今週は、まだ噂の域を出ていないが、ピラミッド型のテーマホテルとして知られる LUXOR が爆破解体されるかもしれないという話。(となりのホテル Excalibur にも同様な噂があるが、今回の話題の中心はあくまでも LUXOR。ちなみにどちらのホテルも MGM社の系列)
あくまでも噂にすぎないが…
くどいようだがこれは完全に単なる噂で、裏付けや根拠などがあるわけではない。ただ、これまでのラスベガスにおける経験則として、新規ホテルの建設などの噂は多くの場合、計画倒れで終わってしまうが、閉鎖や解体などの噂はかなりの確率で現実のものとなってきたのと、情報の出どころが少々気になったので、とりあえず取り上げてみることとした。
情報源は知る人ぞ知るインフルエンサー
気になった理由は、情報の発信源が、サマリン地区(ラスベガスの西方に広がる新興住宅街。ホテルのエグゼクティブなども多く住むエリア)に 20年近く住みながら多くの人脈を築き、これまでにも高い確率で予想を的中させてきた知る人ぞ知るゴシップ系のインフルエンサーだからだ。
表記はルクソール、読みはラクソー
発信源のことはともかく、さっそく本題に入るが、ホテル名となっている LUXOR は、ナイル川の東岸で繁栄した古代遺跡が多く残るエジプト屈指の観光都市の地名。
ちなみにラスベガスでの発音をカタカナで表記するならば「ラクソー」(ラにアクセント)で、これを「ルクソール」と表記すると、ソにアクセントを置いて発音してしまい、それだとまったく通じない。
そのためこのラスベガス大全では長らく「ラクソー」と表記してきたが、逆に読者から「どこのホテルだかわからない」という声も聞かれたので、ここでは世間一般と同じ「ルクソール」と表記することとした。が、タクシーの運転手などに行き先を告げる際は通じないので要注意。
テーマホテルという概念自体が失敗
表記の話はそのへんにして、このホテルが爆破解体されるかもしれないとの噂が当地で広がっているわけだが、まんざらウソでもない可能性がある。
というのも、このホテル自体が失敗だったからだ。何が失敗かというと、エジプトというテーマホテルにしたことが失敗で、そのことはルクソールの経営陣も認めており、これまでにも何度もそのテーマの払拭に腐心してきた。
実際に 1993年の開業当初はまるでディズニーランドのごとく、カジノフロア内を周回する「ナイルの川下り」というアトラクションがあったり、エジプトをテーマとした装飾などが館内の至るところを埋め尽くしていたが、今はそれらの多くはすでに存在しない。
一方、どんなにエジプト色を消し去ろうとしても絶対に消せないものがある。それは建物そのもの、つまり巨大なピラミッドだ。これを消すには爆破解体しかない。
その他にも、消そうと思えば消せないわけではないが、このホテルへ通じるモノレールの駅と一体化したスフィンクス、さらには古代エジプト建築に見られる巨大な柱やオベリスクなど、まだテーマホテル全盛時代の名残として残っているものがいくつかある。
ギャンブラーの街からファミリーの街へ
ではなぜテーマホテルが失敗で、エジプト色を消したいのか。それはアメリカとエジプトの政治的な理由などではない。エジプトに限らず、テーマホテルという発想自体が失敗だったというのである。どういうことか。
このホテルの建設が始まった 1980年代末から 90年代の初頭、「ラスベガスはギャンブラーのための街からファミリーの街へと変わるべきだ」とのコンセプトのもと、次々と巨大テーマホテルが建設された。
ルクソール以外のテーマホテル
たとえば、中世の城をテーマにしたエクスカリバー(1990年開業)、海賊をテーマにしたトレジャーアイランド(1993年)、オズの魔法使いなど映画をテーマにし遊園地までも建設した MGMグランド(1993年)、カジノ都市モナコをテーマにしたモンテカルロ(1996年)、魔法のランプや魔法の絨毯などアラビアンナイトをテーマにしたアラジン(以前から存在していた旧アラジンホテルを爆破解体しての新築。2000年開業)などがその代表格だ。
ファミリー路線を目指したのは新設ホテルだけではない。既存のサハラもジェットコースターを、そしてニューフロンティア(今は存在しないが)もバルーンライドをそれぞれ前庭に建設し、ファミリー層をねらったマーケティングを目指した。
子供も楽しめるファミリー向けの観光地
そこにはホテル側の「子供を持つカジノ好きの父親は、自分だけでラスベガスに行くことにはためらいを感じるが、子供も楽しめるアトラクションがあれば、家族そろって来てくれる。妻と子供がアトラクションなどで遊んでくれていれば、父親は気兼ねなくギャンブルを楽しめるはず」といった営業戦略があったことは言うまでもない。
実際に 90年代の後半までに、ラスベガス全体が「子供も楽しめるファミリー向けの観光地」として生まれ変り、世界中からその変貌ぶりが注目された。
子連れのお父さんは嫁がコワイ?
ところがそのようなトレンドはほんのつかの間。どこのホテルもすぐに失敗に気づき、ファミリー路線の見直しを余儀なくされた。
あとから思えば当然ではあるが、失敗の理由は意外と気づかない部分にあったようだ。「子連れの母親はギャンブルをしない」ということまでは想定内だったが、「子供や嫁と一緒に来る父親は、男友達と来る場合とは異なり、あまりカジノで遊ばない」ということが想定外だったのである。やはり嫁の目が恐いということか。
ジェットコースターがカジノ客を奪う
さらに悪いことに、ジェットコースターなどのアトラクションはファミリーで楽しんでもらうために造られた施設だったが、実際には、本来であればカジノで遊んでもらえるはずのヤングアダルトなどが行列を成し利用していることがわかった。つまりアトラクションがカジノから客を奪っていたのである。
もちろん子供の利用も決して珍しくはなかったが、その多くは地元のティーンエイジャーなどで、彼らの利用が一巡すると、どこのアトラクション施設も活気がなくなり閑古鳥が鳴き始めた。
子供の場所と大人の場所をハッキリ区別
結局、「子供や母親がアトラクションで遊んでいる間にお父さんがカジノ」というホテル側の期待はものの見事に外れてしまったのである。アメリカの文化的な習慣や価値観のようなものを考えると、そもそもその期待には無理があったのかもしれない。
というのも、一般的にアメリカでは子供の時間と大人の時間、そして子供の場所と大人の場所をハッキリ区別する傾向にあり、アトラクションやテーマホテルの存在が「大人の街ラスベガス」へ小さな子供を連れて出かける動機とはなりにくく、「子供は近くの遊園地や動物園」などと考える親たちが多いからだ。そのへんの感覚は、ナイトショーなど大人の社交場へ子供も連れて行きがちな日本の親たちとは対照的なのかもしれない。
脱テーマホテル、脱ファミリー路線
いずれにせよ、そんな失敗を経験した各テーマホテルは、とっくの昔に脱テーマ、脱ファミリーに動いている。
先に列挙したホテルを例に上げるならば、トレジャーアイランドはすでに海賊というテーマ(写真上)を引っ込めて名物だった海賊船ショーも打ち切り、MGMグランドもオズの魔法使いや遊園地を撤去。モンテカルロはホテル名そのものを PARK MGM に変更し、アラジンもプラネットハリウッドに名称変更した今、アラビアンナイトの面影はまったくない。サハラのジェットコースターもニューフロンティアのバルーンライドもとっくに消えている。
テーマホテルはもはや少数派
列挙しなかったホテルでテーマ性を持っているホテルとしては、南国の楽園的な雰囲気がウリだったミラージュホテル(1989年開業)があるが、ここもすでにカジノ内に飾られていた熱帯植物などをモチーフにした装飾を大幅に減らしており、フランスのパリをテーマにしたパリスホテル(1999年)も、エッフェル塔や凱旋門こそ残っているものの、コンコルド広場の噴水(写真上)を取り壊すなど、テーマ色は次第に薄れてきている。
現在でもテーマがしっかりと残っているのはベネチアンとニューヨーク・ニューヨーク、そして古くから存在しているシーザーズパレス、サーカスサーカスなどだが、もはや少数派で数えるほどしか存在していない。
なおベラージオはイタリアの美しい湖畔のビレッジ Bellagio をテーマにし、それがホテル名にまでなっているが、その地名自体が無名に近いため、ベニス、パリ、ニューヨークなどをテーマにしたホテルよりは、その地名から受ける印象や個性は非常に薄い。
テーマホテルは客層も狭くしてしまう
そのようにテーマホテルのブームは去ってしまったわけだが、その理由は、ファミリー族への訴求に失敗したことだけではない。テーマの印象が強すぎると、そのテーマ以外のことをやりにくくなってしまうという不都合が生じてくることも大きな理由だ。
たとえば日本をテーマにしたホテルがあったとした場合、そこではアラビアをテーマにしたアトラクションやショーはやりにくい、もしくは雰囲気的にそぐわない。また、日本が嫌いという人はわざわざそのようなホテルに宿泊しようとは思わないだろう。
つまり、個性が強すぎるテーマを持ってしまうと、企画や興行、さらには館内の装飾や室内のデザインに至るまで、活動や行動の範囲が制限されてしまうばかりか、客層の範囲までも狭めてしまいかねない。
参考までに、かつて五重塔を前面に押し出し東洋をテーマにしたインペリアルパレスというカジノホテル(写真)があったが、今では五重塔を取り壊し、テーマ感が薄い LINQ というホテルに生まれ変わっている。
テーマホテルはつぶしが効かない
話が長くなってしまったが、もはやテーマホテルはトレンドではないどころか完全な時代遅れで、ビジネス的にもメリットがないことがわかった。特にルクソールの場合、あのピラミッドという巨大な建造物があまりにも強烈すぎ、何を企画しようとしてもエジプトのイメージが付きまとい、「つぶしが効かない」ホテルになってしまっている。
そのような現状を考えると、ルクソールが爆破解体されるという噂もまんざらあり得ないことではなく、可能性は十分にあるわけだが、そこに突然現れたのが新型コロナウイルス。
爆破解体の可能性はコロナでアップ?
コロナよって爆破解体の可能性がさらに高まったという見方と、逆に低くなったという見方があり、なんとも予想はむずかしい。
コロナ騒動により需要が大きく減ってきている今だからこそ、数年閉鎖しても失うものは少なく、ルクソールとエクスカリバーを爆破解体して新たなプロジェクトを立ち上げる絶好の機会とする見方がある一方で、コロナで売上が激減している今は財務的に苦しく、新たなプロジェクトを立ち上げる資金的余裕などまったくないはず、という見方もある。
キーワードはオトナ、クラブは3密
たぶん後者、つまり資金的に苦しいように思える。というのも、ファミリー族をターゲットとするテーマホテルブームが去ったあとのキーワードは「オトナ」で、2000年ごろを境に、そのオトナ戦略でラスベガスは成長してきているわけだが、その戦略の大黒柱はカジノ、ナイトクラブ、ナイトショー、そしてコンベンションだからだ。
残念ながら、どれも「密」の要素を含んでおり、とりわけナイトクラブは「3密」の象徴のような施設で、コロナ後の見通しがまったく立っていない。ナイトショーも座席配置などに工夫が必要になるかもしれず、そうなれば座席数が減り今まで通りの収益を得ることは困難を極める。そんな環境下で資金を確保することはむずかしいのではないか。
期待の観光資源は国立公園などの大自然
「密」と無縁でラスベガスの観光資源になりそうなのはグランドキャニオンを始めとする国立公園などの大自然が最有力候補と思えるが、それとて行き帰りの移動手段においては密を避ける工夫が求められ、座席数が減るようなことになれば結果的にツアー料金が上がり、今までと同じようにはいかないことも考えられる。
いずれにせよ、なにをウリにしてラスベガスに観光客を集めるべきなのかは、この街全体に突きつけられた難題だ。コロナ後の状況がまったく読めない今、新たなホテル建設を検討する時期ではないように思えるが、はたしてルクソールの運命はいかに。
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コメント(8件)
インペリアルパレスは懐かしいですね。
利便性が良くて何回か泊まりました。
お金が少なくなり、キノラウンジでちまちま賭けてたのを思い出します。(笑)
懐かしいですね。昔はルクソールの館内にエジプトの装飾をされた人達がいたり、話すラクダの置物があったりしていて、わくわくしました。パリスもスタッフがフランス語の挨拶をしていたと思います。
その頃のラスベガスが好きだった人間には寂しい話で、もしルクソールが本当に爆破されるならその前に是非行きたいですね。
ラスベガス、最後に訪問したのが13年前です。 MGMに泊まりフォーコーナーの先まで足を延ばしました。 当時は旧モンテカルロの先は工事中でした。 今では巨大なホテル群ができたみたいですね。
南側はルクソールまで歩きましたよ。 建物の内部印象的でした。 ぜひ、もうしばらく残してほしいです。 3密で思いだしましたが、小池百合子都知事カイロ大学ご卒業でしたね。 もしかすると、ベガスのルクソールにも来られたことがあるのかな
一回エクスカリバーに宿泊しましたが、全般に安いのはいいのですが、中心部まで遠く、良かった点はサウスアウトレットに近いくらいでした。それ以前は、すし屋のあるサンレモを定宿にしていましたので、そちらの方が親しみがわきます。サンレモからフーターズに変わりましたが、また変わったようですね。
1999年にサーカスサーカスの前にあったキャンドルライトウエディングチャペルで式を挙げその夜に泊まったのがルクソールでした。
ウエディングドレスとタキシード姿でホテル内を歩き回りその他のお客さん、ホテルスタッフの方々達に盛大にお祝いの言葉を掛けられました。
部屋までホテルからのプレゼントですとシャンパンを持ってきてくれたり良い思い出がたくさんです。
解体となると寂しいですがこれも時代の流れなのでしょうか。
ルクソール。好きなんですけどねー。マッカランに降り立った飛行機からまず目を引くのが、あのピラミッド型の建物です。ベガスといえば・・・的なところもあると思いますが、中に入るとスタッフもとてもフレンドリー。2018年に宿泊した時は、ロビーに入るなり「コンニチハー」とマネージャーらしき人から声をかけられ、チェックイン待ちの人が並んでいるにも関わらず、直ぐにチェックインの手続きをしてもらい、しかもアップグレードをしてもっらたのが、ビックリしながらも良い思い出になってます(その人としばらく話てたので、フロアマネージャーの知り合いと思われたか、多分何かの間違い)。料金は安いし、バッフェは静かで落ち着いてるし、おまけにエアポートサイドだったので、楽しくて仕方がなかった(飛行機好き)。立地的に不便ですが、それを差し引いても、特徴のあるいいホテルだと思います。ただ、ピラミッドタワーの廊下は落ちそうで怖いですけど。建物自体老朽化は進んでいる感じですが、正直楽しい思い出しかありません。それがなくなってしまうとなると、楽しみが一つ減るな~。
コロナのおかげですっかり海外旅行が遠のいてしまいましたが、それまではベガスは2年に1度は必ず訪れる場所で、妻と新婚旅行で泊まったのもアラジン(現プラネットハリウッド)です。
2年前にラクソーに一人で泊まりましたが、やはりここも消える運命なんでしょうか・・・
毎年3~4回、Luxorに宿泊してますが、いつもEast Towerの部屋。ピラミッドには一度も泊まったことがないので、ピラミッドの解体自体は問題ないけれど、Luxorごと無くなるのは困るなぁ。
LV大全ではケチョンケチョンにけなされているLuxorですが、レンタカー族の私にとっては最も便利なホテル。部屋から駐車場までが遠くないうえ、渋滞に一切巻き込まれずに出入りできるので。
Luxorが無くなったら、部屋から駐車場までがやたら遠いMGMグランドか、カジノがしょぼいExculiverに泊まらざるを得ないかな。Mandalay Bayには一度も泊まったことがないけれど、なんかパッとしないし。
ちなみにエジプト風を消そうとしているということですが、必ずしもそんなことはないように思います。確か去年、ホテル内のあちこちの通路にヒエログリフ風の装飾が新たに設置されました。また、ピラミッドとタワー間にある会議室のそばには、エジプトの衣装をまとった女性の巨大写真2枚がずっと昔から展示されたままです。外そうと思えば、すぐに外せるのに。
一方、クラブを無くしたのはちょっと驚きました。おかげで若い女性が皆無に。