ラスベガスの空港名が変わるかもしれない意外な理由

マッキャラン国際空港とサウスウエスト航空機。背景はルクソールホテル。

マッキャラン国際空港とサウスウエスト航空機。背景はルクソールホテル。

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 ラスベガスの表玄関とも言える当地の空港の名称は McCarran International Airport。日本語で表記するならば マッキャラン国際空港 ということになる。
 この名称が、いま新たな議論を巻き起こしている。いや、過去にも何度か議論となったことがあるので、古くて新しい問題というべきかもしれない。

McCarran International Airport と書かれた文字が読み取れる。

McCarran International Airport と書かれた文字が読み取れる。

離着陸回数、世界第8位の巨大空港

 本題に入る前に、せっかくなのでこの空港の規模などを紹介しておきたい。
 都市のサイズからすると意外かもしれないが(ラスベガスの都市圏人口はわずか約200万人)、以下の表のとおりマッキャランは離着陸回数において世界第8位という巨大空港だ。
 世界に冠たる大都市であるパリのシャルルドゴール空港、ロンドンのヒースロー空港、東京の羽田空港、ニューヨークのJFケネディ空港よりも離着陸回数が多い。
 ラスベガスよりも上位にランクされているのは、たくさんの滑走路を持つ怪物空港御三家ともいえるシカゴ、アトランタ、ダラス、それに世界屈指の都市圏人口をかかえるロサンゼルスや北京などで、そのような大空港と渡り合っているマッキャランはまさに隠れた怪物空港といってよいだろう。

Airports Council International 発表の 2017年の統計。

 ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなどの巨大都市には、羽田に対して成田があるように、複数の空港があるため利用者が分散してしまいがちという不利な条件は考慮すべきだが、それでもわずか人口200万人のラスベガスが世界第8位とは驚くべき順位で、人口のわりに来訪者が多いことが裏付けられた格好だ。(あくまでもコロナ前の数値ではあるが)

乗降客数では世界第27位

 一方、乗降客数では世界第27位に甘んじている。これには大きな理由が2つある。
 ひとつは、座席数が多くなりがちな大型機による国際線の比率が低いため(国際線の乗降客数は全体の1割程度)、国際線が多いヒースロー空港やケネディ空港よりも、1機あたりの搭乗者数が少ないということ、それともうひとつの理由として、マッキャラン空港はラスベガスを最終目的地とする利用者が大部分であるのに対して、巨大都市の空港では国際線などからの乗り継ぎ客が多く、それらも乗降客数にカウントされているからだ。
 したがって、マッキャランの特徴を簡単に表すならば、全米各都市からの国内線が集結している巨大空港ではあるが、大多数の利用者にとって最終目的地であり、乗り継ぎ需要が多いハブ空港ではない ということになる。

空港名から都市名を推測できないのは問題

 さて、空港の規模など前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。
 離着陸回数世界第8位という巨大空港ではあるものの、名称に関してはまったくの無名で、「マッキャラン国際空港」と聞いて、どこの都市にある空港かわかる人は少ない。
 そのような背景があるため、「空港名から都市名を推測できないのは問題だ」といった議論は少なくとも10年以上前から存在していた。

日本では漫画の名前が空港名に

 そもそも「マッキャラン」とは何かということになるわけだが、それは地元ネバダ州選出の元上院議員(民主党)の名前だ。議員以外の分野でも広く活躍したようで、地元に多大なる貢献をした政治家として評価されている。
 ちなみに日本では、和や集団の合議制を大切にし特定の人物だけを美化するようなことを嫌う傾向にあるのか、「鳥取砂丘コナン空港」、「米子鬼太郎空港」など漫画の名前はアリでも、政治家の名前はナシだ。
 一方、アメリカを含む諸外国では、政治家の名前を道路名や空港名など公共施設の名称に採用することは珍しいことではなく、前述のジョン・F・ケネディーシャルル・ドゴールなどはまさにその典型で、ワシントン国際空港がロナルド・レーガン国際空港になったことも記憶に新しい。

世界では音楽家や科学者の名前も

 人名の採用は政治家に限ったことではない。ブラジルの表玄関リオデジャネイロ国際空港は、ボサノバの名曲「イパネマの娘」の作者をたたえアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港、ロサンゼルス第2の空港はジョン・ウェイン空港だ。
 さように、ラスベガスの空港名がマッキャランになっていること自体は何ら特別なことではないが、いかんせん今のゼネレーションにとってマッキャラン元議員は古すぎる人物で存在感が薄い。
 政治家として活躍したのはおもに第二次世界大戦前というから無理もないが、必ずしも古い人物がダメというわけではない。先述のジョン・F・ケネディーも十分に古いし、イタリアにおいては 400年も前の偉大なる科学者の名前を冠したガリレオ・ガリレイ国際空港がある。

知名度の低さは観光客誘致にマイナス

 いくら古くてもそこまで有名になると人々からの敬意が薄れることもなく、改名など恐れ多くて言い出すことはできないわけだが、マッキャランはそうでもないようだ。
 知名度も存在感も時代の経過とともに風化してきていることは否めず、「半世紀以上も名前を使ってあげたんだから、もうそろそろいいでしょう。ご苦労様でした」といった雰囲気が漂い始めており、近年は改名派にとっては発言しやすい環境が整いつつある。
 特にラスベガス観光局などは「空港の知名度の低さは観光客誘致にマイナス」との主張で、たびたび改名を提案してきており、新名称の候補はシンプルに「ラスベガス国際空港」のようだ。
 しかし改名のために必要な費用に対して集客効果が見えてこないとの反論もあるなど、改名されないまま今日に至っている。

マッキャランは人種差別主義者?

 ところが今月になって、まったく別の理由で再び改名に関する議論が急浮上してきた。きっかけは、先月ミネソタ州ミネアポリスで白人警官が黒人男性を拘束する際、過度な対応で窒息死させてしまうという事件だ。
 その直後から全米で警察の暴力に対する抗議デモが行われ、さらにアメリカ社会に広く蔓延しているとされる人種差別に対する反対運動がアメリカのみならず世界各地に拡大。そして改名派に言わせると、マッキャラン元上院議員は人種差別主義者だったとのこと。(以前からもその部分を理由に改名すべきという議論はあった)

 人種差別主義者だったかどうかの真偽や根拠などに関しては各自でネットなどで調べてもらうこととして、現在全米各地で歴史上の偉人や著名人たちの記念碑や像などを撤去する動きが強まっており、アメリカ大陸発見として知られるコロンブスの像や、歴代大統領の像が問題視されるなか、ネバダ州の議事堂に設置されているマッキャランの像も例外ではなくなってきている。その延長で空港名からも「除名」されるべきという議論に発展。

過去の偉人たちは人種差別を黙認?

 ちなみに政治家であろうが科学者であろうが、特だん人種差別主義者ではなかったとしても、「人種差別を容認・黙認してきた」ということだけで記念碑や像が撤去されることになると、ほとんど残らないのではないかと危惧する声も聞かれる。
 というのも、時代背景的に奴隷制度や植民地主義などが当時の社会に根づいていたことは疑いのない事実であり、多くの偉人たちはそれを容認・黙認してきたとされているからだ。

「美白効果」は人種差別?

 「白人は雇い主、黒人は家政婦」といった構図で描かれている映画史上に残る名作「風と共に去りぬ」の是非が問われたりしていることはすでに広く報道されているところだが、先週、美白効果をうたう製品までもが議論の対象になっているというニュースを耳にした際は驚きのあまり言葉を失った。
 日本でもニュートロジーナ、バンドエイド、リステリンなどの製品で知られる医薬品の大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソン社(アメリカを代表する巨大企業30社が選ばれる「ダウ工業株30種平均」に採用されている会社)がアジア諸国などで販売しているニュートロジーナの美白製品が、「白い肌を良しとする概念を植え付けかねない製品」との批判を浴び販売中止になるとかならないとか。

史実は事実として残しておくべき

 どこまでが正論でどこまでが過剰反応なのか、その線引は非常にむずかしい。立場によって意見が分かれることは当然だが、奴隷制度など、過去の社会、習慣、文化の善悪の議論はともかく、そういった事実が存在していたという歴史までを目に見えないように葬ってしまう動きはいかがなものか。反省すべき史実は残しておかないと、反省する機会も失いかねない。
 もちろん銅像のようなカタチで英雄扱いにしたり美化するようなカタチでの保存に対して納得がいかないという意見には耳を傾ける必要がありそうだが、ニュートロジーナの販売中止だけは勘弁してもらいたい。本当に美白効果があるならゴルフの日焼けによるシミ取りに使ってみたいからだ。

 冗談はともかくマッキャラン。市民からだけでなく州議会からも改名論が出されていることを考えると、その名前が消え去る可能性は十分にありそうだ。
 彼の思想的な背景がどうであれ、シンプルに Las Vegas International Airport がいいような気がするが、はたしてここまで読んで頂いた読者の意見はいかに。

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コメント(3件)

  1. TD より:

    正直、ラスベガス空港の方が分かりやすい気はする

  2. ヤボぶー より:

    まぁ、空港コードがLASだから、今のところ不便は無いですかね

    せっかく改名するなら…バグジー空港…これくらいのインパクトを期待したいです

  3. ひろはた より:

    ラスベガス国際空港が良い気がします。
    初心者で飛行機を個人手配する際に「”McCarran”はラスベガスの空港で合ってるよな??」と何度も確認したのを覚えています。
    一時的な費用対効果は見えにくくとも、長い目で見るとラスベガス国際空港がベストの様に思います。

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