもかかわらず、6人掛けの丸テーブルに案内された。が、どこに座ってもよいということではなく、なるべくとなりのテーブルの人との距離を保てるよう、座るべきイスを指定される。
自由に料理を取りに行けるのはよいが
ウィンのバフェの反省点を意識してか、ここでは各自が自由に料理を取りに行けるようになっているが、当然のことながら足元に立ち位置を示す印があるのはもちろんのこと、いたるところに6フィートに関する注意書きが掲示されているので、コロナと戦いながらの食事であることを改めて実感させられてしまう。
それはともかく、自由に取りに行けるところまでは従来と同じだが、そこからが大きく異なっている。
各料理を乗せる大きな四角い皿も、各料理そのものも、スタッフが取ってくれるようになっているので自分では何もする必要がない。というか、何もさせてもらえない。便利といえば便利かもしれないが、次に示すようにこれが不便極まりないことになっているので困ってしまう。なおスタッフは各料理セクションに2人が待機。
少しだけ欲しい場合に困ってしまう
各料理はあらかじめ小さな小皿に盛り付けられており(それは従来からも見られた方式だが)、トングを使う必要がないのは衛生的でよいが、ほんの少しだけ食べてみたい料理の場合でも、小皿に乗っているすべてを受け取る必要があり、これは大いなる問題と感じた。
たとえば一種類のサラミを1枚だけ食べてみたくても、このように4枚も来てしまうばかりか、さらにいろいろなモノまで付いてくる。少食の者ならこれだけで満腹になりかねない。
また同様に、四角い大皿に少しだけ盛り付けるということができないため、小皿の単位で受け取るしかないわけだが、2品受け取るだけで大皿がいっぱいになってしまうのも非常に不便。
醤油、塩、コショウもコロナ対応
一部の中華料理はドギーバッグ(写真内の奥)に入っており、これはかなり小さいので3品目として大皿に乗せることが可能だった。写真内の左手前はキッコーマン醤油。銀色の小皿は厚みのあるステンレス製で、給食のようにも韓国料理のようにも見えたりして少々違和感も。
醤油と同様、スタッフに塩やコショウを頼むとこのような形で提供される。安っぽい感じは否めないが、容器に入った従来型の塩やコショウは不特定多数の者がさわることになるので、コロナ対策としてはやむを得ないといったところか。
塩抜きにやや難があったズワイガニ
カニは皿の上にさらに皿という形で提供される。ちなみにこの日のカニの種類は、アメリカでは高級とされるキングクラブ(タラバガニ系)ではなく、ごく一般的なスノークラブ(ズワイガニ系)だった。
いちおう切れ目が入っており、中身を取りやすくはなっているが、塩抜きがうまくいっていないのか(塩漬けにされた状態で仕入れているはず)、身がやせてジューシーさという意味でやや難ありといった印象。
ローストビーフにトリュフ・ポン酢
ローストビーフは切ってくれるスタッフがトングでつかみ、それを客側に待機するスタッフがさらにトングで受け取り皿の上に乗せてくれるので、この下の写真のように変な場所に置かれてしまうと見てくれが最悪。
そのままだとあまりにも見た目が悪いので、自分で別の皿に乗せ直してみたのが下の写真。とりあえずいわゆる「サーフ&ターフ」になった。
ローストビーフ自体は非常に柔らかく、また白エビ(たぶん)の唐揚げも揚げすぎてなく(メニュー内の名称は Salt & Pepper Head On Shrimp)、想像以上のレベルに大満足。
下はひどい写真になってしまったが、これがメニュー内に書かれていた「Truffle Ponzu」と称するローストビーフ用のソース。名称のとおりトリュフ・ポン酢らしいが、風味としては、ゆず味噌にトリュフっぽい香りといった感じ。高価なのか少ししか乗せてもらえなかった。
その少ない量に、他のアメリカ人客は不満そうにしていたようだが(勝手にアメリカ人と決めつけるのは良くないが)、このソースが一般のアメリカ人の味覚に合うのかどうかは大いに興味深いところ。
シーフードセビーチェはカニがたっぷりで高級そうに見えるが、この写真内のカニらしきものはすべてカニカマ。カニカマのすべてが悪いというわけではないが、少しぐらいは本物も入れてほしい。ちなみに器も味付けもなぜか韓国風だった。
デザートは妥協の範囲内
デザートはこんな感じだが、もちろんこれで全部というわけではない。ちなみに以下はスマホ画面に表示されていたデザートメニュー。
数種類食べてみた限りでは、味的にはやや甘すぎる感じがしないでもないが、アメリカのデザートとしては妥協の範囲内といってよいだろう。
ただ、もう少し小さなサイズでいろいろな種類を食べたいと思うのはだれもが持つ感想のはず。ちなみにアイスクリームの量はばらつきが大きかった。
アルコール類は別料金
アルコール類は別料金となっており、ビール、ミモザ、スパークリングワインなどが飲み放題(ただし2時間以内)となる「Bottomless Beverage」が $17。グラスの中が少なくなると、すぐに次のものが運ばれてくる。
そんなにたくさん飲めない場合は単品のビールもあり、バドワイザーなど一般的なアメリカのブランドの小瓶が $8、輸入ビールなどは $9 と決して安くはない。
各種ボトルワインは $30~$100 程度、グラスワインは $8前後、カクテルは $12前後でオーダーすることができる。
オレンジジュース、コーラ、コーヒー、紅茶などはもちろん無料だが、ラテ、カプチーノ、エスプレッソなどは有料で、それぞれ順番に $5、$4、$3。
衛生的になったことだけは良いが…
現場からのレポートは以上で、全体の感想としては、コロナ前と比べると大きく変わってしまったことは否めず、良くなった部分もあれば悪くなった部分もあるわけだが、トータル的には悪くなったと言わざるを得ない。
良くなった部分は衛生的になったことぐらいで、あとは悪いことばかり。活気や華やかさが無くなり、緊張感の中で静かに食べるという環境は、食のエンターテインメントとはほど遠く、もはやかつてのバフェの面影はほとんどない。
また、雰囲気や気分的な部分だけでなく、好きな食べ物を少しだけ取るという盛り付けができないことは、多くの種類の料理を楽しめないことに直結し、バフェの根本的な楽しみ方が奪われてしまった感じで非常に残念。
憎むべき相手はコロナ
細かい部分としては、マスクの脱着に関してやや不便を感じた。テーブルで食べている時以外はマスク着用が求められているため、料理を取りに行く際はマスクを着用する必要があり、カニなど手が汚れる料理を食べた直後などはマスクの脱着が非常にわずらわしい。
皿を下げるスタッフが頻繁に来ないので、テーブルの上が食べ終わった皿だらけになってしまうのも少々気になった。これはコロナ対策上、スタッフもなるべく客と接する機会を減らしたいからなのか、それともたまたま今回のスタッフだけに言えることなのかは何ともわからない。
あと、かつてのこの店の内容と比べると品数がやや少なく、また材料費も少しおさえているような印象を受けた。座席数を大幅に減らしたことによる売上の減少や採算を考えると、それもやむを得ないことなのかもしれない。憎むべき相手はコロナであり、頑張って再開業したこの店を責めることは慎みたい。
バフェというベガスの食文化が消滅か
このあとに予定されているシーザーズパレスの営業再開などの際、さらなる工夫や改善が見られるかもしれないが、客が自由にトングを使って好きな料理を好きなだけ自由に盛り付けられるという従来型の方式が実現されない限り(トングをそのつど交換とか使い捨てにするとかの方法で実現可能かも)、バフェ本来の楽しさや利便性は戻ってこないだろう。
もしこのまま現状以上に大きな改善が見られなければ、バフェそのものの存在意義が問われ、長い歴史を誇る「ベガスのバフェ」というこの街の食文化が消滅してしまう可能性がなくもないような気がする。コロナを憎んでも憎みきれない。コロナの一日も早い終息を祈って今週のレポートを終わりとしたい。
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コメント(11件)
バフェは15年以上昔、初めてラスベガスに訪れた際に衝撃を受け、以降ラスベガス訪問の際には旅行の楽しみの一つになってました。サービスしてくれるスタッフとのやり取りも楽しいのですが、朝・晩の1日二回しか行くのが限界で悔しい思いをしていたのを懐かしく思い出します。形は違えどバフェの復活を願っています。
バフェが懐かしいです。いろんなホテルのバフェに行くのが楽しみでした。個性が有って楽しいですよね。ライブクッキングのオムレツが好きでした。あれも無くなったのかな。自分の好きなものを好きな量で取るのもバフェの楽しみですから復活して欲しいです。先日日本で行った所は料理のところではなくテーブルにトングが置いていました。グループ内の人しか触らないし、客の入れ替わりでテーブルセッティングする際に新しいものに買えてました。いろんなアイデアがあると思うし、アイデアにあふれた町なので、乗り越えて欲しいです。
いつも楽しみに拝見しております。
ベガスというか海外デビューが、新婚旅行の30歳過ぎでしたが、以来機会のある度に訪問し、通算25回になります。
バフェでお気に入りは、「M Resort」です。中心の喧騒から離れて過ごし方も最高です(^o^)
人生の糧にしている中、先般の事態で今夏は見送らざることになってしまいました。」本当だったら今頃は・・・」と考えると悲しくなります。ただ、知恵を絞りベガスの伝統を守り続ける姿勢を知ることにより、近い将来に再び訪れることができることを期待しつつ、コロナをかわしたいと思います。
トラ 様、amataka 様、蜃気楼 様、
ラスべガス大全をご閲覧、ありがとうございます。
また、ご意見、ご感想、そして激励のお言葉、厚く御礼申し上げます。
従来のような元気なラスベガスにいつ戻れるのか、まったくわかりませんが、またのお越しを心よりお待ちしております。
日本でも、食べ放題はほとんど無くなってしまいました。有っても、少しずつ一口ずつ数多くの種類を食べるということができないので、バフェットの良さがありません。
いつも楽しく読ませていただいています。小さい事ですが、ラスベガス大全では、『バフェィ』と呼び方にこだわっていたのでは?
kent 66 様
ラスべガス大全をご利用いただき誠にありがとうございます。
記事を書く担当のライターによって表記が違ってしまったりしていること、まぎらわしくて申しわけございません。いずれにしましても現場では「バフェィ」と発音して頂ければよろしいかと思います。
悲しいなあ~
手がかゆくなるまでカニを食べまくるのが大好きだったのに
新婚旅行でラスベガスへ行って以来、ゲームよりもバフェイが楽しみで何度もベガスへ行くようになりました。
料理の味自体はわざわざ旅費を使って食べに行くほどではありませんが、やはりベガスという「非日常」の世界で食べるバフェイは格別です。妻は今まで同じ場所へ何度も旅行する人では無かったのに、ベガスには何度も行くようになりました。
2018年の冬に行ったのが最後ですが、次に行けるのはいつのことやら。でもこのレポート通りなら、しばらくはベガスに行っても楽しめそうにないですね・・・残念です。21世紀の時代に疫病に世界がやられるとは予想もしませんでした。
毎年、楽しみに行っていたラスベガス/特にBuffet は全米のカジノホテルでは最高で、とても楽しみでした。
現状を教えていただき感謝、でも様々な変化は残念でなりません。
東海岸のカジノはインディアン居住区が先にオープンし、NY州以外は全てオープンしましたが、残念ながらBuffetスタイルはサーブ式に変わりました。
会員ラウンジも特設会場を設けて、まったく以前と違うスタイルです。
前向きに頑張ってくれている事だけは、明らかに感じます。新しいスタイルの中で楽しめるようになると良いですね。
ラスベガスのバフェはどのホテルも趣向が凝らさていて、ただの食べ放題以上の楽しさがあり良く訪れてました。
国を問わず飲食の中でもバフェは特にコロナ対策が難しいと思われますが、ここは最先端のホテルが集まるベガスのバフェに画期的な対策を編み出して欲しいと期待しております。